推しタカボイスドラマ「空と海の彼方に〜ちいさなちいさな海辺のまちのエモエモ物語」

Ks(ケイ)、湯浅一敏、空と海の彼方に
推しタカボイスドラマ「空と海の彼方に〜ちいさなちいさな海辺のまちのエモエモ物語」

推しタカ(推し活!TAKAHAMA)が2024年4月からスタートしたボイスドラマです。愛知県高浜市を舞台にちょっとだけエモいボイスドラマです。毎月新作を公開していきます!(CV:桑木栄美里/山崎るい)

Episodes

  1. まちのあかり〜80年前に街灯の下で出会ったアメリカ兵と戦災孤児の奇妙な友情物語

    JAN 20

    まちのあかり〜80年前に街灯の下で出会ったアメリカ兵と戦災孤児の奇妙な友情物語

    ・主人公/ユウジ5歳。戦災孤児(※物語のなかで名前は出てきません) 1945年12月。終戦の年、灯火管制が解除され、暗闇を照らす街灯の光を見つめながら、ユウジは戦争が終わったことを実感していた・・・(CV:山崎るい) 【ストーリー】 <シーン1/1945年12月:終戦後の吉浜>※モノローグはユウジ。五歳児の少年声もしくは女性が出す老爺のイメージ/ユウジの喋り方は戦災孤児らしく声は子供だが口調は大人びている ■SE〜海辺の音/街灯がジリジリと音を立てる 「とうちゃん、かあちゃん・・」 1945年12月。 終戦から4か月。 灯火管制が解除された夕暮れの高浜。 5歳のオレは、粗末な釣竿と釣り糸を垂らす。 ハゼでもタコでもいいからなんかかからんかなあ。 今日も釣れんとどもならん。 もう2日、お腹になんも入れていないし。 締め付けられるような空腹感。 街灯の小さな灯りの中で幸せだった日々を思い浮かべていた。 とうちゃんは戦争にいき、戦死。 かあちゃんは名古屋の工場で空襲にあい、命を落とした。 ぼっちのオレをみんなは戦災孤児と呼ぶ。 かろうじて立っているような街灯。 海辺の砂利道を照らす裸電球。 ジリジリと音を立てて点いたり消えたりを繰り返す。 淡い灯りの中でとうちゃんとかあちゃんの笑顔が、浮かんでは消える。 そのとき、誰かが、肩を叩いた。 『ハロー』(ボイスNo.911797) 天を突くような、のっぽのアメリカ兵がオレを見下ろしている。 驚いて釣竿を放り投げ、立ち上がる。 こいつらが、とうちゃん、かあちゃんを・・・ アメリカ兵は、睨みつけるオレを見て、両手をひろげ、歯を見せた。 たどたどしい日本語で話しかけてくる。 こいつは豊橋の駐屯地からきたGHQの兵士。 名前は、トム。 自分は日本語ができるから、通訳として日本(にっぽん)にきた。 なんで日本にきたのかというと、日本の非武装化、民主化、治安維持だという。 そんな難しいこと言われても、よくわかんない。 オレは横を向いて無視してたけど、トムは前に回り込んできてしゃべる。 根負けして座りなおすと、今度はオレの横に座った。 うわ、座ってもでっかいじゃん。 お相撲さんよりおっきいんじゃんか。 トムはGHQのジープに乗って、高浜の瓦工場を見に来たらしい。 そのあと、町の中をぶらぶらしてたら、オレを見つけたんだって。 街頭の裸電球に2人の姿がぼんやりと浮かぶ。 人が見たらなんと言うだろうな。 オレまた村八分かなあ。 ま、いいや。どうせ、誰も食べもんくれるわけじゃないんだし。 なんて考えてたら、お腹がぐう、と鳴った。 トムはまた、両手をひろげて、オレに何かを差し出した。 お?くんくん(擬音)。 これが噂の「ギ・ミ・チョコレイト」か。 食べてみん、と言われて、恐る恐る口に入れる。 ん?なんだこの味? はじめて食べる味・・うまい。 知らんかったけど 「甘い」というのは、こういうのをいうんだろうな、きっと。 うすあかりの中で、オレはトムの上着に目がいく。 でっかいポケットが不自然に膨らんでいた。 オレの視線を見て、トムはポッケからなにかをとりだす。 それは・・・一冊の本。 表紙の中で、黄色い髪の少年が空を見上げている。 「え、なんだん?」「リル・プリン」? なんのこっちゃ。 っていう顔をしてたら、トムがまた話し出す。 これは小さな王子さまが出てくるお話。 フランスという国の作家が書いた童話だ。 息子への贈り物にするんだと。 日本に配属される前、 ニューヨークという町に住む友達に頼んで、買ってきてもらったらしい。 トムに言われるまま、ペラペラと本をめくる。 ああ、英語だし、なんて書いてあるかさっぱりわからん。 でもたまに絵が描いてあるな。 挿絵? ふうん、そう言うんだ。 文字なんてどうでもいいから、挿絵だけを見ていくと、 変わった男の絵が現れた。 長い棒を持って高いところの行燈に火を点してるのか? なんだ?これ? 点灯夫? 毎晩街灯に灯りをともしていく男だげな? はあ?ヒマなんだな。 とは言いつつ、オレは点灯夫の挿絵にひどく興味を引かれた。 オレとトムの頭の上には、挿絵のようにハイカラじゃない 裸電球の街灯がチラチラしている。 このぼろっちい灯りも点灯夫が点していったんだろうか・・・ <シーン2/1946年1月:吉浜> オレとトムは、それからちょこちょこ会うようになった。 点灯夫の挿絵から入った本だったけど、トムはオレに最初から読み聞かせた。 トムの日本語は、たまにヘンな抑揚と発音があって 聞き取るのに時間がかかる。 それでも、何度も会ううちに、小さな王子様の物語もなんとなくわかってきた。 点灯夫が登場するのは、6つある星のなかで5つ目の星。 なかなか出てこんが。 王子様は点灯夫のことを「もっとも尊敬できる大人」だって言うんだ。 やっぱり、灯りを点すってのは大事なことなんだなあ。 同時にトムはふるさとの話もしてくれた。 聞いたことないけど、オレゴン、という町らしい。 ちょっとだけ、高浜に似てるんだと。 トムはオレゴンのニューポートという港で、灯台守をしていたらしい。 灯台守ってなんだあ? 真っ暗な海を照らす道標? 灯りをともして船を守る? すげえ。 戦争が始まったら、日系人の捕虜から日本語を教えてもらったんだって。 へえ、それで通訳になれたんか。 オレゴンは漁師まちだったから灯台守の仕事は大切で トムは戦争にも行かんかった。 そうか、じゃあ少なくともとうちゃんかあちゃんの仇じゃあないんだな。 戦争が終わったとき、トムは占領軍に志願したんやと。 で、船で横浜へ。 そのあと、豊橋の駐屯地に配属されたらしい。 不思議やなあ。 こんな遠くに住むトムとオレが、いまこうして高浜で喋ってるなんて。 だけど、2人の時間はそんなに長く続かなかった。 <シーン3/1946年2月:吉浜> いつものように衣浦で釣り糸を垂れるオレのところへ 半月ぶりにトムがやってきた。 や〜っとこんかったじゃん 王子様の物語も、あと少しだってのに。 おいなんか、ちょっと、痩せたじゃん。 オレよりずっといいもん食ってるくせに。 トムは、物語の最後の話を読んできかせた。 王子様と飛行士がお別れする場面だ。 「さようなら、僕のともだち。君が笑えば、星も笑う」 その言葉を、トムはオレの方を向き、目を見て口にした。 え?いまなんて? オレゴンへ帰る? なんで?なんで帰るん?オレ、またぼっちになるのやだよ。 病気? ああそうか。 そういう顔色だ。 キャンサー? そんな病気は知らん。 本? うん、面白かった。 最後まで読んでくれてありがとう。 なに? どうすんだ、その本? オレに、くれるって? ダメだろ、息子にあげるんじゃないんか? オレが持っている方がいいって? ・・・ そうか、わかった。 楽しかった。おもしろい言葉がいっぱいで。 「たいせつなものは、目に見えない」 「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えない」 オレも、点灯夫みたいに、この町を照らしていけたらいいな。 ホント、そう思う。 トム、短い間だったけど、ありがとう。オレ、大きくなったら、オレゴンまで会いに行くよ。 トムがまた高浜に来るときは、オレがもっともっと明るい町にしといてやる! うん、バイバイ。 それがトムと会った最後だった。 あれから80年。 オレはトムと約束したように、電気工事士となって、高浜を明るい町にしてきた。 あのときの街灯も、星の王子さまの挿絵のようにきれいに生まれ変わった。 <シーン4/2025年2月:吉浜>※モノローグはユウジの曽孫。25歳前後の女性イメージ 「なあに?突然呼び出したりして」 「バレンタインに別れ話?」 「いや、冗談。冗談よ」 「うん、わかった。真面目にきくわ」 「君の心に?灯りをともしたい?」 「ぷっ。いやあね、そんな昭和チックな・・・ やだ、それ、ひょっとしてプロポーズ?」 「え?Noかって?なワケないでしょ」 「どうして待ち合わせをここにしたと思うの?」 「上を見て」 「あの街灯、きれいでしょ。私のひいおじいちゃんがつくったんだよ」 「80年前に会った友だちのために」 「目を閉じて」 「もう。いいからつむって」 「今日はね、おじいちゃんが友だちからもらった古い本を持ってきたの

