和歌、俳句、詩。Waka, Haiku & Poem : A Journey into Japanese Verse

トライアル後は月額¥400または年額¥2,400
和歌、俳句、詩。Waka, Haiku & Poem : A Journey into Japanese Verse

毎月、第二日曜日にエピソードを公開しています。/ Episodes are released on the second Sunday of each month. Introducing "和歌、俳句、詩。Waka, Haiku & Poem: Step into a captivating realm of Japanese poetry with "和歌、俳句、詩。Waka, Haiku & Poem." As the immersive audiobook podcast, I invite you to indulge in the sheer delight of the soundscape, transcending language barriers and Japanese proficiency levels. Here, the joy of the auditory experience takes center stage, allowing you to immerse yourself in the captivating beauty of Japanese verse, regardless of your language skills. With its title, "和歌、俳句、詩。Waka, Haiku & Poem," my podcast encompasses the rich tapestry of poetic expressions found in Japanese culture. Embracing the concept of an audiobook, I present a unique opportunity to appreciate the melodic cadence and emotive power of the spoken word. You can bask in the enchanting sounds of Japanese poetry, irrespective of your level of understanding of the language. This podcast is a sanctuary for all poetry enthusiasts, regardless of your Japanese language level. Even if you are a beginner or have yet to explore the intricacies of the language, you can revel in the beauty of the sounds themselves. Allow the melodic cadence and rhythmic flow of the verses to captivate your senses and awaken a newfound appreciation for the artistry of Japanese poetry. Join our diverse community of listeners who find solace and inspiration in the auditory experience of "和歌、俳句、詩。Waka, Haiku & Poem." Subscribe today and embark on an enchanting journey through the world of Japanese verse, where the beauty of the sounds transcends language proficiency, and the pure enjoyment of the auditory experience takes precedence. Let the magic of this audiobook podcast transport you to a realm of poetic delight, where the language of the heart resonates with the melodic vibrations of Japanese verse.

  1. “Heretic” by Hakushu KITAHARA ( Unabridged ) 北原白秋『邪宗門』(全) (18)

    6日前

    “Heretic” by Hakushu KITAHARA ( Unabridged ) 北原白秋『邪宗門』(全) (18)

    Part 18 夕日のにほひ 晩春の夕日の中に、 順礼の子はひとり頬をふくらませ、 濁りたる眼をあげて管うち吹ける。 腐れゆく襤褸のにほひ、 酢と石油……にじむ素足に 落ちちれる果実の皮、赤くうすく、あるは汚なく…… 片手には噛りのこせし 林檎をばかたく握りぬ。 かくてなほ頬をふくらませ 怖おづと吹きいづる………珠の石鹸よ。 さはあれど、珠のいくつは なやましき夕暮のにほひのなかに ゆらゆらと円みつつ、ほつと消えたる。 ゆめ、にほひ、その吐息…… 彼はまた、 怖々と、怖々と、……眩しげに頬をふくらませ 蒸し淀む空気にぞ吹きもいでたる。 あはれ、見よ、 いろいろのかがやきに濡れもしめりて 円らにものぼりゆく大きなるひとつの珠よ。 そをいまし見あげたる無心の瞳。 背後には、血しほしたたる 拳あげ、 霞める街の大時計睨みつめたる 山門の仁王の赤き幻想…… その裏を ちやるめらのゆく…… 四十一年十二月 浴室 水落つ、たたと………浴室の真白き湯壺 大理石の苦悩に湯気ぞたちのぼる。 硝子の外の濁川、日にあかあかと 小蒸汽の船腹光るひとみぎり、太鼓ぞ鳴れる。 水落つ、たたと………‥灰色の亜鉛の屋根の 繋留所、わが窓近き陰鬱に 行徳ゆきの人はいま見つつ声なし、 川むかひ、黄褐色の雲のもと、太皷ぞ鳴れる。 水落つ、たたと…………両国の大吊橋は うち煤け、上手斜に日を浴びて、 色薄黄ばみ、はた重く、ちやるめらまじり 忙しげに夜に入る子らが身の運び、太皷ぞ鳴れる。 水落つ、たたと…………もの甘く、あるひは赤く、 うらわかきわれの素肌に沁みきたる 鉄のにほひと、腐れゆく石鹸のしぶき。 水面には荷足の暮れて呼ぶ声す、太皷ぞ鳴れる。 水落つ、たたと…………たたとあな音色柔らに、 大理石の苦悩に湯気は濃く、温るく、 鈍きどよみと外光のなまめく靄に 疲れゆく赤き都会のらうたげさ、太皷ぞ鳴れる。 四十一年八月   入日の壁 黄に潤る港の入日、 切支丹邪宗の寺の入口の 暗めるほとり、色古りし煉瓦の壁に射かへせば、 静かに起る日の祈祷、 『ハレルヤ』と、奥にはにほふ讃頌の幽けき夢路。 あかあかと精舎の入日。―― ややあれば大風琴の音の吐息 たゆらに嘆き、白蝋の盲ひゆく涙。―― 壁のなかには埋もれて 眩暈き、素肌に立てるわかうどが赤き幻。 ただ赤き精舎の壁に、 妄念は熔くるばかりおびえつつ 全身落つる日を浴びて真夏の海をうち睨む。 『聖マリヤ、イエスの御母。』 一斉に礼拝終る老若の消え入るさけび。 はた、白む入日の色に しづしづと白衣の人らうちつれて 湿潤も暗き戸口より浮びいでつつ、 眩しげに数珠ふりかざし急げども、 など知らむ、素肌に汗し熔けゆく苦悩の思。 暮れのこる邪宗の御寺 いつしかに薄らに青くひらめけば ほのかに薫る沈の香、波羅葦増のゆめ。 さしもまた埋れて顫ふ妄念の 血に染みし踵のあたり、蟋蟀啼きもすずろぐ。 四十一年八月

