ブックカタリスト goryugo
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面白かった本について語るポッドキャスト&ニュースレターです。1冊の本が触媒となって、そこからどんどん「面白い本」が増えていく。そんな本の楽しみ方を考えていきます。
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BC090『人生が整うマウンティング大全』と『話が通じない相手と話をする方法』から考える「話の聞き方」
今回は『人生が整うマウンティング大全』と『話が通じない相手と話をする方法――哲学者が教える不可能を可能にする対話術』を紹介しながら、コミュニケーションにおいて「話を聞く」ことの大切さを確認しました。
書誌情報などは、以下のメモページからリンクを辿ってご覧ください。
◇ブックカタリストBC090用メモ - 倉下忠憲の発想工房
相互ケアとしてのマウンティング受容
ある程度、社会的な素養(これが具体的に何を意味するのかはわかりませんが)を持っている人にしてみれば、マウンティングするのは基本的にダサい行いです。教養主義、あるいは啓蒙思想的な立場であれば、虚栄心にまみれた態度であり、ぜひとも修正しなければならない行いだとされるでしょう。
ようは、そんな風に人の上に立とうとする態度をやめて、お互いにフラットに話し合おうではないか。それがこうした考え方のベースになっているでしょうし、基本的には私もそう思います。
一方で、あまりにもその理念が強くなりすぎると、その「ゲーム」にうまく乗れない人を排斥することにもなりかねない危険性があります。それはそのまま、自分たちが気に入らない主義主張の人たちを「差別主義者」と切り捨てることが可能な”最強の道具”になってしまう可能性にもつながっていきます。
『人生が整うマウンティング大全』は、そうした理路とは違った違ったアプローチを持ちます。マウンティングしてしまうのは人間的に(あるいは動物的に)どうしようもないので、それを受け入れてお互いにマウンティングを受容しようではないか。これは人の「弱さ」を受け入れる態度であり、ケア的な行いだとも言えるでしょう。
その関係性では、単にフラットに横に並んでいるのではなく、あるときは上に立とうとするが、別のときでは下にいることを許容するという変化を持つ(平均としての)フラットさが醸成されるでしょう。
別段こうした話が本書で展開されているわけですが、「マウンティングはよくない」という態度自体が、一種のマウンティングになりかねない状態において、別の仕方でコミュニケートを考えるきっかけを与えてくれた一冊でした。
僕たちは「聞く訓練」をしていない
『話が通じない相手と話をする方法』では、めちゃくちゃ具体的なノウハウが難易度別に紹介されていて、本編ではそのごく一部、入門的内容を紹介しました。
で、「話がうまくなりたい」と思うなら、喋るテクニックよりも先にこの聞く技術・態度を身につけたほうがいいです。本当にそれくらい、私たちは聞く訓練をしてきていません。
たまたま相手が聞く訓練をしてきている人ならば、「会話」(conversation)は成り立ちますが、そうでないと一方通行の伝令が二人いるだけの状態になって、もはや会話とも呼べない何かになってしまいます。それくらい、私たちは相手の話を聞いていません。そのことは、カフェとかで繰り広げられる雑談を耳にすればよくわかります(あまり礼儀はよくありませんが)。
しかし逆に言うと、日常のやりとりは相手の言うことを真剣に聞いていなくても成立するものです。そこでは相手と場や空間を共有し、敵対的な意志を持っていないという最低限のことさえ表明すれば、あとは何を言ってもOKなのです。私たち人間は -
BC089『たいていのことは20時間で習得できる』と『成功する練習の法則』から考えるスキルを獲得するというマインドの獲得
面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。
今回は、『たいていのことは20時間で習得できる 忙しい人のための超速スキル獲得術』
と『成功する練習の法則 最高の成果を引き出す42のルール (日本経済新聞出版)』
を踏まえた「スキルを手に入れるというマインド」について語りました。
今回は「自分の体験を整理するために読んだ本を土台にして語る」という感じの内容を意識しました。
ごりゅごの今年のブックカタリストのテーマ「つなげる」と絡めて言うのであれば、これまでの自分の人生と、読んだ本をつなげて考えてみる、という感じでしょうか。
この2〜3年、おそらく自分が40代になってから、自分の考え方や価値観みたいなものがけっこう変化してきていて、振り返ってみるとかなり大きな変化になっています。
そんな変化が、どんなところから起こったのか。その変化によって何が得られたのか。そんなことを「本をテーマにして語る」ことを目指してみました。
かつてごりゅごのブログのテーマは「だいたい言いたいだけ」だったんですが、なんかそれに近い「言いたいことを言うために本を素材にする」という手法を使ってみた、という実験。
かつて自分が好きだったことを思い出し、それを少しアレンジして今の自分に当てはめてみる。今年はそんなことをする機会が多いんですが、今回のブックカタリストなんかもまさにそういう感じの内容だと言えるのかもしれません。
今回出てきた本はこちらで紹介しています。
