99エピソード

「五の線」の人間関係性による事件。それは鍋島の死によって幕を閉じた。 それから間もなくして都心で不可解な事件が多発する。 物語の舞台は「五の線2」の物語から6年後の日本。 ある日、金沢犀川沿いで爆発事件が発生する。ホームレスが自爆テロを行ったようだとSNSを介して人々に伝わる。しかしそれはデマだった。事件の数時間前に現場を通りかかったのは椎名賢明(しいな まさあき)。彼のパソコンの中にはその拡散された現場動画のデータが収められていた。【毎週土曜日 午前5時更新予定でお届けしています】

オーディオドラマ「五の線3」 闇と鮒

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「五の線」の人間関係性による事件。それは鍋島の死によって幕を閉じた。 それから間もなくして都心で不可解な事件が多発する。 物語の舞台は「五の線2」の物語から6年後の日本。 ある日、金沢犀川沿いで爆発事件が発生する。ホームレスが自爆テロを行ったようだとSNSを介して人々に伝わる。しかしそれはデマだった。事件の数時間前に現場を通りかかったのは椎名賢明(しいな まさあき)。彼のパソコンの中にはその拡散された現場動画のデータが収められていた。【毎週土曜日 午前5時更新予定でお届けしています】

    第88話【後編】

    第88話【後編】

    3-88-2.mp3

    携帯に通知が届いた。
    即座に岡田はそれを開く。

    「確かに残念な具合にハゲ散らかしてるな…。」

    そう言うと彼はその画像を側にいた捜査員に転送した。

    「いま画像送った。そいつをすぐに照会してくれ。」
    「はい。」

    マウスの音

    「うん?」
    「どした?」
    「課長…この人…。」
    「なんや。」
    「自分知っとります。」
    「は?」
    「そっくりです…昔、自分、能登署におったときの相勤に。」
    「サツカン?」
    「いえ。今はヤメ警のはずです。」
    「ヤメ警…。」
    「念の為特高にでも照会とってみましょうか。あそこならすぐ対応できるはずです。」

    捜査員は連絡を取ろうと電話の受話器をとった。

    「待て。」
    「えっ。」

    「ワシをすっ飛ばして頭越しに直でやり取りする警察の誰かさんもさることながら、身近で世話してきたワシに悟られんように特高とコンタクトとっとった椎名にもがっくり来ました。」59

    ー特高の片倉班長とは古田さんを介してしか俺らは基本連絡を取り合っていない。けど片倉班長とは意識の共有化ができとる。そん中で俺の部下であるマサさんをすっとばして椎名と直でコンタクトをとっとる特高の誰かが居る。その可能性が出てきた今、特高の中で妙な動きをしとる奴がおる…。
    ーつまり特高にもモグラがおる。その中でいまここでこのハゲを特高に照会取るってのはどういう意味を持つんや…。

    「課長?」

    ー俺らがいま特高に照会しようとしとるこの行動自体が、このハゲの意図するところとかじゃねぇやろうな…。
    ーもしそうやったとして、それはどんな意味を持つ…。
    ー古田さんは千種と接触し、その千種は死んだ。それの一部始終をこのハゲが監視しとった。
    ーなぜハゲはその現場を抑えとるか…。

    「あの、課長?」

    岡田には彼の声が聞こえていない。ひたすらに頭の中で考えを巡らせる。

    ーただ単に古田さんを尾行しとったら、その現場に出くわした。そう考えることもできる。
    ーでも、もしこのハゲが鍋島能力の分析を俺らがやっとることを知って、それを横から監視しとったんやとしたら、古田さんを尾けるというより、むしろ千種のことを尾けとった…。で、そこに偶然古田さんが接触してきた。
    ーで、千種はなんかわからんけど走る車に自ら突っ込んで自殺…。
    ー自殺?
    ーえ…まて…。なんで自殺なんや。
    ー鍋島に関する事件には自殺に見せかけたコロシの事例なんか普通にあったがいや。
    ーほうや…このハゲ、はじめっから最後までそこの様子観察しとったんやったとしたら…。

