市場の風を読む

モルガン・スタンレーが配信する金融ポッドキャスト「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)では、マーケットに影響を与える様々な事象について当社のソートリーダーによる考察をお届けします。

  1. 10月26日

    市場調整の次の局面

    今回の調整局面の終わりは見えてきたのでしょうか?弊社最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンが、今回の下落が終息に向かうために必要な要因を解説します。 このエピソードを英語で聴く。 トランスクリプト  「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。 今回のエピソードでは、弊社最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンが、今回の株式市場の調整局面の終わりが見えてきたのかどうか、そして流れを変えるきっかけとなり得るものは何かについてお話しします。 このエピソードは10月26日にニューヨークにて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。 6月に始まった調整は、水面下ではすでにかなり進んでいます。ただ、質の高い銘柄で構成されるS&P 500指数には、まだ調整し切れていない部分が残っているかもしれないと私は考えています。それが一巡するまでは、調整が完了したとは言えないと思います。 本当に問うべきなのは、「状況が好転する前に、どこまで悪化しなければならないのか」ということです。 弊社はこの調整を、典型的な「サイクル中盤への移行期」と位置付けてきました。業績予想の修正率の変化がピークを迎えたのは、まさに想定通り、景気後退の底打ちからおよそ1年後のことでした。そして市場は、いつもと同じような反応を見せました。営業レバレッジや財務レバレッジが比較的高い、サイクル初期の主導株がアンダーパフォームし始める一方で、より質が高く、アセットライトでサービス志向の企業が前面に出てきたのです。 もっとも、こうしたクオリティ銘柄へのローテーションは今では広く理解されており、投資家のポジショニングもそれに追随しています。皮肉なことに、最終段階では、底堅くて質の高いS&P 500指数と、その水面下で弱含んでいる市場の裾野とが、互いに歩み寄るように収れんしていくのが通常です。両者が中間地点で出会う動きは、すでに始まりつつあるのかもしれません。もし指数がさらに下落するのであれば、S&P 500で7,100~7,200ポイントのあたりが、今回の調整におけるしっかりとした下値支持水準になると私は考えています。 最終的にこの移行期が良い形で決着すると私が考えている理由は、すでにかなりの痛手が生じているからです。6月以降でみると、ラッセル3000指数の構成銘柄のおよそ60%が、20%を超える下落に見舞われています。また半導体、自動車、景気敏感消費財、資本財といったサイクル初期のセクターでは、打撃はさらに深刻です。 同時に、ヘッジファンドのポジションも大幅に縮小し、過去12カ月の最低水準近くにあります。これは心強い材料ですが、市場センチメント全体としては、持続的な底入れを示すような極端な水準にはまだ達していません。底値は近いものの、まだそこまでは至っていないと思います。 では、そこに到達するには何が必要なのでしょうか?私は、今後3つの「クリアリング・イベント」、つまり懸念材料を一掃するような出来事が控えていると見ています。 1つ目はAIです。投資家は、最終的な資本利益率、資本コスト、そして約束されている巨額の支出のすべてをクレジット市場からの借り入れで賄えるのかという3つの点に、疑問を抱いています。今後数週間、市場は社債などの発行による供給をさらに吸収する必要がありますし、質の低い企業はスプレッドの一段の拡大や、さらなる株価下落に見舞われ続ける恐れがあります。 私は、この供給そのものがイベントだと考えています。それが消化されれば、リスクは後退し始めるはずです。半導体は依然としてこの懸念の中心にあり、市場全体の調整を見極めるうえで、良い指標になるかもしれません。具体的には、11月中旬にかけて、半導体指数はさらに10~15%下落すると私は見ています。 2つ目のクリアリング・イベントは中間選挙です。市場は不確実性を嫌いますし、今回の選挙は不確実性にあふれています。とはいえ、「ブルーウェーブ」、つまり民主党の大勝は、もはやサプライズではありません。より大きな懸念材料は、投票後に起こり得ること、たとえばイランをめぐる軍事的緊張が再び高まる可能性などです。 私は地政学の予測について、特別な強みを持っているわけではありません。ただ、こうしたショックが、非常に良い買いの機会を生み出すケースが多いことはよく知っています。歴史的に見ると、中間選挙後のリターンは非常に好調でした。ですから、投票日前後の数日間、もしくは数週間に株価が急落したらそれに乗じられるように、準備をしておきたいと考えています。 3つ目の、そして最も重要なクリアリング・イベントは、流動性です。金利の上昇、バランスシート拡大ペースの鈍化、資金需要の高まり、そしてエネルギー価格の上昇が重なり、金融環境は急速に引き締まっています。 この引き締まり方は2018年の状況に似てきています。これまでのFRBによる引き締めはごく小幅にとどまっているにもかかわらず、私たちが2022年に経験した状況と大差のないものになっています。実際、市場がFRBに代わって引き締めを行っているとも言えるでしょう。そして、こうした引き締めが資金調達のひっ迫を引き起こしたり、クレジット市場を不安定化させたりし始めれば、FRBと米財務省には対応する手段があります。問題は、両者が動き出す前に、状況がさらに悪化する必要があるのかどうかです。 話をまとめましょう。6月に始まった株式市場の調整は最終段階にあると私は考えていますが、その最終段階は非常に居心地の悪いものになりかねません。指数レベルでのもう一段の下落と、ボラティリティが急上昇する局面がまだ必要かもしれません。あるいは、投資家が「何かが壊れた」と判断する瞬間が、もう一度訪れる必要があるのかもしれません。そして、それこそが、FRBの政策転換と、株価の次の上昇局面への道を開くことになる可能性があるのです。 当面は、資本財などのセクターで、すでに指数以上に調整が進んでいるクオリティ銘柄を引き続き選好したいと考えています。さらに重要なのは、こうしたクリアリング・イベントによって株価が急落した場合、私はそれをリスクから逃げる理由というよりも、むしろ待ち望んでいた買いの好機だと捉えるということです。その時に備えて準備しておきましょう。 最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

