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ある殺人事件が身近なところで起こったことを、佐竹はテレビのニュースで知る。 容疑者は高校時代の友人だった。事件は解決の糸口を見出さない状況が続き、ついには佐竹自身も巻き込まれる。石川を舞台にした実験的オーディオドラマです。現在初期の音源のリメイク版を再配信しています。 毎週木曜日午前0時配信の予定です。 ※この作品はフィクションで、実際の人物・団体・事件には一切関係ありません。 【1話から全部聴くには】 http://gonosenn.seesaa.net/s/ 【公式サイト】 http:/

オーディオドラマ「五の線」 闇と鮒

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ある殺人事件が身近なところで起こったことを、佐竹はテレビのニュースで知る。 容疑者は高校時代の友人だった。事件は解決の糸口を見出さない状況が続き、ついには佐竹自身も巻き込まれる。石川を舞台にした実験的オーディオドラマです。現在初期の音源のリメイク版を再配信しています。 毎週木曜日午前0時配信の予定です。 ※この作品はフィクションで、実際の人物・団体・事件には一切関係ありません。 【1話から全部聴くには】 http://gonosenn.seesaa.net/s/ 【公式サイト】 http:/

    52,12月21日 月曜日 10時35分 喫茶ドミノ

    52,12月21日 月曜日 10時35分 喫茶ドミノ

    52.mp3

    「コンドウサトミって誰ねんて…。」

    赤松剛志は誰に言うわけでもなく、コーヒーをすすりながら呟いた。

    「自分の頭のなかだけで考えとっても整理できん…。」

    そう言うと彼は胸元からヘミングウェイやピカソがかつて愛用していたメモ帳のようなものを取り出して、ペンを走らせ始めた。

    ー6年前の事件のことをここに書き出してみよう。

    赤松は父親の忠志を中心にしてそこから放射状に人物を書き出し始めた。先ずは6年前の事件の相関関係。マルホン建設とベアーズデベロップメント、そして本多善幸。その構造を知ったのが父。その情報を共有していたのが母の文子。誰が父に直接手を下したかはわからない。警察では事故で処理された父の死だったが、一色は事故ではないと言っていた。キーワードはコンドウサトミという架空の人物。500万の現金は回収されたはずなのに、なぜか再びウチへ戻ってきた。
    この辺りまで書きだした赤松は筆を止めた。

    ーここだよ…やっぱりここが気になる…。誰が500万をウチに持ってきたんや。

    ため息をついて赤松は天を仰いだ。

    「誰ですか。コンドウサトミさんって。」

    野太い声が赤松の世界に割り込んできた。

    「誰や。」

    体勢を元通りにした赤松の目の前に、髪を短く刈り込んだ強面の男が立っていた。

    「失礼しました。私こういうものです。」
    「警察本部捜査2課…。」
    「古田と申します。赤松剛志さんですね。」

    突然自分の世界に割り込んできたかと思えば、この古田という男は自分の名前さえ知っている。名刺を見る限り目の前の男はどうやら警察官。警察という人種はこうも無粋なものなのか。憤りを感じながらも赤松は「はい」と返事をし、テーブルの上のメモ帳を閉じた。
    古田は店内を見回した。客らしき人間は自分と赤松だけ。店の調度品の類はみな年期が入ったものばかり。木製のソファーにはあずき色のスエード地でクッションが誂えてある。純喫茶の雰囲気をもつ喫茶ドミノは、先ほどまで古田が滞在していた喫茶BONと対照的な作り、客の入りであった。