    「目付役か…。」
    「え?課長?」
    「その可能性も考えられる。で、確実に息の根を止めるところまで見てその場から消えた。」
    「あの…自分どうすれば…。」

    ようやく岡田は捜査員の存在に気がついた。

    「あ…えっと…。」
    「照会とります?どうします?」

    ーあ…そうやった…。特高に照会取るかどうかやった…。

    「…いまは止めておこう。」
    「はい。」
    「そのデータ消しておいて。」
    「了解しました。」

    ーでもあのハゲがそういう存在だったとして、なんで千種の様子を観察するとか、それを消すような真似をせんといかんがや…。

    「まさか…。」

    ここで岡田の動きが止まった。

    「俺ら以外にも鍋島

    • 7分
    第88話【前編】

    第88話【前編】

    3-88-1.mp3

    「そうなんです…。目を離した一瞬をつかれました。」
    「走る車に自分から突っ込んでいった…。」
    「はい。」
    「…古田さん。」
    「はい。」
    「天宮にしろ千種にしろ、古田さんが話を聞きに行った相手が、即効で死んどる。」
    「…はい。」
    「これなにかの偶然?」
    「そうとしか…。」
    「天宮は他殺。千種は自殺やしな。」
    「はい。」

    さすがの古田の声にも力がなかった。
    それはそうだ。こうも立て続けについ先程までやり取りしていた人間が直後に死亡したのだ。
    ショックを受けて当然だ。

    「しかし…こうも調べの対象が即死亡ってのは具合が悪い…。」
    「はい。」
    「他部署が捜査を仕切るから、ウチら弾かれる。」
    「はい。」
    「もうここまできたら、そのあたりを見越しての相手側の処理かもしれないって感じを受けるね。」
    「はい。」
    「古田さん。今回の千種の件も天宮の件もあんたが悪いわけじゃない。気にするな。」
    「はい…。」

    先程から古田に発言らしい発言がない。
    岡田の言葉に基本的に「はい」と応えるばかりだ。
    岡田は何かを察したようだ。

    「どうした。」

    古田視点

    「あやしい男がおります。」
    「なに?」
    「電話しながらこっちの方をチラチラ見とる。」
    「野次馬じゃなくて?」
    「ワシの勘が何か言っとります。」
    「念の為抑えておいてくれないか。」
    「了解。」

    電話を切った古田はすぐさま電話をかけ直した。

    「もしもし?ワシや。おたくの正面玄関から向かって左奥にうだつが上がらん感じのおっさんが電話かけとるの見えんけ?…え?ワシ?ワシじゃなくて…。そのさらにずっと奥。…おうそう。あのハゲ散らかしたおっさん。あいつの写真撮っといてくれんけ。…頼む。」

    携帯をしまった古田は深い溜め息をついた。

    雨音

    地面に体を強く打ち付けてピクリとも動かない千種を古田はしばし呆然と見ていた。

    「はっ。」

    古田はふと我を取り戻し、彼に駆け寄った。

    「千種さん!千種さん!」

    大きな声で呼びかけるも何の反応もない。
    彼は千種の胸と腹のあたりを見る。呼吸がない。
    咄嗟に上着を脱いだ古田は千種の胸骨圧迫を始めた。

    「頼む…千種…頑張ってくれ…頼むぞ…。」

    祈るような声を振り絞りながら、彼は千種の胸を押し込み続けた。
    しばらくして人が集まってきた。
    隣接する大学病院からも医師が駆け寄ってきた。
    そのまま千種は病院に搬送。
    間もなくその死亡が確認された。

