市場の風を読む

モルガン・スタンレーが配信する金融ポッドキャスト「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)では、マーケットに影響を与える様々な事象について当社のソートリーダーによる考察をお届けします。

  1. クレジットスプレッドが縮小している時期に気を付けること

    AUG 22

    クレジットスプレッドが縮小している時期に気を付けること

    クレジットスプレッドが20年以上見られなかった水準にまで縮小しています。企業セクターが健全であることを示唆する現象ですが、弊社コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツは、投資家が今後気を付けて見ていく要因が2つあると指摘しています。 このエピソードを英語で聴く。 トランスクリプト  「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。 本日は、クレジットスプレッドが20数年ぶりの水準に縮小していることをどう解釈すべきなのか、この状況に変化をもたらし得るものは何かという2点について、弊社コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツがお話しします。 このエピソードは8月22日 にロンドンにて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。 投資家が企業にお金を貸すときに得る利回りは、政府にお金を貸すときの利回りよりも高くなります。この差のことをクレジットスプレッドと言います。そのような差が利回りに生じるのは、リスクが異なると認識されているからです。そして債券投資家は、この差は本来どうあるべきなのかを考え、議論し、取引することに長い時間を費やします。 クレジットスプレッドは、当該企業の格付けが引き下げられると拡大します。またその拡大の幅は、満期までの期間が長い債券の方が、短い債券よりも大きくなるのが普通です。投資家がクレジットに投資するのは、国債利回りに上乗せされているクレジットスプレッドの一部をあわよくば手に入れたい、それも、追加リスクをさほど負わずにそうしたいと考えるからです。 ところが今日(こんにち)の市場では、このクレジットスプレッドが非常に小さく――相場用語で言えば「タイト」に――なっています。米国では、投資適格の社債を購入しても、年限の同じ米国債よりおよそ約4分の3%、つまり75ベーシスポイント高い利回りしか受け取れないのが実情です。欧州でも、最も安全と言われるドイツ国債と欧州企業の社債との利回りの差は同じくらい小さくなっています。 クレジットスプレッドがここまで小さくなるのは、米国では1998年以来、欧州では2007年以来のことです 。では、果たして何が起きたらこの状況は変わると考えられるでしょうか。 投資のバリュエーションについて考える1つの方法は、――そして、スプレッドは間違いなくバリュエーションの指標の1つだと言えますが――長期間にわたり持続した前例がひとつも見当たらないくらい極端な水準か否か、という観点があげられます。ただクレジットの場合、この議論は厄介です。スプレッドが今の水準よりの低かった時期は何度かありました。米国では1990年代の半ば、欧州では2000年代の半ばにそれぞれ観察されており、いずれも何年か続いていたのです。それにもっと昔、それこそ1950年代まで振り返ってみると、米国のクレジットスプレッドはさらに低かったようなのです。 スプレッドはリスク・プレミアムの指標でもありますが、リスク・プレミアムについて考えるもう一つの方法は、自分が取った超過リスクに見合っているか自問することです。この場合も、スプレッドが非常に小さいため厄介です。社債に投資してもわずか4分の3%つまり75ベーシスポイントの超過リターンしか得られないというのは、時折相場に目を通すだけの人にとっても、このポッドキャストを聞いてくださっている経験豊富な社債投資のプロの方にとっても、何だかスズメの涙のように思われます。しかし弊社が過去のデータを分析したところ、投資適格の社債にそれなりに長い期間投資したときの超過損失、すなわち同じ時期の国債投資による損失を上回る損失は、実はさきほど述べた、4分の3%のおよそ半分であることが分かりました。そしてこの関係は、比較的長い期間続いているのです。 それに、スプレッドが過去の基準に照らして非常に小さい時期でも、極端なバリュエーションがすぐに修正されるとは限りません。何らかの力が働いて相場に衝撃が及ばなければならないケースが多いのです。今日(こんにち)のクレジット市場は投資家の旺盛な需要、全般に良好な利回り、そして政府よりも良好な借り入れ見通しという3点に恵まれていることから、弊社としては、この状況に変化をもたらすかもしれない次の2つの要因に注目していこうと考えています。 1つ目は経済成長の鈍化です。成長率が今よりも低下すれば、企業向け貸付のリスクプレミアムの上昇が必要だという主張が強まるでしょう。米国がリセッション(景気後退)にある時期には、クレジットスプレッドは程度の差こそあれ、常に現在の水準を大幅に上回っていました。過去1世紀のデータを見てもそうなのです。したがって、リセッション入りの恐れが強まるときには、クレジットがそれを察知するはずだと思われます。 2つ目は政府の財政見通しです。現在の見通しは企業のそれよりも悪く、クレジットスプレッドが通常よりタイトになることを裏付ける状況になっています。また先日成立した米国の予算案は、法人税の減税を民間セクターに拡大する一方で長期国債の発行増加を見込んでいたため、財政見通しを一段と悪化させるだけでした。しかし本当のリスクは、企業がこうした追い風に乗じて慎重さを忘れ、投資やほかの企業の買収のために借り入れを再び増やし始めることでしょう。 弊社では、この種のアニマル・スピリットをまだ観察していません。しかし、経済成長が続けば、普通であればそうした動きが出てくるのは時間の問題だというのが歴史の教えるところです。 最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