    「やはり月曜のこの時間ですと、喫茶店を利用するの客層っていうのは限定的ですな。」

    赤松と向かい合う席を指でさして、彼が着席を許可するのを確認して古田はそこに座った。

    「今日はお休みですか。」
    「ええ。ウチは月曜定休と昔から決めてあるんです。」
    「そしたら暫くお時間を頂戴してもよろしいでしょうか。」

    古田は出された暖かいおしぼりでもって自分の顔を拭いた。

    「ひょっとして事情聴取ってやつですか。」

    赤松は腕時計を見て小一時間ぐらいならば話に付き合えると返答した。古田は赤松の申し出に謝意を表し、コーヒーを一杯オーダーした。

    「実はですね、さっき佐竹さんと合っとったんです。」
    「え?佐竹…ですか。」

    赤松の動きが止まったのを古田は見逃さなかった。

    「赤松さん。まぁそう緊張されずに構えてくださいよ。そうそう先ほど書かれてたメモ帳ですが、良かったらもう一度見せていただけますか。」

    ー馬鹿な。これはあくまでも自分の家の事情を整理するために書き記してるだけのもの。プライベートを覗きこまれるなんてゴメンだ。

    「コンドウサトミさんもそうですが、あな

    • 9 min
    51,12月21日 月曜日 10時18分 本多善幸事務所前

    51,12月21日 月曜日 10時18分 本多善幸事務所前

    51.mp3

    駐車場に停めてあった自分の車に乗り込んで片倉は胸元からタバコを取り出しそれに火を着けた。
    助手席側には先程まで一緒にいた岡田が座っている。
    松永率いる捜査本部とは別に自分と古田が独自の捜査を行なっていることは極秘だ。
    このことが露見すると松永の叱責が自分に飛んでくることはおろか、命令を出した朝倉の責任も追求されよう。
    一緒に行動している古田も同様だ。片倉は村上から聴取した内容を頭の中で整理しながらタバコをふかした。

    「お前、どう思う。」
    「どうって言われても、正直課長が何を聞き出したかったのかわかりませんでした。」
    「そうか。」

    片倉は岡田にタバコを差し出した。

    「吸えや。」
    「いただきます。」
    「お前、目の付け所がいいな。」

    岡田はタバコの煙を吐き出して無言を保った。

    「あいつ、何か臭う。」
    「何がですか。」
    「結果的に検問に一回しか引っかってないから、氷見から石川に入ったのは間違いねぇ。しかし。」
    「しかし?」
    「羽咋から民政党金沢支部までの時間が随分かかっとる。」
    「それは私も感じました。…ただよくいるじゃないですか。広い駐車場みたいなところで車止めて死んだように寝とる営業マンとか。あいつも息抜きしたかったんじゃないですかね。」

    思いっきり吸い込んだ煙を吐き出して、片倉は吸殻を捻り潰して灰皿にしまった。

    「普通の状態ならわかれんて。あいつが。」
    「高校の同期が容疑者だって話ですか。」
    「ああ。」
    「確かに…。頻繁に会っとったんに、気がついたら疎遠ってことはよくある話です。私もそういう関係の友人はいっぱいいます。結局そんな関係性しかない人間ってのは所詮他人。ほんなもんですよ。ですが村上は何か感情が高ぶる要素があった。だから熨子山へ足を伸ばした。」
    「仮に羽咋から金沢までの時間の事は目をつむったとしても、交友関係はどうや。疎遠な人間の事に動揺して事件現場付近に向かうか?」
    「事件の前もその後も高校時代の連中とは連絡はとっていないって言ってましたね。」
    「そこがわからんげんわ…。」

    片倉は再びタバコを咥えて窓から見える北陸特有のどんよりと曇った空を眺めた。大空を覆い尽くすその様子は展開の鈍い今回の事件を象徴しているようにも感じられた。

    「まぁいいわ。んで、お前ら捜査は進んでるか。」

    岡田は首を横に振った。

    「課長。極秘なんですよ。」
    「何がだよ。」
    「私がここにいること自体が。」

    片倉は岡田の困惑した表情を見て何かを悟ったのか、ため息をついて再び窓から外を見た。

    「岡田ぁ。実は俺も今回は極秘なんだよ。」

    事務所を囲うように植えられた雪吊りを施された植木たちが、おりからの強風に煽られてざわざわと音を立てた。

    「ほやからここでおたくら帳場のサツカンとバッティングしてしまったことは不味いんや。」
    「こっちだって片倉課長と会ってしまったことが不味いんです。」
    「ほんなら一緒やな。」

    片倉が笑みを浮かべてそう言うと、岡田の硬い表情が緩んだ。

    「よし岡田。ここは取引せんか。」
    「なんでしょう。」
    「俺は本多事務所には来なかった。だからお前とも合っていないことにする。」
    「それはありがたい提案です。」