    事故の目撃者である古田は現場に駆けつけた警察官の聴取に応じた。
    それがひととおり終わった段階での岡田との電話だった。

    「千種賢哉…。誰や…こんな若い命を弄ぶんわ…。」

    肩を震わせた彼は、歯を食いしばった。

    携帯が震える音

    「はい。」
    「いま大丈夫か。」
    「あー。」

    古田はあたりを見回す。

    「千種の件は聞いた、大変だったな。」
    「もうご存知で。」
    「捜一からマルトクに妙な詮索をさせないようにこっちでなんとかする。」
    「助かります。」
    「で、大丈夫か。」

    電話のマイク部分を手で覆って古田は声を潜めた。

    「とりあえず調べから解放されました。怪しいやつはまだおります。」
    「そうか。岡田からも聞いてるとおりだ。抜かりなく抑えてくれ。」
    「大丈夫です。」
    「さすが

    • 15分
    第87話

    第87話

    3-87.mp3

    石川大学医学部の駐車場。ここの車で人の往来を観察する古田がいた。

    「ふーっ…石大の医学部とか病院とか、なんやかんやでワシここにべったりじゃないですか。」
    「んなこと言わんと。」
    「せっかく母屋でコチーって座って仕事できるかと思ったら、また現場。しかも雨。ねぇ岡田課長。」
    「人手が足りないんですよ。」
    「あ、出てきた。んじゃまた後で。」

    そう言って古田は電話を切った。

    「千種さん。」

    傘を指しているその背後から声をかけられた彼は振り向いた。

    「千種賢哉さんですね。」
    「…。」
    「あの、千種賢哉さんですね。」
    「違います。」
    「え?」

    背を向けて付近のコンビニに向かって歩き出したため、古田はそれを追った。

    「ちょ…ちょっとまってください。」
    「人違いです。」
    「じゃあなんで名前読んだらこっち向いたんですか。」

    彼は足を止めた。

    「だって僕は千種ですもん。」
    「はい?」
    「千種錬です。」
    「レン?」
    「はい。じゃあ。」
    「チョット待って。」
    「何なんですか。昼メシくらい買わせてくださいよ。」
    「あなた千種賢哉でしょうが。」
    「だから違うって。」
    「おい。誂うなま。」

    古田の声色が変わった。

    「なんですか…。脅しですか。」
    「脅しでもなんでもないわい。ジジイやと思って舐めとるとシバくぞ。」
    「何やって?」

    今度は千種は古田にガンを飛ばした。

    「石大医学部には千種っちゅう名字の学生は賢哉以外におらん。んなもん既に調べ済みや。」
    「じゃあその調査が間違ってるんですよ。」
    「おいおい…。あんちゃん。マジで喧嘩売っとるんけ?」
    「ジジイ。お前こそ俺に喧嘩売ってんじゃねぇの?」

    ー何やこいつ…。頭おかしいんか…。

    「わかった。千種錬。」
    「んだよ、やっとわかったのかよ。ってかジジイ何?」
    「ワシか。」
    「まさかあんた、僕を買おうって話じゃないだろうね。」
    「は?」
    「悪ぃけど、僕いまそんな感じじゃないし。」

    ー千種を買う?…なるほどこれが天宮の愛人とかって自分で言っとったやつか…。

    「すいませんが、それじゃないんですよ。」

    そう言うと古田は警察手帳を見せた。

    「古田?警察?」
    「はい。千種錬さん。あなた昨日、天宮先生のお宅に行かれてましたね。」
    「はい。」
    「そのことについてお聞きしたいことがありまして。」
    「…。」
    「どうしました?」
    「話すことはありません。」
    「いや、あなたから話すことはないとしても、こっちは聞きたいことが山程ありましてですね。」
    「どうせ話を聞きたいとか言って、場所変えて僕を襲う算段なんでしょう。」

    ー大丈夫じゃないなこいつ…。何かがおかしい…。まさか愛人とか言って実のところ天宮にこいつ犯されたとかじゃないやろうか…。被害妄想入っとる感じがする。

    「ワシは警察ですよ。んなことするわけないじゃないですか。」
    「わかりません。」
    「わかった。場所はここでいい。ここでワシの聞くことに答えるだけ。所要時間は5分でどうです。」
    「嫌です。」
    「おい千種。」