    8 min
  2. 強弱材料入り混じるデータを受け、FRBは次にどう動くか

    AUG 20

    強弱材料入り混じるデータを受け、FRBは次にどう動くか

    7月の雇用統計とCPIが強弱材料が混在する内容だったことを踏まえ、市場はすでにFRBの利下げを織り込み済みです。グローバルエコノミストのアルニマ・シンハーが、利下げに向けたハードルが上がったという弊社の基本ケースを維持する理由について解説します。 このエピソードを英語で聴く。 トランスクリプト  「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。 本日はグローバルエコノミストのアルニマ・シンハーが、7月のCPI発表後のFRBの政策路線や、他の中央銀行に与えるより広範囲な影響について弊社の見解をお話します。 このエピソードは8月20日 にニューヨークにて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。 弊社の基本ケースは、FRBが年内、政策金利を据え置くというもので、先週発表されたCPIはこの見解を変えるものではありませんでした。以前指摘したように、関税措置の実施の遅れに伴い、平均の関税率はなおも上昇しているため、物価への累積的な影響はさらに遅れる可能性があります。CPI統計では、アパレルと自動車を除き、関税の影響を受けやすい財の価格は7月も上昇しました。予想外だったのはサービス部門で、今年の大半においてデフレ傾向だった航空運賃やホテル料金が上昇したことが主因となり、サービス価格の上昇が再び加速しました。 関税の影響で夏の間にインフレが加速するという弊社の見解に反する要点の中には、サービス部門のディスインフレが相殺する可能性があるとの見方もありました。しかし、今回の発表で明らかになったように、その可能性はなさそうです。サービスインフレは今後も減速すると予想していますが、2025年前半に見られたサービス部門のディスインフレは、基調の弱さや値動きの激しさによって誇張されていたと考えており、コアCPIとコアPCEの上昇率はいずれもまだ去年 昨年とほぼ同じ水準で推移しています。  このため、夏の間に関税の影響で財のインフレがさらに加速することで、インフレ率はFRBの目標を大幅に上回る水準にとどまるでしょう。7月の雇用統計とCPIの発表を受け、9月の金利据え置きに向けたバードルが上がったのは明らかです。では、弊社の基本シナリオに対するリスクは何でしょうか。  9月の会合までの間にデータに対するFRBの金融政策反応関数がどう展開するか、というポイントに立ち返ります。8月の雇用統計が重要となるでしょう。雇用者数の伸びが前月比で加速し、失業率が4.2%から4.3%前後になるなど、雇用統計が堅調な内容であれば、FRBは5月と6月の雇用統計の弱さについて、相互関税導入が発表された「解放の日」以降の不確実性が減速の原因であり、基本的な傾向を表すものではないとしておそらく目をつぶるでしょう。 しかし、雇用ペースが大幅に鈍化すれば、FRBは労働市場は予想していたよりもはるかに弱いと判断し、緩和を再開する可能性があります。リスク管理の観点から利下げを行う可能性もあります。ただ現時点では、JOLTSと呼ばれる求人労働異動調査や新規失業保険申請件数などの、他の雇用市場指標では雇用の大幅減速は示されていません。 インフレ率が目標をはるかに上回る水準で推移していても、FRBは7月の雇用統計を、労働市場へのダウンサイドリスクを示す明らかな兆候と捉え、緩和サイクルを開始する可能性があります。FRB関係者らのメッセージはこれまでのところまちまちで、雇用統計を警鐘と受け止める関係者もいれば、失業率はなおも低いとしてそれほど懸念を示さない関係者もいます。 米国外では、各国中銀の政策軌道は引き続きFRBの道筋や、刻々と変わる米国の成長見通しに密接に結びついています。先般の雇用市場データは、ECBと日銀についての弊社シナリオにダウンサイドリスクをもたらしました。 欧州では、ユーロ高が続き、米国のリセッションリスクが高まれば、弊社の欧州担当エコノミストは、9月の緩和路線を予想する基本ケースに対するリスクが減少すると考えるでしょう。日本では、日銀が慎重姿勢を崩していません。米国のデータがより堅調なものになれば、バランスは年内の利上げに傾く可能性があります。ただ、10月の利上げのハードルは依然として非常に高いため、12月以降と考えるのが妥当でしょう。とは言え、米国経済が弊社の予想通りに減速すれば、日銀の追加利上げの可能性は低下し、日銀は2026年末まで政策を据え置くという弊社の基本ケースの裏付けがさらに強まるでしょう。 最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

