高千穂さんのご縁です。

【お布施のお話(その二)】 地位・所有・席へのしがみつきは、怒りや不満の芽に

🔶「お布施(その二)」をやさしく読み解きます


今週は、仏教の実践「布施(ふせ)」を前回につづいて深めます。ことば・人名・仏教用語を正しながら、日常に落とし込める形で整理します。

🔶布施の語源を正します

布施はサンスクリット語 dāna(ダーナ) の意訳です。「自分の持ち物・力・心を惜しみなく分かち合い、互いに助け合い喜び合うこと」を指します。

なお、日本語の「旦那/檀那(だんな)」は仏教語で、施主・パトロンの意から来ました(関連語:檀家(だんか)・檀越(だんおつ))。浄土真宗では一般に「門徒(もんと)/門信徒」と呼び、「檀家」は用いないのが通例です。

🔶六波羅蜜における布施

菩薩の六つの修行 六波羅蜜(ろくはらみつ:布施・持戒・忍辱・精進・禅定・智慧)の第一が布施です。布施は次の三つに大別されます。


  1. 財施(ざいせ):金品・物品・時間・労力などを分かち合います。

  2. 法施(ほうせ):教え・知恵・気づきを分かち合います。

  3. 無畏施(むいせ):恐れや不安にある人を安心へ導く支え(傾聴・付き添い・安全の提供など)です。
    いずれも見返りを求めない「贈与の心」が核です。

🔶お金がなくてもできる「無財の七施」

財産がなくても今日から実践できる布施が、**無財の七施(むざいのしちせ)**です。


  1. 眼施(がんせ):温かなまなざしを向けます。

  2. 和顔施(わがんせ/和顔悦色施):にこやかな表情で接します。

  3. 言辞施(ごんじせ):やさしい言葉をかけます。

  4. 身施(しんせ):体を使って手助けします。

  5. 心施(しんせ/慈心施 じしんせ):思いやりを向けます。

  6. 床座施(しょうざせ):席や場所を譲るなど、居場所を提供します。

  7. 房舎施(ぼうしゃせ):雨宿りの軒を貸す・休ませるなど、憩いの場を与えます。

🔶「床座施」を日常に生かします

バスや電車での席を譲ることは床座施の代表例です。要点は次の三つです。

・相手の状況(高齢・妊娠・体調等)に気づく眼施をもつ。

・和顔+言辞(やわらかな表情と一言)で申し出る。

・断られても気を悪くしない(見返りを求めない)。

さらに、職場などで役割やポジションを後進に譲る姿勢も、広い意味での床座施です。執着から一歩離れる修行といえます。

🔶執着から離れるヒント

地位・所有・席へのしがみつきは、怒りや不満の芽になります。小さな一歩(席を譲る・順番を譲る・発言枠を譲る)を日々の習慣にすると、心の柔らかさが育ちます。できない日があっても構いません。続けようとする志が、布施のいのちです。

🔶今週のまとめ

・布施は dāna の訳で、「惜しみなく分かち合う」実践です。

・六波羅蜜の第一で、財施・法施・無畏施の三施を含みます。

・無財の七施(眼施・和顔施・言辞施・身施・心施・床座施・房舎施)は、誰でも今日から始められます。

・とくに床座施は、席や役割を譲る実践。執着を離れる小さな歩みが、やさしい社会の土台になります。

来週のテーマは「報恩講(ほうおんこう)」のお話です。どうぞお楽しみに。

お話は、熊本市中央区京町(きょうまち)にある仏嚴寺(ぶつごんじ)の
高千穂光正(たかちほ こうしょう)さん。
お相手は丸井純子(まるい じゅんこ)でした。