市場の風を読む

スタグフレーションの気配

これまでのところ、市場はボラティリティがあるにもかかわらず、底堅さを示しています。しかし、弊社コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツは、今後数ヵ月で経済指標に変化が生じ、利回りにも影響が及ぶかもしれないとみています。

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トランスクリプト 

「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。

本日は、今後2ヵ月間が今年に入ってからの半年余りとはかなり異なる、それこそスタグフレーションのように感じられる厄介な時期になるかもしれないことについて、弊社コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツがお話しします。

このエピソードは8月7日 にロンドンにて収録されたものです。

英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。

2025年に入ってからの関税をめぐる大騒ぎにもかかわらず、金融市場は底堅さを示しています。株価は上昇し、債券利回りは低下しています。クレジット・スプレッドはおおむね20年ぶりのタイトな水準になっており、先月には市場のボラティリティも急低下しました。

実際、市場は関税というテストに直面し、今年2月からはその話で持ち切りでしたがその難局を切り抜けたとの見方に対する安心感は強まってきているようです。今年はこれまでのところ、経済成長は全般に持ちこたえており、インフレ率も全般に低下しており、企業業績も全般に好調です。

ただ、これはぬか喜びかもしれないと弊社は考えています。関税の厄介な影響? そうですね、経済指標にはもう出始めているかもしれませんし、今後数ヵ月間でさらに出てくるでしょう。

関税がもたらすとされるリスクについて考えるときには、必ず2つの面が検討されます。ひとつは物価の上昇であり、もうひとつは経済活動の鈍化です。企業をめぐる不確実性が高まり、経済成長率が低下するのです。先週の経済指標を振り返ってみましょう。まず、FRBが好むインフレ指標、いわゆるコアPCEインフレ率は、物価が再び上昇していること、それもこれまでよりペースが速くなっていることを示していました。米国労働市場の健康状態を教えてくれる重要な雇用統計では、雇用の伸びの鈍化が見られました。そして、現実世界のサプライ・チェーンの真っただ中にいる方々が回答しているために市場でフォローされている米サプライマネジメント協会(ISM)の重要な調査では、新規受注の減少と、企業が支払うコストの増加が示されました。要するに、物価の上昇と成長の減速です。まとめてスタグフレーションと呼ばれることの多い、好ましからざる現象です。

ひょっとしたら、この週だけが悪かったのかもしれません。しかし、やはり気になります。というのは、このようなデータがもっと出てくるだろうと弊社モルガン・スタンレーのエコノミストたちが思っているほぼそのタイミングでの出来事だからです。弊社エコノミストは、今年下半期の米国の経済成長率は上半期よりも大幅に低下すると予測しています。具体的には、次の3ヵ月間に前月比の物価上昇率が急上昇する一方、経済活動も鈍る公算が大きいとみています。

そのようなデータは、今年に入ってから目にしてきたものとは異なるパターンになるでしょう。つまり、これらの予想が正しければ、市場はすでにテストに合格したということにはなりません。先生が教室でテストの問題を配っている段階にすぎないことになってしまうのです。

このため、クレジット市場は今後数ヵ月間、落ち着かない相場展開になり、スプレッドがいくらか拡大する可能性があると弊社ではみています。クレジットには投資対象としての利点がまだ数多く備わっています。利回りは魅力的で、企業業績も全般に好調です。しかし、経済成長の鈍化とインフレ率の上昇という組み合わせは、新しい現象です。しかもそれが、クレジットにとっていくぶん厳しい時期になることの多い、8月と9月という2ヵ月間に現れることになります。そのため弊社は、好調な相場も一服することになるだろうとみています。

最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。