    9分
  2. “Heretic” by Hakushu KITAHARA ( Unabridged ) 北原白秋『邪宗門』(全) (17)

    2月7日

    “Heretic” by Hakushu KITAHARA ( Unabridged ) 北原白秋『邪宗門』(全) (17)

    Part 17   盲ひし沼 午後六時、血紅色の日の光 盲ひし沼にふりそそぎ、濁の水の 声もなく傷き眩む生おびえ。 鉄の匂のひと冷み沁みは入れども、 影うつす煙草工場の煉瓦壁。 眼も痛ましき香のけぶり、機械とどろく。 鳴ききたる鵝島のうから しらしらと水に飛び入る。 午後六時、また噴きなやむ管の湯気、 壁に凭りたる素裸の若者ひとり 腕拭き鉄の匂にうち噎ぶ。 はた、あかあかと蒸気鑵音なく叫び、 そこここに咲きこぼれたる芹の花、 あなや、しとどにおしなべて日ぞ照りそそぐ。 声もなき鵞鳥のうから 色みだし水に消え入る 午後六時、鵞鳥の見たる水底は 血潮したたる沼の面の負傷の光 かき濁る泥の臭みに疲れつつ、 水死の人の骨のごとちらぼふなかに もの鈍き鉛の魚のめくるめき、 はた浮びくる妄念の赤きわななき。 逃げいづる鵞鳥のうから 鳴きさやぎ汀を走る。 午後六時、あな水底より浮びくる 赤きわななき――妄念の猛ると見れば、 強き煙草に、鉄の香に、わかき男に、 顔いだす硝子の窓の少女らに血潮したたり、 歓楽の極の恐怖の日のおびえ、 顫ひ高まる苦痛ぞ朱にくづるる。 刹那、ふと太く湯気吐き 吼えいづる休息の笛。 四十一年七月   青き光 哀れ、みな悩み入る、夏の夜のいと青き光のなかに、 ほの白き鉄の橋、洞円き穹窿の煉瓦、 かげに来て米炊ぐ泥舟の鉢の撫子、 そを見ると見下せる人々が倦みし面も。 はた絶えず、悩ましの角光り電車すぎゆく 河岸なみの白き壁あはあはと瓦斯も点れど、 うち向ふ暗き葉柳震慄きつ、さは震慄きつ、 後よりはた泣くは青白き屋の幽霊。 いと青きソプラノの沈みゆく光のなかに、 饐えて病むわかき日の薄暮のゆめ。―― 幽霊の屋よりか洩れきたる呪はしの音の 交響体のくるしみのややありて交りおびゆる。 いづこにかうち囃す幻燈の伴奏の進行曲、 かげのごと往来する白の衣うかびつれつつ、 映りゆく絵のなかのいそがしさ、さは繰りかへす。―― そのかげに苦痛の暗きこゑまじりもだゆる。 なべてみな悩み入る、夏の夜のいと青き光のなかに。―― 蒸し暑き軟ら風もの甘き汗に揺れつつ、 ほつほつと点もれゆく水の面のなやみの燈、 鹹からき執の譜よ………み空には星ぞうまるる。 かくてなほ悩み顫ふわかき日の薄暮のゆめ。―― 見よ、苦き闇の滓街衢には淀みとろげど、 新にもしぶきいづる星の華――泡のなげきに 色青き酒のごと空は、はた、なべて澄みゆく。 四十一年七月   樅のふたもと うちけぶる樅のふたもと。 薄暮の山の半腹のすすき原、 若草色の夕あかり濡れにぞ濡るる 雨の日のもののしらべの微妙さに、 なやみ幽けき Chopin の楽のしたたり やはらかに絶えず霧するにほやかさ。 ああ、さはあかれ、嗟嘆の樅のふたもと。 はやにほふ樅のふたもと。 いつしかに色にほひゆく靄のすそ、 しみらに燃ゆる日の薄黄、映らふみどり、 ひそやかに暗き夢弾く列並の 遠の山々おしなべてものやはらかに、 近ほとりほのめきそむる歌の曲。 ああ、はやにほへ、嗟嘆の樅のふたもと。 燃えいづる樅のふたもと。 濡れ滴る柑子の色のひとつらね、 深き青みの重りにまじらひけぶる 山の端の縺れのなやみ、あるはまた かすかに覗く空のゆめ、雲のあからみ、 晩夏の入日に噎ぶ夕ながめ。 ああ、また燃ゆれ、嗟嘆の樅のふたもと。 色うつる樅のふたもと。 しめやげる葬の曲のかなしみの 幽かにもののなまめきに揺曳くなべに、 沈みゆく雲の青みの階調、 はた、さまざまのあこがれの吐息の薫、 薄れつつうつらふきはの日のおびえ。 ああ、はた、響け、嵯嘆の樅のふたもと。 饐え暗む樅のふたもと。 燃えのこる想のうるみひえびえと、 はや夜の沈黙しのびねに弾きも絶え入る 列並の山のくるしみ、ひと叢の 柑子の靄のおぼめきも音にこそ呻け、 おしなべて御龕の空ぞ饐えよどむ。 ああ、見よ、悩む、嗟嘆の樅のふたもと。 暮れて立つ樅のふたもと。 声もなき悲願の通夜のすすりなき 薄らの闇に深みゆく、あはれ、法悦、 いつしかに篳篥あかる谷のそら、 ほのめき顫ふ月魄のうれひ沁みつつ 夢青む忘我の原の靄の色。 ああ、さは顫へ嗟嘆の樅のふたもと。 四十一年二月

