エンタメビジネス実況中継

朝日けけ。

エンタメ業界で15年、漫画・アニメ・ゲーム・キャラクターIPの新規事業を立ち上げてきた朝日けけが、いまそこで起きているビジネスの動きを毎回1つピックアップ。ひとりで、ときにはゲストとともに30分語り続けます。分析でも解説でもない、「実況中継」です。 asahikeke.substack.com

  1. 1日前

    K-フレグランス(韓国香水ブランド)から学ぶ「世界観の設計図」

    いい香りだから、売れる。香水って、そういうものだと思うじゃないですか。わたしも、ずっとそう思っていました。 でも、いま世界で伸びている韓国の新興香水(K-Fragrance)ブランドは大手ではなく、少量生産で作家性の強い、小さな作り手たちなんです。 その顔ぶれを並べてみると、どうもいい匂いだから人気、という話じゃないんですよね。 BLACKPINKのJennie(ジェニー)が広告に立つTAMBURINS(タンバリンズ)。 "Dirty Rice(蒸したご飯)"という名前の香水を、平気で売るBORNTOSTANDOUT(ボーントゥスタンドアウト)。 後者は2022年にソウルで生まれて、たった2年で60カ国に進出しました。2025年には、あのロレアルが出資しています。 彼らの発信やブランドビジネスの設計を追っていくと、あることに気づきます。肝心の、香りそのものの話を、驚くほどしていないんです。本記事では、 「なぜ"香りの良さ"で差別化しないブランドが、香水という土俵で世界を獲れるのか」 という問いを解いていきます。 このsubstackでは「エンタメビジネス実況中継」と題して、エンタメやポップカルチャーについてビジネスとプロデューサー視点で発信しております。すこしでもこういった話題に興味があれば、ぜひ無料購読をよろしくお願いします。 韓国の香水が、香りの話をあまりしない理由 端的に言えば、こういうことです。 TAMBURINSもBORNTOSTANDOUTも、香りという"中身"を、いちばん最後につくっている。先に作っているのは、 模倣されづらい世界観 のほうなんですよね。 わたしはこれを『逆順の設計』と呼んでいます。模倣されやすいものほど、後に回す。 香水でいちばん模倣されづらいものって、匂いだと思うじゃないですか。でも、彼らは世界観を選んだのです。 この順番が、わたしたちの常識と、逆さまなんですよね。 普通は、中身で勝負するはずだった 香水は、嗅覚の商品です。だから中身=香りで勝負する。この考え自体は、間違っていません。実際、韓国ブランドも香りの質には妥協していない。 NONFICTION(ノンフィクション)は、名香を数多く手がけた世界的調香師Maurice Roucel(モーリス・ルーセル)を起用しています。中身は、ちゃんと一流なんです。 でもね、ここに落とし穴があります。 一流の調香師は、お金を払えば、どのブランドでも起用できる。つまり香りは、いちばん模倣されやすい層でもあるんですよね。今日すばらしい香りを作っても、明日には似たものが出てくる。いまは、いい香りを分析して近い処方に寄せる技術も、昔よりずっと安く、速くなりました。だから香りは、追いつかれるのがいちばん早いんです。ここを主戦場にするほど、消耗戦になっていく。香りだけで積み上げたブランドは、砂の上に建っているようなものなんですよね。 だから、香りを「最後」に作る ひとつ、先に断っておきます。ここで言う「最後」は、品質の手抜きでも、開発の後回しでもありません。香りを"差別化の切り札"として、最後まで前面に立てない。そういう設計上の順序のことです。 そのうえで、ここからが構造的に面白いところです。 世界で伸びている韓国ブランドを横に並べると、きれいに共通する順序が見えてきます。ひと言で言える思想。物語になる名前。行くこと自体が体験になる店。生活に棲みつく日用品。そして、海外の一流小売と資本による信用。香りは、この一番うしろに置かれている。 面白いのは、この順序が「たまたま」ではないことです。どのブランドも、判で押したように同じ順番で積んでいく。つまりこれは、誰かの偶然の成功譚ではなく、なぞれば再現できる設計なんですよね。 わかりやすいのが、BORNTOSTANDOUTです。創業者のJun Lim(ジュン・リム)は、もともと投資銀行にいた人でした。お金の集め方をいちばんよく知っている人が、最初の旗艦店には外部の資本を一切入れていません。