    19 min
  2. 20年前の私へ〜40歳の自分が20年前にタイムリープしたら20歳の自分に会ってしまって未来を変えることことになる話

    JAN 15

    20年前の私へ〜40歳の自分が20年前にタイムリープしたら20歳の自分に会ってしまって未来を変えることことになる話

    愛知県高浜市を舞台にしたボイスドラマです(CV:山崎るい) 【ストーリー】 <シーン1/2025年:いきいき広場の建物内> ■SE〜いきいき広場の環境音 「陶芸アーティストが祝辞ゲスト〜!?」 思わず、エキセントリックな声が出てしまった。 私は、高浜市の施設で働く職員。 今年は文化スポーツグループのお手伝いで 「20歳のつどい」の開催準備を手伝っている。 まあ、高浜市なんだから、別に陶芸家が祝辞を述べたって なんの不思議もないんだけど。 いや実は私、20年前に陶芸家のタマゴと付き合ってたんだよね。 まさか、その彼じゃあないでしょうけど、ドキっとするじゃない。 この20年間で一番驚いたかも。 ビビったときのクセで、思わず目の上のホクロをさわる。 もう・・ ずうっと「死なない程度に生きて」きてるっていうのに。 とにかくもう、考えないようにしよう。 って言っても仕事だから、情報はどんどん入ってくる。 どうもゲストは、海外で地味に活躍している陶芸アーティストらしい。 で、高浜出身。そりゃそうよね。 ■SE〜高浜港駅前の環境音(雑踏) ふう〜。 外へ出て、深呼吸。 気分を変えようと、自販機でお茶を買ったとき、 ふと目の端になにかが映った。 横断歩道を高浜港駅の方から歩いてくる・・・おばあちゃん? ちょっとヨタってるけど、大丈夫かしら? 考えるより先に足が動く。 そこへ、駅のロータリーから猛スピードで車が突っ込んできた。 「おばあちゃん!あぶない!」 ■SE〜急ブレーキの音 とっさにおばあちゃんを庇い、地面に受身の姿勢で倒れる。 瞬間、目が合った。 あれ、このひと、どこかで会ったことあるかも・・ そう思っているうちに、意識が遠のいていった・・・ <シーン2/2005年:「成人式」直前の会場(衣浦グランドホテル)> ■SE〜公民館の環境音/「成人おめでとう!」の声 『大丈夫ですか?』 「はい・・・ありがとうございま・・」 えっ? ここどこ? 高浜港駅じゃない。なんか、記憶にあるような・・ 『歩けますか?』 「あ、ああ、はい・・・だいじょう」 「え・・・あなたは・・・?」 『はい、今から成人式なんです』 わ、わ、わたし〜っ!? お気に入りの椿の振袖。 気が強そうな表情も、目の上のホクロも。 あ〜ホクロさわってるし。 ビビってんのか、私に!? 落ち着け。落ち着け。 かんばん。かんばん・・入口の看板。 2005年・・高浜市成人式? え〜!? じゃあここは衣浦グランドホテル〜!? 20年前にタイムリープしたってこと? ボイスドラマじゃあるまいし。 『ホントに、大丈夫ですか?』 「今日、二十歳の集いなの?」 『いえ、成人式です』 そうか。 でもなんで? 私が20年前に召喚されたのはなぜ? ■SE〜ハイヒールの足音 と、そこへ駆けてきたのは・・ 「ママ!?」 『ママ!』 『え?』 「あ、いや別に・・どうぞ」 『ママ、来なくてもいいって言ったでしょ』 『一生に一度の成人式?』 『ふん。成人式じゃなくたって、今日も明日も、一生に一度よ』 いや、2度目なんだけどな・・ そっか、私、20年前から、ママとうまくいってなかったんだ。 え?どうしてだっけ? 『私、成人式終わったら、彼の工房へ行くから』 『当たり前じゃない!だって陶芸家になるんだもん』 『冗談でもないし、寝ぼけてもない!』 ・・そうだった。 私、短大出たら陶芸の道へ進もうと思ってたんだ。 『別に反対されたって、関係ないから』 そりゃ反対するよねえ。せっかく大学で介護福祉士の資格までとったのに。 それに、陶芸のセンスなんてまったくないでしょ、あんた・・・ってか私。 『とにかく帰ってよ。私、ひとりで式に出る』 あーあー。 さっさと行っちゃって。 しょうがないなあ。 なんか単なるわがままじゃん。ガキっぽい。 でも、これ、私の選択? だった・・よね・・たしか。 残されたママ、どうしたんだろう。 え? 涙!? やだ。やめてよ、ママ。 思わず、つい、声をかけてしまった。 「あのう・・」 『え?・・はっ・・』 「二十歳の集い・・じゃなくて、成人式の付き添いですか?」 『あ、はい・・』 つい声かけちゃった・・どうしよう。 『でも、ちょっと娘と言い争いしちゃいまして』 私のこと、気づいてないみたいだからいっか。 『お恥ずかしいところを』 「いえいえ、人ごとじゃないですから」 『あなたのお子さんも?』 「いや、私は独身なので」 『それじゃ・・』 「昔を思い出しちゃって」 『ああ。わかります』 「ホント?」 『ええ、私もここで成人式あげましたから』 へえ〜、ママもここで成人式挙げたんだ。 私がはにかむと、ママもだんだん笑顔になっていく。 『私、結構おませさんだったから、 つきあってた彼のバイクで会場の中央公民館へのりつけて』 「うっそ!?知らなかった」 『そりゃそうでしょ』 「ですよね」 『成人式終わったら、そのまま温泉旅行へ行っちゃったんです』 「マジ!?」 『うん、いまで言うと冬ソナのヨン様みたいな感じ?』 うおお・・レジェンドの韓ドラ! 「で?で?その人とはどうなったんですか?」 『結婚しました』 「パパ!? ってすごすぎ〜!・・・あ、でも」 『幸せは1年も続かなかったけど』 「交通事故・・」 『え?どうして知ってるんですか?』 「いえ、えっと・・たぶん事故かなあ〜って連想しちゃったんです」 『はあ・・そうですか』 「お辛いですよね」 『もちろん・・でも、彼がいつも言ってたことが心から消せなくて』 「え? な・・なにを言われてたんですか?」 『娘はオレが絶対に幸せにする。 どんなささいな苦労だってオレがさせない。 将来は安定した職に就いて、しっかりした結婚相手もオレが見つける。 孫が生まれたら、オレが一番最初に抱く・・って』 え? 『・・あ、ごめんなさい。どうしたんだろ、私。 見ず知らずのあなたにこんな話を・・』 「いえ・・」 『え・・・どうしたんですか?』 「いえ・・なんか目にホコリが入っちゃって、木枯らしが」 『ふふ・・』 「なあに?」 『いえ、ごめんなさい。 娘がね、いつもおんなじこと言ってたなあって。 すっごい泣き虫なのに、負けん気だけ強くて』 「そうなんですよ〜」 ー2人の笑いー 『じゃあ、私、帰ります』 「え、なんで?」 『私がここでずうっと待ってたりしたら、うざいですもんね』 「そんなことないって」 『いいえ。ありがとうございます。あなたと話せてよかったわ』 「私も!」 『なんだか他人のような気がしないし』 「私も・・・」 <シーン3/2005年:「成人式」直後の会場(衣浦グランドホテル)> ■SE〜公民館の環境音/「成人おめでとう!」の声 結局、成人式が終わるまで、会場の前のベンチに座ってた。 知らなかった・・パパがそんなこと言ってたなんて。 ママ、私にはなんにも言わなかったじゃない。 それじゃあ、伝わんないよ。 きっとわかってたんだよね、私に陶芸のセンスがないこと。 自分の娘なんだから。 もう二度と会えないと思ってたママに会えて、私はいつまでも震えが止まらなかった。 ■SE〜ハイヒールの足音 『あれ?』 「あ・・・」 会場から歩いてくるのは二十歳の私。 振袖の椿が揺れている。 『まだいらしたんですか?』 「そっか・・もうそんな時間」 『お身体、大丈夫ですか?』 「大丈夫・・・とは言えないかも」 『え?』 「成人式、どうだった?」 『よかったわ』 「このあとどうすんだっけ?」 『着替えてから、名古屋のクラブかなあ』 そっかそっかぁ。確かによく行ってたわ。 レギンスとかスキニージーンズ履いて。 パパがいたら泣いちゃうぞ、きっと。 『遅いなあ・・』 「着替えに行かないの?」 『あ、彼が迎えにくるんです・・』 「陶芸家の?」 『なんで知ってるの?』 「いや、それは・・」 『そっか、ママに聞いたのね。 あの人、赤の他人にペラペラペラペラと』 2人してもう〜。赤の他人じゃないんだけど。 『どうせ、ろくなこと言われてないんでしょ』 「そんなことないよ」 『どうだか』 「じゃいいわ。あなたも、陶芸家になりたいんでしょ」 『そ、そうよ。悪い?』 「ちゃんと自信あるの? ライフプランちゃんと立ててるの?」 『自信なんてない。でも、そ

    18 min
  3. 舞い降りた天使たち〜なんとなく運営している子ども食堂に訪れたクリスマスの奇跡

    JAN 15

    舞い降りた天使たち〜なんとなく運営している子ども食堂に訪れたクリスマスの奇跡

    高浜市内でベーカリーショップを営むバツイチ女性の詠美。亡き母から受け継いだお店では毎月2回、イートインスペースを開放してこども食堂を運営しているが、あまり真剣には考えていない。そんなこども食堂に今年からやってくるようになったのは、小学校低学年くらいの女の子ユキと、ユキが連れてくる幼稚園児くらいの男の子ナギ。姉弟だと思っていたのだが、実は・・(CV:桑木栄美里) 【ストーリー】 <シーン1/クリスマス商戦の街角(1年前)> ■SE〜街角の雑踏/聴こえてくるクリスマスソング 『恵まれないこどもたちに寄付をお願いします!』 「え?あ、ごめんなさい。いまちょっと持ち合わせがなくて・・」 え?嘘じゃないわ。 だって最近は電子マネーばっかりで、現金なんて持ち歩かないもの。 こう見えても私、市内で月2回『こども食堂』をやってるんだから。 って私、誰に言ってるの? ウケる。 私の名前は詠未。 34歳。バツイチ。 高浜市内でベーカリーショップをやってるんだ。 元々低血圧の方だから、朝の早いパン屋は不安だったけど。 まあ、ママがおばあちゃんの代から守ってきた店だし。 ママが亡くなったとき、ホントはお店たたんじゃおうと思ったのよ。 でもね、考えてるうちに、『こども食堂』の日がきちゃって。 知ってる? 高浜市内の『こども食堂』って、高浜市こども食堂支援基金っていう支援を受けてるの。 それに、地元の人や企業からも寄付があるし、ボランティアも来てくれるんだ。 で、食べに来てくれる、こどもたちがね。 美味しい美味しいって言って、本当に美味しそうに食べてくれるんだ。 私、大して料理うまくないのに。 あ、そうそう。 こども食堂は、ベーカリーのイートインスペースでやるんだけど、 この日はパンだけじゃないのよ。 朝から、ごはんをいっぱい炊いておにぎり作ったり、 あまった分でとりめしの混ぜご飯を作ったり、もう大変なんだから。 うん、ママの意志をとりあえず継いで、お店も子ども食堂も守ってるって感じ。 いまっぽくリフォームして。 そう、あれは半年前。 学校が夏休みに入った頃だったかな。 <シーン2/こども食堂・夏> ■SE〜初夏のセミの声〜こども食堂の環境音へ 「ちょっとみんな!ちゃんと並んで! こら、タケシ!横はいりしない! 今日のおかずは・・ハンバーグよ!」 ■SE〜こどもたちの歓声があがる はぁ〜。 今回も結構持ち出し多いなあ。 ん?あれ? 入口に立ってるのって・・・ 小学校1年か2年くらいかな。 ショートヘアの女の子と、幼稚園児っぽい男の子。 きっと姉弟(きょうだい)・・だよな。 「どうしたの? 遠慮しないで、お入りなさいよ、中へ」 『はい・・』 消え入りそうな声で答える。 しっかりつないだ手にひっぱられて、弟も入ってきた。 「そこの隅っこ、空いてるから座って」 『はい』 「とりめしとハンバーグ、2人分、置いとくね」 『ありがとう・・』 2人は、米粒ひとつ残さず、ハンバーグのソースもスプーンですくいとって キレイに完食した。 淹れてあげた紅茶も一滴も残さず飲み干す。 食器の入ったお盆を厨房へ持ってくる2人。 「あ、そんな。洗わなくてもいいのよ」 洗う場所を探す2人に思わず声をかけた。 2人はお辞儀をして、お店を出ようとする。 「ちょっと待って」 不安気な表情で振り返る女の子。 私はつとめて笑顔で・・ 「あのね、全然強制じゃないんだけど、 ここに来てくれる子たちにはノートに名前とか書いてもらってるの。 あ、でも、別に書かなくてもいいのよ」 結局、少し躊躇ったあとで、少女は名前を書いた。 ユキとナギ。 だけど、苗字が違う。 どうして? そう。2人は姉弟ではなかった。 しかも住所は市外。 ホントは高浜市内のこどものための食堂なんだけどな。 でも、そんなこと構わない。 月に2回、子ども食堂を開く日、2人は必ずやってきた。 少しずつ話をするようになってわかってきたこと。 ユキとナギが知り合ったのは、病院のリトミック室。 ユキは、母親が入院している。父親はいない。 ナギは・・・ ほとんど口をきかないから詳しいことはわからないけど 親の話をすると泣き出してしまう。 やっぱり、なんかの事情で親と暮らしてないのかな。 ユキは親から毎日500円ずつもらって ナギと一緒に1日を過ごすという。 そっか。学校休みだから給食がないんだ。 でも、500円で朝昼晩って・・・ 話の流れから推測すると、2人とも親戚もいないらしい。 少子化の影響? ユキの話では、どうも児童相談所の人が この先どうするかを相談にのっているみたいだ。 入院している親にもしなんかあったときは 児童養護施設に行くみたい。 児童養護施設なら、食べ物に困らないから今よりいいかも。 なんて、2人には言えないけど。 夏休みが終わり、秋風が吹く頃。 2人はこども食堂に顔を見せなくなった。 ひょっとして、施設に入ったのかな。 だとすると、お腹いっぱいご飯食べられてるよね。 ここに来れないのは、子どもだけで外出できないから? いいことだ。 ベーカリーと子ども食堂。 相変わらず忙しなく走り回る毎日。 めまぐるしい日々の中でも、ユキとナギを忘れることはなかった。 「どうやったら、あの子たちの力になれるんだろう・・」 ぼんやりとそんなことを考えながら、知らないうちに、季節は冬を迎えていた。 <シーン3/こども食堂・冬> ■SE〜北風の音〜こども食堂の扉を開ける音 「あ・・」 『こんにちは』 子ども食堂の入口に、立っていたのは・・ユキ。 その手を相変わらずナギがぎゅっと握りしめている。 「さ、さ、入って。寒かったでしょ」 2人はいま、隣の町の児童養護施設にいるのだという。 やっぱり。 「今日はどうやってきたの?」 『こうやってきた』 つないだ手を振るユキ。 「え? 歩いて・・・きたの?」 口角をあげてうなづく。 「こんな遠くまで・・・よく2人だけで来れたわね」 問い詰めると、施設のスタッフに無理を言って、 一時的な外出許可をもらったらしい。 「もう・・・しょうがないわねえ」 「帰る前に、ご飯は食べていきなさい。もうお昼でしょ」 大きくうなづく2人。 ナギがトイレに行くと、ユキが 『相談があるの』 私の目を見てつぶやいた。 クリスマスプレゼントを渡したい人がいるんだって。 ほほえましい。 ナギに渡すんでしょ。 『でも、お金持ってないし』 「お金なんていらないわよ」 『え?』 「大切なことはね、世界でたったひとつのプレゼントにすること」 『そんなん無理』 「無理じゃないよ。 例えば私だったら、なにもらうと嬉しいかなあ・・」 『なあに?』 手作りのもの。 美味しいもの。 愛がこめられたもの。 それなら、なんだって嬉しいわ。 あと、プレゼントを渡すシチュエーションも大事よ。 たとえば・・・ ほら、この前点灯式やってた、クリスマスイルミネーション。 幻想的な灯りの下で受け取ったら絶対感動するわよ。 ユキが瞳をキラキラさせて聞いているとき、ナギが戻ってきた。 『私もトイレ』 ユキは嬉しそうな顔で席をはずした。 すると、 『ねえ、教えて』 今までほとんど喋らなかったナギが口を開いた。 それは、ユキとまったく同じ相談。 なんか私、クリスマスプレゼントっていうと、 もらうことばかり考えていた。 誰かにあげたい、っていう2人の気持ち、すごいな。 自分が恥ずかしい。 ナギにもユキと同じことを伝えて、2人を見送った。 そうか、お互いにプレゼントの交換かあ。 嬉しいサプライズだろうな。 心が洗われたような気がした。 <シーン4/クリスマスが近い日> ■SE〜街角の雑踏/聴こえてくるクリスマスソング〜こども食堂の雑踏へ クリスマスを直近(まじか)に控えた休日。 私は今年最後のこども食堂を準備する。 少し前に、ユキとナギの暮らす児童養護施設へ連絡をした。 事情を話して、ボランティアとしてお手伝いしてほしいと。 と言っても試食をね。 この日のこども食堂は大賑わい。 結局夕方までお店を開けていた。 こども食堂が終わってから、児童養護施設に電話を入れる。 ユキとナギは責任を持って送っていくからと。 3人で手をつないで、高浜港駅まで歩く。 ほどなくイルミネーションの煌め