    14分
  3. “Heretic” by Hakushu KITAHARA ( Unabridged ) 北原白秋『邪宗門』(全) (16)

    1月10日

    “Heretic” by Hakushu KITAHARA ( Unabridged ) 北原白秋『邪宗門』(全) (16)

    Part 16    D 沈丁花 なまめけるわが女、汝は弾きぬ夏の日の曲、 悩ましき眼の色に、髪際の紛おしろひに、 緘みたる色あかき唇に、あるはいやしく 肉の香に倦める猥らなる頬のほほゑみに。 響かふは呪はしき執と欲、ゆめもふくらに 頸巻く毛のぬくみ、真白なるほだしの環 そがうへに我ぞ聴く、沈丁花たぎる畑を、 堪へがたき夏の日を、狂はしき甘きひびきを。 しかはあれ、またも聴く、そが畑に隣る河岸側、 色ざめし浅葱幕しどけなく張りもつらねて、 調ぶるは下司のうた、はしやげる曲馬の囃子。 その幕の羅馬字よ、くるしげに馬は嘶き、 大喇叭鄙びたる笑してまたも挑めば 生あつき色と香とひとさやぎ歎きもつるる。    E 不調子 われは見る汝が不調、――萎びたる瞳の光沢に、 衰の頬ににほふおしろひの厚き化粧に、 あはれまた褪せはてし髪の髷強きくゆりに、 肉の戦慄を、いや甘き欲の疲労を。 はた思ふ、晩夏の生あつきにほひのなかに、 倦みしごと縺れ入るいと冷やき風の吐息を。 新開の街は錆びて、色赤く猥るる屋根を、 濁りたる看板を、入り残る窓の落日を。 なべてみな整はぬ色の曲……ただに鋭き 最高音の入り雑り、埃たつ家なみのうへに、 色にぶき土蔵家の江戸芝居ひとり古りたる。 露はなる日の光、そがもとに三味はなまめき、 拍子木の歎またいと痛し古き痍に、 かくてあな衰のもののいろ空は暮れ初む。    F 赤き恐怖 わかうどよ、汝はくるし、尋めあぐむ苦悶の瞳、 秀でたる眉のゆめ、ひたかわく赤き唇 みな恋の響なり、熟視むれば――調かなでて 火のごとき馬ぐるま燃え過ぐる窓のかなたを。 はた、辻の真昼どき、白楊にほひわななき、 雲浮かぶ空の色生あつく蒸しも汗ばむ 街よ、あな音もなし、鐘はなほ鳴りもわたらね、 炎上の光また眼にうつり、壁ぞ狂へる。 人もなき路のべよ、しとしとと血を滴らし 胆抜きて走る鬼、そがあとにただに餞ゑつつ 色赤き郵便函のみくるしげにひとり立ちたる。 かくてなほ窓の内すずしげに室は濡るれど、 戸外にぞ火は熾る、………哀れ、哀れ、棚の上に見よ、 水もなき消火器のうつろなる赤き戦慄。

