森雪之丞 Poetry Readingの世界『感情の配線』

怪盗セプテンバー <連弾詩集「扉のかたちをした闇」より>

怪盗セプテンバー <連弾詩集「扉のかたちをした闇」より>

「朝日は夕陽にして返す
涙は夢見薬(ゆめみぐすり)に調合して枕元に樅いておく」
怪盗の言業は揺るぎない
義賊としての威厳に満ちている

「盗まれたいものは他にないか?」
怪盗は訊ねる
去年と同じ口調で

「あのぅ…」
「ドーナツの穴は盗めない」
「いえ恋人の記憶なんですが…」

——そう 彼女は堤防にいた
波に生まれた光の蝶が
麦わら帽子と戯れていた夏の午後
——彼女にはわかっていた
恋という美しい誤解が剥がれた後も
愛を演じあわなければならない
幸せの醜さを
——そして彼女は

「あぁ愛を知ることに臆病な男よ
お前は忘れているだろうが
それは毎年私に盗ませている記憶だ」

そう言いながら
怪盗セプテンバーはマントを空に翻し
忽然と消え去る
海辺に 私と気怠(けだる)い9月を残して

目をこすり目を開ける
この何か新しい恋が始まりそうな予惑は
錯覚なのだろうか

1976 年作詞作曲家としてデビュー以来、昭和・平成・令和の3 世代でジャンルを超えてヒットチューンを生み出し続ける森雪之丞が、自選詩集『感情の配線』の発売を記念して詩を朗読する番組。
メロディーを脱ぎ捨てた諧謔とエロスと波動(グルーヴ)詩人・森雪之丞の言葉の軌跡を是非ご体感ください。

森雪之丞 自選詩集『感情の配線』
2024年1月14日(日)発売
特設サイト:⁠https://www.mori-yukinojo.com/emotional_wiring/⁠

ハッシュタグ:#感情の配線 #推詩森雪之丞
スタッフX:⁠⁠⁠⁠ ⁠https://x.com/yukinojo_news