10分

183.1 第172話【前編‪】‬ オーディオドラマ「五の線3」

    • ドラマ

3-172-1.mp3

「わかりました。公安特課が一時的に居なくなる隙を狙って、突入します。」
「現場の報告によると、今現在、対象の民泊で働いているのは、そこのオーナーただひとり。利用者も朝戸一名や。」
「環境は整っているというわけですね。」
「ああ。ほうや。事前に潜入しとったトシさんが見る限り、特段、武装しとるふうには見えんかったようや。が、油断は禁物。施設にどういった仕掛けが施されとるかわからんしな。」
「了解。」

ふと神谷は時計を見た。時刻は8時20分だ。

「こちらは0830(マルハチサンマル)をもって拠点制圧を開始します。」
「頼む。」

神谷は側の一郎にその旨を即座に指示した。

「アルミヤの方は何か分かったか。」
「金沢駅近辺にあった奴らの痕跡が一斉に消えました。」
「消えた…。」
「はい。攻勢の前触れかと。」
「それは自衛隊の方も把握しとれんろ。」
「勿論です。ただ…。」
「ただ、なんや。」
「例の影龍特務隊が気になりまして。」
「気になるとは。」
「中国語で会話をするビジネスマン風の人間がちらほらあるようです。」
「金沢駅にか?」
「はい。同様に観光客も居ます。」
「…わかった。頃合いを見てその中国人らに声をかけるようこちらから現場に指示を出す。」
「はい。」
「神谷。ところでお前は今はどこや。」
「機密上それは言えません。」

神谷は電話を切った。
昨日の天気が嘘のようだ。雲の切れ目からまばゆいかぎりの日の光が街を照らす。雨で濡れたそれらが反射によってさらに輝く。
美しい。そして静かだ。
この穏やかな状況がこのまま保たれれば、どんなに良いことであろうか。
神谷は、金沢駅近くのビルの屋上に居た。

「カシラ。」

次郎が神谷に声をかけた。

「何だ。」
「ヤドルチェンコの居所がわかりました。」
「なにっ。」
「奴はいま小松に居ます。」
「小松?」
「小松駅近くのホテルです。雨澤のダンナの解析を手がかりにホテルを虱潰しに当たったところ、突き止めました。」
「なるほど…」

神谷は眼下にある金沢駅から北西に延びる沿線を見やった。

「本体は大胆にも鉄道でやってくる可能性があるということか。」
「はい。しかしいくらボディチェックがないとしても、それでは相応の武器を運搬することは不可能かと思います。」
「ならば現地の近くに武器庫があるか…。」
「おそらく。」
「もしくは鉄道移動はヤドルチェンコのみ。他は既に散り散りにすでにスタンバっているとか。」
「そのほうが現実的でしょう。」
「ヤドルチェンコは俺から公安に情報を入れておく。次郎は一旦ヤドルチェンコからは手を引け。」
「はっ。」
「たった今からお前は一郎のフォローに重点を置け。雨澤は別の人間に引き継ぐが良い。」
「はっ。」

さてと言って、神谷は双眼鏡で金沢駅をのぞき込む。

「トシさんと相馬…。」

交番から古田と相馬が肩を並べて出てきた。古田は待ちきれずに喫煙所に付く前から煙草に火を着ける。方や相馬は煙草を吸わないため、手ぶらだ。彼らはそのまま近くの喫煙所へ吸い込まれていった。
視点を交番の中に移すと、若い男性2名が見えた。

「あれが自衛隊特務の二人か…。」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

喫煙所に到着したタイミングで、古田は煙を吐いた

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「わかりました。公安特課が一時的に居なくなる隙を狙って、突入します。」
「現場の報告によると、今現在、対象の民泊で働いているのは、そこのオーナーただひとり。利用者も朝戸一名や。」
「環境は整っているというわけですね。」
「ああ。ほうや。事前に潜入しとったトシさんが見る限り、特段、武装しとるふうには見えんかったようや。が、油断は禁物。施設にどういった仕掛けが施されとるかわからんしな。」
「了解。」

ふと神谷は時計を見た。時刻は8時20分だ。

「こちらは0830(マルハチサンマル)をもって拠点制圧を開始します。」
「頼む。」

神谷は側の一郎にその旨を即座に指示した。

「アルミヤの方は何か分かったか。」
「金沢駅近辺にあった奴らの痕跡が一斉に消えました。」
「消えた…。」
「はい。攻勢の前触れかと。」
「それは自衛隊の方も把握しとれんろ。」
「勿論です。ただ…。」
「ただ、なんや。」
「例の影龍特務隊が気になりまして。」
「気になるとは。」
「中国語で会話をするビジネスマン風の人間がちらほらあるようです。」
「金沢駅にか?」
「はい。同様に観光客も居ます。」
「…わかった。頃合いを見てその中国人らに声をかけるようこちらから現場に指示を出す。」
「はい。」
「神谷。ところでお前は今はどこや。」
「機密上それは言えません。」

神谷は電話を切った。
昨日の天気が嘘のようだ。雲の切れ目からまばゆいかぎりの日の光が街を照らす。雨で濡れたそれらが反射によってさらに輝く。
美しい。そして静かだ。
この穏やかな状況がこのまま保たれれば、どんなに良いことであろうか。
神谷は、金沢駅近くのビルの屋上に居た。

「カシラ。」

次郎が神谷に声をかけた。

「何だ。」
「ヤドルチェンコの居所がわかりました。」
「なにっ。」
「奴はいま小松に居ます。」
「小松?」
「小松駅近くのホテルです。雨澤のダンナの解析を手がかりにホテルを虱潰しに当たったところ、突き止めました。」
「なるほど…」

神谷は眼下にある金沢駅から北西に延びる沿線を見やった。

「本体は大胆にも鉄道でやってくる可能性があるということか。」
「はい。しかしいくらボディチェックがないとしても、それでは相応の武器を運搬することは不可能かと思います。」
「ならば現地の近くに武器庫があるか…。」
「おそらく。」
「もしくは鉄道移動はヤドルチェンコのみ。他は既に散り散りにすでにスタンバっているとか。」
「そのほうが現実的でしょう。」
「ヤドルチェンコは俺から公安に情報を入れておく。次郎は一旦ヤドルチェンコからは手を引け。」
「はっ。」
「たった今からお前は一郎のフォローに重点を置け。雨澤は別の人間に引き継ぐが良い。」
「はっ。」

さてと言って、神谷は双眼鏡で金沢駅をのぞき込む。

「トシさんと相馬…。」

交番から古田と相馬が肩を並べて出てきた。古田は待ちきれずに喫煙所に付く前から煙草に火を着ける。方や相馬は煙草を吸わないため、手ぶらだ。彼らはそのまま近くの喫煙所へ吸い込まれていった。
視点を交番の中に移すと、若い男性2名が見えた。

「あれが自衛隊特務の二人か…。」

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喫煙所に到着したタイミングで、古田は煙を吐いた

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