    7 min
  3. FRBの経路に関する意見の相違

    AUG 14

    FRBの経路に関する意見の相違

    市場はFRBによる9月の利下げを見込んでいますが、弊社の意見は異なります。弊社コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツが弊社の見方を解説し、企業クレジットの3つのシナリオを示します。 このエピソードを英語で聴く。 Transcript: トランスクリプト  「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。 本日は、来月のFRBの対応に関する弊社と市場の見方に大きな違いがあることと、それを踏まえた企業クレジットに対する弊社の見方を弊社コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツが解説します。 このエピソードは8月14日 にロンドンにて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。 この動画を録画している時点で、市場は およそ約97%の確率でFRBが次回の会合で利下げに踏み切ると見ています。しかし、弊社エコノミストは金利据え置きの可能性が高いと考えています。非常に重要な議論についての見解が大きく分かれています。 しかし、根本的に意見が異なるように見えるかもしれませんが、実は前提条件はかなり分かりやすいといえます。FRBは物価の安定と雇用の最大化という、いわゆる2大責務を負っています。 失業率は低いものの、インフレ率は、ここが肝心ですが、低いとは言えません。景気を大幅に悪化させずに、インフレ率を確実に低下させるためには、ある程度長い期間、金利をある程度高く保つことが合理的だと弊社は考えています。このため弊社はFRBが9月会合で金利を据え置くと予測しています。 確かに、市場は今週発表された直近のインフレ率に反応して上昇しましたが、FRBにはかなり重要な問題が残されています。米国のコアインフレ率はFRBの目標を上回っています。すでに1年以上、この水準近辺で推移しています。今週の直近データに基づくと、実際は再び上昇し始めており、関税の影響が徐々に現れて、この先数回はこの基調が続く可能性があると弊社は考えています。 そのため、クレジットに関しては3つのシナリオが考えられます。良いシナリオがひとつ、厄介なシナリオが2つです。 良いシナリオとは弊社のインフレ予想が単に高すぎる場合です。景気が持ちこたえてもインフレが弊社の予想より早く緩和します。そのため、FRBは弊社の予想よりも早期に速いペースで利下げが可能になります。このシナリオは現在のスプレッドが薄い状況でもクレジットにとって好ましく、トータルリターンが上昇する確率が高いでしょう。 2番目のシナリオでは、インフレ率は弊社の短期予想通りに上昇しますが、FRBはどのみち利下げします。それは良いシナリオではないのか、クレジット市場は金利低下を歓迎しないのか、と思うかもしれません。でも、他の条件がすべて同じならば、利下げは景気を刺激するためインフレ率は上昇する傾向があります。したがって、インフレ率がFRBの目標を依然として上回っている場合、成長が加速して景気が過熱し、物価が上昇する確率が高まります。 この種の組み合わせは株式市場には歓迎されるかもしれません。このような景気拡大期には活況となるためです。しかし、同じ環境がクレジットにとっては非常に厳しいものとなりがちです。そして、FRBが利下げしてインフレが低下しなければ、FRBは向こう1、2年の利下げ回数を全体として減らさざるを得ないかもしれません。さらに悪ければ、利下げから利上げへと逆転を迫られる可能性もあり、変動の大きい経路はクレジット市場には歓迎されないでしょう。 3番目のシナリオは、成長率、インフレ率、FRBに関する弊社の予想がすべて正しい場合です。現時点では来月の利下げが広く予想されていますが、FRBは来月の利下げを見送ります。これはクレジット市場にとって中期的に悪くないシナリオだと思われますが、非常に大きなサプライズとなるでしょう。ただ、市場の予想と比べて、信じられない程ではありません。 市場は当面、高い確率で夏枯れ相場に戻ると思われます。ただ、夏の終わりの弊社の予想は他とはかなり異ることを意識しています。 最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