    15 min
  4. KOMACHI〜人形小路のよしはまこまちはVチューバー!?

    JAN 15

    KOMACHI〜人形小路のよしはまこまちはVチューバー!?

    愛知県高浜市を舞台にしたボイスドラマです。 主人公はM・Iエム・アイ=14歳。中学2年生。普段は人見知りする大人しい女の子。しかしネット上では知る人ぞ知る大人気VTuber=バーチャルライバーの「KOMACHI」という顔を持つ。授業や試験の関係でホロライブは週1回程度しか配信できないが、半年に一回のニコ生ライブパーティでは、歌って踊るKOMACHIはスパチャも一番多い超人気者である・・・(CV:桑木栄美里) 【ストーリー】 <シーン1/夏の生ライブパーティ> ■SE〜LIVE会場の大歓声 「みんなぁ、今日はKOMACHIの生ライブパーティに来てくれてありがとう!」 「次は11月だよ!」 「ぜったいまた来てね〜!!」 バーチャルスタジアムを埋め尽くしたお客さんのアバターが 立ち上がって大歓声をおくる。 鳴り止まない拍手と歓声。 私はゆっくり歩き、手を振りながらステージ袖へと退場する。 私の名前は、『KOMACHI』。ローマ字だよ。間違えないでね。 VTuber、つまりバーチャルライバー。 十二単を身に纏い、そのビジュでキレッキレのダンスを踊る。 時には持ち歌を熱唱する。 週に1回のホロライブは、毎回2万人以上が参加。 年3回のライブパーティでは、全国のライバーたちと一緒にステージに立つ。 今日のLIVEなんて、5万5千人のアバターが参加したんだ。 そのうち5千人くらいは推しが『KOMACHI』だと思う。 アリーナ席を入れると東京ドームと同じキャパ。 前売りなんて30分で完売した。 なのに、スパチャの額も半端じゃない。 私、未成年だからこっそり貯金してるんだけど。 怖くて、残高見られないよぉ。 中学に入ってから、毎週ずっとホロライブを続けてきたら 2年間でこんなんなっちゃった。 え? どこでそんなバーチャルライブをやってるのかって? う〜ん。内緒だよ。 実はね、吉浜駅の近くに、歌舞伎茶屋ってのがあるんだ。 うち、そこのオーナーと親戚だから、 人形歌舞伎を上演してないときに、一角を使わせてもらってるの。 おっきな建物の中だから、誰にも見られないし、最高でしょ。 はたから見てると、パソコンの前で独り言しゃべってるだけだから 何も言われないよ。 多分、オーナーさんは、TV電話してるって思ってるみたい。 まあ、間違っちゃいないけど。 <シーン2/学校の教室> ■SE〜学校のチャイム/教室の環境音 「あ、おはようございます・・・」 私の本職は・・ ってか本当の姿は、吉浜中学の2年生。 こう見えて、人見知りするタイプなんだ。 周りからはきっと、陰キャでコミュ症って思われてる。 趣味は散歩と、スイーツめぐり。 あ、友だちいないから1人でブラブラするだけだけど。 名前?あ〜、個人情報訊く? まあ、いいや。 M.I.(エム・アイ)。 みんなからも、たまーにそやって呼ばれるんだ。 名前の頭文字じゃないよ。 私の名前、漢字三文字の真ん中の言葉からとったの。 まあ、あとは想像して。 うちのクラスは37人。 この中にも、わかってるだけで私のファンが5人いる。 いや、私じゃなくて『KOMACHI』のファンだわ。 なんか、すっごく後ろめたいから、 ホロライブのとき『中学生以下はスパチャ禁止!』なんて言ってるんだよ。 でも、そういうと余計にみんなスパチャしてくるんだよなあ。 ちょ、誘導なんかしてないって。 うち、そんなあざとくないもん。 ただ、1人だけ、誰だかわかんない子がいるんだー。絶対このクラスのはずなんだけど。 毎回、一番最後にスパチャしてくれる子。 それって、ライブを評価してくれたのかな、って、ちょっと嬉しくなる。 いつか必ず、見つけるから。 <シーン3/人形小路> ■SE〜人形小路の環境音(車も少なくそんなにうるさくない) 「あゝ気持ちいいなあ」 秋は夕暮れ。 この時期人形小路を散歩するのが、一番好きな時間。 『夕日の差して山の端いと近うなりたるに・・・』 ■SE〜カラスの鳴き声/夕暮れの環境音 な〜んて、意外? え〜、私って文学少女なんだよ。 だってほら、吉浜から海の方まで歩くと、本当にこのまんまの景色なんだから。 つるべ落としで、気がつくと帷が降りて、虫の声が聴こえてくるの。 VTuberの『KOMACHI』が十二単を纏っているのも、 清少納言への憧れ、かな。 そうだ、日が落ちる前に、人形小路の細工人形みてまわろうっと。 もうすぐ菊まつりだから、一番館にはそろそろ菊人形もいるはず。 人形たちをじっと見つめてると、想像力が湧いてくるんだ。 筆が進むってわけよ。 え? さっき文学少女、って言ったでしょ。 小説を書いてるの。 なんでって? なろう系に投稿してるんだもん。 まだ3作目だけど。 こっちのペンネームは、ひらがなで『こまち』。 誰も、VTuberの『KOMACHI』だなんて思ってないけどね。 結構、読まれてるんだよ。 感想も10人以上から入ってる。 長編書き上げるたびに、文学賞にも応募してるから、 いつか芥川賞か直木賞をとりたいなあ・・無理だけど。 一番館から、八番館、宝満寺・・ 細工人形たちをめぐり、柳池院で大河ドラマの細工人形を見ていたとき・・ 視線を感じて振り返ると、 『あ?』 「あ?」 同じクラスの・・・ 「えっと、誰だっけ?」 『ひどいなあ、K.S.だよ』 「ぷっ(笑)」 『なんで笑うのさ』 「だって、私とおんなじ呼ばれ方」 『細工人形見てるの?』 「私の日課だもん」 『へえ〜。なんで今まで会わなかったんだろ』 「あなたも?」 『じいちゃんが人形師なんだ。 菊人形も細工人形も作っていたんだぜ』 「すご」 『おまえも小学校で、菊人形作り、体験しただろ』 「したけど」 『うちは、ばあちゃんが菊の枝を揃えて、じいちゃんが人形にさしていくんだ』 「すごいなぁ」 『だから、ここはよく来るんだ』 「へえ、なんで?」 『だって吉浜細工人形発祥のお寺じゃん』 「うっそ、初めて知った」 『細工人形めぐりやってるのに知らない?』 「うん」 『オレ、ここで細工人形と話をするんだよ』 「っと、スピリチュアル?」 『そんなんじゃない。ずうっと見てるとね。 人形たちが、心に話しかけてくるんだ』 「ふうん・・」 『ヘンなやつって思われてもいいけどね』 「思わないよ」 『ありがと・・』 「ねえ、もうすぐ菊まつりだね」 『だから、いまじいちゃんもばあちゃんも、ずうっと駆り出されてる』 「クリエイターだね。私も創作意欲湧いてくるわ」 『実はオレも、ボランティアで菊まつりのイベントを手伝うんだ』 「もう、すごおい、しか言葉が出てこんし」 『当日は、遊びにこいよ』 曖昧な返事をして彼と別れた。 だって、その日はライブパーティの日だもん。 ああ、でも、こんなに誰かと話したのは、何日ぶりだろう。 帰り道。 いつもより上がったままのテンションを、秋風がクールダウンしていった。 <シーン4/秋の生ライブパーティ> ■SE〜LIVE会場の大歓声 「みんなぁ、また会えたね!!ありがとう〜!!」 今回のライブパーティもバーチャルスタジアムをアバターたちが埋め尽くす。 沸き起こる『KOMACHI』コール。 1曲歌い終えて、2人目のライバーへ引き継いだとき、スマホが光った。 LINE? え?彼からだ。 なに? 『突然ごめん!いま菊まつりのステージなんだけど、 新幹線が止まってて、アーティストが来れないんだ』 うそ!?そんな!どうすんの!? 『本当に申し訳ないんだけど、このあとステージで歌ってくれないか?』 え?え?どういうこと? 私が?なんで? 『このままじゃステージがとんじゃう。 だけど、十二単をまとったライバーが歌ってくれれば』 え・・ 『たのむ!』 『歌ってくれ!KOMACHI!』 え〜っ!? 『わかってたけど言うつもりはなかったんだ』 知ってたんだ・・ 『回線は確保してあるから』 『どこにいようが構わない』 『このステージを救ってくれ!』 私は、5秒考えて、返事をした。 ■SE〜LIVE会場の大歓声+菊まつり会場の大歓声 「菊まつり会場のみんなぁ、お待たせ〜!!KOMACHIです!」 驚きの声と、それをかき消すものすごい大声援。 その大歓声は、少し離れた歌舞伎茶屋で配信をする私にも聴こえてくる。 「今日のKOMACHIは、いつもより思いっきりはじけていくよ!」 バーチャルスタジアムの歓声とイベント会場の歓声がひとつになる。 スクリーン越しに歌い、踊るKOMACHI。

    11 min
  5. Welcome to TAKAHAMA!〜留学生はブロンドの美女!

