第4回 SPARC Japan セミナー2015「研究振興の文脈における大学図書館の機能」 National Institute of Informatics
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日本における大学図書館を中心としたオープンアクセス運動は,2005年の「次世代学術コンテンツ基盤共同構築事業」の開始当初における意味付け以降,実は本質的に変化することなく今日にまで至っている。当初のオープンアクセス運動は,研究機関においてとくに研究者にその意義をはっきり提示できなかったことに起因して,機関リポジトリそのものの運用すら受け入れられない状況があった。この10年の間に,図書館員および関連する研究者がオープンアクセスとは何か,機関リポジトリとは何かという問いに答えていく自発的活動を通して,徐々に機関リポジトリの存在が機関の構成員に受け入れられるようになってきている。
オープンアクセス運動の展開は,欧米では,そのオープンアクセスの理念と密接に関連して,研究データの共有を主眼に置いたオープンサイエンスという新たな研究環境の構築を目指す活動へと進化していった。一方の日本では,国際的な動向を踏まえた形で2015年に内閣府の報告書が公表されたが,オープンサイエンスという概念についての議論に,内的な動機付けが追いついていないのが実情である。今日の日本の研究機関において,とくに図書館を取り巻く研究支援の新たな方向性は,機関リポジトリの推進において標語としたオープンアクセスの理念と,研究データ共有を方策の中心に添えたオープンサイエンスとが同時並行的に進められるという複雑な様相を呈することとなった。
更に,先進国で日本だけが研究力を低下させていることを示唆しうる計量文献学的定量指標が存在していることがよく取り沙汰される中,これまで培ってきた日本の研究力を活性化させより強固なものとしていくことがいっそう求められている。我々大学図書館は,オープンアクセスやオープンサイエンスを単なる外来の概念として咀嚼,整理するということではなく,本セミナーでの話題提供を通して,日本における研究振興という文脈のなかで,次代の日本の研究支援の方策を具体的に構想しながら考えてみたい。