128.1 最終話 前半

オーディオドラマ「五の線2」


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コミュの会場となった会館前には複数台のパトカーが赤色灯を灯して駐車していた。会館には規制線が敷かれ関係者以外の立ち入りは厳禁となっている。週末金沢駅の近くということもあって、このあたりで仕事帰りに一杯といった者たちが野次馬となって詰め寄せていた。規制線の中にある公園ベンチには、背中を赤い血のようなもので染め、遠くを見つめる下間麗が座っていた。


「ついては岡田くん。君にはこの村井の検挙をお願いしたい。」
「罪状は。」
「現行犯であればなんでもいい。」
つばを飲み込んで岡田は頷いた。
「よし。じゃあ君の協力者を紹介しよう。」
「え?協力者?」
奥の扉が開かれてひとりの女性が現れた。
「岩崎香織くんだ。」
岩崎は岡田に向かって軽く頭を下げた。
「岩崎…?」
ーあれ…この女、どこかで見たような…。
「近頃じゃネット界隈でちょっとした有名人だよ。」
「あ…。ひょっとしてコミュとかっていうサークルの。」
「正解。それを知っているなら話は早い。そのコミュってのが今日の19時にある。そこにはさっきの村井も共同代表という形でいる。」
「村井がですか?」
「ああ。」
「君には岩崎くとにコミュで一芝居うって欲しい。」
「芝居…ですか。」
「ああ。芝居のシナリオはこちらでもう用意してある。君はその芝居に一役噛んだ上で、流れに任せて村井を現逮してくれ。君らが演じる芝居が村井の尻尾を出させることになるはずだ。」
「大任ですね。」


「お疲れさん。」
彼女の横に座った岡田がミネラルウォーターの入ったペットボトルを差し出した。それを受取った麗は何も言わない。
「迫真の演技やったな。」
「…。」
「それにしても村井の奴、お前が刺されて倒れとるっていうげんに、お前んところに駆け寄ってくることもなく、淡々と参加者を煽っとった。」
「…。」
「薄情なもんやな。」
「…そんなもんですよ。」
「ん?」
「私はいつもそういう役回りだった。みんなロクに新規の参加者の獲得もせずに、能書きばっかり垂れてる。私は自分が唯一人より優れている外見を活用して新規の参加者を獲得してるのに…。私自身は全く評価されなかったわ。」
「ほうか…。」
「何かの度に私をヴァギーニャとか言って持ち上げるくせに、楽屋裏では私に対する妬みばかり。挙句の果てに私が色仕掛けしてまで参加者を獲得しているなんてデマまで流して…。」
「酷ぇな。それ。」
麗はペットボトルに口をつけた。
「…でも、兄さんはいつも私のことを心配してくれた。」
「兄貴ね…。」
「コミュの皆をまとめるために、時には周りと同調するようにあの人は私のことを責め立てた。でもその後直ぐにフォローの電話をしてくれた。お前には辛い思いをさせているがもう少しの辛抱だって。」
「妹思いの兄ってやつか。」
「でもその兄さんも、お父さんもあなた達に捕まってしまった。」
「麗。お前の話は本部長からひと通り聞いたわ。」
「そう…。」
「はっきり言うけど俺はお前に同情はせん。」
岡田は麗を断じた。
「さっきも放っといたらヤバいことになっとった。コミュの連中を原発まで動員してあそこで騒ぎを起こす傍ら、俺を片町のスクランブル交差点にトラックごと突っ込ませて、テロをする予定やったんやからな。」
麗は黙って岡田を見た。
「そんなもんを企てとったお前の兄貴と親父は法によって裁かれる。これはこの国では至極当たり前のことや。俺らはその当たり前のことを実行するために居るんやからな。」
「兄さんとお父さんはこれからどうなるの。」
「わからん。こっからは俺ら警察の管轄じゃない。」
「そう…。」
岡田は一枚の紙の切れ端を取り出してそれを麗に渡した。
「なに?…これ。」
「本部長が言っとった約束のあれや。お前が捜査に協力してくれれば母ちゃんの面倒をお前が見れるようにさせるって。」
「何よこれ…住所が名古屋じゃない…。お母さんは都内の病院にいるって言ってたわよ。」
「ほうや。お前の母ちゃんは都内の病院や。こいつは入管の住所。」
「入管?」
「入管にも話し通してあるってよ。麗。まずはお前はここで難民申請をしてこい。申請してこの国の方に則って、晴れてこの国で誰にもはばかることなく下間麗として暮らせ。」
「え…。」
「んで母ちゃんの看病をしてやれ。」
麗はメモに目を落とした。
「俺らは下間麗なんて人間のことは何も知らん。」
「岡田さん…。」
「ほんじゃあ、お前のことを待っとるやつが居るから、俺はここでお別れや。」
「…。」
「晴れて日本で暮らせるようになったら、いつでも俺を訪ねて来い。」
メモには携帯電話の番号が書いてあった。
「そこに突っ立っとる主演男優と一緒にな。」
そう言って岡田は彼女に背を向けた。
規制線の外に出た岡田はそこに立っている男の肩を叩いた。肩を叩かれた男は駆け足で麗の方に向かって来た。
「長谷部君…。」
麗の側まで駆け寄った長谷部はなにも言わずに彼女を抱きしめた。麗の瞳から涙が溢れ出した。
「麗…。ごめん…力強すぎた…。」
抱きしめながら麗の背中を擦る長谷部の様子を、相馬と京子の2人は遠巻きに見つめていた。