    JAN 15

    Welcome to TAKAHAMA!〜留学生はブロンドの美女!

    愛知県高浜市を舞台にしたボイスドラマです。 主人公は翔カケル=20歳。大学生。高浜生まれ高浜育ち。小さな町が退屈で仕方がない。大学卒業後、早く東京に出て行きたいと考えている Emilyエミリーは20歳。オーストラリアの大学生。翔の家をホストファミリーとしてホームステイをするためにやってきた。実はエミリーが高浜を選んだのには理由があった・・・(CV:桑木栄美里) 【ストーリー】 <シーン1/セントレアの空港ロビー> ■SE〜飛行機の離陸音〜空港ロビー6の音 『Nice to meet you!』 え? 女の子? 聞いてないよ〜 って、オレが聞かなかったんだっけ・・ 「Welcome to TAKAHAMA!」って 超恥ずいボードを持ってるオレ。 ホームステイする留学生を迎えにきたんだけど。 大学が休みの日でよかったぁ。 こんな姿、友だちに見られたら、なんて言われるか。 まあ、いっか。 どうせ来年はここにはいない。 卒業したら東京いくんだし・・ 『I’m Emily よろしくおねがいします』 「よ、よろしく カ、カ・・カケルです」 なんだ、日本語話せるんじゃん。 すこ〜し安心。 <シーン2/車内〜セントレアから高浜へ> ■SE〜shの車内の走行音 『にほん、きたかったです』 「そ、そうですか。 でもなんで?高浜なんて・・ 東京とか京都とか、もっといいとこいっぱいあるのに」 『たかはまにきたかったの。うれしい』 「見るところ、なんにもないですよ」 『どうして?カケルは、たかはまのひとじゃないの?』 「いや、正真正銘高浜生まれ、高浜育ちです」 『ふうん』 そう言いながら窓の方に顔を向ける。 車はちょうど衣浦大橋を渡り始めていた。 「wow!Great!』 エイミーの顔がゆっくりと後方へ回転する。 瞳には、夕陽が映える細長い海が映っていた。 「え〜、そうかなあ。 あんなん、海じゃないじゃん」 『great grandmaがいってたとおり』 great grandma? なんだっけ? え〜っと、グランマがおばあちゃんだから・・・ ひいおばあちゃん!? へえ〜、そうなんだ〜。 衣浦大橋を渡り終えたとき、 『あのきいろい たてものは?』 「やきものの里 かわら美術館だよ」 『やきもの?陶芸ですか?』 「そ、そうだよ」 『とまって。 とうげい、やりたいです』 「え〜。 寄り道してたら、また母さんに怒られちゃう」 『おねがい。カケル』 「あ〜もう。 ま、しゃあないか。母さん、ごめん」 でも、陶芸教室なんてやってたっけか? あ、日曜のみ開催。 ラッキー、じゃなくてアンラッキーだわ。 <シーン3/かわら美術館〜陶芸教室> ■SE〜陶芸教室〜電動ろくろの音 『awesome!』 陶芸、初めてって言ってた割に なんか、サマになってるなあ。 粘土を練る手つきとか、どうしてなかなか。 ちょ、オレよりうまいんじゃね。 へ〜、いつもYouTubeとか見てたんだ。 にしても、大したもんだわ。 ちゃんとマグカップになってるよ。 『とうげい、やってみたかったの』 「すごいよ。参加者の中で一番うまいんじゃないかな」 『Thank you!』 「焼き上がるまで2ヶ月くらいかかるから、できたら送ってあげるね」 『うれしい!つぎはおにがわらをつくってみたい』 次? また高浜に来るつもりなんだ・・ それにしても やきものって、こんなに人を幸せにできるんだな。 そういえばオレ、高浜で育ったのに やきもののこと、ちゃんと考えたことなかったわ。 興奮醒めやらぬエイミーを乗せて、吉浜の実家へ。 ちょうど菊まつりの準備で、人形小路には細工人形が飾ってある。 『あれはなに?』 「細工人形だよ」 『さいくにんぎょう?』 「え〜っと、crafted doll・・かな」 『Oh、crafted doll! たかはまのぶんか、ですね』 「そう・・・かな」 <シーン4/カケルの家〜仏間> ■SE〜おりんの音「ちーん」 実家にあがったエイミーは、なぜか仏壇の前へ。 さっきまでのような笑顔ではなく、まじめな表情。 目を閉じて手を合わせる。 ん?作法も知ってるのか? まてまてまて。 ちょっと。・・・泣いてる!? どういうこと? それに、母さんもなんでエイミーを仏間に通す? 仏壇の中には位牌と遺影。 ひいおじいちゃんとひいおばあちゃんが 仲良く肩を寄せて微笑んでいた。 オレだって会ったこともない2人に向かって ブロンドの外国人が手を合わせている。 なんとも不思議な光景に、声をかけることもできなかった。 ホームステイの期間は2週間。 この短い間に、エイミーのリクエストでいろんなところへ行った。 人形小路。 おにみち。 観音寺の衣浦観音。 大山緑地の大たぬき。 稗田川の彼岸花。 そして専修坊。 あらためてエイミーに説明していくうちに なんかヘンな気分になってくる。 あれ? 高浜って・・思ってたほど悪くない。 あっという間に、10日間が過ぎ、 エイミーが帰る日が近づいてきた。 <シーン5/おまんと祭り> ■SE〜祭りの前のざわめき ホームステイ最後の日。 早朝から、エイミーのたっての希望で、春日神社へ。実家にあがったエイミーは、なぜか仏壇の前へ。 さっきまでのような笑顔ではなく、まじめな表情。 目を閉じて手を合わせる。 ん?作法も知ってるのか? まてまてまて。 ちょっと。・・・泣いてる!? どういうこと? それに、母さんもなんでエイミーを仏間に通す? 仏壇の中には位牌と遺影。 ひいおじいちゃんとひいおばあちゃんが 仲良く肩を寄せて微笑んでいた。 オレだって会ったこともない2人に向かって ブロンドの外国人が手を合わせている。 なんとも不思議な光景に、声をかけることもできなかった。 ホームステイの期間は2週間。 この短い間に、エイミーのリクエストでいろんなところへ行った。 人形小路。 おにみち。 観音寺の衣浦観音。 大山緑地の大たぬき。 稗田川の彼岸花。 そして専修坊。 あらためてエイミーに説明していくうちに なんかヘンな気分になってくる。 あれ? 高浜って・・思ってたほど悪くない。 あっという間に、10日間が過ぎ、 エイミーが帰る日が近づいてきた。 神社には、地元の人々が集まり、祭りの熱気が漂っていた。 そう。この日は、おまんと祭りの1日目。 翔は、エイミーが迷わないように、彼女の手を引いて人混みの中を進む。 エイミーの目は輝き、祭りの喧騒に興奮を隠せない。 「馬の背におっきな飾りがあるだろ?」 『うん』 「あれはね、神様の依代(よりしろ) なんて言うんだろ・・・え〜っと、アバター?」 『知ってる』 すげ。 エイミー、留学前にしっかり調べてきたのかな。 オレが説明するより先に、祭りが始まった。 ■SE〜おまんと祭りの喧騒 「おまんと祭りは200年以上前から続いているんだ」 「豊作を願って雨乞いをする神事なんだよ」 『こんなにエネルギッシュな祭り、見たことない』 感動するエイミーを見て、少しだけ誇らしく思う。 いつの間にか、この祭りを楽しんでいる自分に気づいた。 そういえば、子供の頃、おじいちゃんに連れられてきて以来、 全然見ていなかった。 ■SE〜おまんと祭りの喧騒(若者が馬に飛びつくシーン) 激しく翔ける蹄の音。 馬に飛びつく若者(わかいしゅう)の雄叫び。 観客の歓声。 神楽の舞。 祭りの喧騒の中、手を繋いだエイミーの指に力が入る。 オレも力をこめて握り返した。 こんなに、厳粛な神事、勇壮な祭りに どうしてもっと真剣に向き合わなかったんだろう。 複雑な感情に支配される僕の横で、エイミーはポケットから何かを取り出した。 それは・・・写真? 『great grandma、おまんとまつりだよ。 やっと、みれたね』 え? どういうこと? 泣いてる・・? 『カケル、だまっていてごめんね。 わたし、どうしても、たかはまにきたかったの。 どうしても、おまんとまつり、みたかったの』 エイミーの声は祭りの喧騒にかき消されていく。 詳しい話をきいたのは、セントレアへ送る車の中。 エイミーのひいおばあちゃんは 終戦の年、1945年、海外の医療班として高浜にやってきた。 そのとき、高浜の人たちに親切にしてもらったことが忘れられなかったそうだ。 特によくしてくれたのが、 下宿させてくれた、うちのひいおじいちゃんとひいおばあちゃん! だからエイミーは高浜を・・ もしかして、母さんもグルか。 で、エイミーのひいおばあちゃんは 高浜の美味しい郷