    5分
  4. “Heretic” by Hakushu KITAHARA ( Unabridged ) 北原白秋『邪宗門』(全) (15)

    2024/12/14

    “Heretic” by Hakushu KITAHARA ( Unabridged ) 北原白秋『邪宗門』(全) (15)

    Part 15 顔の印象 六篇    A 精舎 うち沈む広額、夜のごとも凹める眼―― いや深く、いや重く、泣きしづむ霊の精舎。 それか、実に声もなき秦皮の森のひまより 熟視むるは暗き池、谷そこの水のをののき。 いづこにか薄日さし、きしりこきり斑鳩なげく 寂寥や、空の色なほ紅ににほひのこれど、 静かなる、はた孤独、山間の霧にうもれて 悔と夜のなげかひを懇に通夜し見まもる。 かかる間も、底ふかく青の魚盲ひあぎとひ、 口そそぐ夢の豹水の面に血音たてつつ、 みな冷やき石の世と化りぞゆく、あな恐怖より。 かくてなほ声もなき秦皮よ、秘に火ともり、 精舎また水晶と凝る時愁やぶれて 響きいづ、響きいづ、最終の霊の梵鐘。 以下五篇――四十一年三月    B 狂へる街 赭らめる暗き鼻、なめらかに禿げたる額、 痙攣れる唇の端、光なくなやめる眼 なにか見る、夕栄のひとみぎり噎ぶ落日に、 熱病の響する煉瓦家か、狂へる街か。 見るがまに焼酎の泡しぶきひたぶる歎く そが街よ、立てつづく尖屋根血ばみ疲れて 雲赤くもだゆる日、悩ましく馬車駆るやから 霊のありかをぞうち惑ひ窓ふりあふぐ。 その窓に盲ひたる爺ひとり鈍き刃研げる。 はた、唖朱に笑ひ痺れつつ女を説ける。 次なるは聾しぬる清き尼三味線弾ける。 しかはあれ、照り狂ふ街はまた酒と歌とに しどろなる舞の列あかあかと淫れくるめき、 馬車のあと見もやらず、意味もなく歌ひ倒るる。    C 醋の甕 蒼ざめし汝が面饐えよどむ瞳のにごり、 薄暮に熟視めつつ撓みちる髪の香きけば―― 醋の甕のふたならび人もなき室に沈みて、 ほの暗き玻璃の窓ひややかに愁ひわななく。 外面なる嗟嘆よ、波もなきいんくの河に 旗青き独木舟そこはかと巡り漕ぎたみ、 見えわかぬ悩より錨曳き鎖巻かれて、 伽羅まじり消え失する黒蒸汽笛ぞ呻ける。 吊橋の灰白よ、疲れたる煉瓦の壁よ、 たまたまに整はぬ夜のピアノ淫れさやげど、 ひとびとは声もなし、河の面をただに熟視むる。 はた、甕のふたならび、さこそあれ夢はたゆたひ、 内と外かぎりなき懸隔に帷堕つれば、 あな悲し、あな暗し、醋の沈黙長くひびかふ。

    9分
  5. “Heretic” by Hakushu KITAHARA ( Unabridged ) 北原白秋『邪宗門』(全) (14)