    古田は詰め寄った。

    「ワレ、昨日天宮のコロシの現場に入ったやろ。」
    「…。」
    「誰の了解とって現場に入ったんじゃ。」
    「先生。」
    「先生?」
    「天宮先生だよ。」
    「あのな…

    • 12分
    第86話

    第86話

    3-86.mp3

    「はい。間違いなく中村文也は石川大学病院部総務人事課の人間です。」
    「わかった。スクリーンショットでいい。送ってくれ。」
    「はい。」

    紀伊は言われたとおり、画面に表示されるそれを送った。

    「ところで百目鬼はどうだ。」
    「班長をよく思っていない様子です。」
    「そうか。」
    「はい。自分に班長の代わりを担わせたい的なことをほのめかしてらっしゃいました。」
    「それは良かったじゃないか。」
    「…いえ。」
    「どうした?あまりパッとしない様子だな。」
    「…そこで相談したいことがありまして。」
    「何だ。」
    「あの…ここではちょっと…。」
    「わかった。あれで。」
    「了解。」

    席を外した紀伊はトイレの個室に移動し、SNSを立ち上げた。

    「何かと目障りな片倉班長を排斥する動きを見せる百目鬼理事官はこちら側の人間なんでしょうか?」
    「わからん。」
    「じゃあ…なんで…。」
    「どうした。何があった。」
    「理事官は新宿のマル被の記憶がおかしいことについて、捜一はすでに手がかりを掴んでいるはず。なのに捜査は一向に進展していないのはおかしいといっています。」
    「なに?捜一はすでに手がかりを掴んでいるだと。」
    「はい。」
    「まさか奴はすでに鍋島能力のことを知っていると?」
    「おそらくそうではないかと…。石川のやつとか言ってましたんで。」
    「いつそれを…。」
    「我々のような一部の人間しか未だ知らないはずのあれを理事官は知っている。となると百目鬼理事官は我々の知らない指揮系統でこちらの陣営に参画しているのではと思った次第です。」
    「なるほど。確かにその線は捨てきれん。」
    「ですが百目鬼理事官は鍋島能力の存在を捜一にぶつけてみろといいました。」
    「なんだと?」
    「それで捜一の出方を見てみろと。」
    「何いってんだあいつ…。あそこに急にそんなことぶつけてもオカルトで一蹴されるだけだ。」
    「確かにそうですが、もしもこれに万が一捜一が関心を示すとなれば、石川の捜一と連携するなんてことも考えられます。」
    「…それはまずい。」
    「はい。下手をすれば光定の研究が露見し、天宮研究と曽我の関係にまで捜査のメスが入る可能性もあります。」
    「もしもお前が言うようにあいつがこちら側の人間だったとして、なぜこんなリスクをとるんだ。」
    「そこが私に理解不能でして、専門官に相談した次第です。」
    「まさか…あいつ、通常の捜査線上に鍋島脳能力の存在が浮上してきているなんてことはあるまいな。」
    「だとすると、片倉班長を排斥する動きは理解できません。あの方は松永課長とは比較的うまくやっていた部類の人間。松永課長と片倉班長は硬い結束があります。」
    「確かに。」
    「いずれにせよ、私としては百目鬼理事官から捜一にぶつけてみろと言われた手前、それを実行しない訳に行きません。軽くぶつけてみました。」
    「で、捜一の反応は?」
    「いまのところ全然です。」
    「いまのところ?」
    「はい。それとなく匂わせておきましたので、後日食いつくかもしれませんし、そのままスルーかもしれません。」
    「食いついたらどうするんだ。」
    「そこで手を打っておきました。」
    「どんな。」
    「曽我殺しのホシが殺されたのは専門官はご存知で