    15 min
  6. 追想の彼岸〜彼岸花とでか落花生

    JAN 15

    追想の彼岸〜彼岸花とでか落花生

    愛知県高浜市を舞台にしたボイスドラマです。 主人公は30歳。システムエンジニア。 10年ぶりに高浜(高取)へ帰って来た理由は祖母のお葬式。祖父の代まで農家だったが、祖父亡きあとは祖母がこじんまりと畑を継いでいた・・・(CV:桑木栄美里) 【ストーリー】 <シーン1/稗田川のほとり> ■SE〜稗田川のせせらぎとセミの声 9月の風。 残暑をまだ感じられる季節。 生ぬるい風が川面を撫でていく。 風は彼岸花の黄色を揺らしながら、私の頬に触れて流れていった。 10年ぶりの高浜。高取。 あまり変わってないなあ。 変わったのは、おばあちゃんのいない世界になったこと。 そう。私が帰ってきたのは、祖母の葬儀に出るため。 10年間も故郷に背を向けて、私は東京でがむしゃらに働いた。 システムエンジニア。 いまの時代、人気の職業は、そのままハードな仕事を意味する。 大好きなおばあちゃんが、1年前から体を壊していたことも知らずに 私は走り続けていた。 おばあちゃんも、頑張ってる孫娘に要らぬ心配をかけるな、 と、父さんや母さんに申しつけていたらしい。 プログラマーという仕事がなんだかわからなくても おばあちゃんには自慢の孫だったみたい。 近所の人たちにいつも私の仕事の話をしてたんだって。 よくわかんないくせに。ふふ。 おばあちゃんらしいな。 臨終の連絡をもらったとき、 私は基幹システムの最終チェックで徹夜が続いていた。 メールに気がついたのは、逝ってしまったあと。 父は、告別式に間に合えばいいから、と返信してくれたけど。 クライアントの基幹システムを無事に納品して 稼働することを確かめたのは、ちょうど通夜が終わる頃。 次の日、私は始発の新幹線で高浜へ向かった。 鯨幕の張られた玄関。 おばあちゃんらしく華やかな供花が一対。 ユリ、胡蝶蘭、カーネーション、菊。 その中に、黄色い、艶やかな・・・彼岸花。 そっか・・・ 赤い彼岸花は本来供花で飾っちゃいけないんだっけ。 でも、おばあちゃんの一番好きな花だったから・・・ 父さんも母さんもわかってるなあ。 おばあちゃんの顔さえゆっくり見られないまま、 あわただしく葬儀を終えて、最後のお別れに。 やっぱり、黄色い彼岸花がいっぱい添えられた。 彼岸花は散形花序(さんけいかじょ)。 大きなひとつの花に見えるのは、6個とか8個の花が集まっている。 黄色い彼岸花の花言葉は「追想」。 言われなくても、瞼の奥に懐かしい追憶が蘇ってくる。 おばあちゃんを見送ったあとは、 1人気ままに家の近くを流れる稗田川へ。 こうして散策しながらせせらぎを聴いていると、 おばあちゃんの声が聴こえてくるようだ。 <シーン2/回想シーン〜8歳の秋> ■SE〜稗田川のせせらぎとセミの声 『黄色い花がきれいだら』 私が小さい頃、共働きの両親は忙しく、私の横にはいつもおばあちゃんがいた。 『あれは、彼岸花って言うんだよ』 (※あまり「じゃ」は使いません。「言うんだわ」とか「言うんだよ」) 「ヒガンバナ?」 『ああ、秋のお彼岸に咲くから彼岸花』 「ふうん」 『ピンク〜黄色〜赤。順に咲いていくんだわ』 「わあ!」 『赤いのは曼珠沙華(まんじゅしゃげ)とも言うな』 「マンジュウ・・」 『ははは。ほうだなぁ。でも食べると毒だぞお』 「いやぁ」 『食べんでに目で愛でるんだ。ほれ、黄色い絨毯みたいだら』 「うん。キレイ」 『5,000本もあるんだって』 「すごおい」 『彼岸まで続いとるのかもしれんな』 <シーン3/回想シーン〜14歳の秋> ■SE〜セミの声(クマゼミ) 私が中学生の頃、祖父が亡くなった。 両親は会社員だったが、祖父の家業は農業。 祖母は、半分以上を売却して、小さな畑でいろんな野菜を育てた。 当時の私はアレルギー性の皮膚炎に悩まされていたから 祖母が作るオーガニックの野菜は宝物。 春には新玉ねぎや春キャベツ、冬には里芋が食卓に並んだ。 その中でも、私が一番好きだったのは、地豆。 地豆というのは、落花生のこと。 大好きなのに小さい頃はアレルギーで食べられなかった。 それが嘘のように、おばあちゃんの地豆ならペロっと食べられる。 医食同源。 きっとそうなんだ。 おばあちゃんは、私のために、採れたての地豆を茹でてくれる。 私は、やけどしないように気をつけながら、柔らかくなった皮を剥く。 その瞬間、香ばしい匂いが私の鼻から脳へ抜けていった。 ホクホクを頬張るときの幸福感。 それだけじゃない。 素焼きの地豆を使って、ピーナッツバターも作ってくれた。 『砂糖は少なめに』 『挽いた岩塩をひとつまみ』 『薄皮もそのまま使って』 『植物油は使わん』 『すり鉢で愛情たっぷりに擦りおろしてと』 『茹でた地豆を刻んで入れれば』 「おばあちゃん特製ピーナッツバター!」 『そうそう。油を使ってないし、薄皮も入っとるから体にいいぞぉ』 うん。アレルギーなんて1ミリも出なかった。 もう一度、食べたかったな・・・。 母さんからの近況報告では、 最近おばあちゃん、変わった地豆を作っていたらしい。 フツーの地豆の1.5倍のサイズだって。 なんか、派手好きのおばあちゃんらしい。 収穫の途中だったみたいだから、見よう見まねでやってみようかな。 株ごと掘り起こして天日干しでしょ。 茹で落花生は、そのまま調理か。 想像するだけで、お腹減ってきちゃう。 さっき精進落とし、食べたばかりなのに。ふふ。 <シーン4/稗田川のほとり> ■SE〜稗田川のせせらぎとヒグラシの声+虫の声 夕陽が稗田川の川面に映る。 彼岸花の黄色が夕陽に照らされて赤く染まっていく。 思い出は、唐突に寂しさを運んでくる。 もう二度と会えないという切なさと、 最後に顔を見せてあげられなかった後悔の念。 「おばあちゃん、ごめんなさい」 『何を言うとるんや(何を言っとるだ)』 え? ああ、そうか・・・わかってる。 もちろん、気のせいだって。 心に直接響いてくるおばあちゃんの懐かしい声。 『おまえはいつでも自慢の孫娘だわ』 きっと、こう言ってくれるだろうな、という希望が生みだす幻聴。 それでもいい。 こうして、もう一度おばあちゃんの声が聴ければ。 心の中のおばあちゃんに私は話しかける。 おばあちゃん、私ね。考えてることがあるの。 おばあちゃんの畑、私が引き継いでみようかな、って。 仕事も一区切りついたし、これをきっかけに高浜に戻ろうと思うんだ。 私、プログラマーだけど、実はプロのマーケターでもあるから、 おばあちゃんが大切にしてきた野菜をネット販売してみたいの。 だって、あんなに健康的で、あんなに美味しいんだもの。 可愛らしいサイトを作って、ターゲティングさえしっかりすれば おばあちゃんの美味しい野菜をみんなに共有してもらえるわ。 ピーナッツバターも私が再現して、売ってみる。 レシピはおばあちゃんにしっかり教えてもらったからね。 もうひとつ、おばあちゃんが最後に作ってたジャンボサイズの地豆。 あれも、高浜の特産としてPRしてみるわ。 そうねえ、名前も・・・ 「でか落花生」。 どう、これ? なんか、ダサかわいい、っていうか、昭和の香り満載でイケてるでしょ。 一周回ってこのネーミング、って感じ(笑) 私、東京で実践してきたこと。 ぜ〜んぶ、このためだったんだ、って気がする。 ようし、私が蓄積してきたスキルと知識、すべてつぎこむぞ! おばあちゃん、応援してね! 心の目が、暮れなずむ稗田川のほとり、彼岸花の群れに佇むおばあちゃんを見つめる。 笑顔で手を振るおばあちゃん。 そうか、そこはもう彼岸なんだね。 せせらぎの音にまざって、 おばあちゃんの笑い声が聴こえた気がした。 ※この物語はフィクションです。

    13 min
  7. 海が割れた日〜1945年、大災害がちいさな街を襲った・・・

    JAN 15

    海が割れた日〜1945年、大災害がちいさな街を襲った・・・

    愛知県高浜市を舞台にしたボイスドラマです。 主人公はエイミー25歳。高浜市のケアハウス(軽費老人ホーム)で働く職員。介護福祉士と社会福祉士の資格を持っている。働き始めてから今年で5年目。明るくて元気が取り柄。毎年恒例のケアハウス夏祭りの企画と運営を担当する・・・ ミサトは89歳。ケアハウスに入所して10年。普段から口数は少ない。親しくなった入所者たちはどんどん先に逝き、仲良くなった職員はどんどん転職していなくなっていく・・・(CV:桑木栄美里) 【ストーリー】 <シーン1/ケアハウス出勤> ■SE〜朝のイメージ(小鳥のさえずり) 「おはようございま〜す!」 「ちょっ、みんな、もう起きてんの?」 「新聞配達より早いんじゃない?」 「朝ごはんまで、まだ1時間以上あるんだよー」 「まあゆっくり新聞読んで、くつろいでてー」 「さ、今日もがんばるぞ、私!」 私は、エイミー。 高浜市内のケアハウスで働いている。 あ、ケアハウスっていうのは、高齢者施設のひとつ。 自宅で生活するのが難しい高齢者が 食事や洗濯のサービスを受けながら暮らしているの。 またの名を、経費老人ホームC型。 まずは、昨日の宿直と夜勤から申し送りしてもらってと。 あー、マサヒロさん。夜中にまた7回もコールしたのね。 まあ、でも大事でなくてよかったか〜。 ユウジロウさんは、おもらししちゃったの。 入所したばかりで、緊張してるのかな。 ミサトさんは、37度5分の熱発? 夏風邪かしら。ちょっと心配。 え?はい、所長 なんですか? 「夏祭りの企画〜!? そんなん、もっと適任者にお願いしてくださいよ〜 私、社福士と介福の資格両方持ってるから 相談も聞いて、介助もしなくちゃいけないんですよ」 「今年は入所者・職員全員参加〜?」 「そんな、ご無体なこと言われても〜」 「来年戦後80年だから戦争体験の話?」 「来年80年だったら来年やればいいじゃないですかぁ」 「そうじゃん、いまうちの施設、戦争を体験してる80歳以上の人なんて、 1人しかいませんよぉ」 「じゃあ、みんながその人から聞けばいい?」 「えー、84歳のミサトさん、人前でなんて絶対しゃべれませんよぉ」 「ちょっと。ちょっと所長、どこ行くんですかぁ」 逃げたな。 仕方ない、これも仕事。 朝食介助のときに、ミサトさんに話してみるか。 <シーン2/朝食風景> ■SE〜朝食のガヤ 「話すことなんてないよ」 予想通り。 けんもほろろ。 そりゃそうだ。 普段から口下手で人と話すのが苦手なミサトさん。 こやって言うに決まってんじゃ〜ん。 だけど。 そうも言っていられない。夏祭りは1週間後。 あの手この手できりくずさないと。 「うるさいなあ」 「ほっといてくれ」 やっぱだめか。 「戦争のことなんて覚えとらんて」 お。これは覚えてるときの言い方。 あと一歩。 「10歳のとき?」 よしっ。ヨイショ攻撃全開。 「そりゃ可愛かったさ」 「国民学校の初等科で私より可愛い娘はおらんかったわ」 終戦の年だよな。 「戦争?あんなもんクソじゃ」 「馬鹿が始めた負け戦じゃ」 おお。さすがリベラル。でも、ご家族は? 「ああ、みんな死んだよ」 「おじいさまは南方へ行ったと思ったらすぐに戦死の紙が届いた」 「紙っきれ一枚じゃ」 「とうさまは知覧の特攻隊じゃ」 特攻!それはまた・・・ 「でもな。そんなんわしらの預かり知らぬ遠い世界での話」 「目の前。高浜ではもっとつらいことが起きたんじゃ」 え? 高浜は空襲なんてなかったはずじゃ・・ 「戦争よりもっと辛いことがあった」 戦争より辛いこと? それって・・ 「三河地震じゃ」 三河地震? 知らない。 戦争特集でも全然ニュースにならないし、そんな大きな地震だったの? 朝食の時間が終わる。 ミサトさんの口はまた、貝のように閉じてしまった。 ミサトさんの車椅子を部屋まで押していく。 ベッドへ移乗しようとしたら、このままでいいと言う。 横になると寝てしまうからだそうだ。 ミサトさんは1人用の茶箪笥に置かれた写真立てを眺めている。 セピア色の印画紙には、 小さな女の子とその兄、父母と祖父の5人が並んで写っていた。 ミサトさんの家族かな。 一度丸めてしわだらけになったような写真を伸ばしてある。 ところどころが破れかけていた。 私は、ミサトさんの部屋を軽く掃除したあと 昼食準備までの間に、ネットで調べてみる。 三河地震。 1945年1月13日午前3時38分23秒。 愛知県三河湾で発生したマグニチュード6.8の直下型地震。 え? マグニチュード6.8? そんな! 被害は? 幡豆郡と碧海郡で死者2,652人!? うそ! こんな大災害をどうして私、知らないの? みんなは知ってるの!? 青ざめた私の背中を、誰かがちょんちょん、とつつく。 車椅子のミサトさんだ。 「少しだけ・・・思い出した」 顔は相変わらずぶすっとしてるけど、 私の制服をつまんで、引っ張る。 私は、所長に事情を話して、喫茶室へ連れていった。 <シーン3/喫茶室の独白> ■SE〜喫茶室の雑踏 顔は相変わらずぶすっとしてるけど、 はっきりした口調でミサトさんが語り出す。 「日にちはもう忘れたけど、1月じゃ。 年が明けて2週間くらいやったかな。 盆も正月もないからわからん。戦争中は。 真夜中に、ものすごい大きな音と横揺れで目が覚めた。 かあさまは、わしを抱いて玄関まで走る。 わしを玄関の外に放り出してから ”乾パンをとってくる”言うて戻らっしゃった。 それからかあさまを待っておるとな、 ものすごい大きな揺れがきた。 ほんで、ガラガラガラガラいう音とともに家はぺっしゃんこになった。 わしの目の前でじゃ。 玄関の扉は開いておるのに、人が入る隙間もない。 なのに、そこから手が出ているんじゃ。 生気を失った指先に握られていたのは、 乾パンとくしゃくしゃになった家族写真。 わしは、それを受け取って、必死でかあさまの名を呼んだ。 何度も。何度も。 だがすぐに、知らない大人が私を抱き抱えて海の方へ走り出した。 後ろ向きに抱き抱えられたから、家の様子が見える。 隣から燃え移った炎で、あっという間に火柱が上がった。 水。水。かあさまがやけどしちゃう。 子どもってばかじゃろう。 かあさまはもう死んでいるのに。 おい、エイミー。 話を聞くんじゃないのか。 泣いてどうする」 「だって、だって」 「続けるぞ。 わしを抱いて逃げてくれたおじさんも途中で足を滑らせてな。 わしを庇ったまま頭を地面にうちつけたんじゃ。 それで一貫の終わりやな。 なに? 放り出された10歳の子どもになにができる? 1月。冬の真っ最中に。 泣こうにも声も出やせん。 そのままずうっとはだしで走った。 気がついたら専修坊に着いとったわ。 寺で炊き出しやっとって、塩むすびを口にした。 涙が枯れそうになるまで泣いたから、まあしょっぱいことしょっぱいこと。 でもな、どんなに腹がすいても、 かあさまからもらった乾パンは終戦まで食べんかったな。 こんな、地獄絵図のような世界が目の前に広がっとるのに 新聞も中部日本以外はなんも書かん。 三河の人間しか地震のことは知らんのだ。 戦時中というのはそういうこと。 救援物資も救援団もこなかったけど、 わしらがなんで生き残れたか、わかるか? ”絆”じゃよ。 人と人の絆。町と町の絆。 高取も吉浜も高浜もない。 み〜んなで助けあったんじゃ。 ほいであとから聞いたら、 名古屋の三菱へいっとった兄さまも空襲で亡くなっとったと。 こんでほんとに天涯孤独だわな。 ただな、とうさまとじいさまが、大きな畑を残してくれとったで、 親戚のもんが、それをお金にかえてくれて、 わしを中学まで出してくれたんじゃ。 わしは百姓やりながら勉強までできて、 親兄弟みんな死んだのに、恵まれとったなあ。 うん? おいおい、元気だけが取り柄のエイミーが 湿っぽい顔をするんじゃない」 「ううん、そうじゃなくて」 恥ずかしいの。 私たち、なんにも知らずに今まで生きてきて。 そんな大きな犠牲の上に、私たちの命って生まれているんだって。 「少しは役に立てたか?」 「今日録音したミサトさんの話を編集して映像にするわ。 お部屋の写真もお借りできる?」 「写真ってこれか?」 「あ、持ってきくれ