    市場調整の次の局面
  2. 10月19日

    狭まる成長と安定への道

    金利上昇が経済全体に波及するまでには時間がかかることがあり、その影響の全容を見極めるのは容易ではありません。弊社米国およびグローバル・エコノミストチームのアルニマ・シンハが、次にどこで圧力が表面化する可能性があるのか、そして政策当局者が相反するリスクにどう対処し得るのかを考察します。 このエピソードを英語で聴く。 トランスクリプト  「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。 本日のエピソードでは、弊社米国およびグローバル・エコノミストチームのアルニマ・シンハが、金利上昇が経済活動やインフレ、そして政策の道筋にとって何を意味するのかについてお話しします。 このエピソードは10月19日 にニューヨークにて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。   米連邦公開市場委員会(FOMC)は9月に利上げを行いました。しかし、今後の利上げをめぐる見通しは依然として不安定です。最新の消費者物価指数が発表されてから数時間のうちに、市場は大きく変動した後に元の水準に戻り、10月の利上げ確率は一時五分五分まで高まったものの、その後低下しました。 現在、弊社の基本シナリオの予想と同様に、市場は次の利上げが12月に行われる可能性が最も高いと見ています。しかし、それ以上に重要なのは、米国のイールドカーブのより長い年限での動きです。特に、10年債利回りが変化しました。 ここで一歩引いて考えると、ある疑問が浮かびます。それは、幅広い分野でのインフレの上振れが、インフレ、ひいては成長を押し下げるために、より引き締め的な政策が必要であることを意味するのかについて、どの程度懸念すべきか、という疑問です。それとも、金融環境がそれ自体で十分に引き締まったため、中央銀行がなすべきことは増えるどころか、むしろ減っているのでしょうか。 金融政策の微調整は常に難しいものですが、今やその課題は差し迫ったものになりつつあります。 エコノミストは、金利水準を、経済の自然利子率と比べてどの位置にあるかという観点から捉えようとします。生産性の伸びや投資需要が強まれば、自然利子率は高くなるはずです。そのため、同じ金利水準でも、引き締め効果はより小さくなります。 成長期待や企業収益の見通しが依然として堅調な中で、長期の米国債利回りが上昇していることは、中立金利が実際に高くなっている可能性を示しています。成長見通しの改善によって利回りが上昇する場合、期待リターンが高まり、資本需要も強まります。そうした状況では、金利の上昇は必ずしも景気を抑制するものではありません。 しかし、それほど楽観的ではない、別のシナリオもあります。 利回りが上昇しているのは、インフレが高止まりし、財政懸念が強まり、投資家が長期債を保有することに対してより多くの見返りを求めているためでもあります。ウォーシュFRB議長が投げかけた「金融環境は引き締め的なのか」という問いに対して、これまでとは異なる答えが出始めています。 経済が今後どのように推移するかは、政策の微調整が鍵を握ります。米国では、これまでのところ、直近のインフレの上振れでさえ、エネルギー主導のスタグフレーションではなく、需要の底堅さを示すものでした。簡単に言えば、多くの企業が依然として資本コストを大きく上回るリターンを見込んでいるということです。弊社の米国経済チームによる最近の分析も、こうした見方を裏付けています。 違いが見られる可能性があるのはセクターごとの動向であり、それがより鮮明になりつつあるようです。経済活動がイノベーションや生産性、戦略的投資に牽引されるセクターに集中しているのであれば、経済は過去のサイクルに比べて、金利の影響を受けにくくなっている可能性があります。 こうした相反する力が働く中で政策を微調整するのは、決して容易ではありません。クレジット市場の中でも最も格付けの低い領域でスプレッドの拡大幅が最大になっていること、そして住宅市場の活動が景気後退期並みの水準にあることは、米国において政策と金融環境が引き締め的であることを示すサインの一部です。 金融環境の引き締まりの兆候は、欧州の方がやや顕著に表れています。その一因は、欧州ではAI関連の設備投資がそれほど大きな要因になっていないことです。成長は底堅く推移しているものの、金利上昇によって高まる財政懸念を相殺できるほどではありません。 フランス国債(OAT)の売りは、リスクのバランスがいかに急速に変化するかを示しています。世界的に見ても、金融環境はマクロ経済情勢に、より難しい問いを突きつけています。 つい最近まで、経済が発するメッセージは明確でした。 金利の上昇は一部のセクターを抑制していたものの、景気拡大の軌道を大きく変えるほどではありませんでした。期待リターンが借入コストとともに上昇している限り、利回りは決定的に引き締め的になることなく、高水準を維持できます。しかし、弊社の金利ストラテジーチームの同僚が指摘しているように、インフレ圧力によって押し上げられているのは、ブレークイーブン・インフレ率ではなく、実質金利です。 つまり市場は、成長を抑制し、最終的にインフレを押し下げるために、政策が引き締められつつあることを示しているのです。米国の最新のインフレ指標は、この議論をさらに強めるものです。金融環境は引き締め的なのでしょうか。 第3四半期決算、ハイパースケーラーの設備投資、クレジットスプレッドの拡大、米国の選挙、そして間近に迫ったFRBの会合と、今後いくつものカタリストが控えています。中央銀行が政策の再調整を図る中で、市場は成長リスクの評価へと軸足を移す必要があるでしょう。 最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

