市場の風を読む

FRBの経路に関する意見の相違

市場はFRBによる9月の利下げを見込んでいますが、弊社の意見は異なります。弊社コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツが弊社の見方を解説し、企業クレジットの3つのシナリオを示します。

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「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。

本日は、来月のFRBの対応に関する弊社と市場の見方に大きな違いがあることと、それを踏まえた企業クレジットに対する弊社の見方を弊社コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツが解説します。

このエピソードは8月14日 にロンドンにて収録されたものです。

英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。

この動画を録画している時点で、市場は およそ約97%の確率でFRBが次回の会合で利下げに踏み切ると見ています。しかし、弊社エコノミストは金利据え置きの可能性が高いと考えています。非常に重要な議論についての見解が大きく分かれています。

しかし、根本的に意見が異なるように見えるかもしれませんが、実は前提条件はかなり分かりやすいといえます。FRBは物価の安定と雇用の最大化という、いわゆる2大責務を負っています。

失業率は低いものの、インフレ率は、ここが肝心ですが、低いとは言えません。景気を大幅に悪化させずに、インフレ率を確実に低下させるためには、ある程度長い期間、金利をある程度高く保つことが合理的だと弊社は考えています。このため弊社はFRBが9月会合で金利を据え置くと予測しています。

確かに、市場は今週発表された直近のインフレ率に反応して上昇しましたが、FRBにはかなり重要な問題が残されています。米国のコアインフレ率はFRBの目標を上回っています。すでに1年以上、この水準近辺で推移しています。今週の直近データに基づくと、実際は再び上昇し始めており、関税の影響が徐々に現れて、この先数回はこの基調が続く可能性があると弊社は考えています。

そのため、クレジットに関しては3つのシナリオが考えられます。良いシナリオがひとつ、厄介なシナリオが2つです。

良いシナリオとは弊社のインフレ予想が単に高すぎる場合です。景気が持ちこたえてもインフレが弊社の予想より早く緩和します。そのため、FRBは弊社の予想よりも早期に速いペースで利下げが可能になります。このシナリオは現在のスプレッドが薄い状況でもクレジットにとって好ましく、トータルリターンが上昇する確率が高いでしょう。

2番目のシナリオでは、インフレ率は弊社の短期予想通りに上昇しますが、FRBはどのみち利下げします。それは良いシナリオではないのか、クレジット市場は金利低下を歓迎しないのか、と思うかもしれません。でも、他の条件がすべて同じならば、利下げは景気を刺激するためインフレ率は上昇する傾向があります。したがって、インフレ率がFRBの目標を依然として上回っている場合、成長が加速して景気が過熱し、物価が上昇する確率が高まります。

この種の組み合わせは株式市場には歓迎されるかもしれません。このような景気拡大期には活況となるためです。しかし、同じ環境がクレジットにとっては非常に厳しいものとなりがちです。そして、FRBが利下げしてインフレが低下しなければ、FRBは向こう1、2年の利下げ回数を全体として減らさざるを得ないかもしれません。さらに悪ければ、利下げから利上げへと逆転を迫られる可能性もあり、変動の大きい経路はクレジット市場には歓迎されないでしょう。

3番目のシナリオは、成長率、インフレ率、FRBに関する弊社の予想がすべて正しい場合です。現時点では来月の利下げが広く予想されていますが、FRBは来月の利下げを見送ります。これはクレジット市場にとって中期的に悪くないシナリオだと思われますが、非常に大きなサプライズとなるでしょう。ただ、市場の予想と比べて、信じられない程ではありません。

市場は当面、高い確率で夏枯れ相場に戻ると思われます。ただ、夏の終わりの弊社の予想は他とはかなり異ることを意識しています。

最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。