前回、前々回に亘り「御」について、話をしてきました。きょうは、もう一つ「御中」について、お話ししたいと思います。メールや手紙を出すときに、宛て名の後に付ける「御中」や「様」の使い分けは、さほど迷わないかもしれませんね。
会社、組織に宛ててメールや手紙を出すときには「御中」。人に宛てて出す時には「様」です。「御中」はもともと明治時代以前に、脇付として使われていた「人々御中(ひとびとおんなか)」の「人々」が省略された形です。
「様」と「御中」を一緒に使うのは、いただけないので注意が必要です。たとえば「未來交創株式会社人事部 御中 前田安正様」は、NGです。「未來交創株式会社人事部 御中」もしくは「未來交創株式会社人事部 前田安正 様」とすべきです。
会社・組織と人名の両方を書くときには、名前の部分に「様」を付けます。会社・組織に「御中」を付けてはいけません。
人名の後に「様」と「殿」のどちらを付ければいいのか、にも迷うことがあるのではないでしょうか。「殿」は元々、お屋敷を指していたんです。お屋敷に住んでいる人は、地元の大物です。例えば大河ドラマにもなった「鎌倉殿」のように。直接名前を呼ぶのが失礼なので、大きな屋敷を名前の代わりにしていたんです。
その「殿」が敬称になって名前にも付くようになったんです。ところが、平安時代に「殿」の敬意が落ちてきて、室町時代に「殿」より丁寧な言い方として「様」が使われるようになったのです。「様」は人の居場所、身分、氏名について敬意を表したので、官職には使わなかったんです。敬意の高さでいうと「様」「公」「殿」の順になるんです。
江戸時代になると「様」が盛んに使われるようになって、ややカジュアルな感じで「さん」も増えてきました。「殿」のカジュアルな感じが「どん」です。奉公人に親しみを込めた言い方が丁稚どん、「西郷どん」の「どん」は、敬意を表す方言です。
最近、初めてのメールに「さん」付で来る場合があるんだけれど、ここは「様」にすべきでしょうね。「殿」は公文書などで使われる敬称で、下位の人にしか使わないのが一般的です。
医師に病院を紹介してもらうときに相手の医師に対し「○○先生机下」「○○先生御机下」「○○先生御侍史」などという書き方をします。「机下」は机の下や足元にそっと置きます、という意味。御侍史の侍史は、貴人のそばに控えている書記の意味で、直接渡すのは失礼なので、配下の方から取り次いでもらう、という意味になるのです。
ちょっと、行き過ぎのような気もしますが、これは、医療関係の慣習のようなもので、一般的には使わないかもしれません。
実は、こうした話が、ぱる出版から出した『ほめ本』に載っています。よろしければ、お読みください。
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情報
- 番組
- 頻度アップデート:毎週
- 配信日2024年8月12日 1:33 UTC
- 長さ18分
- 制限指定不適切な内容を含まない