    狭まる成長と安定への道
  3. 10月16日

    AIブーム、利回り上昇という壁に直面

    借入コストの上昇は、AIデータセンターブームをどのように減速させているのか。そして、資金調達の回復を後押しし得る要因は何なのか。弊社の資産担保証券(ABS)ストラテジスト、キャロリン・キャンベルが解説します。 このエピソードを英語で聴く。 トランスクリプト  「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。 今回のエピソードでは、弊社の資産担保証券(ABS)ストラテジスト、キャロリン・キャンベルが、AIブームが借入コストという思わぬ障害に直面している理由についてお話しします。 このエピソードは10月16日にニューヨークにて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。   データセンター施設への需要が急拡大しています。しかし、企業が競うように容量の増強を進める一方で、そのための資金調達コストはますます高くなっています。そして、この相容れない状況が、クレジット市場で興味深い展開を生み出しています。 1月以降、5年物米国債の利回りは1パーセントポイント以上上昇し、データセンター資産のスプレッドもそれ以上に拡大しています。2026年初めの時点では、最上位格付けのデータセンター債の利回りは5%を下回っていました。現在では、同様の債券の利回りは7%近くに達しています。数十億ドル規模の施設の資金調達を目指す企業にとって、この利回りの上昇は非常に大きな問題です。 多くの事業者は、資金を調達するために証券化クレジット市場を利用しています。基本的には、自社のデータセンターが生み出す収益を裏付けとした債券を発行するという仕組みです。こうした債券が発行される時点では、データセンターの建設はすでに完了し、電力も確保され、賃料の支払いも始まっています。 つまり、キャッシュフローは安定しているのですが、その一方で落とし穴もあります。こうした施設は、証券化クレジット市場で資金調達を行うよりもかなり前に、長期のリース契約を結んでいることが多いのです。 債券を発行する準備が整う頃には、賃料収入はすでに固定されています。そのため、今年見られたように金利が急上昇し、借入コストが増加しても、収入がそれに追いつくとは限らないのです。 弊社の分析によれば、借入コストが8%に近づくと、現在の資金調達条件の下でこうした債券を発行することは大幅に難しくなります。そして、その影響はすでに市場に表れ始めています。 2026年に入ってから現在までに、データセンター事業者はABS市場で約150億ドル、CMBS(商業用不動産ローン担保証券)市場で約70億ドルの債券をそれぞれ発行しています。これはおおむね昨年と同じペースですが、今年のデータセンター需要の並外れた伸びを考えると、弊社の予想を下回る水準です。それでも、弊社は供給の減速は一時的なものだと考えています。 弊社の予測では、米国のデータセンターの電力容量は、現在の約60ギガワットから、2028年までに150ギガワットへと拡大する可能性があります。ただし、電力の供給にはいくつかの制約があるため、実際の容量はこの予測を30%から40%下回る可能性もあります。 いずれにしても、今後稼働するリース容量の多くは負債による資金調達を必要としますし、事業者は野心的な成長計画を掲げています。事業者には、こうした高金利環境を乗り切るための選択肢がいくつかあります。 保有物件を担保にした借入額を減らすこともできますし、短期的には投資リターンの低下を受け入れることもできるでしょう。あるいは、より柔軟な資金調達の仕組みを提供する、別の信用調達チャネルを利用することも可能です。 では、市場は今後どうなるのでしょうか?弊社は、高金利環境を考慮し、証券化クレジット市場におけるデータセンター関連の発行額について、2026年と2027年の予測を若干下方修正しています。 しかし、2028年に稼働予定のリース容量が非常に大きいため、2028年の予測は据え置いています。全体として、弊社は今後数年間で約1,200~1,500億ドルの供給を見込んでいます。高金利が短期的な課題となっているとはいえ、これは相当な規模の資金調達活動です。 借入コストの上昇によって、当面はデータセンターの資金調達のペースが鈍るかもしれません。しかし、今後予定されている建設の規模を踏まえると、この市場には成長の余地がまだ十分にあると考えられます。また、市場の中には、弊社が有望視している分野もあります。 ここまでは主に、ハイパースケーラー向けのデータセンターについてお話ししてきました。これは、1社または2社のハイパースケーラーにテナントとしてリースされる大規模なキャンパスで、多くの場合、10年または15年のリース契約が結ばれています。 一方で、弊社が現在大きな価値を見出しているのは、市場のもう一つの分野であるコロケーション・データセンター市場です。こちらのキャンパスには、さまざまな業種にわたる多様なタイプのテナントが入居しており、リース期間も比較的短いことが多いのです。 データセンターの賃料が急上昇し、空室率が1%前後となっていることを踏まえると、こうしたデータセンター事業者は、業界で起きている変化をより迅速に収益につなげることができます。 こうした柔軟性は、借入コストが高止まりしている局面で、特に大きな価値を持つ可能性があるでしょう。 最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