    • 8 min
    50,12月21日 月曜日 9時30分 本多善幸事務所

    50,12月21日 月曜日 9時30分 本多善幸事務所

    50.mp3

    「少しだけお話をしたいんですよ。」
    本多事務所の受付の女性に名刺を渡して、片倉はその中の様子を伺った。
    名刺を受け取った女性はそれに目を落とした。そして怪訝な顔つきでその名刺と片倉の顔を何度か見合わせた。
    「どうしました。」
    「警察の方なら今村上が対応しています。」
    「は?私じゃなくて?」
    「ええ。」
    ーしまった。帳場の捜査とかち合った。…こうなったら一か八かだ。
    「それは失礼。」
    そう言うと片倉は女性の手にあった名刺を奪った。
    「私はその人間の監督をする立場の者です。事務所の前で待ち合わせて一緒にお話を伺う予定だったんですが、彼は先に村上さんにお会いしてたんですね。大変ご迷惑をおかけいたしました。」
    受付の女性は手のひらを返したように態度を変える片倉の対応に苦慮している様子だった。
    「で、彼はどちらにいますかね。」
    片倉は女性に付き添われて事務所二階の一室の前に案内された。女性がその部屋のドアをノックする。
    「今来客中だから。」
    憮然とした表情でドアを開けた男に片倉は一礼した。
    「だれ。」
    「申し訳ございません。私も同席する予定だったのですが遅れてしまいました。」
    片倉は名刺を村上に渡した。
    「捜査一課課長…。」
    「村上隆二さんですね。」
    「はい。」
    「うちの若いのが先にお話を伺っていると思いますが、私も同席させていただいてよろしいでしょうか。」
    村上は片倉の表情と名刺を見比べてどうぞと部屋へ招き入れた。
    部屋の応接ソファに腰をかけていた捜査員と思われる男はギョッとした顔つきで片倉を見た。
    「すまんすまん。遅れてしまって。」
    不意を打つ人物の登場で彼の体は固まってしまっていた。
    「岡田じゃねぇか。ちょっくら力貸してくれ。」
    片倉は岡田の横に座って彼にしか聞こえないような小声で耳打ちした。
    「で、どこまで話をお聞きしたんだ。」
    「あの…。」
    岡田が手にしている手帳の中身を覗くと、今まで何を聴きとったかの大体を把握できた。どうやら彼が事情聴取を開始してそんなに時間が経っていないようだ。
    「続けて。」
    ーなんで片倉課長がここで出てくるんだ。
    岡田は金沢北署捜査一課所属の警部補である。片倉とは以前別の署の捜査課で仕事をしていた。よって二人は顔見知りである。今回の事件ではこの岡田と熨子駐在所の鈴木が真っ先に現場に踏み込んだ。現場検証に立ち会った際には岡田が当時の状況の説明を片倉に行なっていた。
    「岡田警部補。続けなさい。」
    困惑した表情を表に出していた岡田は片倉の命令によって我に返った。
    「事件当日の村上さんの行動履歴についてはわかりました。確かにあなたは熨子山を通って高岡方面へ向かっています。当時の資料をみると村上さんの名前が確認できます。」
    片倉は岡田の言葉にいちいち相槌を打ちながら、村上の表情に変化がないかつぶさに観察する。
    「聞くところ、あなたは党の会合があるとかで高岡に向かったそうですね。」
    「ええ。」
    「おかしいですね。民政党高岡支部に聞きました。そんな会合は無いって話でしたよ。」
    「そうでしょうね。」
    当時の村上の言動と実際が異なっている。この辺りから彼の不審点を炙り出そうとしていた岡田は、あっさ

    • 21 min
    49,3年前 8月3日 水曜日 15時13分 フラワーショップアサフス

    49,3年前 8月3日 水曜日 15時13分 フラワーショップアサフス

    49.mp3

    文子は固唾を呑んだ。

    「忠志さんは知ってしまったんです。指定暴力団の仁熊会が公共事業に関する用地取得に深く関わっていることを。それもこの開発目覚しい田上地区に関する用地取得。そしてこれから本格着工される北陸新幹線沿線の用地取得についてです。用地取得にありがちな不正は、地権者が取得者に対して賄賂を送って、その査定に便宜を図るよう依頼するというものです。これだけなら話は簡単です。」

    彼女はだまって眼鏡の奥に光る一色の目を見ている。

    「忠志さんが知ったのは用地取得に関する複雑な構造だったのです。」

    すると一色は自分にお茶うけとして出された3つの最中を文子の前に横一列に並べた。

    「左から順番にマルホン建設。仁熊会。そして国としましょう。」
    「国の用地取得での当事者における関心事は2つ。ひとつはその承知取得そのものの実施、そしてもうひとつがどの土地が取得対象になるのかということです。そこでまずこのマルホン建設工業が登場します。」

    一色は左側の最中を手にとった。

    「マルホン建設工業。石川県の地元有力土建会社です。先代社長は現在の衆議院議員、本多善幸です。彼は土木建設業界出身ということもありその分野に関しては深い見識を持っています。またマルホン建設自体が公共事業を生業としていることから、省庁にも顔が利きます。本多は国土建設省の族議員として政界で活躍をします。政務次官や党の部会長などを経てその影響力を高め、国土建設省の政策決定に深く関与して来ました。」

    一色は最中を畳の上に置いて話を続ける。

    「今から25年前のことです。マルホン建設はここ田上地区周辺の土地を買い漁っています。バブル華やかなりし時代です。誰もが投資をすれば儲かるなんて言
    われたばかみたいな時代です。マルホン建設も周囲と同じように不動産投資を積極的に進めます。しかしそれは見事に崩壊。マルホン建設は多額の含み損を抱えることになった。」

