EP#137  シンプルは最強だ! 文章も、交渉ごとも、人生も、複雑な衣を剥ぎ取ろう!

就職・転職の扉をひらく「ことばランド」

文章の講座や広報の研修などで「文をシンプルに書こう」と言うと、必ず「それでは思いが伝わらない」という反対の意見がでます。こう言われたときに、夏目漱石の『吾輩は猫である』の冒頭を例に挙げるんです。

「吾輩は猫である。名前はまだない」

実にシンプルだと思いませんか。ほぼ箇条書きですよ。しかも「吾輩は猫である」は「何がなんだ」しか書いていません。「名前はまだない」は「何がどうだ」ということだけなんです。それでも、読み手に強い印象を残し、いまだ読み継がれている。シンプルな文では思いが伝わらない、というのは一種の幻想だし、都市伝説に近いと思っています。

これは文章に限らず、ものの考え方にも通じることだと思っています。子どもを見ていると、その時その時関心の向いたことに、躊躇せず意識を向けるでしょ。「早くしなさい」と言われても、急にチョウチョを追いかけたり、しゃがみ込んでアリを眺めたりする。行動としては実にシンプルです。ところが、大人になると「時間」というものに制限されて動くから「早くしなさい」と言って怒り出す。子どもと大人の時間に対する価値観が全く違う。子どもの方がシンプルです。

大人になると「社会性」という外部要因が働き出します。これはとても大切なことかもしれませんが、考え方を複雑にする要因でもあるんです。前回「自分軸」という話もしました。これは、自分の考えや信念のことですが、外部要因がそれを邪魔する場合が多い。そのほとんどが「こうしなくてはならない」「こうすべきである」という自己規制に傾きます。それが極度に影響すると、自分の考えが外部要因に大きく引きずられたり、忖度が加わって複雑化します。そして、迷うんです。

社会性という外部要因を全て捨て去ることは難しいと思います。でも、何のために行動するのか、なぜそれがしたいのかという基本的な問いかけが、シンプルに考える切っ掛けになるはずです。文章も5W1HのWHYが重要なんです。

これと全く考えは同じです。削ぎ落とす先に見えるものが、実はとても大切なものだし、相手を説得する強い力になるんです。だって、そこはそれ以上削りようのない骨の部分だからです。これは最強です。それに逆らうことはできないからです。冒頭に挙げた「吾輩は猫である」に対して、「お前は犬だ」なんて言えないでしょ。このシンプルさが強さになるんです。

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