Beat TERAO radio Beat TERAO
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90年代を通り抜けた寺尾一郎が、ラジオ形式でお届けするポッドキャスト!
主役は音楽!毎回30〜40分程度、8曲程度を曲紹介を交えてお届けします。
週1回程度更新。
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Paul Weller – Fat Pop 還暦を過ぎたオヤジが選択したのは「ポップ
2021年発表。コロナ禍に作成された。2作連続の全英1位。
長いキャリアの中でも最も丁寧に作られた作品のひとつじゃないか。メロディと、アップデイトされたウェラーサウンドの水準がむちゃくちゃ高い。血潮滾るロックであり、職人的な「ポップ」である。両面において最高峰の作品だ。
プロデュースはウェラーとの相性が非常に良いJan "Stan" Kybert。スタンリーロード期のライブ感あるワイルドなサウンドと比べると、非常に親密で温かい音作りになっていて、これが聴いていると非常にハマる。この人とのコラボにハズレはない。サウンドはいつものウェラーチームで、温かい音からチームワークの良さが伝わってくる。
エレクトロなかっこよいサウンドでスタートする「Cosmic Fringes」でアルバムの成功を確信、ギターサウンドがかっこいいリア・メトカーフとのデュエット「True」、ファンク的なサウンドとトリッキーなベースラインがかっこいい洒落たタイトルナンバー「Fat Pop」、極めてブリットな素晴らしいメロディを持つ娘リア・ウェラーとの共作「Shades Of Blue」、浮遊感あるメロディがストリングスとうまく絡む名曲「Glad Times」、スタジオで一発録りされた軽快なファンクナンバー(このアルバムで一番好きだ)「Testify」、抑えを利かせたボーカルと間奏のサックスとギターがかっこいい「In Better Times」、名曲だらけだ。アルバムは、ウェラーの片腕スティーヴ・クラドックとの共作「Still Glides The Stream」(しびれる!)で幕を閉じる。
ウェラーの喉は、60歳を過ぎてから少し枯れてきてるが、それが新たな表現に繋がっている。枯れてくると、通常のアーティストだと、ブルースとかジャズとかアンプラグド的な方向に進みがちだ。特にウェラーは、ソロデビュー後しばらくR&Bやソウル色の強い渋いロックをやっていたため、そっちに進むものだと思っていた。しかし、還暦を過ぎたオヤジが選択したのは「ポップ」。それもこの完成度。40代のウェラーを観ていた人が今のこの音をどれだけ想像できたか。最高。ほんとかっこいい。 -
Paul Weller – On Sunset還暦のウェラーが年齢相応の落ち着きとモダンな感性を併せ示した大傑作
2020年、コロナ騒動の最中にリリースされたソロ15枚目の作品。
「As Is Now」「Saturns Pattern」など、バランスが取れた傑作で組んだJan Stan Kybertがプロデュースを担当。
達観した爺を演じた前作「True Meanings」と比べ、ウェラーらしいメロディや幅広い音楽性が復活し、ウェラーの歌声も年齢相応の渋さと演歌にならないポップさの二面性を兼ね備えた、キャリア屈指の完成度を誇る優れた作品だ。
スタイル・カウンシル時代の相棒、ミック・タルボットがボ・ディドリーのビートを下敷きとした小粋な「Baptiste」など数曲でハモンドオルガンを弾いているのも話題になった。
これまでのキャリアでチャレンジした様々なジャンルの音楽を、シンプルながら効果的な音の配置と音響でフューチャーソウル的にアップデイト、そして曲自体の完成度が非常に高く、何度も聴けるアルバムになっている。ウェラーの代名詞的なパンク的な「FIRE」を直接感じる曲は無いが、中に秘めた音楽的な野心は、しっかり燃え上がっているのがわかる。
静かに始まり捻くれていく「Mirror Ball」、ビートが心地良いご機嫌な「Baptiste」、ウェラー流フューチャーソウルの金字塔「Old Father Tyme」、落ち着いたトーンで達観したボーカルに静かな炎を感じるアルバムを代表する名曲「Village」、エレクトリックとR&Bの高い次元での融合「Rockets」など、キャラがたった良曲だらけだ。
ジャケットの曖昧な雰囲気が正直なんとも言えないが、ウェラーの複雑な心境を示したものなのだろう。
還暦のウェラーが年齢相応の落ち着きとモダンな感性を併せ示した大傑作だ。 -
193 Paul Weller – True Meanings 最も心を揺さぶられなかった作品のひとつ
18年発表。前作から約1年、短いインターバルでリリースされた。
アンプラグドっぽいアレンジで、内省的な曲が多く、ウェラーとしては異色作だ。曲によってはストリングスが絡んだり、ジャジーなナンバーもある。60代となったポール・ウェラー、年齢相応の落ち着きと、渋さを纏った作品だ。UK2位。
「Bowie」はタイトルそのまま、デヴィッド・ボウイに捧げた曲。シンプルな歌詞でボウイに感謝する。なかなかグッとくる優しい歌だ。
個人的にはキャリアの中で最も心を揺さぶられなかった作品のひとつだ。リラックスした感じ、レイドバックしたような感じが正直合わない。爺っぽい音楽でも、気持ちが乗っていれば良いのだが、「HEAVY SOUL」が感じられないのだ。00年代のキレのないカバーアルバム「Studio 150」と同じような緩さ、脇の甘さ。
