森雪之丞 Poetry Readingの世界『感情の配線』

カーニバルの魔術師(魔術師=猪塚、旅人=森) <代官山 蔦屋書店スペシャルSeason.1より>

カーニバルの魔術師(魔術師=猪塚、旅人=森) <代官山 蔦屋書店スペシャルSeason.1より>

魔術師:「 私のせいにすればいい。」
 旅人:と怪しげな魔術師が言う
 旅人:三角テントの中の青い闇を吸い込むと
    水晶玉に心が映し出されてしまいそうで
    私は脅えている

魔術師:「おまえが人間である以上
    絶望の霧が晴れることはない。
    だが胸に秘めた情熱を解き放つ
    カーニバルの夜は必ずやって来る。」

 旅人:確かに恋人を失ってから
    何のために旅を続けるのか
    答えを探せずにいたのは事実だ

魔術師:「旅の途中でカーニバルに出会ったら
    ためらわずこの薬を飲め。
    そして私の魔法のせいにして
    欲望のままに踊り狂えばいいのだ。」

 旅人:半信半疑で薬瓶を受け取り
    逃げるように立ち去る私の背中に
    魔術師はこう付け加えた

魔術師:「夢を見るとは
    迷うことを楽しむことなのじゃよ。」

 旅人:数日後私はある街で
    賑やかなカーニバルに出くわした
    中央の広場にはサーカス小屋が立ち
    人気者のピエロが観客の笑いを集めていた
    見えない壁に何度もぶつかり何度も撥ね返される
    彼の滑稽なパントマイムは
    人生を比喩しているようにも思え 心が震えた

    だがそれと同時に僕は気づいていた
    あのピエロは数日前のインチキな魔術師と同じ男だと…
    そしてさっき飲んだ魔法の薬が
    咳止めシロップと同じ味だったことを思い出し
    苦笑いした

    そうアイツの言ったとおりかもしれない
    迷うことを楽しめたら
    人は永遠に 夢を見続けられるのだ

《for your ears only ver.》

1976 年作詞作曲家としてデビュー以来、昭和・平成・令和の3 世代でジャンルを超えてヒットチューンを生み出し続ける森雪之丞が、自選詩集『感情の配線』の発売を記念して詩を朗読する番組。
メロディーを脱ぎ捨てた諧謔とエロスと波動(グルーヴ)詩人・森雪之丞の言葉の軌跡を是非ご体感ください。

森雪之丞 自選詩集『感情の配線』
2024年1月14日(日)発売
特設サイト:⁠https://www.mori-yukinojo.com/emotional_wiring/⁠

ハッシュタグ:#感情の配線 #推詩森雪之丞
スタッフX:⁠⁠⁠⁠ ⁠https://x.com/yukinojo_news