ボイスドラマ「家族の食卓/もうひとつの物語」後編

ボイスドラマ〜Interior Dream

東京での生活が始まり、紅葉は夢を追いかけて日々奮闘します。
けれど、思い描いていた理想と、現実の厳しさは違うもの。
そんな中、彼女にとって心の支えとなるのは、先輩との交流、そして父の言葉でした。

「家具は、家族をつなぐもの。」
父の仕事に無関心だった紅葉が、ある仕事を通じてその意味を知ることになります。

そして迎える、久しぶりの帰省。
紅葉は、父とどんな言葉を交わすのでしょうか。

それでは、後編をお楽しみください。

【登場人物のペルソナ】

・娘:紅葉(くれは)/声優の卵(21歳)=真面目で一途。子供の頃から声優に憧れ、夢を追いかけて東京へ上京する。感情を表に出すことはあまり得意ではないが、家族への深い思いを胸に秘めている。実家の家具屋で育ったため、無意識に家具に対する愛着があるが、家業を継ぐという両親の期待に反発していた(CV:桑木栄美里)

・先輩:冬紀(25歳)/若手声優=沖縄出身。優しく親切で、自然体で人に接するが、実は沖縄での家族や地元を大切に思っており、東京での生活にも孤独を感じることがある。娘にとって、東京での厳しい生活の中で心の支えとなる先輩。彼の優しさに触れるたびに、紅葉は自分の父の面影を感じ、心の距離が近づいていく(CV:日比野正裕)

<シーン1/声優養成所>

(SE〜養成所の環境音)

娘: 「おつかれ様でした!」

先輩: 「おつかれ!今日もバイト?」

娘: 「はい!」

先輩: 「たしか・・フィットネスジム・・だっけ?」

娘: 「はい、自由な時間に働けるので助かってます」

先輩: 「だけどあんまり無理しないようにね。

昼も、和食屋さんでお皿洗ってるんでしょ?

うちのレッスンは、ダンスもまざってるから体力消耗するし」

娘: 「あ、ダンスは小さい頃から踊ってたんで」

先輩: 「それでも疲れる。人間だから」

娘: 「大丈夫です!」

先輩: 「まあ、若いからがんばれるんだろうけど」

娘: 「ありがとうございます!」

先輩: そういえば、この子、最初の挨拶で面白いこと言ってたよな。

なんだっけな。え〜っと・・

■一瞬、回想シーン

娘: 「みなさん、はじめまして!

今日から養成所でお世話になります!よろしくお願い申します!

養成所って、私にとっては夢を育てる場所。

だから、”養成”という文字は、フェアリーの”妖精”。

私はいつも脳内変換しています!」

先輩: それで、記憶に残ってるんだよな。

人に覚えてもらう、ってのもこの仕事じゃ重要だから。

実際僕もそれ以降、彼女のこと気になってるんだよな。

<シーン2/夜の渋谷/バイト終わりの紅葉>

(SE〜繁華街の環境音)

娘: 「お先に失礼します!」

先輩: 「あれ?」

娘: 「あ、先生!」

先輩: 「おいおいやめてくれよ、こんな往来で”先生”だなんて」

娘: 「だって先生じゃないですか?」

先輩: 「養成所でレッスンしてるってだけだろ。

せめて”先輩”にしてくれ。

僕はまだ25歳なんだぜ」

娘: 「年齢なんて関係ないと思います。

たとえ小学生だって、私の師匠なら”先生”だわ」

先輩: 「そうか。

にしても、遅くまでバイト、がんばってるね」

娘: 「はい。

だって東京って家賃すっごく高いんだもの」

先輩: 「君は東京の人じゃなかったね」

娘: 「そうです、東京でてきてびっくりしました。

バイトしてもバイトしても家賃と授業料に消えていく感じ」

先輩: 「そうだよなあ、駆け出しの声優は結構バイトしてるもんなあ。

ましてや、養成所なら出て行く方が多いだろうし」

娘: 「そうなんです。だから自炊もしてるんですけど

東京は物価も高い」

先輩: 「自炊してるんだ。立派なもんだ」

娘: 「なんで?たんに生活費を浮かすためですよ」

先輩: 「自炊は体にもいいだろ。

とにかく体が一番だからな。

あとは、規則正しい生活を送ること。

ってそれは難しいか。

まあ、無理せずにがんばって」

娘: 「先輩」

先輩: 「ん?なんだ?」

娘: 「先輩って、お父さんみたいですね」

先輩: 「なんじゃ、それ?

まだ25だって言っただろ」

娘: 「ふふ」

先輩: 結局、彼女とは、明るい夜の街をいつまでも話しながら歩いた。

話は尽きず、一駅歩くくらいのボリュームだっただろう。

<シーン3/収録スタジオ/初めての仕事>

(SE〜スタジオの環境音/「はい本番!はい、キュー!」)

娘: 「家具を選ぶときは、まず目を閉じてください」

先輩: 「はい、閉じました」

娘: 「そこに、家族の笑顔は見えますか?」

先輩: 「え?」

娘: 「それが、家具を選ぶ基準です」

(SE〜スタジオの環境音/「よしOK!このテイクでいこう」)

娘: 「ありがとうございました!」

先輩: 音響監督が笑顔でうなづく。

彼女が声優養成所に通い始めてもうすぐ1年。

養成所から所属へ。

妖精が羽ばたく時期。

初めて彼女に入った仕事は、なんと僕との掛け合いだった。

それは、家具屋さんの企業アニメーション。

どうしてなかなか、いい表現じゃないか。

娘: 「おつかれさまです」

先輩: 「おつかれ。一発オーケーかあ。

すごくよかったよ」

娘: 「本当ですか?」

先輩: 「ああ、レッスンのときより、何倍もいい表情だ」

娘: 「実は・・・うちの実家、家具屋さんなんです」

先輩: 「だから・・・言葉の意味もちゃんと理解してたんだね」

娘: 「はい、家族をつなぐ家具。いつも父が言っている言葉です」

先輩: 「そっか・・・

ねえ、つかぬことを聞くけど・・・

東京へ来てから、何回実家へ帰ったの?」

娘: 「あ・・」

先輩: 「うん?」

娘: 「一度も帰ってない・・・」

先輩: 「じゃあ、そろそろ帰るタイミングじゃない?」

娘: 「はい」

■BGM〜「インテリアドリーム」

<シーン4/東京駅/新幹線ホーム>

(SE〜新幹線ホームの環境音)

先輩: 仕事ができる人は、行動するのも早い。

次の日の朝、彼女は新幹線のホームに立っていた。

娘: 「先輩、忙しいのにこんなとこにいていいんですか?」

先輩: 「うん、昨日君が明日帰るってきいたら

なんだか心配になっちゃってさ」

娘: 「新幹線くらい1人で乗れますよ〜」

先輩: 「いや、そういう話じゃないだろ」

娘: 「やっぱり先輩、お父さんみたい」

先輩: 「はいはい。

じゃあお父さんとようく話してくるように。

東京へ戻ったら、家具の話、食卓の話、聞かせてくれ」

娘: 「了解しました」

先輩: まるでLINEの絵文字のような笑顔で、

彼女は新幹線に乗り込んだ。

遠ざかるのぞみ号の彼方から、お父さんの声が聞こえる・・

ような気がした。

父: 「おかえり」

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