森雪之丞 Poetry Readingの世界『感情の配線』

そして1年が過ぎ 〜 時の配達人さんへ <連弾詩集「扉のかたちをした闇」より>

そして1年が過ぎ 〜 時の配達人さんへ <連弾詩集「扉のかたちをした闇」より>

そして1年が過ぎ
庭先の薔薇は少し小振りになった
トネリコの枝に残る巣の主は旅立ったままだ

1年が過ぎ
私は2人の友を天国に見送り
妻は3kgのダイエットに成功し
4歳の娘には人生5つ目の秘密ができた

1年が過ぎたが
あの日と同じように
誰かの声に いや どうせ風なのだろうけれど
呼ばれた気がしてつい空を見上げる

四つの季節が巡る国では
記憶に様々な色彩が刷り込まれているものだ
だが不思議なことに
私は灰色の空しか覚えていない
分厚い磨りガラスが嵌(は)め込まれたような
巨大なドブネズミ達に占拠されたような
気だるい憂鬱の固まりのような空

1年が過ぎて
彼女にはきっと新しい恋人ができただろう
太陽が滲(し)み込んだ彼のジャツに顔を埋めた時

どんなに世界が灰色でも
雲の切れ目に陽だまりを見つけ
そこに立ちすくむことが幸福なんだと
たぶん気がついた頃だろう

庭先の薔薇は少し小振りになった
巣の主はまだ帰らない
私は
1年前の私が今の私に宛てた曇り空の絵葉書を
1年後の私のために真っ青に塗り直し
時の配達人が来るのを待っている

時の配達人さんへ

2ヶ月も来なかったくせに
ドサっと半年分の時を配達しないで下さい
2ヶ月も長く私は思い出に苛(さいな)まれ
4ヶ月も長く私は綺麗な涙を忘れてしまう
月が太陽と交わした契約を
時と心はいつから守らなくなったのですか?

1976 年作詞作曲家としてデビュー以来、昭和・平成・令和の3 世代でジャンルを超えてヒットチューンを生み出し続ける森雪之丞が、自選詩集『感情の配線』の発売を記念して詩を朗読する番組。
メロディーを脱ぎ捨てた諧謔とエロスと波動(グルーヴ)詩人・森雪之丞の言葉の軌跡を是非ご体感ください。

森雪之丞 自選詩集『感情の配線』
2024年1月14日(日)発売
特設サイト:⁠https://www.mori-yukinojo.com/emotional_wiring/⁠

ハッシュタグ:#感情の配線 #推詩森雪之丞
スタッフX:⁠⁠⁠⁠ ⁠https://x.com/yukinojo_news