    6 min
  4. AIはスポーツのデジタル革命をどう牽引しているか

    AUG 11

    AIはスポーツのデジタル革命をどう牽引しているか

    モルガン・スタンレー・リサーチは人口動態、オーナーシップ、ディストリビューションにおける変化が、世界のスポーツ業界に大変革をもたらす技術導入をいかに促進し得るかを考察する。 このエピソードを英語で聴く。 トランスクリプト  「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。 本日は中南米テクノロジー・メディア・通信担当アナリストのセサル・メディーナが、何がグローバルスポーツのデジタル革命を牽引しているか、そして投資家やファンにとってそれが何を意味するのかについてお話します。 このエピソードは8月11日 にニューヨークにて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。 最近は家でスポーツイベントを観戦すると言えば、通常、4K対応の大型HDRディスプレイで大きな試合をストリーミング視聴することを意味します。プレミアムイベントなら、恐らく8K放送を視聴することもあるでしょう。セカンダリー・デバイスのアプリやソーシャル・メディアからリアルタイム・スタッツにアクセスする場合もあるでしょう。友人とグループチャットを楽しむこともできます。 しかし、パーソナライズされたリアルタイム・スタッツにアクセスできる試合を想像してみてください。イマーシブな代替カメラアングルや、プレーヤーの目線から試合を体験できる機能など、全てがAIによって可能になったとしましょう。これらの革新的技術はすでにテストされており、一部の競技で導入されています。 グローバルスポーツの年間売上高は5,000億ドルに上ります。これだけの売り上げがあるにもかかわらず、ごく最近までスポーツ業界はデジタル技術の導入に及び腰で、映画業界や音楽業界に後れを取っていました。現在、それが変わりつつあります。しかも急速に、です。 では、何がこの変化を推進しているのでしょうか。 3つの強い力がこのデジタルギャップを埋めつつあります。1つ目は、よりイマーシブでパーソナライズされた体験を求める、テクノロジーに精通した若い視聴者です。2つ目は、デジタルプラットフォームを導入した、新しいディストリビューションモデルです。そして3つ目は、資本を投じ、近代化を促す組織的な投資です。 これらの全てのことはファンや投資家、エンタテインメントの将来にとって何を意味するのかとお尋ねになりたいことでしょう。 まず、ファンについて考えてみましょう。現在のスポーツファンはただ観ているだけではなく、交流、ベッティング、ゲーム、共有などを楽しんでいます。そして、先導しているのが若年層のファンです。若者はオンラインに費やす時間が他の年齢層よりも長く、非常にパーソナライズしたコンテンツを期待しています。チームよりも個々の選手に強い関心を抱いており、ソーシャルメディアやファンタジースポーツ、インタラクティブ・プラットフォームを通じてスポーツに興じています。 35歳未満のファンは、体験がデジタルファーストであれば、スポーツに支出する可能性が他の年齢層よりもはるかに高いことが調査で明らかになっています。一部の競技では、インタラクティブ機能の導入後、視聴率が40%上昇しました。AIを使ってコンテンツをパーソナライズし、エンゲージメントや売上高を増やしている競技もあります。 デジタル・トランスフォーメーションは試合観戦だけに関わるものではなく、エコシステム全体の再構築に関わることです。ライブイベントの場合、スマート・べニューでは、天候や相手チーム、需要に基づいてチケット料金を調整するためにAIを利用しています。入場やチケット購入のスピードを速めるために顔認証を使っている場合もあります。ストリーミング・プラットフォームは放映をよりインタラクティブなものにするとともに、予測技術によって無許可放送を撃退します。エンゲージメントについては、ファンタジースポーツ、eスポーツ、ベッティングが急増しています。AI搭載プラットフォームは、ファンがよりスマートなピックを行うのに役立っており、ひいては支出拡大につながっています。 結局のところ、これらの技術革新はグローバルスポーツの売上高を25%余り、金額にして1,300億ドル以上増加させる可能性があります。  収益化の点で先頭を走るのは北米ですが、新興市場も急速に追いついています。例えば、インド、ブラジル、中東では、スポーツフランチャイズが金額で二桁成長を遂げており、従来のメディアを上回る勢いを見せることもあります。 重要なポイントですが、これらの地域の多くは人口に占める若年層の割合が高く、デジタルの導入もより急速に増えています。これが本格的な成長の秘訣です。一方、ニッチ・スポーツや女性リーグも世界の関心を集めており、メインストリーム・エンタテインメントの定義は拡大しています。 もちろん、こうしたスポーツ業界の変化は現実の障害に直面しています。つまり、技術的な専門知識、予算の制約、コーチや選手からの文化的な抵抗です。しかし、インセンティブは明確です。プライベートエクイティーや政府系ファンドからスポーツに投じられる資本が増えるにつれ、デジタル・トランスフォーメーションは戦略的な最優先事項になりつつあります。 では、最大の要点は何でしょうか。 グローバルスポーツはもはや競技場で起きていることだけに関わるものではありません。ファンが電話や自宅、将来のスタジアムでこれをどう体験するかに関わるものです。従って、投資家であれ、ファンであれ、あるいは単に素晴らしいアンダードッグストーリーを愛する人であれ、これは観る価値のある試合なのです。 最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

