今週初め、米国最高裁判所は現政権の関税政策に異議を唱える訴訟の審理を行いました。弊社のグローバル債券・公共政策戦略担当責任者のマイケル・ゼザスが、この裁判の結果から予想される市場への影響について解説します。
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トランスクリプト
「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。
本日のエピソードは、グローバル債券および公共政策戦略担当責任者のマイケル・ゼザスが、米国最高裁判所で審理された関税政策への異議申し立てと、その市場への影響について解説します。
このエピソードは11月6日 にニューヨークにて収録されたものです。
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今週、米国最高裁判所は、トランプ政権が実施した関税の大半についてその合法性を審理しました。最高裁が政権に不利な判断を下した場合、今年4~5倍に引き上げられた米国の関税のかなりの部分が撤回される可能性があることから、投資家はその結果に大いに注目しています。このため、今回の口頭弁論と早ければ今月中にも出る可能性がある判決は、明らかに市場のカタリストになると見られます。しかし、経済や市場に影響を与える政策課題の多くと同様に、現実はより複雑です。
ここで押さえておくべきポイントを解説します。
まず、裁判所がどのような判断を下すかについては、専門家の間でもかなり議論が分かれています。裁判官の構成を考えると意外に思われるかもしれません。9人の裁判官のうち3人はトランプ大統領によって任命され、6人は共和党の大統領によって任命されています。しかし、大統領の権限行使が、行政府にこの権限を付与している法律、すなわち、国際緊急経済権限法(IEEPA)に矛盾しないと裁判官が認めるかどうかは不透明です。大まかに言えば、この法律は、経済危機や敵対する外国勢力への対応を目的としており、伝統的な同盟国に対する関税には当てはまらないと裁判所が判断する可能性があります。
しかし、次に重要な点は、仮にトランプ政権側が敗訴したとしても、米国の関税水準が大きく変わらない可能性があるということです。なぜでしょうか?それは、政権には他にも必要とあらば関税を執行できる権限があり、こちらの方が長く継続できる可能性もあります。例えば、通商法301条は、大統領が貿易相手国の不公正な貿易慣行を認定する広範な裁量権を与えており、この権限をIEEPAの代わりに使うことが可能です。301条の適用には調査報告の提出が必要なため、時間を要すると見られますが、他の一時的な権限で空白を埋めることができます。つまり、米国は現行の関税水準を維持しようと思えば、継続できる公算が大きく、弊社予想における関税は引き続き「変数」よりは「定数」に近い要素となっています。
もちろん、弊社予想が外れる可能性も考慮しなければなりません。例えば、政権が敗訴を機に、通商法232条を使って特定製品ごとの関税に注力する方針に転換する可能性もあります。その場合、米国の実効関税率はやや低下し、弊社エコノミストが予想する消費者や輸入企業への圧力が緩和され、リスク資産への支援材料となるでしょう。ただし、政権が一時的に高い関税率を提示する必要があると考えた場合は、より受け入れやすい水準に落ち着くまで、今年の4月のようなボラティリティが生じる可能性もあります。
結論として、今年は、関税政策に関するさらなるノイズの中を進む必要があります。このため、ある程度の市場の乱高下や、場合によっては若干の上昇につながる可能性はありますが、概ね現在と同じ水準に戻る可能性が最も大きいと考えます。2026年に向けては、関税水準そのものよりも、企業が関税や設備投資のインセンティブにどう対応するかという議論の方が、市場見通しに重要な影響を与えるでしょう。弊社ではこれらのテーマ全てについても掘り下げて最新情報をお届けしてまいります。
最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。
Information
- Show
- Channel
- FrequencyUpdated daily
- Published6 November 2025 at 08:00 UTC
- Length6 min
- Episode133
- RatingClean