生涯の貯金と退職金を注ぎ、銀行からは借りられるだけ借り、集めていたアートも全部売って、ソウルの漢南(ハンナム)に建てています。本人いわく、あの店はいまも「実質は銀行のもの」なんだそうです。ロレアルという資本が来たのは、そのずっとあと。世界観が固まってから、お金が来ている。順序が、はっきりしているんです。 「思想・名前・店」という武器で、香りを囲う もう少し、具体的に見てみます。外から見れば、彼らはただの香水ブランドです。でも設計図を開くと、そこにあるのは香りの会社ではなく、世界観の会社なんですよね。 ひとつ目は、ひと言の思想です。 BORNTOSTANDOUTは 「人と違うために生まれた」 という反抗。NONFICTIONは 「日常の静かな物語」という内省 。 TAMBURINSは 「異形の美」。 彼らは香りではなく、まず態度やスタンスを決めている。これは香りと違って真似ができません。真似したら、ただの物真似に見えてしまうからです。 ふたつ目は、名前です。 BORNTOSTANDOUTには"Dirty Rice(蒸したご飯)"という香りがあります。 別のブランドVilla Erbatium(ヴィラエルバティウム)は、"Rice Makgeolli(マッコリ)"を本気で香水にした。 ELOREA(エロレア)にいたっては、いまはもう使われない古い韓国語から、名前をつけています。日本で言えば、甘酒や味噌を、パリの一等地で香水として売るようなものなんですよね。変だからこそ、忘れられない。 香りは、嗅がないと伝わりません。でも名前は、嗅ぐ前に会話を生む。物語を生む。しかもマッコリのような固有名は、海外の人にとって「翻訳できる物語」になります。その土地に昔からあるものを使うことで、そこに培われた時間の価値と物語を、商品に込めることができるのです。名前の良し悪しは、結局この一点なんだと思います。その名前だけで、会話が起きるか。 みっつ目は、店です。 TAMBURINSの母体は、あのGentle Monster(ジェントルモンスター)を運営するIICOMBINEDという会社。店を「売り場」ではなく「美術館」のように作ることで知られてきた会社です。 そのノウハウを、そっくり香りに移植した。だから彼らの店は、商品を買う場所というより、ひとつの作品を見にいく場所になっている。 写真を撮りたくなる。 人に話したくなる。 店が、そのまま広告になっているんです。 エンタメで言えば、常設展やポップアップで"作品世界を歩ける"ようにする発想に近いと思います。 香りという模倣されやすいブランド核を、 思想とネーミングと店という、模倣されにくいレイヤーで、ぐるりと囲っている。これが、彼らの真似されづらい独自の武器なんですよね。 時間を稼いで資産を築く 武器は、もう一段あります。 ただし、ここから外側は、少し役割が変わります。 思想・名前・店が"真似そのもの"を遅らせるのに対して、もう一段は、競合が遅れている間に、客の生活習慣やスタイルを固め、ブランドの格を固めていく。稼いだ時間を、資産に変える層なんです。 彼らは香水にかぎらず、匂いを扱う商材、つまりフレグランス全般にラインナップを広げています。なかには、香りと一緒にコーヒーを出す併設カフェを持つブランドもある。香水は、年に何度も買うものではありません。 でもハンドクリームなら、毎日使う。低い頻度の主役の空白を、高い頻度の日用品が埋めて、ブランドのことを忘れさせない設計です。生活のなかに、静かに棲みついていく。エンタメで言えば、ライセンスやグッズや音楽で日常の接点を増やすのと、狙いは同じなんですよね。 そして最後に、信用です。無名の香りに「格」を後づけするために、彼らはHarrods(ハロッズ)やSephora(セフォラ)のような、格式のある一流デパートやセレクトショップの棚を取りにいきます。 あの店が置いている、という事実そのものが、第三者のお墨付きになる。ロレアルの出資も、役割は同じです。 自分たちで世界観を固めきったあとに、外の信用を借りにいく。ここでも、順序は崩していません。もし逆にしたら、どうなるか。世界観が固まる前に大きな資本や大型の棚が入ると、いろんな都合が混じって、あの尖った思想が少しずつ丸くなっていくんです。 だから彼らは、順番を守るために、我慢していると読めるんですよね。 「順番」にこだわる理由 正直に言うと、この順序の話は、わたしにとって他人事ではないんです。 エンタメ事業を統括していた頃、数え