ウェラーに求めるのはこれじゃない。前作が洒落たロックアルバムだったので、どうしてこの路線に進んでしまったか残念でならない。
THE JAMの「カーネーション」「イングリッシュローズ」が好きな人には堪らないアルバムじゃないか。 -
192 Paul Weller – A Kind Revolution ベテランとしての成熟・気概を感じるロックアルバム
2017年発表。ソロ13枚目。英国5位。
前作のセッションで残った2曲「Woo Sé Mama」「One Tear」はジャン・スタン・カイバートの共作で、他のクレジットはウェラーのみ。更に久しぶりにセルフプロデュース。マルチプレイヤーのアンディ・クラフツ(the moons)、ドラムのベン・ゴルドリエらお馴染みのウェラーチームが中心になってプロダクト。
セルフプロデュースの場合、質が落ちるアーティストもいるが(典型的なのがマッカートニー御大)、前作と同等、あるいはそれ以上の内容になっているのが頼もしい。
ソウル、R&B、ゴスペル等、自身のルーツにサイケデリックなエレクトロニック風味を加えた感じ。ドクター・ジョン的な雰囲気があるものも含まれていることから、スタンリーロード期の面影さえ感じられる。
アルバムは、成熟したお洒落なソウルナンバー「Woo Sé Mama」で幕を開け、この時点で成功を確信できる。「Long Long Road」はウェラーの十八番のソウルバラードで、スタンリーロード期にタイムスリップしたようだが、歌声はバージョンアップされている。「She Moves With The Fayre」はロバート・ワイアットが歌とトランペットで参加し、これもサイケ風味がブレンダンの音作りを思い出させる。「One Tear」はボーイ・ジョージが参加。同窓会みたいな賑やかさがあるファンクナンバーだ。「The Cranes Are Back」は洗練されたゴスペル。かっこいい。
政治的なメッセージは込められていないようだが、アルバム全体から混迷する世界への怒りも(なんとなく)感じられる。気迫と、ベテランとしての成熟、気概、一箇所に留まらない音作り、これらが高いレベルで融合している作品だ。
やはりサイモン・ダイン期の混沌、完成度の低さが勿体ないと思ってしまう。 -
191 Paul Weller -Saturns Pattern 2010年代のウェラーを代表する傑作
15年発表のソロ通算12枚目。
00年代に入ってから出番が多かったサイモン・ダインではなく、「As Is Now」で組んだJan "Stan" KybertとAmorphous Androgynousがウェラーと共にプロデュース。作曲のパートナーも、Jan "Stan" Kybertに替わった。
ポール・ウェラーはコラボレイター次第で方向性が替わるチェンジングマン。自分の方向性に合ったコラボレイターを選んでいるのかもだが。
05年ぐらいからのハズレ曲の多さが改善され、ソングライティングの質がぐっと高まった。個人的にはサイモン・ダインとの共作曲がいまいち合わなかった(アイデア勝負の曲が多い)ので、この変化は諸手を挙げてウェルカム。
景気の良いウェラー流王道ロックナンバー「White Sky」、軽快なリズムと広がりのあるメロディーが素晴らしい「Saturns Pattern」、お得意の所信表明的な名曲「Going My Way」、浮遊感のあるメロディも良いが音像も素晴らしい「I’m Where I Should Be」・・・良い曲ばかり。
10年代のウェラーの作品では一番完自分の耳に合う。
良いメロディと、長いキャリアで辿り着いたウェラーの歌、そして時代を踏まえたサウンドのバランスが非常にハマってる傑作だ。
タイトルがいまいちピンとこなかったり(困難を乗り越えるって意味?)、ジャケットがロック的では無いので、入り込みにくい作品だと思う。内容とのギャップは相当デカい。損している。 -
190 Paul Weller – Sonik Kicks
2012年発表。全英1位。日本ではメディアに取り上げられることが少なくなったウェラーだが、実はUKチャート上ではアルバムが連続で1位を獲得し90年代以上に成功している。
このアルバムにはブラーのグレアム・コクソン、ノエル・ギャラガー、元ストーンローゼズのアジズ、ショーン・オヘイガンらが参加。プロデュースはウェラーとこの頃の片腕サイモン・ダインで、このコンビのピークといえる作品だ。
2010年から禁酒をスタートしたウェラー。禁酒が、沈み込むようなサウンドから開放的でアッパーな音に変貌していった要因のひとつかもしれない。ジャケットから感じるカラフルさがアルバムのトーンに繋がっている。当時のノエル・ギャラガーのソロにも近いハンマービートとUKギターロックを組み合わせたようなサウンド。その上で結構やりたい放題やっている。
ウェラーのこれまでのキャリアの中だと、音の質感や歌い方、曲調が「サウンド・アフェクト」「ザ・ギフト」に近い感じ。JAM後期もモッズやパンクから開放され自由にやっていた。
00年代後半から10年代にはかけてのウェラーは、スティーブ・ホワイトのリズムから自由になったことで、60年代〜70年代のモッズやビートルズ、スティーヴ・マリオットらの枠から飛び出し、自分の好きな音を思うままに鳴らしている。多分、このモードこそが本来のウェラーなんだろう。
ただ、個人的にはこのアルバムの落ち着きのない音が合わないのと、アイデア一発の曲作りの甘さが気になって仕方ない。家族に捧げられた「Be Happy Children」ぐらい丁寧に作ってほしい。
JAMから聴いている永年のファンには合う作品かと思う。