    ぬるくなってしまった茶をすすり、彼は真ん中の最中を手に取った。

    「続いてベアーズデベロップメントという会社が登場します。不動産投資業を営む会社ですが、その正体は仁熊会のフロント企業です。ベアーズは多額の含み損を出したマルホン建設の土地をすべて購入しました。バブル崩壊から1年も経たないころのことです。土地の価格は下落傾向。これからどれだけその下落が進行するかわからない。不動産投資に誰も見向きもしない時期にベアーズはそれをすべて買い取ったのです。その後本多善幸が国会に進出、やがて田上地区の開発計画の噂が流れだします。この噂を受けて田上地区の地価は下落から横ばいに推移しました。そして噂が実際の計画として発表された頃から、地価は上昇に転じました。計画の実施にあたってこのこの辺りの用地取得が必要となります。結果的にベアーズがマルホン建設から買い取った土地の殆どが国の用地取得の対象となり、国に買い取られることになりました。」

    彼は右側の最中を手にした。

    「お母さん。お分かりでしょう。マルホン建設は評価損の土地をさっさと売却したかった。それに応じたのがベアーズデベロップメント。時代が時代です。バブル崩

    • 16 min
    48,12月21日 月曜日 9時5分 フラワーショップアサフス

    48,12月21日 月曜日 9時5分 フラワーショップアサフス

    48.mp3

    桐本家の通夜は今日の19時からとの報が、町内の回覧板からもたらされた。
    赤松剛志の頭の中には昨日のうちに桐本家へ弔問した時の光景が巡っていた。
    ひとの不幸を知り仮通夜というものに足を運んだことが何度かある。自宅の仏間にその亡骸は安置され、顔には白布が被せてある。遺族と二三言葉をかわして焼香。近しい間柄なら顔を見ていってくれと言われ、その白布をとって対面する。この通常の仮通夜での粛々とした営みが、桐本家では行われていなかった。一枚の紙が桐本家の玄関に貼られていたのみであった。その紙には『通夜 明日19時~ 告別式 22日10時~』と書いてあった。場所はここから最も近いセレモニー会館だった。

    赤松は昨日の仮通夜へ駆けつけるかどうか最後まで迷っていた。事件が事件だ。突然のわが子の死を両親が受け入れるには時間がかかる。当の自分でさえそうなのだから。町内会長にも弔問に行くべきか相談したが判断はお前に任せるといわれ逡巡した挙句、訪れようと決めた。だが玄関に貼られた紙を見て赤松は立ち入れない雰囲気が充満する桐本家を前に立ち尽くすしかなかった。

    邸内からは泣き叫ぶ声、それと同時に激しい怒号が聞こえた。間もなく勢い良く玄関の扉が開かれ、喪服を着た二人の男が追い払われるように外に出された。その男たちは跪き、雨で濡れた地面に頭をこすりつけるように土下座をしている。

    「もうしわけございません。」

    二人の男めがけて塩が撒かれる。

    「帰れ!!二度と来んなま!!」

    声の主は桐本由香の父親だった。
    普段は温厚な由香の父親が阿修羅のごとく怒るさまを目の当たりにした赤松は呆然とした。這這々の体でその場を立ち去る二人の男に、再び塩を撒こうと玄関から外に出た時、彼は赤松と目があった。桐本は立ち止まり掴んでいた塩を力なく落とした。そして彼は赤松の方を見て大粒の涙を流し、その場に崩れ落ちるように座り込んだ。赤松はその場で桐本の嗚咽を黙って見るしかなかった。

    この場で泣いていては風邪をひいてしまうと、桐本を抱えて家の中に運んだが、その後のことはあまりよく覚えていない。

    アサフスは月曜定休としている。
    定休日の朝食後に微睡む時間を過ごすのが赤松の日課となっていたが、昨日から自分の周辺でおこっている出来事に翻弄されろくに睡眠もとっていない有様だった。桐本家での顛末を目の当たりにした赤松には、一色に対する憎悪の念が湧き上がっていた。

    朝から病院へ行っているため部屋に文子はいなかった。赤松は彼女の部屋に入ってそこにある仏壇と相対した。ろうそくに火をつけ、次いで線香にもつける。キンを二度叩いて合掌ししばらく目をつむった。目を開けると仏壇の傍らに置かれた父、忠志の遺影と目があった。
    赤松は昨日、桐本家の弔問から帰って文子から父に関する詳細な情報、一色と赤松家の関係性を聞いた。そのため桐本家から帰ってきた時に抱えていた一色に対する憎悪の念はやり場のない怒りとなり、そのもどかしい状況にあぐねていた。
    赤松は合掌を解き、父の遺影を眺めて思いを巡らせた。