    15 min
  8. 空と海の平行線〜この景色は海?川?それとも・・・

    JAN 15

    空と海の平行線〜この景色は海?川?それとも・・・

    愛知県高浜市を舞台にしたボイスドラマです。 主人公エミリは16歳の高校1年生。母親の再婚で名古屋から高浜へ。この春から高浜の高校へ入学した。人と付き合うのが好きじゃないので部活もしない予定だったがなぜかボート部に入ることに・・・ 友だちのウミは18歳の高校3年生。高浜生まれ高浜育ち。高浜の中学から系列の高校へ入学した。明るくてリーダータイプ。ボート部のキャプテンだが、部員は4名。なんとか高校最後の年にレガッタ大会に出ようと必死で部員を勧誘するが・・(CV:桑木栄美里) 【ストーリー】 <シーン1/高校の入学式> ■SE〜入学式の雑踏 わぁ、やっぱ入学式ってみんな来るんだー。 あたりまえか。 高浜って田舎だから もっと少人数かなって思ったけど。 名古屋と変わんないなー。 海風が薫る大自然の中の入学式。 って、夢見すぎ? あ、でも、思ってた海じゃない。 これ海?川じゃない? 高浜っていうから、 高台から見下ろす白い砂浜とか想像してたのに・・・ はぁっ(※ため息) ママが再婚して名古屋から高浜へ。 私、1人で名古屋に残りたい、って言ったら 絶対だめだって。 ママだって、コブつきより、 2人っきりで新婚生活楽しんだほうがいいじゃん。 まあ、考えても仕方がない。 これから3年間ここで過ごすんだし。 私なりに田舎生活エンジョイしようっと。(※死語?) ほお〜、クラブの勧誘すごいなぁ。 なるべく目を合わさないようにして・・・ 私、決めてるもん。 高校3年間、帰宅部で通すって。 『ちょっとそこの君』 「はい・・・」 あ、やばっ、反応しちゃった。 『うちの部に、入らない?』 「あー無理です無理です。私体弱いし・・・」 『ならちょうどいいかも。体丈夫になるよー』 「それに家の手伝いもしないと・・・」 『いまなら、入部するとこんな特典もあるんだけどー』 え? おお〜っと。 私の推しの声優の写真が。 しかも直筆サイン入り? 「そそそ、それ、もらえるんですか?」 言ってもうたぁ。 悪魔のささやきにのったらあかんやん・・・ にしても、高校の部活勧誘が、こんなネットショッピングみたいなコトやるかぁ・・・ 『別にいらないなら他の子にあげるからいいけどねー』 「あ、待って」 『うん?』 結局、誘惑に負けてしまった。 推しの写真を両手でかかえながら、家に帰ってからふと思う。 で、何の部活だったっけ? <シーン2/部活初日から大会まで> ■SE〜波の音 「ボート部〜〜〜〜〜〜!?」 ボート部ってなに? 公園とかにあるスワンボートでのんびり過ごす・・・ なワケないよねえ。 えええええええ〜? 手漕ぎボート〜? 無理無理無理無理無理無理無理無理 1ミリも考えてなかった。 ほら、見てよ。 私、こんなに華奢だし、美白のために紫外線禁止令でてるし。 そんな私におかまいなく、キャプテンの3年生、ウミは笑顔で語り出す。 『エミリが入ってくれてよかったわあ』 『今まで私を入れて部員4人しかいなかったの』 『これでやっとナックルフォアのチームが編成できるわ』 ナ、ナ、ナックルフォアってなに〜? 知らなかったけど。 4人1列になって、1人が1本のオールを漕ぐ編成なんだって。 で一番後ろにコックスという操舵手が加わって5人・・・ ちょっと待って。 じゃあ、私もいきなり競技に出るってこと〜!? 『私来年受験だから、今年が最後なんだ』 『市民レガッタには出られないかもって半分あきらめてたから』 『ありがとう、エミリ』 う・・・ なんか、ツボ抑えるの、うまくない? それからの展開は早かった。 だって、市民レガッタ大会まで、たった3か月しかないんだもん。 ボートやオールの持ち方、キャッチ、ドライブ、フィニッシュ・・・ レガッタの基本をゼロから覚える。 毎日のトレーニングは厳しかった。 そりゃそうよね。 いままで堕落した生活でなまりまくった体なんだから。 早朝トレーニングに夕方のランニング。 みんな、私を一番前に走らせるんだけど、すぐにバテて脱落する。 授業前の腹筋なんて、朝ごはん全部戻しそう。 早朝から日が暮れるまでずうっと家にいない私。 ママなんて、娘が気をつかって帰ってこない・・・ って思ったのか妙に優しくなっちゃった。 別に、ママのカレシ・・・じゃなくて旦那さんのこと、 避けてるわけじゃないのにな。 部活、いつも夕方にはヘロヘロになるんだけど、 ひとつだけ気に入ってるものがある。 衣浦の海に沈む夕陽。 これって海? って最初思ってたけど、黄金色に輝く海は言葉にできないほど美しい。 潮風に吹かれて高浜川の堤防を走ると 目の前には空と海が細長い平行線を描く。 まるで海の中へ夕陽が溶けていくような感覚。 このときだけは、疲れもどこかへ行ってしまう。 季節はあっという間に入れ替わっていった。 筋力トレーニングとランニング中心の陸上(おか)から ウォータートレーニングへ。 ローイングマシンで、キャッチ、ドライブ、フィニッシュ、リカバリー。 スプリント練習からタイムトライアルまで。 (※ローイングマシンのトレーニング方法/https://johnsonjapan.com/92948) 気がつくと、次の日にあまり疲れが残らなくなっていた。 お風呂でお腹みたら・・・ちょっと、腹筋割れてない? そういえば私、昔から力だけは人より強かったんだっけ・・・ <シーン3/市民レガッタ大会> ■SE〜波の音 『エミリ!どうしたの!?』 「ごめんなさい。大会当日だっていうのに。 ゆうべ寝てる間にエアコンつけちゃったみたいで 今朝起きたら、こんな・・・」 目の下クマで、鼻水ズルズル。 微熱もあるかも。 『しかたない。棄権しよう』 一瞬考えただけで、キャプテンのウミはその言葉を口にした。 え? 『だってしょうがないでしょ。悪化したら大変』 ウミは笑ってる。 『来年からまた新人を勧誘すればいいじゃない。 次はエミリたち、がんばって』 「いや!」 自分でも驚くほど大きな声が響き渡った。 「棄権なんてしない。 私、途中で倒れたって絶対に出場する!」 『だめよ、体の方が大事でしょ』 「ウミさんの方が大事!」 目を潤ませて悲痛な表情で叫ぶ私。 ものすごい剣幕に押されて、ウミも折れた。 『わかった。その代わり、少しでも体調が変わったら レガッタの途中でも棄権するから』 「はい!」 ■SE〜波の音と観客の歓声 『キャッチ!』 コックスがもっと強く漕ぐように檄を飛ばす。 選考予選はなかった。 なんだ、高浜の市民レガッタって申し込めばスルーで出られるのね。 いや、笑っている場合じゃない。 見渡せば、周りは強豪ばかり。 高校生のチームなんて私たちしかいない。 高浜川を空と海の平行線に向かってボートを漕ぐ。 私は体調のことなんて、完全に忘れ去っていた。 ウミは一番後ろのストローク。 ペースメーカーとしてみんなを支える。 私はその手前の3番。 リズムを維持しながら力強く漕ぐ。 ああ、大丈夫だ。いつもの力は健在だ。 っていうか、いつも以上のパワーが溢れてる。 『キャッチ!』 コックスから最後の掛け声。 私には周りを見る余裕などない。 いまこの世界に存在するのは私たち5人だけ。 心を一つにしてただオールを漕ぐ。 フィニッシュラインを超えた瞬間、達成感が全身を包んだ。 順位なんてどうでもいい。 ウミと抱き合いたい。みんなと喜びを分かち合いたい。 だが、私たちの耳に飛び込んできたのは、 ■SE〜熱狂する大歓声(「おめでとう!」) え? 『エミリ!』 私の名を呼んでウミが抱きついてくる。 顔をくしゃくしゃにして。 『勝っちゃったよ!』 ほかのみんなも、言葉にならない声をあげて抱き合う。 いつまでも、いつまでも。 空と海の平行線が、いつも以上に黄金色に輝いていた。 <シーン4/2027年> ■SE〜波の音 ■BGM〜エンディングテーマ 『エミリ、ついにここまできたわね』 「うん。やるからには頑張る」 2026年、私とウミは、ロスへの切符をかけて選考委員会にのぞむ。 その前にほんの少しだけ、ふるさとのひとときを楽しんだ。 高浜の、細長い空と海の平行線を2人で眺める。 あの日と変わらない夕陽が、私たちの顔を金色に照らしていた。