📖ブックカタリストで紹介した本 - ナレッジスタック - Obsidian Publish
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BC088『CHANGE 変化を起こす7つの戦略』
今回はデイモン・セントラの『CHANGE 変化を起こす7つの戦略: 新しいアイデアやイノベーションはこうして広まる』を取り上げました。
書誌情報
* 原題
* 『CHANGE:How to Make Big Things Happen』
* 出版日
* 2024/1/25 (原著:2021)
* 出版社:
* インターシフト
* 著
* デイモン・セントラ
* ペンシルヴェニア大学のコミュニケーション学、社会学、工学の教授。
* 翻訳
* 加藤万里子
* 『アナログの逆襲』など
目次や今回の内容に関係する倉下の読書メモは以下のページにまとめてあります。
◇ブックカタリストBC088用メモ - 倉下忠憲の発想工房
「弱い絆」を再考する
昨今のビジネス書などでは、「弱い絆」が重要だとよく言われます。
弱い絆とは、日常の人間関係よりも少し「薄い」関係性のことで、そうした人たちは自分の日常と異なった環境で生活しており、異なる情報を持っていることが多いので、そこにアクセスしましょう、というわけです。
また、そうした弱い絆で人々がつながるSNSは、情報の拡散に貢献することはよく知られています。プロモーションなどで「発信力」のある人に仕事が集まるのは、そうした人たちならばより効果的に情報を拡散してくれるだろうと期待してのことでしょう。
そのような情報の拡散モデルは、「情報はウイルスのように広まる」という観念が前提にあるわけですが、本書はそこに異議を唱えます。たしかにそうした伝播の仕方もあるが、そればかりではないだろう。単に情報を広めるだけでなく、行動や信念を変えるような変化が広がっていくのは、「ウイルス」のようなモデルとはまったく違っているんだ、という議論が実例を通しながら検討されていきます。
本書において学べることはたくさんあるわけですが、「弱い絆」至上主義を再検討してみることはその中でももっとも重要なことかもしれません。
たしかに強い絆しかない状態よりは、弱い絆があった方がいい。しかしそれは、弱い絆が強い絆を代替してくれることを意味しない。むしろ、土台として強い絆があるからこそ、弱い絆の力が活かせるのではないか。そんな風に考えることができるでしょう。
その他、表面的なプロモーションではなく、より深くコミットした新しい動き(運動)を起こしてみたい人には有用な知見が多く見つけられると思います。
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BC087 『音楽の人類史:発展と伝播の8億年の物語』
面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。
今回は(最初はシンセサイザーの話をしようと思ってたのにいつのまにかその導入部分が広がって)『音楽の人類史:発展と伝播の8億年の物語』のごく一部の部分だけを紹介しました。
ごりゅごの今年のブックカタリストのテーマは「つなげる」だって言っといて、今度は逆に「一回で一冊分を取り上げていない」というこの感じ。
これは、次回と「つなげる」ことを目指しているが故に起こった現象です。
こういう屁理屈が得意になったのも、ブックカタリストを長年続けてできるようになったことです。
次回の予定は(ごりゅご回は約一ヶ月後の公開ですが)「シンセサイザー」なんかの話の予定です。それはおそらく「物理と音楽」をつなげる話。今回は「歴史と音楽」をつなげる話。
今年はけっこう音楽に関連する本を読んでることが多いんですが、音楽という分野もいろんな分野と大きくつながっている。
そういうことを、こうやって色々な観点で紹介する中で「つなげて」話せたら面白いな、と思ってます。
今回出てきた本はこちらで紹介しています。
📖ブックカタリストで紹介した本 - ナレッジスタック - Obsidian Publish
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BC086『体育館の殺人』から考える新しい読書について
今回は二人が読んだ『体育館の殺人』というミステリー小説から「本の読み方」について考えます。
「読者への挑戦状」への挑戦
発端は、倉下が『体育館の殺人』を読んで「読者への挑戦状」にきちんと挑戦しよう、という試みです。そこにいたる流れは二つありました。
まず一つは、アニメ『アンデッドガール・マーダーファルス』で青崎有吾さんに興味を持ち、以前から面白い作品を書く人だと聞き及んでいたので、じゃあ一作目の『体育館の殺人』を読んでみようという流れ。
もう一つは、一冊の本を一年かけて複数人で読んでいこうという環読プロジェクトや、毎日少しずつ本を読みその読書日記を書くという「ゆっくり本を読む」という自分の中でのマイテーマな流れ。
その二つが合流することで、ミステリー小説の「読者への挑戦状」にガチンコで挑戦しようと思いたちました。
ちなみに、これまでもミステリー小説は読んできましたが、本気で「推理」したのはこれがはじめてです。つまり、何回も再読し、状況をメモしていって、そこから推論を展開していくという試みは倉下読書人生史上初だったわけです。
で、やってみて思いました。「楽しい」と。
