高千穂さんのご縁です。

【物の見方】 “それってあなたの感想ですよね?” の意味を考える

🔶今週のテーマは「物の見方」

この番組では、熊本市中央区京町にある仏嚴寺の住職・高千穂光正(たかちほ こうしょう)さんに、仏教にまつわるさまざまなお話をうかがってまいります。

🔶和歌が伝える物の見方の違い

「手を打てば鳥は飛び立つ 鯉は寄る 女中茶を持つ 猿沢の池」という和歌をご紹介します。猿沢の池(さるさわのいけ)は奈良公園にある池です。ある人が手を叩いたところ、鳥は驚いて飛び立ち、鯉は餌をもらえると思って寄ってきた、という情景が詠まれています。

同じ行為でも、受け取る側によって反応は異なることを示しています。これは、見るものによって物の見方が異なるという、仏教的な視点に通じています。

🔶仏教の教え「唯識(ゆいしき)」とは

仏教では「唯識(ゆいしき)」という教えがあります。これは「すべてのものは心の働きによって生じている」という考え方です。

たとえば、「一水四見(いっすいしけん)」という例えがあります。水という同じ存在も、見る者によって異なるものに見えるとされます。

・人間にとっては、命を支える飲み物

・天人(てんにん)にとっては、水晶のような床

・魚にとっては住処

・餓鬼にとっては燃え盛る炎

このように、物の見え方は存在する側の心によって決まるとされているのです。

🔶人間の価値観は経験で変わる

人間の場合も同じです。生まれ育った環境、教育、経験などによって価値観が形成されます。

たとえば、コップに水が半分入っていたとき、「もう半分しかない」と見る人もいれば、「まだ半分もある」と見る人もいます。

人は五感を通して物事を認識し、そこに好き嫌いや善し悪しといった価値判断を加えて、自分だけの世界をつくり上げているとも言えます。

🔶「それってあなたの感想ですよね?」の意味を考える

「それってあなたの感想ですよね?」という言葉が、最近では子どもでも使うようになりました。しかし、それを言っている本人もまた、自分自身の感想の世界を生きているということを忘れてはいけません。

つまり、私たちは誰もが自分の感想というフィルターを通して世界を見ており、その見方に絶対の正解はないということなのです。

🔶仏さまは事実をありのままに見通す

仏教における「仏になる」とは、自分の都合や感情、価値観から離れて、物事の本質や事実をそのままに見通すことができる存在になるということです。

水が半分入ったコップを見て、「半分も」「半分しか」と感じるのではなく、「水が半分入っている」という事実そのものをありのままに見る。これが仏の視点であり、私たちが目指すべき心のあり方でもあります。

🔶違いを認めることで穏やかに生きる

私たちは完全に仏のような視点を持つことはできませんが、せめて「人によって物の見方は違うのだ」という前提を持つことで、怒りやトラブルを減らすことができるかもしれません。

身近な人とであっても、見ている世界が違うことを認め合いながら暮らしていく。その心が、穏やかで平和な毎日を築く第一歩となるのではないでしょうか。

🔶今週のまとめ

今週は「物の見方」というテーマでお話ししました。

「手を打てば鳥は飛び立つ 鯉は寄る 女中茶を持つ 猿沢の池」という和歌を通して、物の見方は人それぞれであり、それは自分の心の働きによって生じていることを学びました。

仏さまはその心の働きから離れ、ありのままの姿を見通す存在です。

私たちには難しいことですが、「人によって見方は違う」という前提を持つだけで、心穏やかに生きていく助けになることでしょう。

🔵来週のテーマは「平和を願う心」です。どうぞお楽しみに。

お話は仏嚴寺の高千穂光正(たかちほ こうしょう)さんでした。お相手は丸井純子(まるい じゅんこ)でした。