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「三波…。」
ハンドルを握る手に力が入る。先ほど耳にした三波の死亡報告が、黒田の胸に重くのしかかっていた。
「お前なら、この状況をどう伝える…?」
黒田は自分に問いかけた。
三波はこの事件に命を懸けた。それは自分たちの仕事が単なる報道ではなく、社会に真実を伝える事こそが「使命」だと信じていたためでもあった。
その信念を知っている黒田だからこそ、その死を無駄にすることはできなかった。
誰かが、このこと世の中にを伝えなければならない。
京子は泣きながら三波の死を報告してきた。だが、黒田はその涙を受け止める間もなく、すぐに車に乗り込んだ。
彼の向かう先は金沢駅。現在進行形で戦闘が繰り広げられているという情報が入った場所だ。
ワイパー音
雨脚がさらに強くなり、ワイパーがフロントガラスを滑る速度を上げていた。
助手席に置いたスマホを手に取り、画面を確認する。一般のメディアは、金沢駅で「テロが発生した」という短いニュースを伝えるだけ。詳細な映像も情報も一切ない。
一方で、SNSは混沌としていた。
「金沢駅で銃撃戦が展開されている」
「商業ビルの最上階で無差別銃乱射が起きた」
「ドローン攻撃による爆発があった」
矛盾した情報が飛び交い、事態の全容を把握するには程遠い。
ー一体何が起きてるんだ…。誰も状況を掴めていない…これじゃ、真実が埋もれる。
雨が激しさを増す中、金沢駅へ向かう道は次第に狭まり、警察による封鎖が見えてきた。
ふとスマホを手に取り、電話帳からひとりの人物の電話番号を表示させる。しかし黒田はそこで手を止め、ふうっと息をついてそれをしまった。
ーここでさすがにあの人に頼れない…。
黒田は深く息を吸い、車を停めると雨の中へと足を踏み出した。
「ちゃんねるフリーダムの黒田です。この中に入らせてください。」
警察官の一人が振り返り、迷惑そうな顔をする。
「無理だ。ここから先は立入禁止区域だ。」
「取材が必要です。 全国民が知りたがっています。」
食い下がる黒田だったが、警察官たちは一切取り合わなかった。厳重な規制に黒田の苛立ちが募る。
その時だった――。
爆発の轟音
突然、轟音が金沢駅の方向から響いた。爆風が空気を震わせ、雨の音すら掻き消すような衝撃音が周囲を襲った。
警察官たちは驚き、思わずその場で足を止めて振り返った。
「なんだ今のは…!」
「爆発だ! 様子を確認しろ!」
一瞬、規制線を守る警察官たちの注意が爆発の方向に向いた。その隙を黒田は見逃さなかった。
ー今だ!
彼は規制線の隙間をすり抜け、一気に内部へと駆け込んだ。
「おい、待て!」
制止の声が後ろから飛んできたが、黒田は振り返らずに雨の中を突き進む。雨水が靴底に染み渡り、足元の瓦礫が滑る。それでも彼の目はまっすぐに金沢駅の方向を向いていた。
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しばらく進むと黒田の目の前に広がる光景が、次第にその全容を現した。
そこは、映画やドキュメンタリーでしか見たことのない戦場そのものだった。
瓦礫の山が行く手を遮り、その間に転がるのは、ねじれた鉄骨や崩壊した建物の破片。そして人の形をかろうじて留めている無数の遺体。
あるものは瓦礫の下敷きになり、またあるものは爆風で飛ばされたのか、原形を留めないほどに損壊している。黒焦げになった肉片が散乱し、ところどころに血溜まりができていた。
鼻を突くのは、焦げた金属と肉の混ざり合った異様な臭い。それが雨に濡れた地面に染み込み、ぬかるんだ泥の中に薄赤い水を広げている。
黒田は息を呑み、足を止めた。
ーこれが…現実…?
