再生できない場合、ダウンロードは🎵こちら
瓦礫が散乱し、崩壊したフロアの中にもかかわらず、アパレルショップのディスプレイが無残に残っていた。その中に、ミリタリーショップが偶然にもあった。
椎名はその店内で服を物色し、迷彩服を手に取った。雨に濡れたシャツを脱ぎ捨て、軍人らしい出で立ちに着替えていく。
鏡に映る自分の姿をじっと見つめる。その姿はまさに彼の本質――戦場に生きる者そのものだった。
「やはり、しっくりくるな。」
彼はふと何かを思い出したかのように呟く。
「仁川さん…?」
「仁川さっ…!」
「椎名!」186
声が脳裏をよぎる。
「あのとき…俺の名前を呼んだ気がしたが。」
椎名は姿見に映る迷彩服姿の自分をもう一度確認し、口元に不敵な笑みを浮かべた。
「さて…。」
ベネシュには特殊作戦群との交戦を命じている。両者が正面からぶつかれば、いかに特殊作戦群が精強な部隊であろうとも、何らかの被害は免れないだろう。
「いくら歴戦の猛者でも、力が拮抗すれば互いに削り合う。そうなれば、消耗戦に持ち込むだけだ。」
創設された特殊作戦群の初戦。ここで彼らが大きな損害を被れば、日本政府の中枢に動揺が広がる。
「政府内にはすでに不満分子が潜んでいる。彼らは特殊作戦群の損耗を口実に、現政権の足を引っ張り始めるはずだ。」
その不満がさらに広がれば、内部での不協和音が助長される。そして混乱がピークに達したとき、次の段階に移行すれば良いだけだ。
「皆殺しだ。」
冷酷な一言が彼の口から漏れた。自分自身に対する確認のようでもあった。
ウ・ダバはすでに壊滅状態にあり、彼らの継戦能力は失われている。ヤドルチェンコは残っているものの、単独で何かを成し遂げる存在ではない。
「オフラーナ――奴らは必ず事の詳細を確認しようとするだろう。そして、俺が何かを企んでいると気づけば、直接的な圧力をかけてくる。」
だが、椎名はその先を見据えていた。
オフラーナが圧力をかける前にヤドルチェンコを排除し、その死を利用することで、さらなる混乱を引き起こす計画を考えていた。
「ヤドルチェンコの死は、オフラーナにとって人民軍の仕業に見えるだろう。彼らはそれを許さず、報復に動き出す。」
オフラーナの動きが激化すれば、それに対抗するように人民軍も強硬な措置を取る。そして最終的には両者の衝突が激化し、その余波が日本に及ぶ――そのときが椎名の最終目的を果たす瞬間だ。
「日本政府がそれにどう対応するか。その答えは一つ。」
椎名の冷笑は、鏡に映る自分の姿に向けられたものだった。
「戦争だ。」
オフラーナの横暴を排除すると言う名目で、ツヴァイスタン人民軍の正規軍が日本に介入する――その準備が整いつつあることを、彼はすでに知っていた。
「政府も公安も、自衛隊ですら、この流れを止めることはできまい。ヤドルチェンコの死は、その引き金にすぎないわけだが…。」
「問題はやつをどう排除するか…。」
しばらく考えた挙げ句、椎名は携帯を手にした。
発信音 雨音がかすかに混じり、数回の呼び出しの後、応答が入る
「はい。」
「目薬はいるか。」
「…結構です。」
「いま何をしている勇二。」
「先ほどまでここに居た捜査員が逃走しました。」
「なにっ?」
「署内で電話をする奴の姿を見た同僚警察官が声をかけると、ごにょごにょ言ってその場から走って逃げだしたというものです。」
「目薬の男ね…。」175
「現場から2㌔地点で待機。」
「ひとりか。」
「いえ、矢高さんと一緒です。」
「そうか。じゃあ代わってくれ。」
矢高の声が入る。どこか沈んだ響きが混じっている。
「矢高です。ご無事で何よりです。」
「朝戸の排除は完了した。」
「ははっ。ご迷惑をおかけしました…。」
矢高の声はどこか恐怖を感じているようにも思えるものだった。
