Tsumugi ~心を動かすAI小説ポッドキャスト~

第9篇 記憶売りのアネモネ

 記憶を売り買いして生きる都市「記憶市」。そこで働く鑑定士イリアは、他人の過去に触れることでしか自分を保てない青年だ。幼い頃の“最も大切な記憶”だけが思い出せず、心にぽっかりと空白を抱えている。ある日、彼のもとに春の丘と赤いアネモネの記憶カプセルが届く。鮮烈な香りと懐かしさに胸を突かれたイリアは、記憶の持ち主である病弱な女性・アナと出会う。治療費のため記憶を売り尽くし、もはや自分の名前さえ忘れかけたアナ。彼女が最後の「自分自身」すら手放そうとする時、イリアは己の幸せな記憶をアナに託す決意をする。記憶を譲り渡すことで、二人の過去と現在が静かに重なり合う。記憶を失いながらも、想いだけは心の奥に残るのか。赤いアネモネが咲く丘で、静かな再生と希望を描く、喪失と赦しの物語。