    8 min
  5. スタグフレーションの気配

    AUG 7

    スタグフレーションの気配

    これまでのところ、市場はボラティリティがあるにもかかわらず、底堅さを示しています。しかし、弊社コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツは、今後数ヵ月で経済指標に変化が生じ、利回りにも影響が及ぶかもしれないとみています。 このエピソードを英語で聴く。 トランスクリプト  「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。 本日は、今後2ヵ月間が今年に入ってからの半年余りとはかなり異なる、それこそスタグフレーションのように感じられる厄介な時期になるかもしれないことについて、弊社コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツがお話しします。 このエピソードは8月7日 にロンドンにて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。 2025年に入ってからの関税をめぐる大騒ぎにもかかわらず、金融市場は底堅さを示しています。株価は上昇し、債券利回りは低下しています。クレジット・スプレッドはおおむね20年ぶりのタイトな水準になっており、先月には市場のボラティリティも急低下しました。 実際、市場は関税というテストに直面し、今年2月からはその話で持ち切りでしたがその難局を切り抜けたとの見方に対する安心感は強まってきているようです。今年はこれまでのところ、経済成長は全般に持ちこたえており、インフレ率も全般に低下しており、企業業績も全般に好調です。 ただ、これはぬか喜びかもしれないと弊社は考えています。関税の厄介な影響? そうですね、経済指標にはもう出始めているかもしれませんし、今後数ヵ月間でさらに出てくるでしょう。 関税がもたらすとされるリスクについて考えるときには、必ず2つの面が検討されます。ひとつは物価の上昇であり、もうひとつは経済活動の鈍化です。企業をめぐる不確実性が高まり、経済成長率が低下するのです。先週の経済指標を振り返ってみましょう。まず、FRBが好むインフレ指標、いわゆるコアPCEインフレ率は、物価が再び上昇していること、それもこれまでよりペースが速くなっていることを示していました。米国労働市場の健康状態を教えてくれる重要な雇用統計では、雇用の伸びの鈍化が見られました。そして、現実世界のサプライ・チェーンの真っただ中にいる方々が回答しているために市場でフォローされている米サプライマネジメント協会(ISM)の重要な調査では、新規受注の減少と、企業が支払うコストの増加が示されました。要するに、物価の上昇と成長の減速です。まとめてスタグフレーションと呼ばれることの多い、好ましからざる現象です。 ひょっとしたら、この週だけが悪かったのかもしれません。しかし、やはり気になります。というのは、このようなデータがもっと出てくるだろうと弊社モルガン・スタンレーのエコノミストたちが思っているほぼそのタイミングでの出来事だからです。弊社エコノミストは、今年下半期の米国の経済成長率は上半期よりも大幅に低下すると予測しています。具体的には、次の3ヵ月間に前月比の物価上昇率が急上昇する一方、経済活動も鈍る公算が大きいとみています。 そのようなデータは、今年に入ってから目にしてきたものとは異なるパターンになるでしょう。つまり、これらの予想が正しければ、市場はすでにテストに合格したということにはなりません。先生が教室でテストの問題を配っている段階にすぎないことになってしまうのです。 このため、クレジット市場は今後数ヵ月間、落ち着かない相場展開になり、スプレッドがいくらか拡大する可能性があると弊社ではみています。クレジットには投資対象としての利点がまだ数多く備わっています。利回りは魅力的で、企業業績も全般に好調です。しかし、経済成長の鈍化とインフレ率の上昇という組み合わせは、新しい現象です。しかもそれが、クレジットにとっていくぶん厳しい時期になることの多い、8月と9月という2ヵ月間に現れることになります。そのため弊社は、好調な相場も一服することになるだろうとみています。 最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