    2024/11/08

    “Heretic” by Hakushu KITAHARA ( Unabridged ) 北原白秋『邪宗門』(全) (14)

    Part 14 暮春 ひりあ、ひすりあ。 しゆツ、しゆツ…… なやまし、河岸の日のゆふべ、 日の光。 ひりあ、ひすりあ。 しゆツ、しゆツ…… 眼科の窓の磨硝子、しどろもどろの 白楊の温き吐息にくわとばかり、 ものあたたかに、くるほしく、やはく、まぶしく、 蒸し淀む夕日の光。 黄のほめき。 ひりあ、ひすりあ。 しゆツ、しゆツ…… なやまし、またも いづこにか、 なやまし、あはれ、 音も妙に 紅き嘴ある小鳥らのゆるきさへづり。 ひりあ、ひすりあ。 しゆツ、しゆツ…… はた、大河の饐え濁る、河岸のまぢかを ぎちぎちと病ましげにとろろぎめぐる 灰色黄ばむ小蒸汽の温るく、まぶしく、 またゆるくとろぎ噴く湯気 いま懈ゆく、 また絶えず。 ひりあ、ひすりあ。 しゆツ、しゆツ…… いま病院の裏庭に、煉瓦のもとに、 白楊のしどろもどろの香のかげに、 窓の硝子に、 まじまじと日向求むる病人は目も悩ましく 見ぞ夢む、暮春の空と、もののねと、 水と、にほひと。 ひりあ、ひすりあ。 しゆツ、しゆツ…… なやまし、ただにやはらかに、くらく、まぶしく、 また懈ゆく。 ひりあ、ひすりあ。 しゆツ、しゆツ…… 四十一年三月 噴水の印象 噴水のゆるきしたたり。―― 霧しぶく苑の奥、夕日の光、 水盤の黄なるさざめき、 なべて、いま ものあまき嗟嘆の色。 噴水の病めるしたたり。―― いづこにか病児啼き、ゆめはしたたる。 そこここに接吻の音。 空は、はた、 暮れかかる夏のわななき。 噴水の甘きしたたり。―― そがもとに痍つける女神の瞳。 はた、赤き眩暈の中、 冷み入る 銀の節、雲のとどろき。 噴水の暮るるしたたり。―― くわとぞ蒸す日のおびえ、晩夏のさけび、 濡れ黄ばむ憂鬱症のゆめ 青む、あな しとしとと夢はしたたる。 四十一年七月

    7分
  6. “Heretic” by Hakushu KITAHARA ( Unabridged ) 北原白秋『邪宗門』(全) (13)

    2024/10/11

    “Heretic” by Hakushu KITAHARA ( Unabridged ) 北原白秋『邪宗門』(全) (13)

    外光と印象 近世仏国絵画の鑑賞者をわかき旅人にたとへばや。もとより Watteau の羅曼底、Corot の叙情詩は唯微かにそのおぼろげなる記憶に残れるのみ。やや暗き Fontainebleau の森より曇れる道を巴里の市街に出づれば Seine の河、そが上の船、河に臨める Cafe の、皆「刹那」の如くしるく明かなる Manet の陽光に輝きわたれるに驚くならむ。そは Velazquez の灰色より俄に現れいでたる午后の日なりき。あはれ日はやうやう暮れてぞゆく。金緑に紅薔薇を覆輪にしたりけむ Monet の波の面も青みゆき、青みゆき、ほのかになつかしくはた悲しき Cafin の夕は来る。燈の薄黄は Whistler の好みの色とぞ。月出づ。Pissarro のあをき衢を Verlaine の白月の賦など口荒みつつ過ぎゆくは誰が家の子ぞや。 太田正雄 冷めがたの印象 あわただし、旗ひるがへし、 朱の色の駅逓馬車跳りゆく。 曇日の色なき街は 清水さす石油の噎、 轢かれ泣く停車場の鈴、溝の毒、 昼の三味、鑢磨る歌、 茴香酒の青み泡だつ火の叫、 絶えず眩めく白楊、遂に疲れて マンドリン奏でわづらふ風の群、 あなあはれ、そのかげに乞食ゆきかふ。 くわと来り、燃えゆく旗は 死に堕つる、夏の光のうしろかげ。 灰色の亜鉛の屋根に、 青銅の擬宝珠の錆に、 また寒き万象の愁のうへに、 爛れ弾く猩紅熱の火の調、 狂気の色と冷めがたの疲労に、今は ひた嘆く、悔と、悩と、戦慄と。 あかあかとひらめく旗は 猥らなるその最終の夏の曲。 あなあはれ、あなあはれ、 あなあはれ、光消えさる。 四十年十一月 赤子 赤子啼く、 急き瀬の中。 壁重き女囚の牢獄、 鉄の門、 淫慾の蛇の紋章 くわとおびえ、 水に、落日に 照りかへし、 黄ばむひととき。 赤子啼く、 急き瀬の中。 四十一年六月