「あいつ映画館でトゥマンの連中を皆殺しにした。おかげで折角の戦力が削がれてしまった。」
「申し訳ございません!」
「まぁいい。結果的にちょうど良かったのかもしれんな。戦力のバランス的に。」
「と、申しますと。」
「ベネシュは過信している。トゥマンの実力を。今回トゥマンは壊滅的打撃を受けた。ここからどう巻き返すか。それとも…。」
「それとも…。」
「そのまま消え去るか。」
「消え去る…。」
「そうだ。」
「…それほどまでに自衛隊の特殊作戦群は。」
椎名は少し間を置き、冷静に言葉を選んだ。
「強い。」
短い言葉に込められた確信が、矢高の心を揺さぶる。
「…。」
「この攻撃で多少の被害はあるだろう。しかし、それが目に見える形で現れることはない。それほどまでに彼らのダメージコントロールは完璧だ。」
「そんなにですか…。」
「無傷ではないだろうが、壊滅状態でもない。それを引いても、奴らの精強さはトゥマンの上だ。」
矢高は息を呑む。
「では、私はどうすれば…。」
「プリマコフ中佐に応援を要請せよ。」
その言葉が電話越しに伝わった瞬間、矢高は目の前が真っ暗になるような感覚に襲われた。
「少佐、それは無理です。他国の治安維持に正規軍を投入するなんて…そんなこと、現代ではあり得ません!」
声が震え、言葉を並べるたびに自分の心が不安定になっていくのを感じる。
「正規軍が他国に介入するなんて、国際世論が絶対に許しません!どんな裏付けがあったとしても、それを現実化させるのは…!」
矢高は言葉を詰まらせた。
「君がヤドルチェンコを始末すれば、可能になる。」
椎名の声はどこまでも冷静で、疑いの余地を全く与えないものだった。
「…は?」
「テロ組織の指導者が殺害されれば、オフラーナは人民軍の仕業だと考えるだろう。そこから先は、報復に向けた軍事行動に進むのは自然な流れだ。」
矢高はその説明を聞いて、頭が混乱するのを感じた。
「でも、それは…それでは、戦争になりませんか……。」
矢高は必死に言葉を吐き出したが、それはまるで水中で声を出そうとしているような虚しさを伴っていた。
「その通りだ。」
矢高は椎名の一言に絶句した。その言葉に揺るぎない確信が滲み出ているのを感じたからだ。
「オフラーナが動けば、人民軍も対抗せざるを得ない。その衝突が日本に波及するのは時間の問題だ。」
「いえ、それでも…それでも国際社会がそんなことを許すはずが…!」
矢高は声を震わせながら、必死に現実にすがりつこうとした。
「国際社会? 君はまだそんなものを信じているのか。」
椎名は冷笑を含んだ声で返す。その瞬間、矢高の中で崩れかけていた防波堤が完全に崩壊し始めた。
ー信じているわけではない。あんなものツールのひとつに過ぎない。そんなことは分かっている。だがそのツールによって戦争を回避してきたのも事実…。
矢高は必死に椎名の言葉を否定しようとした。しかし、これまで椎名が見せてきた完璧な計画と、その実行力を思い出すたびに、否定する根拠が失われていった。
ー少佐の言うことが本当なら…本当にプリマコフ中佐が動くというのか?でも、それは…。
頭の中で何度も反論の言葉を組み立てるが、椎名の言葉の重さがそれを次々に打ち砕いていく。
「君は分かっていないようだな。」
椎名の声が鋭く響く。
「準備はすでにできている。」
「準備…?」
矢高はその言葉に背筋が凍るような感覚を覚えた。だが、椎名がその詳細を語ることはなかった。
矢高はついに言葉を失い、唇を震わせるだけにな
Информация
- Подкаст
- ЧастотаКаждые две недели
- Опубликовано14 февраля 2025 г., 21:00 UTC
- Длительность15 мин.
- ОграниченияБез ненормативной лексики