    • 12分
    第85話

    第85話

    3-85.mp3

    ベッドに横になったまま空閑はスマホの画面に指を滑らしていた。

    「あれ?」

    ちゃんねるフリーダムのアーカイブ動画の一つをタップすると「諸般の事情で配信を一時的に停止します。再開の目処がたった段階で改めてお知らせします。」との表示が出た。

    「なんだこれ…どうしたんだ。」

    ベッドから身を起こした空閑は他の動画を確認した。
    普通に再生されるものもあれば、今ほどのテキストが表示され、動画が再生されないものもある。

    「メンテナンスでも入ったのか…。」

    彼は歯噛みした。

    「糞が…よりによってなんでこのタイミングで…。」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    車内の音

    ーやっぱりだ…。

    ルームミラーに目をやった椎名は心のなかでつぶやいた。

    ー昨日から急に俺への監視が強化されてる。公安特課の連中、何を知った…。

    ミラー越しに見えるのはどこにでもいるような白の商用車。
    ワイシャツにネクタイときっちりとした格好の中年男性が、姿勢良く運転している。

    ーこの監視体制。もうウチの会社とかちゃんフリの方まで聞き取り入ってるかもな。

    ハンドルを切った椎名は通りに面した駐車場に車を滑り込ませた。

    ーま、時間の問題か。

    携帯のSIMを入れ替えた彼は鞄を担いで車から降りた。
    瞬間、前方20m先に妙な気配を感じた。
    さり気なくそちらの方に目をやると競技用のものと思われる自転車にまたがって信号待ちをしている外国人らしき男ふたりがいた。
    ヘルメットにサングラスの彼らはワイシャツ姿だ。背中にはリュックを担いでいる。
    どこかの企業に務める外国人だろう。
    ふたりのうち、ひとりが信号待ちをしながら首を回した。
    それを見た椎名は自分の左肩を右手で揉み、左腕を回す。
    すると外国人もそれに呼応する形で左腕を回した。

    ー準備完了か。

    信号が青になり、外国人ふたりは走り去っていった。

    ーとなれば、こっちは多少無理してもなんとかなりそうだな。

    彼は目の前の金沢銀行野々市支店の中に入っていった。

    自動ドアの音

    「いらっしゃいませ。」

    椎名はATMコーナーでチラシの補充をする男に声をかけられたため、それとなく会釈をした。
    月末前の金沢銀行野々市支店の人の入りはまばらだった。

    「大変申し訳なんですが、早めに私の口座に返金してください。」
    「一応手数料引かずに。」84

    ーってか手数料引かずにってあたりまえだろ…。逆に手数料引いての振り込みって何なんだよ。

    「あの…。」

    椎名はそこにいる男に声をかけた。

    「どうしました?」
    「あの…ちょっと振り込みのことで聞きたいんですけど。」
    「はい。」
    「手数料引かずに振り込みって一体どういう意味なんですか?」
    「あぁそれですか。その手のことは商売上の習慣みたいなもんです。」
    「商売上の習慣?」
    「はい。例えば10万の請求があれば普通10万円をそのまま支払うでしょう。」
    「はい。」
    「でも振り込みだと手数料がかかります。」
    「はい。」
    「当行ですと当行宛は440円、他行宛は770円。つまり請求された10万円とは別にその手数料分もお客さんで負担してねってやつです。」
    「あ…そうなんですか。」
    「お客さんは手数料を引か

    • 15分
    第84話

    第84話

    3-84.mp3

    No.2の扉が開かれ中から男二人が出てきた。

    「おはようございます!椎名さん。」
    「えっ。」

    不意に大きな声をかけられた椎名はあたりをキョロキョロと見回した。
    廊下の向こう側にリックを担いだ見覚えのある女性が立ってこちらに手を振っていた。

    「あ、片倉さん。」
    「お、京子のやつ来てたんだ。」

    彼女はこちらに駆け寄ってきた。

    「どうしたんですか椎名さん。こんな朝早くに弊社にお越しだなんて聞いてませんよ。」
    「あぁ…実はちょっと本業の方で安井さんに用がありまして。」
    「本業?」
    「ええ。印刷の方で。」