    父は6年前、深夜の県道熨子山線を走行中に車ごと崖から転落。その翌日遺体で発見された。
    京都

    • 15 min
    47,12月21日 月曜日 9時56分 喫茶BON

    47,12月21日 月曜日 9時56分 喫茶BON

    47.mp3

    金沢駅構内のテナントスペースの一角にあるBONに、佐竹が銀行員特有の大きなカバンをもって入ってきた。

    「あら、佐竹さんじゃない。」

    マスターの森は中年の男性であるが、女性のような口調で佐竹を意外そうに見ながら、声をかけた。佐竹は森の言葉には耳を貸さず、店内をひと通り見渡していた。
    入り口から見て死角となるところに陣取っていた古田は、入店してきた佐竹に手を上げて合図した。それに気づいた佐竹はようやく森の言葉に反応した。

    「ああ、マスター。ちょっと約束があったんだ。」
    「あらそう。」
    「このことは誰にも内緒でお願い。」
    「いいわぁ。で、コーヒーでいいのかしら。」
    「あぁそれで。」

    佐竹は店の奥にあるテーブル席でメモ帳を開いて座っている古田と正体した。

    「おまたせしました。」
    「こちらこそ、突然すいませんでした。」

    古田は佐竹に頭を下げた。
    テーブルに配された灰皿に三本の吸殻を見て古田が喫煙者であることを確認した。

    「私も吸っていいですか。」
    「おう、佐竹さんも吸われますか。」
    「ええ。」
    「これは嬉しいですな。ガンガン吸ってください。とかくこの世は喫煙者には肩身が狭いですからね。」

    古田は苦笑いを浮かべた。

    「いつかは警察の方が来られるだろうと思っていましたが、こんなに早く来られるとは。」

    佐竹は勢い良く吸い込んだ煙を吐き出した。

    「ほう、どうして我々が来ると思われたのですか。」
    「私と一色は何の関係もない間柄ではありません。ですからひょっとしたら話を聞かれることになるかもしれないと思いましてね。」
    「そうですか。それなら話は早いですな。」
    「刑事さん。実は私、仕事が立て込んでいるんですよ。ですから出来れば今日の晩に変更していただけないですか。」

    ただでさえ慌ただしい年末。それなのに朝からマルホン建設の融資に関して揉めている。これだけで自分は手いっぱいだ。そこに無粋な来訪者。彼は事件のことについて聞きたいと言っている。時間がなければ連絡がほしいと言われた。自分の業務に支障が出るくらいなら後日改めてもらうのが適切だ。しかしなぜ自分はいまこの時間にこの場所でこの刑事と合うことを選択したのだろうか。そしてあろうことかこの場で時間を変更してくれと言っている。

    「それはそれは大変申し訳ないことをしました。それならわざわざこちらまで足を運ばなくても電話で連絡をくださればよかったのに。」

    おそらく佐竹の心の奥底にある事件に対する不安感が、彼をこの場に呼んだのだろう。佐竹は自分が昨日赤松にこの事件について「怖い」と漏らしていたのを思い出した。

    「ちょっと不安でして。」
    「不安というと。」
    「なんて言うのか…高校の同級生ですから…。」
    「一色がですか。」
    「ええ、ひょっとしたらこっちまで何か巻き込まれてしまうんじゃないかと。」

    古田は佐竹が自分と目を合わさないようにしていることに気がついた。これも佐竹の不安心理がさせている表情なのかもしれない。彼は佐竹の視線のやり方、挙動のひとつひとつを確認するように注意深く観察した。

    「どうして巻き込まれるのですか。」
    「いえ、なんとなくです。」
    「高校時代の一色とあなた

    • 14 min

Customer Reviews

やみつきキュウリ ,

映画化出来る!!

複雑なストーリーと登場人物の多さを演じわける力量もさることながら、それが音声だけでここまで伝わるとは!!
それだけでなく、その引き込まれる内容も素晴らしいです。ラストの盛り上がり、最高です。

とっこヽ(*´∀`) ,

面白いです👍

初めてラジオドラマを聴いたのですが、非常に面白く引き込まれて行きます。
出来れば女性役の方いらっしゃれば良いかと…。

今後も楽しみにしています。

ダブル竜巻旋風脚 ,

燃えます

こんなに熱くなるとは思いませんでした。
まだ63話ですが最終話まで楽しみでしかたありません。
最高です。

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