    8分
  7. “Heretic” by Hakushu KITAHARA ( Unabridged ) 北原白秋『邪宗門』(全) (12)

    2024/09/13

    “Heretic” by Hakushu KITAHARA ( Unabridged ) 北原白秋『邪宗門』(全) (12)

    Part 12 狂人の音楽 空気は甘し……また赤し……黄に……はた、緑…… 晩夏の午後五時半の日光は翳を見せて、 蒸し暑く噴水に濡れて照りかへす。 瘋癲院の陰鬱に硝子は光り、 草場には青き飛沫の茴香酒冷えたちわたる。 いま狂人のひと群は空うち仰ふぎ―― 饗宴の楽器とりどりかき抱き、自棄に、しみらに、 傷つける獣のごとき雲の面 ひたに怖れて色盲の幻覚を見る。 空気は重し……また赤し……共に……はた緑……   *   *   *   *     *   *   *   * オボイ鳴る……また、トロムボオン…… 狂ほしきヴィオラの唸…… 一人の酸ゆき音は飛びて怜羊となり、 ひとつは赤き顔ゑがき、笑ひわななく 音の恐怖……はた、ほのしろき髑髏舞…… 弾け弾け……鳴らせ……また舞踏れ…… セロの、喇叭の蛇の香よ、 はた、爛れ泣くヴィオロンの空には赤子飛びみだれ、 妄想狂のめぐりにはバツソの盲目 小さなる骸色の呪咀して逃れふためく。 弾け弾け……鳴らせ……また舞踏れ…… クラリネッ卜の槍尖よ、 曲節のひらめき緩く、また急く、 アルト歌者のなげかひを暈ましながら、 一列、血しほしたたる神経の 壁の煉瓦のもとを行く…… 弾け弾け……鳴らせ……また舞踏れ……、 かなしみの蛇、緑の眼 槍に貫かれてまた歎く…… 弾け弾け……鳴らせ……また舞踏れ…… はた、吹笛の香のしぶき、 青じろき花どくだみの鋭さに、 濁りて光る山椒魚、沼の調に音は瀞む。 弾け弾け……鳴らせ……また舞踏れ…… 傷きめぐる観覧車、 はたや、太皷の悶絶に列なり走る槍尖よ、 窓の硝子に火は叫び、 月琴の雨ふりそそぐ…… 弾け弾け……鳴らせ……また舞踏れ…… 赤き神経……盲ひし血…… 聾せる脳の鑢の音…… 弾け弾け……鳴らせ……また舞踏れ……   *   *   *   *     *   *   *   * 空気は酸し……いま青し……黄に……なほ赤く…… はやも見よ、日の入りがたの雲の色 狂気の楽の音につれて波だちわたり、 悪獣の蹠のごと血を滴す。 そがもとに噴水のむせび 濡れ濡れて薄闇に入る…… 空気は重し……なほ赤し……黄に……また緑…… いつしかに蒸汽の鈍き船腹の ごとくに光りかぎろひし瘋癲院も暮れゆけば、 ただ冷えしぶく茴香酒、鋭き玻璃のすすりなき。 草場の赤き一群よ、眼ををののかし、 躍り泣き弾きただらかす歓楽の はてしもあらぬ色盲のまぼろしのゆめ…… 午後の七時の印象はかくて夜に入る。 空気は苦し……はや暗し……黄に……なほ青く…… 四十一年九月   風のあと 夕日はなやかに、 こほろぎ啼く。 あはれ、ひと日、木の葉ちらし吹き荒みたる風も落ちて、 夕日はなやかに、 こほろぎ啼く。 四十一年八月   月の出 ほのかにほのかに音色ぞ揺る。 かすかにひそかににほひぞ鳴る。 しみらに列立つわかき白楊、 その葉のくらみにこころ顫ふ。 ほのかにほのかに吐息ぞ揺る。 かすかにひそかに雫ぞ鳴る。 あふげばほのめくゆめの白楊、 愁の水の面を櫂はすべる。 吐息のをののき、君が眼ざし やはらに縺れてたゆたふとき、 光のひとすぢ――顫ふ白楊 文月の香炉に濡れてけぶる。 さてしもゆるけくにほふ夢路、 したたりしたたる櫂のしづく、 薄らに沁みゆく月のでしほ ほのかにわれらが小舟ぞゆく。 ほのめく接吻、からむ頸、 いづれか恋慕の吐息ならぬ。 夢見てよりそふわれら、白楊、 水上透かしてこころ顫ふ。 四十一年二月