    AIブーム、利回り上昇という壁に直面
  4. 10月15日

    中南米の強気シナリオに欠けているピース

    弊社の中南米チーフ株式ストラテジスト、ニコライ・リップマンが、ブラジルの選挙、資本コスト、AI投資、地政学が、中南米全域における新たな成長時代の到来につながる可能性について解説します。 このエピソードを英語で聴く。 トランスクリプト  「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。 今回のエピソードでは、弊社の中南米チーフ株式ストラテジスト、ニコライ・リップマンが、ブラジルが、弊社が「中南米の春」と呼ぶ動きに欠けているピースとなり得る理由と、それにAIがどう関係するのかについてお話しします。 このエピソードは10月15日にニューヨークにて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。 ブラジル株は先週、大統領選挙の第1回投票で予想外の結果が出たことを受けて、大幅に上昇しました。フラビオ・ボルソナロ氏がルラ大統領を上回り、今月後半の決選投票に進むことになりました。結果は依然として不透明です。しかし投資家にとっては、より大きな問いがあると考えています。ブラジルは、長年不足してきたもの、すなわち投資を呼び込む政策転換に近づけるのでしょうか。 弊社は以前から、中南米経済が消費主導型から投資主導型のサイクルへ移行しつつあると主張してきました。その背景には、1つ目に地政学の変化、2つ目に投資に友好的な政策、3つ目に金利低下の可能性があります。さらにこれは、世界経済、とりわけ米国経済をけん引するAI設備投資サイクルの枠組みとも合致します。弊社の米国チーフ・エコノミスト、マイク・ゲイペンが指摘しているように、米国経済は消費から設備投資へと移行しています。アルゼンチン、チリ、ペルー、コロンビアでは、すでにこの「中南米の春」の兆しが見られます。ブラジルは、その中で最大の欠けたピースとなる可能性があります。その理由は3つあります。 第1は、資本コストです。ブラジルは依然として、世界で最も投資コストが高い国の1つです。政府債務が大きく、金利も高いことから、株式投資や起業に伴うリスクを取るよりも、債券投資の方が魅力的になってきました。しかし、信頼に足る財政改革が実現すれば、この力学は変わり得ます。政府支出の削減により、借り入れコストが低下し、通貨が強まり、民間投資が促される可能性があります。つまり、債券資産に滞留している資本が、成長のための資金へと振り向けられる可能性があるのです。 第2は、AIです。AIはブラジルの政治とは無関係に思えるかもしれませんが、弊社は重要なつながりがあると見ています。弊社のグローバルな枠組みでは、企業が世界各地でAIインフラを整備するのに伴い、年間設備投資額はおよそ2兆5,000億ドルから、およそ5兆~6兆ドルへ増加する可能性があります。そして中南米は、そこで極めて重要な役割を担います。 データセンターには電力が必要です。電力にはエネルギー・インフラが必要です。そしてインフラには、銅、リチウム、その他の重要鉱物が必要です。中南米全体では、世界のエネルギー供給のおよそ10%を担い、世界のエネルギー埋蔵量のおよそ20%、世界の銅のおよそ30%、そして世界のリチウム資源の60%程度を保有しています。 そこで弊社は、ブラジルとアルゼンチンが、エネルギーと農産物を輸出するという点で、次第にテキサスに似てきていると論じてきました。また政治面では、ブラジルが他の中南米諸国から学び、刺激を受けられ、テキサスからアイデアを得られる可能性があるもう1つの分野として、規制緩和が挙げられます。 ブラジルにとっては、金利が低下し、政策への信頼性が向上すれば、この投資ブームに参加することがかなり容易になる可能性があります。 そして第3の要因が、地政学です。ブラジルは、欧米の資本市場や米国のテクノロジーとの深いつながりを維持しながら、東側との経済関係を強化してきました。より均衡の取れた関係を築くことができれば、資本市場へのアクセスが改善し、長期投資が後押しされる可能性があります。もちろん、選挙結果だけで変化が保証されるわけではありません。財政規律、政策の実行力、世界の資金調達環境は引き続き極めて重要です。特に米国債利回りの上昇は、多額の債務を抱える地域にとって重要なリスクです。 しかし、ほかの国ですでに起きていることを見てみましょう。メキシコはAIのサプライチェーンにハードウェアを供給しています。チリは投資案件のパイプラインを再構築しています。ペルーは鉱業活動の恩恵を受けています。そしてアルゼンチンは、大幅な政策変更を経て資本を呼び込んでいます。 中南米最大の経済国であるブラジルが同じ方向へ進めば、地域全体に大きな影響を及ぼす可能性があります。それこそが、弊社の「中南米の春」という見方の核心です。つまり、消費から、投資、起業、資本形成へと軸足が移るということです。 道のりはまだ長いですが、ブラジルは、その春が本当に根付くかどうかを見極めるうえで、最も重要な試金石となるかもしれません。 最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