    12 min
  9. 鬼面〜娘道成寺(鬼瓦をつくる鬼師の悩みは異世界へ転移する)

    JAN 15

    鬼面〜娘道成寺(鬼瓦をつくる鬼師の悩みは異世界へ転移する)

    愛知県高浜市を舞台にしたボイスドラマです。 主人公は23歳の鬼師。複雑な過去を持ちながら地元・高浜で鬼師として修行中。鬼師の技能評価試験に向けて作品を製作していたある日、不思議な夢を見る・・・(CV:桑木栄美里) 【ストーリー】 <シーン1/歌舞伎・娘道成寺一幕〜> ■SE〜歌舞伎の鼓・拍子木・太鼓の音 「月(つき)は程なく入汐(いりしお)の 煙満ち来る小松原  急ぐとすれど振袖の びらり帽子のふわふわと しどけなりふり」 ■BGM〜 また夢を見た。 小面(こおもて)の能面をつけた美しい女性が闇の中を舞う。 私は鬼瓦を作る鬼師。 いや、・・・鬼師を目指す見習いだ。 幼い頃からクラシックバレエを習い、 最近では声優や舞台女優をやりながら、地元高浜で鬼師の修行中。 だから、まだ鬼瓦というものを作ったことはない。 評価試験のために、作り始めたけど・・・止まっている。 図面すら引く前に。 ロジックはわかってる。 乾燥して縮む量を計算して原寸大の図面を引く。 土を調合して練り上げる。 瓦の土台となる部分を作り、その上に土を盛り付けて鬼瓦に仕上げる。 わかっているのに、どうしてもできない。 鬼の顔。鬼面。 それは家を守るため、どんな魔をもはじき返す強い力がなくてはならない。 一体どんな恐ろしい鬼の面を描けば、魔を退散させられるのだろう。 ほどなくしてまた夢を見た。 夢?本当に夢だったのか? まるで平安京へ異世界召喚されたようにリアルだった。 <シーン2/出会いと別れ〜清姫・安珍> ■SE〜小川のせせらぎ 「どうしました?」 「あ・・・ 申し訳ありません。 川の水を飲もうとして、岩で脚を傷つけてしまいました」 「それはいけない。 よければ私が滞在しているお寺までいらっしゃい」 「そんな。お手間をおかけするわけには・・・」 「なにを言うのですか。怪我人を見過ごすことなどできません」 「あなたは・・・」 「私は安珍と申します。 熊野詣へ向かう途中、 ここ高浜の専修坊(せんじゅぼう)に立ち寄った修行僧です。 奥州より参りました」 「まあ、そんな長旅を・・・お疲れでしょうに」 「いえ。あなたこそ、大変でしたねえ」 「知った場所なのに軽率でした。 ありがとうございます。私は清姫と申します」 彼は怪我を負った私によく尽くしてくれた。 かいがいしく面倒をみてもらううちに 心の中に小さな炎が灯っていく。 ある日、私が蜘蛛の巣につかまった蝶を助けていると、 「清姫さまは名前通りの方ですね」 と、声をかけられた。 「どういうこと?」 「命あるものすべてに清らかな慈しみを持っている」 「たまたま蝶々が哀れだっただけ。 私には、もっともっと、我が命より愛しい方がおります」 「それは・・・」 と言いかけて、彼は口をつぐんだ。 僧侶だもの。 はっきり口には出せないのだろう。 彼は、僧・安珍は、言葉には言い表せないほどの見目麗しさ。 私だって、村いちばんの器量良しと褒めそやされ 誰にも嫁がず、運命の人が現れるを待っていた。 だから、最初安珍に声をかけられたときから、胸が熱くなった。 恋の炎はあっという間に大きくなっていく。 専修坊で怪我の手当をしてもらいながら、 私は安珍との時間を堪能する。 彼の話は私を惹きつけ、私は知らず知らず彼の出立を引き留めていた。 それでも旅立ちの日はやってくる。 私は思い切って、彼に思いを打ち明けた。 彼は少しだけ戸惑う表情を見せながらも 「わかりました。もしもあなたがこの地に、高浜にしばらくいるのなら 熊野からの帰りに必ず立ち寄りましょう」 と私の目をみて答えた。 「うれしい。お待ち申しております。その前に・・・」 「その前に?」 「熊野へ出かける前に私のところに寄ってください」 純潔を捧げる。彼にその意志を告げた。 だが、彼はこなかった。 私は恥ずかしさと悔しさで心が震える。 安珍は、別れも告げずに旅立っていった。 その後も約束を信じて、待てど暮らせど、彼は現れない。 食べ物も喉を通らず、あれほど輝いていた肌艶も褪せていく。 そんなある日のこと。 専修坊に立ち寄った別の僧侶から、安珍一行が美濃国を抜けていくと知った。 それはすなわち三河国へは寄らないということ。 どうして? あれほど固く約束を交わしたのに。 憎しみの業火が心を包んでいく。 いてもたってもいられず、私は安珍を追って美濃国へ向かう。 私の姿を見た彼は、人違いだと言う。 すんでのところで私から逃れ、今度は逆方向の三河国へ。 あな、うらめしや、安珍めが。 <シーン3/歌舞伎・娘道成寺二幕> ■SE〜歌舞伎の鼓・拍子木・太鼓の音 「さりとてはさりとては 縁〔えん〕の柵〔しがらみ〕せきとめて 恋を知らざる鐘つきの 情〔なさ〕けないぞや恨〔うら〕めしと 忘るる暇〔ひま〕も涙川〔なみだがわ〕 恋の氷〔こおり〕に閉じられて 身を切り砕く憂き思い」   必死で逃げる安珍。 藤江の渡しで海を渡る。 船頭は私の邪魔をして乗せようとしない。 おのれ、皆をして恋路の邪魔をするのか。 やがて安珍は、専修坊へと逃げ込んだ。 住職は彼を鐘楼の中へ隠し、吊り下げていた紐を切った。 安珍!よくも! 気がつけば、私の顔は少女から、般若の鬼面へ。 もっとも恐ろしいとされる真蛇(しんじゃ)の面へと変化(へんげ)していた。 体は大蛇(おろち)と化し、鐘楼に巻きつく。 安珍憎しや!心もろとも焼き尽くそうぞ! 体から溢れる炎が鐘楼ごと焼き尽くす。 安珍の断末魔の叫びが耳に届いたとき、真蛇の面からは涙が。 私はそのまま稗田川まで行き、入水(じゅすい)した。 憎い安珍。それでもやはり愛する思いは止まらない。 愛憎が入り混じった真蛇の面。 口は耳まで裂けた恐ろしい表情だが、 吊り上がった目には深い哀しみをたたえる。 どれほどの魔であろうと、決して寄せ付けない迫力。 清姫となった私は、自らの面を俯瞰で見下ろしていた。 <シーン4/鬼師の工房> ■SE〜祝福の声「おめでとう」 私の作った鬼面、鬼瓦は鬼師の評価試験中級に合格した。 能舞台では、若い女性の小面は早変わりで般若の面に変わる。 私がしつらえたのは 憎しみと、悲しみと、慈しみが最高潮に達した鬼の面。 生娘の清姫は憎しみだけで安珍を焼き殺したのではない。。 極限まで愛してしまったからこそ、裏側の憎しみという真蛇が現れる。 これこそ、真の鬼面。 鬼瓦は、市の重要文化財の屋根に載せられた。 もし、そこを通ったら少しだけ見上げてみてほしい。 鬼の顔が、愛情と悲しみの表情をたたえているはずだ。 その結界を破って入ってくる魔など、ありえないだろう。 ■SE〜歌舞伎の鼓・拍子木・太鼓の音

    11 min
  10. ソウルフード〜鶏めし食べたら異世界へ

    JAN 15

    ソウルフード〜鶏めし食べたら異世界へ

    愛知県高浜市を舞台にしたボイスドラマです。 主人公は25歳のOL。18歳で高浜を出て東京の大学へ。そのまま東京のデザイン会社へ就職。自分のデザインの人気が出てくるにしたがって仕事も増え忙しさに押しつぶされそうになっている。そんなある日、会社でうたた寝して気がつくと、そこは15年前の高浜、自宅だった・・・(CV:桑木栄美里) 【ストーリー】 <シーン1/東京のデザイン事務所> ■SE〜電話のコール音 「はい、もしもし。 あ、おつかれさまです。 え?ロゴのデザイン?はあ。 初稿出しはいつですか? えつ、えええええ〜そんな〜無理ですよ〜」 ■BGM〜solitude-300539947.wav 今日もまた眠れない・・・ なんかこの状況。 まるで昭和のブラックな時代みたいじゃない。 私はグラフィックデザイナー。 3年前に東京の美大を卒業してこの道に進んだ。 その前、高校卒業までは、地元・高浜。 あ、タカハマだっけ。 7年も離れると、ふるさとのアクセントも忘れちゃうんだ〜。 私って、薄情〜。 心のままに描いてきたデザインが、なぜかクライアントにウケて いまやこの状況。 会社は働き方改革があるから「残業禁止」なんて言うけどさ。 私のデザインが気に入って頼んでくれるとこには つい頑張っちゃうじゃん。 とはいえ、3年間ずうっと突っ走ってきたからなあ。 ちょっぴり疲れたかも・・・ いまの電話は先輩。 っていうか直属の上司? いまどきのかっこいいデザインがめっちゃ得意なデザイナー。 なのにクライアントとの打合せにもほぼ全部顔を出してる。 私には無理だなあ。 そもそも人と話すのは、あんま得意じゃないし。 デザイナーになったのも天分だと思ってる。 だって、自分の世界の中でできる仕事でしょ。 新規の案件は、お茶屋さんのロゴと店舗デザイン。 最近お茶とかお抹茶って若い子に人気だもんなあ。 あは・・・若い子って。 私だってまだまだ若いじゃん(笑) インスタで流行りのお店とか事前に調べとくか。 あ、だめだ。 オシャレで可愛いお店の写真をスクロールしているうちに 瞼が・・・ あ〜。まいっか、少しくらい・・・ <シーン2/15年前の高浜(実家)> ■SE〜食卓のガヤ/料理を作る音 『休みだからって、いつまで寝てるの。 もうお昼よ。 食べるでしょ、鶏めし』 え・・・ ママ? なんで? ここは? 私、会社でうたた寝してたんだっけ・・・ 『ご飯食べたら、お友だちと花まつり、行くんでしょ』 ここ高浜〜!?(地元アクセント=第二音) それに私・・・ママよりちっちゃい! 子どもじゃん! 「ねえねえ!ちょっと!ママ」 『なあに、そんなあわてて』 「いま何年!?」 『なに言ってるの、へんな子ねえ』 「いいから教えて。今日は何年何月なの!?」 『平成21年5月でしょ。 朝自分で日めくりめくったじゃない』 平成21年! 2009年。 15年前だ。 これって、夢? いや、そうじゃない。 だって、すごくいい匂いが・・・ 『おかしなこと言ってないで、鶏めし、食べなさい。 冷めちゃうわよ』 あ、お腹が・・・ ■SE〜お腹がぐう〜っと鳴る音 『お昼寝して。お腹すいて。鶏めしたべて。 幸せな人生だこと(笑)』 「鶏めし、食べたい・・・」 『どうぞどうぞ』 ■SE〜茶碗によそう音 「あ〜美味しそうな香り・・・ いただきます」 美味しい。 味がしっかりしみ込んだご飯。 薄くスライスして柔らかく煮込んだ鶏肉。 そうだった。 この味。 うちの鶏めしは炊き込みごはん。 戻した干し椎茸とごぼうとにんじん、油揚げの旨みをとじこめて、炊き上げる。 何年ぶりだろう。 よく考えたら、もうずうっと食べてない。 こんなに美味しかったのに。 『ちょっと。あんた、なに泣いてんの?』 え? あ、ホントだ。 全然気づかなかった。 「ねえママ」 『なに』 「おかわりしていい」 『あたりまえじゃない』 「鶏めしって、どうしてこんなに美味しいんだろ」 『かくし味よ』 「へえ、知らなかった。なに?」 『愛情』 一瞬、言葉につまった。 そんな、平成みたいなネタ・・・ って平成か。 『それより、こんなゆっくり食べてていいの? 花まつり、行かないの?』 ああ、そうか。 今日は花まつりの日なんだ。 懐かしいな。 きっとキレイだろうな。 いつだって、目が覚めるほど艶やかだったもんなあ。 でも私・・・ 「いかない。 ずっと鶏めし食べていたい」 『なんなの、それ』 ママ、このままずっとここにいたい。 だってここは、高浜は、私の家なんだもん。 こみあげてくるもので、顔をくしゃくしゃにしながら 私は鶏めしを食べ続けた。 ママはもう何も言わず、私を見ながら微笑んでいる。 ああ、本当に美味しかった。 『残りはおにぎりにしておいとくからね』 鶏めしのおにぎり・・・ お腹いっぱいでも食べられるよ。 お腹が膨れて、同時に泣き疲れて、 気がつくとまた、まぶたがくっついていく・・・ ママ・・・ <シーン3/再びデザインオフィス> ■SE〜オフィスに人が入ってくる音 『夜食、買ってきたぞ』 え・・・ いまのは夢? ううん、夢じゃない。 突っ伏した腕が涙でこんなに濡れてるもの。 あわてて、トイレに駆け込み、目元を整える。 手短にすませて席に戻ると 「私、お先に失礼します」 きょとんとした同僚たちに私は笑顔で挨拶した。 急ぎ足でオフィスを出る。 スーパー、まだ開いてるよね。 <シーン4/自宅近くのスーパーマーケット> ■SE〜スーパーマーケットのガヤ いつもの惣菜売り場は素通りして野菜売り場へ。 干し椎茸、ゴボウ、ニンジン、あぶらあげ。 そして、鶏肉。 醤油と砂糖はきれてなかったはず。 今晩くらいは自分で作ってみよう。 鳥肉を薄く切って 具材と一緒に炊き込んで。 こんな夜更かしならいいじゃない。 今度の休みは、久しぶりに帰ろうかな。 高浜へ。 ママのお墓まいりいかないとね。 報告することいっぱいあるんだ。 今日はママの鶏めし、再現してみるから。 小さい頃からレシピ、教えてくれたもんね。 いつも心配してくれてありがとう、ママ。 私は元気だよ。 愛してる。