    京子は安井を見る。

    「記念誌。」
    「記念誌?」
    「ああ。創業5周年の記念誌製作。」
    「え?そんな話聞いてません。」
    「俺は聞いてるの。」
    「京子。心配ない俺も聞いてる。」

    黒田がどこからともなく3人の中に入ってきた。

    「安井さん社長に一任されてるんだ。」
    「え…まさか、それで密かにいっぱいいっぱいになって、私の仕事断って椎名さんに紹介したとか…。」

    安井は京子と目を合わせない。

    「図星?」
    「…否定できない。」
    「まじですか。」

    目をそらしたまま安井はうなずいた。

    「キャパせまっ。」
    「なにぃっ!?」
    「10年20年の話なら資料集めたり取材したりで結構大変やと思うけど、5年でしょ。そんなんチャッチャッってできません?」
    「あほ。俺は制作畑なんだよ。記者畑の人間と一緒にしないでくれ!俺は俺なりに勉強してやってんの!」
    「ねぇねぇデスク。これって人選ミスじゃありません?」
    「…かもな。」
    「なにぃ黒田テメェ!朝からオメェ感じ悪いんだよ!」
    「マァマァ(((ノ´ー`)ノヤスさん落ち着いて。」

    結構本気で怒る安井を黒田はなだめた。

    「京子。お前もお前だ。上司を誂うもんじゃない。」
    「デスクもすこし乗っかったじゃないですか…。」
    「そうだよ黒田、お前が一番感じ悪いぞ。」
    「うっ…。」

    3人のやり取りを冷めた目で見る椎名の様子に気がついた黒田は軽く咳払いした。

    「こほん…。ふたりともお客さんの前でどうかと思うよ俺。」

    安井と京子もようやく椎名のことを思い出した。

    「椎名賢明さんですね。」
    「はい。」
    「弊社の片倉と安井がお世話になっております。報道部デスクの黒田と申します。」

    黒田は椎名に名刺を手渡した。

    「報道のデスクが俺のことを怪しみだした。大川と俺が個人的にあってることも抑えてるみたいだ。」85

    ーこいつか…。

    「椎名と申します。はじめまして。」

    椎名は勤務先の名刺を黒田に渡した。

    「印刷会社でDTPやっています。」
    「安井から聞いています。映像のお仕事はあくまでも個人でやってるらしいですね。」
    「はい。」

    ここで黒田は椎名の耳元で囁いた。

    「すいません。ウチの教育がなっていなくて…。」
    「なんのことです?」
    「さっき弊社の片倉が椎名さんの口座に報酬を振り込んだそうなんですが、税金関係のことをちゃんとしていませんで。」
    「税金?」
    「ええ源泉のことで。」
    「あの…。」

    キョトンとした椎名の様子を見て黒田は気がついた。

    「…あ、そうか。なるほど椎名さんも今回が初めての仕事だったんですね。」
    「ええまぁ…。」
    「あ、そういうことなら話が早い

    • 17分

カスタマーレビュー

4.4/5
44件の評価

44件の評価

ならさかあまふ

ついに3たどり着きました☺️

モンゴルからの視聴です。
毎週の楽しみになっています🥰

鬼に綿棒

待ってました!!

念願の五の線3!過去の五の線、五の線2の展開の素晴らしさ、演出の凄さ、ストーリーの奥深さ、劇場版にしても惜しくない完成度がまた味わえるなんて!!本当に嬉しいです!!これから聴き始めますが、すでに最高な作品である事は間違いないので☆5です!!

nicke29

待ってました!

待ちに待った「五の線3」前作からの期待を込めて星5です!

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