    6 min
  6. 株式市場がFRBの先を行く理由

    AUG 4

    株式市場がFRBの先を行く理由

    経済指標は過去を見つめ、株式市場は将来に目を向ける。そしてそのために、米連邦準備制度理事会(FRB)は政策金利の上げ下げで後れを取る――どうしてそうなるのでしょうか。しかも、これは金融政策の特徴であって欠陥ではないとされるのはなぜなのでしょうか。弊社の最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンがご説明します。 このエピソードを英語で聴く。 トランスクリプト  「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。 本日は、なぜ株式の売買のされ方と経済指標とが直感に反した動きになるのか、弊社最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンがお話しします。 このエピソードは8月4日 にニューヨークにて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。 株式市場は4月の安値以降、押し目買いを入れられる局面すら見せずに一本調子で上昇しています。私自身は5月の初めから強気を貫いていますが、これは主に、EPS予想のリビジョン・インデックスが4月半ばからV字回復を遂げ始めたことによります。このリビジョン・インデックスの反転は、関税をめぐる弱気が最高潮に達したことの反動、人工知能(AI)関連設備投資の底入れ、そして米ドル安を受けて変動する関数になっています。先日成立した「1つの大きく美しい法案」による税負担の軽減も企業のキャッシュフローを改善する好材料であり、設備投資やM&A(企業の合併・買収)を増やす公算が大きいでしょう。 いつものことながら株式は、前向きな心理と、しばらく時間がたってから発表される経済指標を先取りしつつ売買されます。これが今日のお話の主なポイントです。 先週発表された雇用統計は芳しくない内容で、短期的には、不安を覚える投資家もいるかもしれません。しかし結局のところ、これもまた株価にとっての新たな好材料のひとつにすぎないと弊社ではみております。仮に雇用がさらに悪化するとしても、それはFRBの利下げを早め、その幅を大きくするだけでしょう。 これには債券市場も同意してくれているらしく、今ではFRBが9月に利下げに踏み切る可能性が90%あるとの見方が相場に織り込まれつつあります。また2年物米国債利回りも、今ではフェデラル・ファンド (FF)金利を80ベーシスポイント下回っています。このスプレッド自体は、去年 昨年夏に記録した200ベーシスポイントに比べればシビアなものではありません。しかし、来月発表の雇用統計が再び失望を誘う内容になれば、さらに拡大するでしょう。 芳しくない経済指標がさらなる株価下落につながる場合もありますが、雇用統計は弊社がフォローしている経済指標のなかで最も過去に重きを置いたデータだと言えます。そして、FRBの利下げが後手に回るケースが多い理由もここにあります。また、インフレ指標は2番目に過去に重きを置いたデータだと言えますが、こちらはFRBの利上げも後手に回ることが多い理由となります。私に言わせれば、これは金融政策の特徴です。欠陥ではありません。 最後に、これは私見ですが、トランプ大統領がパウエル議長に公の場で利下げを求めていることよりも、債券市場の影響力のほうが重要です。 株式市場もこの力を理解しています。そしてこのことは、株式市場も景気循環の様々な局面でFRBの先を行く理由となっています。弊社がMid-Year Outlook で指摘したように、4月の株式市場で見られた安値は、マイルドな景気後退を事実上織り込んだ非常に耐久性のある安値でした。この見方を完全に理解するには、株価が今年4月までの12ヵ月間調整していたこと、そして株価の下落率の平均が30%近かったことを認識しなければなりません。そしてそれ以上に重要なのは、株価が底を付けたのは、EPS予想のリビジョン・インデックスが大きな谷を描き出したまさにその時だったということです。 端的に言えば、「解放の日」は1年前に始まった重要な弱気相場の終わりを告げた日だったのです。 株式市場は悪いニュースで底を打ちます。そして「解放の日」は、数多く連なってきた悪いニュースの最後のピースでした。それによってEPS予想のリビジョン・インデックスが底を打ち、弊社はそこに焦点を当ててきたのです。 話をまとめましょう。経済指標は過去に重きを置き、EPS予想のリビジョン・インデックスと株式市場は将来に目を向けます。株価は4月、私たちがいま目にしている冴えない経済指標を織り込んで、重要な底値を付けました。そしてそれは、過去3年間の、セクターごとに時間差で業績後退を示すローリング・リセッションの底であり、セクターごとに時間差で回復するローリング・リカバリーと新たな強気相場の始まりでもあったのです。 本当にそうなのだろうか――腑に落ちない方には、リセッションのさなかに株式市場が底を打ってから12ヵ月間は失業が増えるのが典型的なパターンであることを認識していただくのが重要だと思われます。成長リスクがひとたび織り込まれれば、それは究極的には利益率と株価の追い風になります。営業レバレッジがプラスになり、FRBも大幅利下げに踏み切るからです。 今朝の株価の反発を見ても、株式市場はこの見方に同意してくれているように思われます。 最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

    7 min
  7. 押し目買いの好機か?

    JUL 29

    押し目買いの好機か?