    中南米の強気シナリオに欠けているピース
  5. 10月13日

    アジア債券にはより大きな地図が必要

    弊社のアジア・クレジット・ストラテジー責任者、ケルビン・パンが、対象国の拡大や、現地通貨建てクレジット、ドル建て債券など、アジアの債券市場をより幅広く捉えることが、投資家にとってなぜ有益なのかを解説します。 このエピソードを英語で聴く。 トランスクリプト  「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。 今回のエピソードでは、弊社のアジア・クレジット・ストラテジー責任者、ケルビン・パンが、アジア債券が抱える課題はアジア地域そのものではなく、投資家による従来のその捉え方にある可能性についてお話しします。 このエピソードは10月13日に香港にて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。 こんな場面を思い浮かべてみてください。スーパーマーケットで買い物をしています。通路を歩いていると、その半分が立ち入り禁止になっていることに気づきます。思いがけない状況です。 アジア債券市場でも、これと似たことが起きています。アジア地域のファンダメンタルズは引き続き良好ですが、従来の投資ユニバースは次第に制約が強まっています。 圧力がかかり始めたのは2023年初めです。当時、米国の政策金利が、世界金融危機前以来初めて、アジアの多くの国や地域の政策金利を上回りました。長年にわたりアジアの債券市場を支えてきた環境が、逆転したのです。 アジアのドル建てクレジットを考えてみましょう。発行体は、より調達コストの低い現地通貨建ての資金調達を選ぶケースが増えており、その結果、ドル建て債券の供給は縮小しています。アジアのドル建てクレジットは現在、純供給が5年連続でマイナスとなる見通しです。同時に、投資適格債のスプレッドは55ベーシスポイントまで縮小しました。このため、アジアの投資適格クレジットは、世界の主要クレジット市場の中で最も割高な水準にあります。 投資家もこの状況に注目しています。アジア・クレジットおよびハイイールド債に特化したファンドの資産は、2021年のピークのおよそ750億ドルから62%減少し、およそ290億ドルとなりました。 しかし弊社は、問題はアジアそのものではないと考えています。実際、アジア太平洋地域の名目GDPは、2025年の41兆ドルから2031年には54兆ドルへ拡大する可能性があります。これは、その期間における世界の名目GDP成長のおよそ3分の1を占めることになります。 そして何より重要なのは、投資も加速していることです。アジアの設備投資は、11兆ドルから2030年までに16兆ドルへ増加する可能性があります。これは、2000年代半ば以来、最も力強い産業サイクルとなります。弊社では、この動きはAIだけでなくその他の分野にも広く普及し、エネルギー、防衛、そして幅広い産業投資がいずれも大きな役割を果たすと考えています。 ここで重要なのは、投資家が従来アジアをどのように捉えてきたかです。要するに、もっと大きな地図が必要なのです。 その広い地図に当たるのが、弊社の言うAPAC債券です。従来のアジア債券は、主に米ドル建てクレジットと、アジア新興国の現地通貨建て国債に焦点を当ててきました。APAC債券では、これに転換社債と現地通貨建て社債が加わります。さらに、日本とオーストラリアも対象に含まれます。 では、この広い地図にはどのような利点があるのでしょうか。これらの各資産は、それぞれ異なる動きをします。転換社債では、株式との連動性を通じて、投資家がアジア地域の成長に参加できます。APACのドル建てクレジットは、その大半が投資適格で米ドル建てという特性から、よりディフェンシブな役割を果たします。現地通貨建て金利商品では、金利、通貨、景気循環へのエクスポージャーを得られます。同時に、現地通貨建て社債は、クレジットとセクターのエクスポージャーを広げます。 これらを組み合わせることで、経済環境の変化に応じて、より柔軟にリスクを組み合わせることができます。例えば、成長率とインフレ率が同時に上昇する局面では、転換社債は株式との連動性から恩恵を受ける可能性があります。景気後退局面では、為替ヘッジ付きの現地通貨建て債券は、為替リスクを抑えながら、金利低下の恩恵を受けることができます。スタグフレーションの局面では、ドル建てクレジットがよりディフェンシブな特性を発揮する可能性があります。 2023年以降の弊社のポートフォリオ分析によると、分散投資したAPAC債券ポートフォリオは、配分上の制約によって異なるものの、およそ4%のボラティリティで7.5%のリターンを目標にできる可能性があります。ドルのサイクルが変化する中、投資家は為替エクスポージャーを管理する必要性が一段と高まっています。 長年にわたり、投資家は比較的限られた手段でアジアの債券市場に対応することができました。しかし現在の市場では、より高い柔軟性が求められています。アジアにおける投資機会が消えたわけではありません。むしろ問うべきなのは、投資家がアジアの投資機会を十分に広く見ているかどうかかもしれません。 最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