冨樫は何も言わずに机の上に古ぼけたカメラを置いた。
「下間。これは何や。」
「何って…カメラだ…。」
「見覚えは?」
下間は首を振る。それを見た冨樫は落胆した表情になった。
「何だ。」
「…これはな。仁川征爾の持ちもんなんや。」
「仁川…。」
「お前の息子がお前に言われるがままに背乗りした、仁川征爾のな。」
「…そうか。」
「お前やな。征爾の両親を事故に見せかけて殺したんは。」
下間は頷く。
「なんでほんなことしたんや。」
「愚問だ。俺らには仕事の選択権はない。上の言うことはすべてだ。上が指示を出したからやった。以上だ。」
「上とは。」
「執行部。」
「朝倉は。」
下間は苦笑いを浮かべた。
「関係ない。当時はまだあいつは公安だったはずだ。俺らとあいつはむしろ対立関係にあった。」
「じゃあその執行部とは。」
「本国だ。」
「ツヴァイスタン本国。」
「そうだ。」
下間はため息をついた。
「でなんだ。そのカメラ。」
「あいつの両親を世話したおっさんがまだご存命でな。このカメラ持ってずっと征爾の帰りを待っとる。んでな、そのおっさんがこう言うんや。もしも征爾が生きとったらこいつで写真撮って自分のところにそれ送ってくれ。もしも征爾が死んどったらこのカメラを墓にでも供えてくれって。」
「そうか…気の毒なことをした。」
下間は天を仰いだ。
そして口をつぐむ。
「…冨樫とか言ったな。」
「…おう。」
「それは随分と古いカメラみたいだが、ちゃんと動くのか。」
「あ?ああ…。動作確認はできとる。」
「じゃあそのおっさんに仁川の写真撮って送ってやれ。」
「え…?。」
「仁川征爾は生きている。奴はツヴァイスタンに拉致された。」
取り調べの様子を記録している捜査員の手が止まった。
「なに?」
「言っただろう。仁川はツヴァイスタンにいる。」
「お…お前…そいつは…本当のことか…?」
「ああ。お前ら警察は掴んでたんだろう。」
冨樫は口をつぐんだ。
「ツヴァイスタン工作員による拉致は掴んでいたが何もできなかった。なぜならそれがセンセイ方の意向だったから。」
「…。」
「拉致問題があると言って、日本はツヴァイスタンに拉致された国民を奪還する術はないからな。」
「現状はな。」
こう言った冨樫の顔を見た下間はニヤリと笑った。
「本気なのか。政府は。」
「ワシはただの末端公務員。政府中枢の思惑はわからん。」
「今回の

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