    AIの採用、ドル安および「ビッグ・ビューティフル・ビル」は、弊社最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンの米国株に対する確信を強める要因の一部となっています。 このエピソードを英語で聴く。 トランスクリプト  「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。 今回は最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンが、株式市場を楽観視する理由を御説明いたします。 このエピソードは7月29日 にニューヨークにて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。 過去数週間で筆者は、来年央までのS&P 500の目標値を7200ポイントと見る強気ケースのシナリオに一段と傾いています。この見解は総じて予想されていたよりも底堅い企業収益とキャッシュフローの想定に基づいています。そのドライバーは無数にあり、ポジティブな営業レバレッジ、AIの採用、ドル安、「ビッグ・ビューティフル・ビル」による現金ベースの税負担軽減、および多くの業種における有利な前年比の利益成長率や、潜在需要が含まれています。 多くの向きはまだ成長の逆風として関税に注目していますが、弊社アナリストは、対象となる国の範囲や米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の除外が続いている点を考慮し、S&P 500業種グループが関税コストから受ける影響は、かなり抑えられていると見ています。その一方で、日本や欧州など最大の貿易相手国との間では、米国に有利と見られる条件で協定が結ばれています。 価格決定力を欠くことから、株式市場における関税リスクが最も大きい分野は消費財であり、これを理由に弊社は消費財のアンダーウェイトを継続しています。しかし、投資家にとって関税に関する最大のポイントは、政策の不確実性の変化率は4月の初めにピークをつけたということです。これは、弊社が注目している最も重要なファンダメンタルズである企業の業績ガイダンスが4月に底を打った最大の原因で、業績予想修正トレンドが大幅な上昇に転じたことがこれを裏付けています。 もちろん、短期的な状況にリスクがないわけではありません。これらには、依然高水準にある長期金利、関税関連のインフレおよび利益率低下の可能性などがあります。その結果、例年低調な第3四半期中に調整が入る可能性がありますが、下落は小幅で、買いが入る見込みです。これまでに挙げた成長の追い風の他に、多くの企業にとって前年と比較した成長率が有利になる点も指摘しておく価値があるでしょう。 かなり以前から筆者は、3年前から米国でローリング・リセッションが進行していると見る、コンセンサスとは全く異なる見解をとっています。これは、その期間のかなりの部分で、PMI景気指数、消費者信頼感および民間労働市場といった、経済のソフトデータの多くがリセッションの領域で推移して来た事実とも適合します。これは、政府の支出が堅調なGDP成長の維持を助けて来た一方、政府の大規模な支出はFRBによる過度な引き締めの継続につながり、民間部門の大半と多くの消費者の活動が抑制されていると見る、以前からの筆者の見解とも符合します。 その間に、過去数年間で民間部門の賃金の伸びは着実に減速してきました。そしてテクノロジー、金融および企業サービスの雇用者数の伸びは最近までマイナスになっていました。反対に、同じ期間に政府および教育/医療サービスの雇用者は、はるかに堅調な伸びになっています。民間部門のこの種の賃金の伸びと、低調な雇用者数の伸びは、サイクル初期の環境の典型です。これが、サイクル初期の環境で営業レバレッジが好転し、利益率が拡大する主な原因です。この過小評価されている動向が弊社の企業収益モデルに反映されつつあり、AIの採用がこの現象を加速させる見込みです。要約すると、賃金の伸び減速が長く続いた後、より無駄のないコスト構造が、プラスの営業レバレッジを牽引するという、サイクル初期の環境に一段と近付いている模様です。 結論としては、今年4月の「解放の日」前後に見られた投げ売りのような株価と業績予想の下方修正は、2022年に始まったローリング・リセッションの終わりを告げるものでした。悪材料を受けて市場は底を打ち、企業収益のローリング・リセッションから、業種ごとに順次回復する環境に移行しつつあります。 EPSのローリング・リセッションのために有利になる前年比の利益成長、そして来年第1四半期までにFRBが利下げを再開する確率が高い、という利益とキャッシュフローのポジティブなドライバーの組み合わせがこの移行を可能にするでしょう。業績予想修正トレンドの好転から、このプロセスが既に始まっていることが確認でき、向こう12ヵ月間、平均的な株式のリターンは堅調になる公算が大きいと見られます。 簡単に言えば、例年、低調な傾向がある四半期に押し目があれば、拾えということになります。 最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