    アジア債券にはより大きな地図が必要
  6. 10月12日

    AIを支える電力をめぐる政治

    エネルギーコストは選挙の主要争点となっており、AIデータセンターが議論をさらに活発にしています。弊社の米国公共政策ストラテジスト、アリアナ・サルバトーレが、米国の次なるテクノロジー・ブームを支える電力をどのように確保するかを左右し得る、ワシントンでの政策協議について解説します。 このエピソードを英語で聴く。 トランスクリプト  「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。 今回のエピソードでは、弊社の米国公共政策ストラテジスト、アリアナ・サルバトーレが、米国で拡大するAIの電力需要と、それに対して政府が取り得る対応についてお話しします。 このエピソードは10月12日にニューヨークにて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。 市場と政策当局者は、11月の選挙後に重要な議論が行われる可能性に備えています。焦点となるのは、米国のエネルギーインフラの将来です。そして、その議論の中心には、次第に緊急性を増している問いがあります。米国が、一般家庭の電力利用者にコストを転嫁することなく、AI投資サイクルを支えるのに十分な電力インフラを、どのように整備できるかということです。 先月下旬、連邦議会の議員らは、超党派の「米国負担軽減・雇用法案」を提出しました。この法案は、連邦政府の許認可制度を改革するための重要な取り組みです。さらに重要なのは、データセンターに対し、そのプロジェクトに伴う送電コストの負担を求める条項も盛り込まれていることです。 弊社は、これは注目すべき進展だと考えています。特に、11月の選挙後の立法課題を考えるうえで重要です。もちろん、政策面で大きな隔たりがあり、選挙後の議会日程も限られているため、今後の道筋はなお不透明です。 では、これはなぜ市場にとって重要なのでしょうか。 まず、エネルギー面の課題がどれほど大きいかを考える必要があります。弊社のスティーブン・バードとそのチームは最近、米国のデータセンター向け電力不足の予測を更新しました。現在、2028年までに57ギガワットの不足が生じる可能性があるとみています。しかも、これは電力へのアクセスを加速し得る新たな解決策を織り込む前の数字です。従来の予測は38ギガワットでした。 だからこそ、許認可制度の改革案が非常に重要なのです。ここでは、2つの点に注目したいと思います。 1つ目は、インフラ整備を加速させる取り組みです。この法案は、連邦政府による環境審査を改革し、すでに承認を得たプロジェクトの確実性を高めるものです。弊社は、これにより新規エネルギープロジェクトをめぐる遅延や不確実性を抑えられると考えています。ただし、許認可制度の改革だけでは、設備、労働力、送電網の容量に関する制約は解消できません。 2つ目は、インフラ費用を誰が負担するのかという点への関心が高まっていることです。この提案は、実際には既存の政策イニシアチブを土台としています。今年初め、複数のハイパースケーラーが「電力料金負担者保護誓約」に署名しました。 これは自主的な合意で、企業はデータセンターに必要な電力を確保し、関連する電力インフラの改修費用を、家庭の電力利用者に転嫁するのではなく、自ら負担することを約束します。その後、この誓約は拡大され、より幅広い電力会社、開発事業者、州の参加者も署名しています。 今回の許認可制度改革法案が従来と異なるのは、自主的な約束から連邦政府の要件へと移行する可能性がある点です。具体的には、この提案はデータセンターに対し、関連する送電コストの負担を求めるものです。 エネルギー政策全体へのアプローチでは意見が分かれるとしても、電力料金の手頃さについては、両党の政策当局者が懸念を共有しているように弊社はみています。 選挙後を見据えると、投資家が注目すべき、相互に関連する2つの政策上のきっかけが生まれると弊社は考えています。 1つ目は、エネルギーインフラの建設加速につながる許認可制度改革について、連邦議会が合意に達することができるかどうかです。2つ目は、議員らがデータセンターに対して、より正式な費用分担要件の設定に動くかどうかです。 最終的な政策の組み合わせは、新規プロジェクトの時期と採算性の両方に影響を与える可能性があると弊社は考えています。承認が早まれば、一部の投資はより魅力的になるでしょう。一方で、開発事業者に追加の送電コストを負担させれば、プロジェクトの建設場所や、採用する電力ソリューションが変わる可能性もあります。政策の枠組みが変化すれば、代替策の重要性が一段と高まる可能性もあります。 もちろん、法案が成立する保証はまったくありません。選挙結果は、こうした協議が続く政治環境を左右します。また、最終的な合意内容は、現在の提案と大きく異なる可能性があります。 ただ、一歩引いて考えると、より大きな示唆があると思います。 AI投資サイクルの大半では、技術革新のスピードと設備投資に関心が集まってきました。しかし今後はますます、電力インフラ、許認可、料金の手頃さをめぐる政策判断も、その投資がどれだけ早く実際の稼働能力につながるかを決めるうえで、同じくらい重要になる可能性があります。 今回の許認可法案は、選挙後にワシントンがこうした課題へどう取り組む可能性があるかを示す初期の兆候です。そして投資家にとって中心的な問いは、企業がAIにいくら投じる意思があるかということよりも、AIを支えるのに必要な電力を、どれだけ早く、どの程度のコストで確保できるかということなのかもしれません。 最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