    13分
  8. “Heretic” by Hakushu KITAHARA ( Unabridged ) 北原白秋『邪宗門』(全) (11)

    2024/08/09

    “Heretic” by Hakushu KITAHARA ( Unabridged ) 北原白秋『邪宗門』(全) (11)

    Part 11 下枝のゆらぎ 日はさしぬ、白楊の梢に赤く、 さはあれど、暮れ惑ふ下枝のゆらぎ…… 水の面のやはらかきにほひの嘆 波もなき病ましさに、瀞みうつれる 晩春の窓閉す片側街よ、 暮れなやむ靄の内皷をうてる。 いづこにか、もの甘き蜂の巣のこゑ。 幼子のむれはまた吹笛鳴らし、 白楊の岸にそひ曇り黄ばめる 教会の硝子窓ながめてくだる。 日はのこる両側の梢にあかく、 さはあれど、暮れ惑ふ下枝のゆらぎ…… またあれば、公園の長椅子にもたれ、 かなたには恋慕びと苦悩に抱く。 そのかげをのどやかに嬰児匍ひいで 鵞の鳥を捕らむとて岸ゆ落ちぬる。 水面なるひと騒擾、さあれ、このとき、 驀然に急ぎくる一列の郵便馬車よ、 薄闇ににほひゆく赤き曇の 快さ、人はただ街をばながむ。 灯点る、さあれなほ梢はにほひ、 全くいま暮れはてし下枝のゆらぎ…… 四十一年八月 雨の日ぐらし ち、ち、ち、ち、と、もののせはしく 刻む音…… 河岸のそば、 黴の香のしめりも暗し、 かくてあな暮れてもゆくか、 駅逓の局の長壁 灰色に、暗きうれひに、 おとつひも、昨日も、今日も。 さあれ、なほ薫りのこれる 一列の紅き花罌粟 かたかげの草に濡れつつ、 うちしめり浮きもいでぬる。 雨はまたくらく、あかるく、 やはらかきゆめの曲節…… ち、ち、ち、ち、と絶えずせはしく 刻む音…… 角窓の玻璃のくらみを 死の報知ひまなく打電てる。 さてあればそこはかとなく 出でもゆく 薄ぐらき思のやから その歩行夜にか入るらむ。 しばらくは 事もなし。 かかる日の雨の日ぐらし。 ち、ち、ち、ち、ともののせはしく 刻む音…… さもあれや、 雨はまたゆるにしとしと 暮れもゆくゆめの曲節…… いづこにか鈴の音しつつ、 近く、 はた、速のく軋、 待ちあぐむ郵便馬車の 旗の色見えも来なくに、 うち曇る馬の遠嘶。 さあれ、ふと 夕日さしそふ。 瞬間の夕日さしそふ。 あなあはれ、 あなあはれ、 泣き入りぬ罌粟のひとつら、 最終に燃えてもちりぬ。 日の光かすかに消ゆる。 ち、ち、ち、ち、ともののせはしく 刻む音…… 雨の曲節…… ものなべて、 ものなべて、 さは入らむ、暗き愁に。 あはれ、また、出でゆきし思のやから 帰り来なくに。 ち、ち、ち、ち、ともののせはしく 刻む音…… 雨の曲節…… 灰色の局は夜に入る。 四十一年五月

    11分

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  • 日本文学を逍遥致しませんか。 毎月、第一日曜日(小説、エッセイ等)、第三日曜日(古典)を配信しています。 私の声は決して美声とは言えませんが、子供の頃に母が就寝前に本を読み、作り出してくれた穏やかな夜の雰囲気を思い出しながら、心地よい朗読であるよう努めています。このポッドキャストの制作者であり朗読者として、日本文学の旅のお手伝いができることを心より願っています。 / Scheduled episodes: Every month, the first Sunday (novels, essays, etc.), the third Sunday (classics). Now, grab your Matcha, find a comfortable spot, and sit back. You're invited to immerse yourself in the rich world of Japanese literature with our latest podcast episode. Whether you're a long-time fan or new to the genre, there's something here for everyone. Tune in, relax, and let the storytelling transport you to another time and place. As the sole creator and narrator of this podcast, I sincerely hope to contribute to an understanding of the essence of both classical and contemporary Japanese literature.

