永瀬清子の世界

#75「わが老人の日-月はふたつ-」

敬老の日がある9月。年を重ねた「私」にたくさんの花の贈り物が届きました。贈り物を貰うほどに老いたことを認めて「きっとみんなが慰めてくれてるのだ」と思う「私」。けれども、その一方で「私」は、「とりあえず慰められていようか」と、老いたことを受けとめ切れていない「私」もそこにいるのです。そんな「私」は、「乱視がすすみ白内障も加わって」夜空の月が二つあるように見えており、そのためあらためて花束も慰めも二倍に見えていたと気づきます。老いたことを認める気持ちと認めがたい気持ちも重ね合わせてあるとはいえ、花束も慰めも二倍に見えていたところには、慰めが老いたことよりも大きかったとも思えてきます。老いと向き合う静かなユーモアと感謝がうかがえます。<文・白根直子>