市場の風を読む

FRBの利下げはクレジットの質に影響するか?

コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツが、FRBが金融緩和を開始した場合にクレジット市場への懸念が生じかねない理由についてお話します。

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トランスクリプト 

「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。

今回は、コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツが、FRBの利下げを受けて、企業が積極的な姿勢を強める可能性について解説します。

このエピソードは8月27日 にロンドンにて収録されたものです。

英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。

先週、FRBのジェローム・パウエル議長は、次の会合で利下げを行う見通しであることを強く示唆しました。利下げ判断は市場が予想していたものですが、決して既定路線ではありませんでした。

FRBは失業率とインフレ率を低く抑えるという責務を負っています。米国の失業率は低いですが、インフレ率はFRBの目標水準を上回っているだけでなく、最近の傾向では目標とは逆の方向に向かっています。インフレ率を引き下げるには、FRBは利下げではなく利上げを行うのが一般的と言えます。

しかし、今回予想されるFRBの政策措置は利上げではありません。雇用市場が近く悪化する可能性がある一方で、こうしたインフレ圧力は一時的なものにすぎない、という重要な確信を抱いているとみられるからです。FRBは通常とは異なる難しい状況に置かれており、現在FRBの周りで起きていることが状況をさらに異例なものにしています。

ご承知の通り、FRBは経済が過熱せず、冷めすぎてもいない、均衡状態を維持しようとしています。そしてこの点に関しては、金利が蛇口の栓のような役割を果たします。しかし、金利の他にも、経済の水の温度に影響を与える要因は複数あります。資金の借り入れがどの程度、容易か? 通貨の価値は上昇しているか、下落しているか? エネルギー価格は高いか、低いか? 株式市場は上昇しているか、下落しているか? しばしば、これらの尺度はまとめて金融情勢と称されます。

従って、インフレ率が目標を上回り、しかも上昇している一方で、FRBが金利を引き下げるのは珍しいことですが、経済活動を左右するこれらの金利以外の要因、つまり金融情勢がこれほど緩和的なものである中で、FRBが利下げするのは、恐らく、さらに異例なことと言えるでしょう。株価のバリュエーションは高く、クレジットスプレッドはタイトで、エネルギー価格は低く、為替はドル安の状況にあります。債券利回りは低下しており、米国政府は多額の財政赤字を抱えています。これらは全て、経済を加熱させがちな要因です。流し台にお湯を継ぎ足しているようなものです。

金利を引き下げれば、経済の温度はさらに上昇する可能性があります。

クレジット市場にとって、これは少々厄介なことです。クレジット市場特有の、2つの理由が挙げられます。クレジット市場は現在、素晴らしい1年のさなかにあります。そして、企業は総じて、かなり保守的な姿勢を維持し、合併案件は少なく、企業の借り入れ額は通常比較対象とされる政府ほど多くない、といったことが好調の一因です。こうした節度は全て、クレジット市場にとって大きなプラス材料となります。

しかし、先ほどお話した状況は、企業が節度を緩める原因となりそうです。すでに緩和的な金融情勢を、FRBがさらに緩和することになれば、企業は実際、繁栄を謳歌したいという気持ちを、いつまで抑えることができるでしょうか? 最近、合併が再び増え始めています。また、従来、このように企業の積極姿勢が強まると、株主にとってプラスとなる可能性があります。一方、貸し手にとっては、往々にして厳しさが増します。

とは言え、他の追い風要因がこれだけあるにもかかわらず、米国の雇用市場は実際のところ、さらに悪化する見通しであるというFRBの警告が正しい可能性もあります。この見立てが正しければ、これも企業が節度を緩める端緒となりそうです。雇用市場が悪化する中で、FRBが金利を引き下げた際、これまで大半の場合、経済全般へのリスクゆえに、クレジット市場はとりわけ厳しい時期に直面することとなりました。

現在は、ほぼデータ次第という状況にあります。FRBの政策判断に加え、来年の新たなFRB人事も、情勢を変化させる可能性があります。しかし、大幅なアウトパフォーマンスの後、クレジット市場は、企業がこの先節度を緩める可能性を示唆する兆候がある中で、他の債券市場に後れを取ることになるかもしれません。

最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。