    AIを支える電力をめぐる政治
  7. 10月9日

    高金利で市場の底堅さに亀裂が入ることになるのか

    金利が長期にわたって高止まりするとの見通しにもかかわらず、市場は底堅さを維持しています。弊社の債券リサーチ・グローバル責任者、アンドリュー・シーツが、水面下で高まりつつあるリスクについて考察します。 このエピソードを英語で聴く。 トランスクリプト  「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。 今回のエピソードでは、弊社の債券リサーチ・グローバル責任者、アンドリュー・シーツが登場します。誰もが気になっていると思われる問い、つまり、金利がどの水準まで上昇すると市場にとって問題になるのかについて、さらに掘り下げて考察します。 このエピソードは10月9日にロンドンにて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。 弊社は先日、ここロンドンで第9回年次欧州クレジット・カンファレンスを開催しました。企業50社と、投資家1,000人以上が参加し、ひとつの問題でもちきりだったとある程度言える展開になりました。 今年の市場は目を見張るほど底堅く推移してきました。しかし、利回りが上昇するなか、この状況はどの時点で変わるのでしょうか。 この問いを考えるうえで、適切な出発点となるのは、現在の金利水準は明らかに間違っているのか否か、ということだと思います。そして私は、間違っていることが明らかになっているとは考えてません。米国、欧州、アジアの成長は意外なほど底堅く、今年の大半を通じてその状態が続いています。一方、各地域のインフレ率は、総じて言えば、中央銀行の目標をまだ上回っています。 つまり、インフレ率は高すぎる状態にあり、経済環境は、冷え込みすぎというよりは過熱している可能性のほうが高そうです。これは、金利水準が間違っているときに示唆される状況とは正反対です。もし金利が高すぎるのであれば経済活動は抑制され、インフレ率は目標より低い水準まで押し下げられるはずだからです。 AI関連支出の規模が大きいこと、そしてその支出が金利の水準からほとんど影響を受けていないことなどのために、金利上昇によって経済活動やインフレが押し下げられる状況は、まだ見られていません。 イールドカーブも、金利水準は今のところ妥当だという見方を裏付けていると思います。中央銀行が政策金利を引き上げすぎたと市場が考える局面では、イールドカーブがいわゆる逆イールドになることがよくあります。現在の金利は高すぎるため、将来、景気が悪くなった時に引き下げる必要が出てくるとの見方から、短期金利が長期金利を上回る状態になるのです。 しかし、現在はそうなっていません。これはかなり重要な指標だと思います。 少し細かい話になりますが、この問いの前提となっている市場の「底堅さ」についても考える必要があると思います。確かに、ある側面では、今年、利回りが大幅に上昇したにもかかわらず、市場は目を見張るほど堅調に推移してきました。米国株と欧州株は、2桁の上昇率を記録しています。リスク・プレミアムの指標であるクレジット・スプレッドは、数十年ぶりの低水準付近にあります。 しかし、表面を一枚めくってみると、その底堅さはそれほど明白ではありません。最も格付けの低い、いわゆるトリプルC格のクレジットのスプレッドは、今年、米国と欧州の両方で大幅に拡大しています。また、低格付けのプライベート・クレジットをポートフォリオに組み入れている上場BDC(ビジネス・デベロップメント・カンパニー)は、帳簿価額を割り込んだ価格で取引されており、その割り込み幅も拡大傾向にあります。 そして、力強い米国株式市場でさえ、弊社の同僚マイク・ウィルソンと米国株式ストラテジー・チームによると、時価総額上位3,000銘柄の半数以上が、6月以降、少なくとも20%下落しています。6月と言えば、ちょうど利回りが上昇し始めた月にあたります。 2026年は、世界経済全体の成長が、当初予想ほどには高金利の影響を受けないことを示しているのかもしれません。米国、欧州、アジアの大規模な財政赤字と、AIへの巨額の支出が、その理由の2つかもしれません。成長が力強く、インフレ率もなお高すぎるなかで、金利は、経済全体の均衡を保つことになると市場が考える水準を、探っているだけなのかもしれません。 しかし、テクノロジー投資と支出のブームを均衡させるのに役立つ金利水準は、規模が小さい、基盤が弱い、あるいは債務負担の大きい企業にとって望ましい金利水準と同じではありません。仮に、経済全体の均衡を保つために高金利が必要だとしても、市場の裾野にあたる弱い部分は、なお打撃を受ける可能性があります。 こうした状況は過去にも見られました。特に2005年がそうでした。 当時は、米国の大規模な財政赤字、中国の設備投資ブーム、そして米国の住宅資産の大幅な増加が、いずれも金利上昇の一因となりました。経済全体はその後も数年間持ちこたえました。しかし、クレジット市場の弱い部分は、そうした金利によって、より早く厳しい状況に直面しました。 弊社は、現在も同じことが起きているのかもしれないと考えており、そのため、より質の高い資産を選好しています。また、ローンよりもハイイールド債を選好しており、クレジット指数では、銘柄間のスプレッド格差が拡大する「ディコンプレッション」と呼ばれる展開を見込んでいます。 最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

