市場の風を読む

イールドカーブのスティープ化に備える

チーフ債券ストラテジストのヴィシー・ティルパターが、イールドカーブの変化が保険などの市場、米国債利回り、モーゲージ金利にどのような影響を及ぼしているかについて説明します。

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トランスクリプト 

「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。

今回はチーフ債券ストラテジストのヴィシー・ティルパターが、イールドカーブの形状がクレジット市場や住宅市場に与えている影響や、カーブの変化によるリスクやそのインプリケーションについて解説します。

このエピソードは10月7日 にニューヨークにて収録されたものです。

英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。

イールドカーブの形状は金融市場において極めて重要な役割を担っています。クレジットの状況から住宅やモーゲージの動向に至るまで、あらゆるものに影響を与えます。FRBの追加利下げが確実視されていることについて、しばらく前からこのポッドキャストでもお聴きになっていることでしょう。弊社のエコノミストは次回からの3会合、つまり10月、12月、1月の会合でそれぞれ25ベーシスポイントの利下げが行われると予想しています。そして来年にも4月と7月での2回のさらなる利下げを見込んでいます。

これはカーブの形状にとって何を意味するのでしょうか。投資家はイールドカーブのスティープ化に備えてポジションを取るべきであるというのが弊社の確固たる見解です。なぜカーブが重要なのでしょうか。カーブは単なるマクロ的なシグナルではありません。価格設定、リスク許容度、セクターフローを方向付ける伝達メカニズムなのです。

保険会社を例に取り上げてみましょう。カーブのスティープ化を受け、定額年金商品の需要が急増しており、ひいては社債や証券化クレジット商品などのスプレッド資産への資金流入が加速しています。保険需要はクレジット市場における強力なテクニカル要因の一つとなっています。

今年のスティープ化は、短期債利回りの低下によるものです。例えば、米国債の2年物利回りはおよそ60ベーシスポイント低下しており、低下幅は10年物利回りの40ベーシスポイントや30年物利回りのわずか5ベーシスポイントを大幅に上回っています。こうした短期債利回りの動きは金利予想の変化を反映しており、短期資金調達に依存している高レバレッジの発行体にとって助けとなっています。

しかし、長期債利回りはなかなか下がらず、オールインの借り入れコストは高止まりしています。これは保険会社、そして定額年金商品の販売にとって好材料ですが、全体的な債券発行を抑える形で作用しており、その影響もあってマクロの不確実性にもかかわらずクレジットスプレッドはタイトなままです。

とは言え、全ての市場が恩恵を受けているわけではありません。モーゲージ金利はフェッドファンド金利よりも長期債利回りに追随しますが、2024年9月の緩和サイクル開始以来、実際に25から30ベーシスポイント上昇しています。これは手頃な住宅の購入を考える上で逆風となります。カーブのスティープ化は、融資や将来の住宅供給を支える可能性がありますが、現在の買い手を助けることにはなりません。長期債利回りが低下してカーブがフラット化すれば、より意味のある支援となるでしょうが、これは明らかにわれわれのベースケースではありません。

要するに、利下げは重要ですが、カーブの形状の方がもっと重要かもしれません。カーブのスティープ化はクレジットにとって追い風となりますが、住宅にとっては逆風となります。そして、全ての市場が足並みをそろえて動くわけではないことに注意する必要があります。

最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。