  • Welcome to “Noh Stories from Japan’s Legendary Stage,” a program dedicated to introducing the enchanting world of Noh theatre. Hosted by Noh enthusiast Kaseumin (カスミ), this program bridges the beauty of Japanese tradition with a global audience through engaging English introductions and immersive Japanese audiobooks. In our introduction episodes, presented in English, you’ll gain insights into the historical and cultural significance of each Noh play. These episodes explore the themes, characters, and artistry that define Noh theatre, offering clear explanations designed to make this timeless art form accessible to everyone. Whether you are new to Noh or a seasoned enthusiast, these introductions provide the perfect entry point to Japan’s legendary stage. In our audiobook episodes, enjoy Japanese readings of Yōkyoku Monogatari by Mankichi Wada, a writer deeply knowledgeable about Noh. Yōkyoku Monogatari presents the stories of Noh plays in a concise and accessible form, with each story spanning approximately 10 pages. Immerse yourself in the refined and elegant Japanese prose, and experience the lyrical beauty and emotional depth of this timeless art form. This program also occasionally delves into essays by renowned Japanese authors about Noh, offering additional perspectives on this art form’s significance. Join us as we celebrate the elegance of Noh theatre, sharing stories that continue to resonate across generations. Perfect for lovers of literature, theatre, and Japanese culture, this program offers a unique blend of accessibility, artistry, and cultural depth. カスミがご案内する「Noh Stories from Japan’s Legendary Stage」へようこそ! お能の素人愛好家であるカスミが、英語で能の演目をご紹介し、日本語で能にまつわる物語を朗読します。 エピソードでは、主に以下の内容をお届けします: 英語でのあらすじ紹介: 能の歴史や文化的背景、物語のテーマや登場人物、そして能楽の魅力を分かりやすくお伝えします。 日本語での朗読: 能に造詣の深かった和田万吉の『謡曲物語』を朗読します。『謡曲物語』では能の演目が、それぞれ10ページ程度の分かりやすい物語として描かれています。格調高く美しい日本語の文章をお楽しみください。 能に関する文豪のエッセイ: 日本の文学者が綴った能に関するエッセイなども取り上げる予定です。 能楽の魅力を多角的にお伝えするこのプログラムを、どうぞお楽しみください。宜しくお願い致します。

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評価とレビュー

5
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4件の評価

番組について

毎月、第二日曜日にエピソードを公開しています。/ Episodes are released on the second Sunday of each month. Introducing "和歌、俳句、詩。Waka, Haiku & Poem: Step into a captivating realm of Japanese poetry with "和歌、俳句、詩。Waka, Haiku & Poem." As the immersive audiobook podcast, I invite you to indulge in the sheer delight of the soundscape, transcending language barriers and Japanese proficiency levels. Here, the joy of the auditory experience takes center stage, allowing you to immerse yourself in the captivating beauty of Japanese verse, regardless of your language skills. With its title, "和歌、俳句、詩。Waka, Haiku & Poem," my podcast encompasses the rich tapestry of poetic expressions found in Japanese culture. Embracing the concept of an audiobook, I present a unique opportunity to appreciate the melodic cadence and emotive power of the spoken word. You can bask in the enchanting sounds of Japanese poetry, irrespective of your level of understanding of the language. This podcast is a sanctuary for all poetry enthusiasts, regardless of your Japanese language level. Even if you are a beginner or have yet to explore the intricacies of the language, you can revel in the beauty of the sounds themselves. Allow the melodic cadence and rhythmic flow of the verses to captivate your senses and awaken a newfound appreciation for the artistry of Japanese poetry. Join our diverse community of listeners who find solace and inspiration in the auditory experience of "和歌、俳句、詩。Waka, Haiku & Poem." Subscribe today and embark on an enchanting journey through the world of Japanese verse, where the beauty of the sounds transcends language proficiency, and the pure enjoyment of the auditory experience takes precedence. Let the magic of this audiobook podcast transport you to a realm of poetic delight, where the language of the heart resonates with the melodic vibrations of Japanese verse.

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