    9 min
  11. 人形の家〜高浜市吉浜は人形の街だった!?

    JAN 15

    人形の家〜高浜市吉浜は人形の街だった!?

    愛知県高浜市を舞台にしたボイスドラマ(CV:桑木栄美里) ■設定 ・主人公=中学2年生の女子。父の都合で4月から高浜へ引越し、転校してきた。内気で陰キャでコミュ症。徹底的に人見知りするのに、心の中は厨二病という厄介な性格。 台本はこちら→https://anime-takahama.com/voicedrama/dollhouse/ 【ストーリー】 <シーン1/名鉄吉浜駅前> ■SE〜名鉄吉浜駅のガヤとアナウンス「ヨシハマ〜ヨシハマです」 「吉浜・・・ 高浜じゃないの?」 ママが優しくさとすように説明してくれる。 そっか。 吉浜ってのは、高浜にある町なんだ。 そこに私たちの新しい家がある。 ■BGM〜 私は中学2年生。 この春、茨城県のつくばから引っ越してきた。 年が明けたらパパがいきなり会社辞めるって宣言するんだもん。 あ、パパの仕事はIT企業の研究室。 辞めてどうするのか、って聞いたらパン屋さんをやるんだって。 ママも私も”え〜〜〜〜〜〜”って感じ。 それだけじゃない。つくばから地方へ移住する〜!? しかもこんな聞いたこともないような、愛知県の高浜市ってとこに。 パン屋さんなら、つくばでやれよって。 『パンのまち』なんだから。 もう激おこ〜。 ってことで、私も転校。 まあ、そもそも私、 陰キャで、コミュ症で、しかも厨二病だから友達いないんで 別に全然いいんだけどさー。 ワンチャン、新しい学校で友達できるかも。 無理か。この性格じゃ。 ■SE〜軽トラックのエンジン音 吉浜駅前のロータリー。 パパが軽トラックから降りてくる。 これで家まで送るって? トトロかっちゅうの。 あの看板。 人形小路(こみち)? 吉浜は人形のまち? そうなんだ〜。 私、急な引っ越しだったから、つくばのお家に お人形さんみんな置いてきちゃったもんなあ。 小さい頃からいわば私のイマジナリーフレンド。 コミュ症の私は人形に囲まれていれば幸せだった。 寂しいな。 高浜のこと、SNSで検索してみるか。 『ハッシュタグ高浜』っと。 ふんふん。あんまり出てこないー。 人形小路 雛めぐり?なんじゃ? 子供たちがお雛さまになってる。すご。 ひな祭りの日にやってたんだ。 あとは・・・ 人形小路花まつり。5月か。 こっちにも人形。 高浜、ってか吉浜は本当に人形の町なんだなー。 <シーン2/新居(吉浜市内)> ■SE〜扉を開ける音 なんてことを夢想してるうちに、新居に到着。 新居っちゃ新居なんだけど、ぶっちゃけ古民家。 古民家好きなパパがネットで探し回って購入した。 以前は人形師が住んでいたらしい。 人形師ってなに? 人形を作る職人かあ。 ちょっと興味あるかも。 しっかし、すごい埃。 掃除だけで1日終わっちゃうよ。 ママは食卓の埃を払ってさっと水拭きするとパソコンを開く。 そっか。 マーケターって、パソコンさえあればどこでも仕事できるんだ。 だからママ、引っ越しするのに抵抗ないのか。 あ〜あ、これから大丈夫かなあ。 転校の手続きはパパがしたって言ってたけど。 黒板の前でするアレ。自己紹介。 やだなあ。憂鬱だなあ。 その晩、私は夢を見た。 誰かが私に話しかけている。 『お願い』 『私を見つけて』 え? だれ? どこにいるの? 姿もなにも見えないけど、小さくてか細い声。 『私、ここだよ』 『お願い』 暗くて何も見えない。 私は手探りで闇の中をまさぐる。 だが、虚しく空(くう)を切るばかり。 もがきながら、いつしか眠りの底へ落ちていった。 <シーン3/学校> ■SE〜通学のガヤ 翌日。 眠い目をこすりながら学校へ。 通学路の途中にある青い看板。 交通標識みたいな駅の看板みたいなこれ、なに? 案内看板?だよなー。 ひらがなで『ほしみち』・・・? その下には2つの中学校の名前。 1つは私が今から向かう中学だ。 しばらく立ち止まっていると、ほかの子たちが 遠巻きにちらっと見ながら通り過ぎる。 あ、いつものやつだ。 だめだめ。 目立っちゃ。 足早に青い看板の前から立ち去る。 『お、おはようございます』 『つ、つくばから転校してきました・・・』 ”全然聞こえないね” ”つくばってどこ?” 小さい声でみんなが囁いている。 あー、時間よ、早くすぎて〜。 ■SE〜学校のチャイム 私にとって、長い長い6時限が終わり、 校舎を出るころにはもうヘトヘトだった。 こんなんで明日からまた大丈夫かなあ。 <シーン4/新居の部屋> 次の日も同じ夢を見た。 『私を見つけて』 私は意を決してベッドから起き上がる。 懐中電灯を持って2階から1階へ降りていった。 まだ見ていない部屋とかあったっけ? この家、その名の通り古い民家だから 蔵みたいな物置みたいな建屋があるのね。 パパは人形師さんの工房だって言ってたけど。 ちょっと怖いけど、好奇心の方がまさった。 その建屋には廊下でつながってるから扉をあけて入っていく。 やっぱ怖いからすぐに電気をつける。 雑多に置かれた引っ越しの荷物。 荷解きしていないのがまだこんなに。 壁一面には天井まである大きな棚。 あれ? 棚の向こう側。 ダンボールに隠れてるけど、小さな扉? どけたら入れるかな。 小柄な私なら大丈夫そう。 どうしよう? う〜ん。ここまできたらやるしかない。 扉を一気に開けて、懐中電灯で照らす。 ・・・と、あった。 私の膝くらいまでの木箱。 恐る恐る蓋を開けると、中にはなんと・・・ 美しい絹の布に包まれた人形! これ、ビスクドール? ううん、違う。 西洋人形じゃない。 よく見ると陶器じゃなくて、木だ。 木製なのに、精巧な顔立ち。 びっくりするくらい綺麗で可愛い女の子。 これも昨日パパが言ってた細工人形っていうのかしら。 あなただったの?私を呼んでくれたのは。 私は瞳の美しさと表情に時間がたつのも忘れて見入ってしまった。 自分の部屋に人形を連れ帰り、枕元に置いて眠る。 おやすみなさい。 夢の中でお話できるといいな。 眠りに落ちると、今度は荒唐無稽な夢物語が始まった。 その人形の名前は小町。 菊人形を作るときに、余った木材で人形師に作られた。 作り方は菊人形や細工人形と同じ。 だから表情もきめ細やか。 実は同じように作られた人形たちがまだ何体もいるという。 私は、ダンジョンになっている工房で、人形師が残した手紙や記録を探し出す。 彼が作った人形にはそれぞれ物語が込められていた。 小町を抱っこして町へ出る。 人形小路を巡りながら、人形を探す冒険が始まっていく。 小町は、笑顔で私に話しかけた。 『ありがとう』 『君は優しいから、友達いっぱいできるよ』 『吉浜のこと、高浜のこと、人形のこと。もっともっと好きになってね』 <シーン5/学校の教室> ■SE〜学校のチャイム 次の日、学校へ行ったら奇跡が待っていた。 いや、正確に言うと、私にとっては奇跡。 クラスの同級生たちがいきなりメアドの交換をお願いしてきた。 え?なにか裏があるんじゃない? 疑り深い陰キャは、なかなか奇跡を信じられない。 そんな私の前で、彼女たちは口々に、 ”みんな、口ベタなんだよ” ”本当はもっと早く友達になりたかったんだけど” ”わからないことあったらフツーに聞いて” そうか。 きっと私、いつもうつむいて暗い顔してたし。 誰とも視線合わせないようにしてたし。 授業終わったらソッコーで帰ってたし。 これじゃ、いつまでたっても友達なんてできないよね。 でも、そんなこと。 高浜にくる前からわかってた。 わかっててもできなかったんだ。 こんな風に思えるのって、なぜだろう? あの人形?小町? いや、そんな。 でもなんだか、今日の私。 今までとテンションが違ってる。 だけどわかった。 高浜で私の最初の友達は、小町。 そしてこれからは、クラスのみんながきっと友達になる。 驚くほど確かな思いが胸の中を通り過ぎていった。

    13 min

About

推しタカ(推し活!TAKAHAMA)が2024年4月からスタートしたボイスドラマです。愛知県高浜市を舞台にちょっとだけエモいボイスドラマです。毎月新作を公開していきます!(CV:桑木栄美里/山崎るい)

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