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50,12月21日 月曜日 9時30分 本多善幸事務‪所‬ オーディオドラマ「五の線」

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50.mp3

「少しだけお話をしたいんですよ。」
本多事務所の受付の女性に名刺を渡して、片倉はその中の様子を伺った。
名刺を受け取った女性はそれに目を落とした。そして怪訝な顔つきでその名刺と片倉の顔を何度か見合わせた。
「どうしました。」
「警察の方なら今村上が対応しています。」
「は?私じゃなくて?」
「ええ。」
ーしまった。帳場の捜査とかち合った。…こうなったら一か八かだ。
「それは失礼。」
そう言うと片倉は女性の手にあった名刺を奪った。
「私はその人間の監督をする立場の者です。事務所の前で待ち合わせて一緒にお話を伺う予定だったんですが、彼は先に村上さんにお会いしてたんですね。大変ご迷惑をおかけいたしました。」
受付の女性は手のひらを返したように態度を変える片倉の対応に苦慮している様子だった。
「で、彼はどちらにいますかね。」
片倉は女性に付き添われて事務所二階の一室の前に案内された。女性がその部屋のドアをノックする。
「今来客中だから。」
憮然とした表情でドアを開けた男に片倉は一礼した。
「だれ。」
「申し訳ございません。私も同席する予定だったのですが遅れてしまいました。」
片倉は名刺を村上に渡した。
「捜査一課課長…。」
「村上隆二さんですね。」
「はい。」
「うちの若いのが先にお話を伺っていると思いますが、私も同席させていただいてよろしいでしょうか。」
村上は片倉の表情と名刺を見比べてどうぞと部屋へ招き入れた。
部屋の応接ソファに腰をかけていた捜査員と思われる男はギョッとした顔つきで片倉を見た。
「すまんすまん。遅れてしまって。」
不意を打つ人物の登場で彼の体は固まってしまっていた。
「岡田じゃねぇか。ちょっくら力貸してくれ。」
片倉は岡田の横に座って彼にしか聞こえないような小声で耳打ちした。
「で、どこまで話をお聞きしたんだ。」
「あの…。」
岡田が手にしている手帳の中身を覗くと、今まで何を聴きとったかの大体を把握できた。どうやら彼が事情聴取を開始してそんなに時間が経っていないようだ。
「続けて。」
ーなんで片倉課長がここで出てくるんだ。
岡田は金沢北署捜査一課所属の警部補である。片倉とは以前別の署の捜査課で仕事をしていた。よって二人は顔見知りである。今回の事件ではこの岡田と熨子駐在所の鈴木が真っ先に現場に踏み込んだ。現場検証に立ち会った際には岡田が当時の状況の説明を片倉に行なっていた。
「岡田警部補。続けなさい。」
困惑した表情を表に出していた岡田は片倉の命令によって我に返った。
「事件当日の村上さんの行動履歴についてはわかりました。確かにあなたは熨子山を通って高岡方面へ向かっています。当時の資料をみると村上さんの名前が確認できます。」
片倉は岡田の言葉にいちいち相槌を打ちながら、村上の表情に変化がないかつぶさに観察する。
「聞くところ、あなたは党の会合があるとかで高岡に向かったそうですね。」
「ええ。」
「おかしいですね。民政党高岡支部に聞きました。そんな会合は無いって話でしたよ。」
「そうでしょうね。」
当時の村上の言動と実際が異なっている。この辺りから彼の不審点を炙り出そうとしていた岡田は、あっさりとその不一致を認めた彼の言葉に肩を空かされてしまった。
「だってい

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「少しだけお話をしたいんですよ。」
本多事務所の受付の女性に名刺を渡して、片倉はその中の様子を伺った。
名刺を受け取った女性はそれに目を落とした。そして怪訝な顔つきでその名刺と片倉の顔を何度か見合わせた。
「どうしました。」
「警察の方なら今村上が対応しています。」
「は?私じゃなくて?」
「ええ。」
ーしまった。帳場の捜査とかち合った。…こうなったら一か八かだ。
「それは失礼。」
そう言うと片倉は女性の手にあった名刺を奪った。
「私はその人間の監督をする立場の者です。事務所の前で待ち合わせて一緒にお話を伺う予定だったんですが、彼は先に村上さんにお会いしてたんですね。大変ご迷惑をおかけいたしました。」
受付の女性は手のひらを返したように態度を変える片倉の対応に苦慮している様子だった。
「で、彼はどちらにいますかね。」
片倉は女性に付き添われて事務所二階の一室の前に案内された。女性がその部屋のドアをノックする。
「今来客中だから。」
憮然とした表情でドアを開けた男に片倉は一礼した。
「だれ。」
「申し訳ございません。私も同席する予定だったのですが遅れてしまいました。」
片倉は名刺を村上に渡した。
「捜査一課課長…。」
「村上隆二さんですね。」
「はい。」
「うちの若いのが先にお話を伺っていると思いますが、私も同席させていただいてよろしいでしょうか。」
村上は片倉の表情と名刺を見比べてどうぞと部屋へ招き入れた。
部屋の応接ソファに腰をかけていた捜査員と思われる男はギョッとした顔つきで片倉を見た。
「すまんすまん。遅れてしまって。」
不意を打つ人物の登場で彼の体は固まってしまっていた。
「岡田じゃねぇか。ちょっくら力貸してくれ。」
片倉は岡田の横に座って彼にしか聞こえないような小声で耳打ちした。
「で、どこまで話をお聞きしたんだ。」
「あの…。」
岡田が手にしている手帳の中身を覗くと、今まで何を聴きとったかの大体を把握できた。どうやら彼が事情聴取を開始してそんなに時間が経っていないようだ。
「続けて。」
ーなんで片倉課長がここで出てくるんだ。
岡田は金沢北署捜査一課所属の警部補である。片倉とは以前別の署の捜査課で仕事をしていた。よって二人は顔見知りである。今回の事件ではこの岡田と熨子駐在所の鈴木が真っ先に現場に踏み込んだ。現場検証に立ち会った際には岡田が当時の状況の説明を片倉に行なっていた。
「岡田警部補。続けなさい。」
困惑した表情を表に出していた岡田は片倉の命令によって我に返った。
「事件当日の村上さんの行動履歴についてはわかりました。確かにあなたは熨子山を通って高岡方面へ向かっています。当時の資料をみると村上さんの名前が確認できます。」
片倉は岡田の言葉にいちいち相槌を打ちながら、村上の表情に変化がないかつぶさに観察する。
「聞くところ、あなたは党の会合があるとかで高岡に向かったそうですね。」
「ええ。」
「おかしいですね。民政党高岡支部に聞きました。そんな会合は無いって話でしたよ。」
「そうでしょうね。」
当時の村上の言動と実際が異なっている。この辺りから彼の不審点を炙り出そうとしていた岡田は、あっさりとその不一致を認めた彼の言葉に肩を空かされてしまった。
「だってい

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