    高金利で市場の底堅さに亀裂が入ることになるのか
  8. 10月7日

    中間選挙はAI投資サイクルの試金石となるか

    AI投資ブームは、市場を方向づける大きな原動力となっています。弊社の米国公共政策リサーチ責任者アリアナ・サルバトーレが、米国の中間選挙によって、AI投資ブームを支える支出や政策が変化する可能性について考察します。 このエピソードを英語で聴く。 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。 今回のエピソードでは、弊社の米国公共政策リサーチ責任者、アリアナ・サルバトーレが、中間選挙がAI投資サイクルにどのような意味を持ち得るのかについて解説します。 このエピソードは10月7日にニューヨークにて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。 私は以前、このポッドキャストで中間選挙がもたらす幅広い影響についてお話ししました。 今回は、中間選挙が特にAIに対する市場心理にどのような意味を持ち得るのか、もう少し掘り下げてお話ししたいと思います。 弊社では、これを2つの異なる経路に分けて考えています。1つ目はデータセンター建設に対する反対の動きで、選挙が重要なきっかけになり得るとみています。2つ目は、より広い意味でのAIの安全性と規制です。こちらについては、選挙結果の重要性は1つ目よりもはるかに低いと考えています。 この区別は重要です。つまり、中間選挙によってAIをめぐるルールが根本から書き換えられるというよりも、AIインフラ投資のペースや持続性に対する投資家の信頼感が左右される可能性の方が高いということです。 まずは、データセンターから見ていきましょう。弊社の基本シナリオは、引き続き条件付きで建設が進むというものです。AIインフラへの大規模な投資は今後も続くとみていますが、電力コスト、送電網への投資、立地、許認可、水の使用、地域社会への影響といった条件にますます左右されるようになると考えています。データセンター開発が連邦レベルで広く一時停止されるとはみていません。 AIの計算処理能力は、特に中国との競争を考えると、米国政府では戦略的インフラとみなされる傾向が強まっています。そのため、国家安全保障という観点からは、今後もインフラ建設が後押しされると弊社は考えています。 しかし、今回の選挙について重要なことは次の点です。実際にプロジェクトの遅れにつながる政策手段の多くは、連邦政府よりも下のレベルにあります。たとえば、電力系統への接続承認、大口電力需要家向けの電気料金、土地利用規制、水利用の許可、税制上の優遇措置などです。これらは一般に、州政府、公益事業委員会、地方自治体が管轄しています。 したがって、AIインフラに関しては、特定の上院議席をどの党が獲得するかよりも、最終的には州知事、州議会、公益事業委員会の方が重要になる可能性があると、弊社は考えています。 そして、ここから市場心理の話につながります。 連邦レベルでは、AIインフラに対する市場心理として、最も前向きに受け止められる可能性が高いのは、共和党が上下両院を制した場合とみています。これは、投資家が今後の規制上の制約が少なくなると予想する可能性が高いためです。また、許認可制度の改革、発電能力の増強、連邦所有地での開発が積極的に支援される可能性も高まると考えられます。 ねじれ議会となる場合は、現状維持に近い展開になると弊社は考えています。インフラ建設の持続性をめぐる不透明感は残りますが、連邦レベルの政策決定が行き詰まることで、実質的な判断の多くは引き続き州や地方レベルに委ねられることになります。 最後に、民主党が上下両院を制した場合は、市場にとって最も前向きに受け止めにくい展開になるとみています。ただし重要なのは、先ほど述べたように、データセンター建設が全米で一時停止されると予想しているわけではないという点です。むしろ投資家は、民主党が予想以上に議席を伸ばした場合、短期的には地方レベルの規制が強化される可能性が高まり、さらに次回の2028年選挙後には連邦レベルの監視が大幅に強まる可能性があると受け止めるかもしれません。 ここまではインフラ面についてお話ししました。では、より広い意味でのAI規制についてはどうでしょうか。こちらについては、中間選挙の影響は実際にははるかに小さいと考えています。包括的な新しい連邦規制の枠組みが導入されるのではなく、段階的かつ細分化された規制が進むというのが、引き続き弊社の見方です。 AIの安全性、データガバナンス、最先端モデルの監督については、対象を絞った対応が取られる可能性は十分にあると弊社はみています。ただし、社会的な注目を集めるほど重大な安全上またはセキュリティ上の事案が起きない限り、議会の構成そのものが、包括的な法制化の引き金になる可能性は低いと考えています。テクノロジーに関する制限やAIモデルへのアクセスについては、今後も行政機関がより重要な役割を担う可能性が高いでしょう。 ここから、投資家にとっての主なポイントが見えてきます。中間選挙によって、AI投資サイクルが続くかどうかが決まる可能性は低いでしょう。米国の計算処理能力を拡大する戦略的な意義は、引き続き変わらないと弊社は考えています。 一方で、中間選挙が影響を及ぼし得るのは、インフラ建設をめぐる問題です。プロジェクトがどこに建設されるのか、どれほど迅速に承認されるのか、誰がコストを負担するのか、そして最終的に、AI関連の設備投資が持続するとの見方に投資家がどれほど確信を持てるのか、という点です。 したがって、11月の選挙をAIという観点から考える際には、弊社は連邦レベルの動向を注視します。しかし、多くの場合、より重要なシグナルは、州知事選、公益事業委員会、地方選挙から得られる可能性があります。AIをめぐる政治が、実際にインフラを建設するうえでの物理的な制約と関わる場所は、まさにそこだからです。 最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

    中間選挙はAI投資サイクルの試金石となるか

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モルガン・スタンレーが配信する金融ポッドキャスト「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)では、マーケットに影響を与える様々な事象について当社のソートリーダーによる考察をお届けします。

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