森雪之丞 Poetry Readingの世界『感情の配線』

ヤドカリと十二月 <連弾詩集「扉のかたちをした闇」より>

ヤドカリと十二月 <連弾詩集「扉のかたちをした闇」より>

虫カゴで飼っていたヤドカリが
脱皮するために次の貝殻を探している
ヤツはいつ気づくのだろう
未来を運んでくるはずの波が
もう随分と来ないことに

抽斗(ひきだし)に残っていた線香花火を
ベランダの暗がりに咲かせた
咲きかけた瞬間
橙色(だいだいいろ)の玉を北風に掠め取られて実感したのだ
花火と私が季節に置き忘れられたことを

1年は12ヵ月
いつ教えられたのだろう
人として恙無(つつがな)く生きるための知識を
誰に入れ知恵されたのだろう
身体は獣の仲間だという秘密を
なぜ突きつけられたのだろう
心はコワレモノの一つだという事実を

花火を見上げた夏
度の強い眼鏡を外して彼女は言った
すべての光は色とりどりの涙だと
老眼の私は
近づくほど彼女を見失っていた

小さくなった貝殻のように
夏の亡骸(なきがら)は心を締めつける
脱皮しなければ
自由にならばければと
焦りながら私は待つ
未来からの波を

運命の虫カゴから逃げることのできない
ヤドカリにすぎないというのに

1976 年作詞作曲家としてデビュー以来、昭和・平成・令和の3 世代でジャンルを超えてヒットチューンを生み出し続ける森雪之丞が、自選詩集『感情の配線』の発売を記念して詩を朗読する番組。
メロディーを脱ぎ捨てた諧謔とエロスと波動(グルーヴ)詩人・森雪之丞の言葉の軌跡を是非ご体感ください。

森雪之丞 自選詩集『感情の配線』
2024年1月14日(日)発売
特設サイト:⁠https://www.mori-yukinojo.com/emotional_wiring/⁠

ハッシュタグ:#感情の配線 #推詩森雪之丞
スタッフX:⁠⁠⁠⁠ ⁠https://x.com/yukinojo_news