仕事で書いている原稿のためでもなく、自分の環境改善のためにプログラミングを書くのでもない。ただただ純粋に「頭を使う」という行為はすばらく楽しいものです。純粋な娯楽という感じがふつふつと湧いてきますね。
続きのページを見れば答えが書いてあるものを、それこそ10日以上もかけて考える。その間は、他の本の読書も止まってしまう。コスパはぜんぜんよくありません。しかし、コスパが悪いからこそ、そこには純粋な楽しみが立ち上がってくることも間違いありません。
つまり、コスパを気にしているのは、「コスパゲーム」をしているので、目の前のゲーム(推理やらなんやら)に十全に没頭できないのでしょう。この辺は、昨今の情報環境の大きな問題に関わっていると思います。
というわけで、一冊の本を十全に味わうためには、ゆっくりと時間をかけ、それこそ読書メモなんかを取りながら読む「スロー・リーディング」がいいよ、というのがお話の半分です。
「読書メモ」の練習になる
もう半分が、そうやってミステリーの犯人を当てるために作る「読書メモ」が、より敷延した「読書メモ・ノート」作りの練習に最適ではないのか、という話です。
本を読んでメモやらノートを書く、というのは初めてだと存外に難しいものです。特に、普段メモやノートを取らない人ならばなおさらでしょう。「どう書くのか」と「何を書くのか」の二つが課題としてのしかかってきます。
その点、「ミステリーの犯人を当てるため」という目標が固定されているならば、何が必要で何が必要でないのかの判別はしやすいでしょう。あとはそれを「どう書くのか」です。
もちろん、「どう書くのか」も簡単というわけではありません。いろいろ試行錯誤は必要でしょう。ただ、うまくかけているのかどうかという判断は簡単にくだせます。推理がうまく進んでいるなら、メモもうまく書けているといえるし、そうでないならうまく書けていないと言える。わかりやすいですね。
一般的に「賢くなるため」の読書メモやノートは、賢くなることが瞬間的・瞬発的な -
BC085『文学のエコロジー』から考える文学の効用
今回取り上げるのは、山本貴光さんの『文学のエコロジー』です。
本書を通して、「文学を読むときに何が起きているのか?」を考えてみます。
書誌情報
* 著者:山本貴光
* 哲学の劇場でもおなじみ
* 『記憶のデザイン』『文学問題F+f』などがある
* 出版社:講談社
* 出版日:2023/11/23
* 目次:
* プロローグ
* 第I部 方法——文学をエコロジーとして読む 19
* 第1章 文芸作品をプログラマーのように読む 20
* 第II部 空間 49
* 第2章 言葉は虚実を重ね合わせる 50
* 第3章 潜在性をデザインする 74
* 第4章 社会全体に網を掛ける方法 97
* 第III部 時間 117
* 第5章 文芸と意識に流れる時間 118
* 第6章 二時間を八分で読むとき、何が起きているのか 139
* 第7章 いまが紀元八〇万二七〇一年と知る方法 161
* 第IV部 心 183
* 第8章 「心」という見えないものの描き方 184
* 第9章 心の連鎖反応 207
* 第10章 関係という捉えがたいもの 232
* 第11章 思い浮かぶこと/思い浮かべることの間で 254
* 第12章 「気」は千変万化する 276
* 第13章 「気」は万物をめぐる 300
* 第14章 文学全体を覆う「心」 321
* 第15章 小説の登場人物に聞いてみた 342
* 第V部 文学のエコロジー 367
* 第16章 文学作品はなにをしているのか 368
* エピローグ 395
* あとがき 418
本書に加えて、『ChatGPTの頭の中 (ハヤカワ新書 009)』と『心はこうして創られる 「即興する脳」の心理学 (講談社選書メチエ)』を補助線として挙げておきます。
倉下のメモは以下のページをご覧ください。
◇ブックカタリストBC084用メモ - 倉下忠憲の発想工房
以降は常体でお送りします。
エコロジーとシミュレーション
エコロジーとは「生態学」のこと。静止した対象ではなく、対象と環境の相互作用に関心を向ける態度が生態学。つまり本書は、「生態学における文学」という意味ではなく、文学を生態学的な観点から眺めてみよう、という態度で書かれている。
面白いのは、そこに「シミュレーション」の視点が加わる点。小説で描かれる世界を、もしコンピュータ・シミュレーションで立ち上げるとしたらどのようになるか。そのような対比を対比を経ることで、そもそも私たちが文学を読んでいるときに何が起きているのかが再発見されていく。
その意味で、本書は具体的なレベルでは「文学には何がどのように書かれているのか」が検討されるのだが、そうした検討の先に「文学を読むときに何が起きているのか?」という大きな問いに取り組んでいる。個々の文学作品に対する批評というよりも、「そもそも文学とは何か」(何でありうるか)を探る文学論であると本書は位置づけられるだろう。
生きることとシミュレーション
ここからは倉下の意見がかなり入ってくるが、人は「世界」をシミュレーションして生きている。世界のそのものを捉えているのではない(物自体にはアクセスできない)。私たちは世界についての「モデル」を持ち、そのモデルをベースに世界はこうであろうと演算している(ただし意識的な計算ではない)。
小説作品は「世界」を描いている。もっと言えば、提示される作品を読者が読むときに、そこに読者なりの「世界」が立ち上がっていく。「世界」がシミュレートされるというわけだ。そのシミュレートは、もしかしたら読者がもともと持ってい