普段はペンとカメラを手に取材を続ける彼も、この光景には言葉を失った。あまりにも非現実的で、まるで悪夢を見ているかのようだった。
ー「音」がない。
ふと気づく。降りしきる雨がすべての音をかき消しているようだが、それだけではなかった。瓦礫の間から聞こえるはずの呻き声や助けを呼ぶ声がまったくない。
生命の気配がない。
現場を覆っているのは、「死」という言葉すら足りないほどの完全な静寂。
ー誰も…生きていない?
黒田の全身に鳥肌が立つ。雨が肩や頭を容赦なく叩きつけてくるが、それがかえって静寂を際立たせていた。
足元の瓦礫を踏む音が妙に大きく感じられる。雨に濡れた靴底が瓦礫を滑らせるたびに、不安定な足元がさらに不気味さを増していく。
歩みを進めるたびに、また一つ、また一つと壊れた形のものが視界に入ってくる。それが人であったものなのか、単なる物体なのかさえ、見分けがつかない。
遠くで、崩れた建物の残骸が冷たい雨を浴びながら揺れている。瓦礫の隙間から、煙が細く立ち昇り、雨に消されていく。
そんな中で、黒田はふと目の前の瓦礫の隙間に視線を移した。
「…?」
遠く、煙にかすむ視界の中に、人影が見えた。それは一瞬だけ動いたように見えたが、雨でぼやけてはっきりとしない。
ー生存者か…?
黒田の心にかすかな希望と警戒が同時に湧き上がった。彼は慎重に歩を進め、その影を確かめようとした。
そのとき足元の瓦礫が不気味な音を立てて崩れ、黒田の胸に一抹の不安が広がった。
ライフル音
突然、雨の音を貫くように鋭い銃声が響いた。
「っ…!」
黒田は思わず身をかがめ、瓦礫の影に体を隠した。音の方向を探ろうとしたが、雨のせいで音は乱反射し、正確な場所を掴むことはできない。ただ、音の鋭さからそれが近い場所での狙撃だと直感する。
冷や汗が背中を伝う。黒田は瓦礫の隙間から視線を巡らせ、周囲を慎重に観察した。
先ほど見えた人影が遠くに見えている。
雨の中、黒田が目に捉えたのは、一人の男だった。
SATの装備を身に纏った彼は、周囲に散らばる遺体を一瞥することもなく、ただ冷静にどこかと連絡を取っているようだった。
ー何やってるんだ、あいつ…。
黒田はじっと目を凝らした。
降りしきる雨がその全てを覆い隠し、命の気配を消し去っている中、その男だけがこの世界に生きている。
それだけなら、仲間を探しているSAT隊員だと判断することだろう。
だが――。
黒田の胸の奥に、言葉にできない違和感が広がった。
直感がざわめく。
遺体が転がるこの現場で、仲間を助ける素振りも見せず、ただ淡々と電話に向かって話すその姿。
その横顔に何かが引っかかる。
ーあの顔…どこかで見たことがある。
雨音がさらに激しくなり、瓦礫に叩きつける音が響く中、黒田は記憶を手繰り寄せた。
何かが脳裏に浮かびかけているが、はっきりと思い出せない。
その時――。
男が濡れた髪を掻き分けた。それによって露わになった顔を前に、黒田の頭の中に眠っていた記憶が呼び覚まされた。
ーこの顔…。
「椎名と申します。はじめまして。」
「印刷会社でDTPやっています。」
「安井から聞いています。映像のお仕事はあくまでも個人でやってるらしいですね。」
「はい。」84
「黒田。お前を真に信頼できる協力者として打ち明ける。」
「…どうぞ。」
「椎名賢明は仁川征爾や。」
「仁川征爾…?」
「仁川征爾はすでにこの日本に亡命している。」144
「仁川征爾…。」
黒田の視線の先で、椎名は話し続けていた。
雨が会話の内容をかき消し、何を言っているのかは聞き取れない。ただ、その佇まいはあまりにも異質だった。
ーいや、そんなはずは…。
記憶と目の前の現実が交錯し、黒田の中で疑念が膨らむ。その正体が何
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- ЧастотаКаждые две недели
- Опубликовано31 января 2025 г., 20:00 UTC
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