    7 min
  8. シンガポール、4兆ドルの大変身

    JUL 28

    シンガポール、4兆ドルの大変身

    世界トップクラスの富める国であるシンガポールが、技術革新と市場への影響力を梃子にその地位を高め続ける軌道に乗ろうとしています。今回はその様子について、弊社ASEANリサーチ担当責任者のニック・ロードがお話しします。 このエピソードを英語で聴く。 トランスクリプト  「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。 本日はシンガポールの60回目の独立記念日について、そしてこの国が過去最大の変化を遂げそうな10年間に突入しようとしていることについて、弊社ASEANリサーチ担当責任者のニック・ロードがお話しします。 このエピソードは7月28日 にシンガポールにて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。 シンガポールは8月9日に重要な建国記念日を迎えますが、今年のこの日は単なる記念日ではありません。この国の家計資産がわずか5年で2倍近くに増えるかもしれないという、富の創造の新時代が幕を開ける日でもあるのです。そう、この都市国家の家計純資産は現在2兆3000億ドルですが、2030年までにはこれが4兆ドルに増えると弊社では予想しています。 では、次の時代に向かうその原動力は何なのでしょうか。 シンガボールはグローバル資本の避難場所のひとつという位置づけから、イノベーションと影響力の戦略的なエンジンへと進化を遂げようとしています。その原動力は主に3つあります。1つ目は、グローバルなハブとしての役割の増大。2つ目は新しいテクノロジーのいち早く積極的な導入。そして3つ目は、最後だから重要ではないというわけではありませんが、株式市場の再活性化を目指す一連の大胆な改革です。 現在は、これらの3本柱がまとまって、すそ野の広い富の創造をお膳立てしているところです――投資家もそれに気づきつつあります。 シンガポールの人口は600万人にすぎません。しかし、人口1人当たりで見ればすでに世界で4番目に裕福な国になっています。しかも、話はそこでは終わりません。 シンガポールの家計純資産は、2030年までに現在の平均160万ドルから同250万ドルという目を見張る水準に上昇すると弊社では予想しています。運用資産残高(AUM)は4兆ドルから7兆ドルに跳ね上がる公算が大きいでしょう。そしてMSCIシンガポール指数は年10%のペースで上昇し、今後5年間で2倍になる可能性もあるでしょう。シンガポール企業の自己資本利益率(ROE)も上昇しそうです。生産性の向上、市場改革、そして株主リターンの上昇などにより、12%から14%に改善すると思われます。 しかし、ここでシンガポールの成長ストーリーの1本目の柱、すなわちハブのなかのハブになろうという目標に戻って考えてみたいと思います。シンガポールはすでに金融、貿易、運輸の分野で主要なプレーヤーです。つまり、この強みにもっと賭けようとしているのです。 コモディティの分野では、シンガポールが世界のエネルギーや金属の取引の20%を取り扱っていることが分かっており、将来的には、液化天然ガス(LNG)やカーボン排出権の取引のハブになる可能性もあります。また金融サービスの分野では、シンガポールはクロスボーダー資産取引を記帳・決済できる世界第3位の国際金融センターであり、同じく世界第3位のFX取引ハブでもあります。国内総生産(GDP)に[1] およそ 約4%寄与している観光業も、パズルの重要なピースです。この国は世界レベルのインフラ、イベント、アトラクションに投資し続けており、訪問客が――そして彼らのお金が――途切れることなく入ってくるようにしています。 成長の2本目の柱に当たるテクノロジーについては、シンガポールはすべてを賭けようとしています。マレーシアや日本とともに、アジア地域のデータやAIのハブになりつつあります。今後10年間でアジアのデータセンターや生成AIには1000億ドルが投資されると見込まれますが、その最上の部分はこれら3ヵ国に引き寄せられると思われます。 なお、シンガポールはすでに世界の十指に入るAI市場であり、1000社を超えるスタートアップ企業、80の研究施設、150の研究開発(R&D)チームがひしめき合っています。アジアにおける自律走行車のリーダーでもあり、現時点では13車種が公道で試験走行を行う認可を得ています。シンガポールのチャンギ国際空港ではすでにロボットが働いています。 最後に、シンガポールではかつて、経済は好調なのに株式市場には活気がない、少数の大銀行と不動産会社が牛耳っているからいけないのだ、と指摘される時期がしばらく続いたことがありました。しかしこの状況も急速に変わってきており、シンガポールの成長ストーリーを支える第3の柱になりつつあります。 例えば今年、シンガポール政府は市場に新たな息吹を吹き込むべく、全面的な改革を断行しました。税制優遇策の導入、規制の合理化、そして特に中小型株の流動性向上を目指したシンガポール金融管理局(MAS)による40億ドルの資本注入などがその主なところです。 また、上場企業は今後、株主エンゲージメントをもっと高めるように、そしてビジネスプランやバリュー・プロポジションをもっと明確に株主に伝えるように促されるだろうと弊社ではみています。その狙いは、シンガポール企業の株価純資産倍率(PBR)を1.7倍から2.3倍に、すなわち台湾やオーストラリアなど比較的高い評価を受けている市場並みの水準に押し上げることにあります。 さて、こうしたことは投資家にとって何を意味するのでしょうか。 それは、シンガポールが単に過去の偉業を祝っているだけでなく、未来を建設しているということです。賢明な政策、大胆なイノベーション、そして明快なビジョンを通じて、世界で最も活力のある市場に、そして投資に向いた市場のひとつに自らを位置づけようとしているのです。 最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

    8 min

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モルガン・スタンレーが配信する金融ポッドキャスト「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)では、マーケットに影響を与える様々な事象について当社のソートリーダーによる考察をお届けします。

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