    K-フレグランス(韓国香水ブランド)から学ぶ「世界観の設計図」
  2. 3日前

    アメリカ映画4割減なのに、日本映画は史上最高の理由

    今回は、ワーナーの5年間の実験、劇場版の「格」、そして入場者特典・応援上映・長い劇場期間で日本の劇場が積み上げた「待てないもの」の設計を整理しました。TOHOシネマズの料金改定が示す「場所の値段」への転換までを、数字とともに読み解いていきます。 ▼話したこと ・2021年ワーナー「Project Popcorn」の代償——ノーランは『オッペンハイマー』をUniversalへ持ち込み去った ・本丸は赤字ではなく観客の学習——「6週間待てば家で観られる」は5年経っても消えない ・StatSignificantの分析:配信専用作品は公開週1位でも翌週には会話から消える ・劇場版が付くと格が上がる理由——予算・宣伝・社内の扱いと最初の口コミの語り部 ・日本の劇場が売るのは「待っても手に入らないもの」——コナンの日付入りイラストや応援上映 ・『鬼滅の刃』無限列車編は配信まで約1,720日、アメリカの45日の約38倍という防波堤 ・TOHOシネマズ7月改定で全国一律が終焉——「待てない」は設計でつくり輸出もできる ▼note記事 アメリカ映画4割減なのに、日本映画は史上最高の理由 https://note.com/keke_ent/n/n5f2a2b4c6dd6 ▼朝日けけ。SNS note:https://note.com/keke_ent X:https://x.com/keke_ent substack:https://substack.com/@asahikeke Get full access to エンタメビジネス実況中継 at asahikeke.substack.com/subscribe

    アメリカ映画4割減なのに、日本映画は史上最高の理由
  3. 3日前

    ジャンプ作品10年分214作を数えてわかった、アニメ化のタイミングと閾値。

    「ジャンプがもう漫画雑誌には見えないんです。」 単行本全2巻で完結した『タコピーの原罪』が、連載終了から3年近く経ってアニメになりました。一方で『とんかつDJアゲ太郎』は連載開始から約1年7ヶ月、『僕のヒーローアカデミア』や『ラーメン赤猫』は約1年9ヶ月でアニメ化。完結した小さな作品が何年も経って拾われ、走り出した作品はあっという間に空へ上がっていく。この落差は、いったい何なのか。 「アニメ化がいつ、連載何話・単行本何巻で、どういう閾値で決まるのか」を測ったものが見つからなかった。だから朝日けけは、週刊少年ジャンプ本誌と少年ジャンプ+、この10年で連載された214作品を、連載開始日・単行本発売日・アニメ化の発表時期と放送時期まで、ひとつずつ数えました。 そうしたら、ジャンプという場所が「漫画雑誌」には見えなくなってきた。閾値とは、これより小さいと反応しないが、これを超えると反応する、その境目のこと。ジャンプは当たってから動くのではなく、当たりそうな瞬間にもう動いている。鬼滅の刃はアニメ化発表時に単行本11巻、呪術廻戦は7巻、ヒロアカは5巻。どれも物語が完結するずっと手前での決定でした。 今回は214作の実測データから、アニメ化のタイミングと「5巻」という閾値、本誌26%とジャンプ+83%というアニメ化率の意味、そしてジャンプが「一体型のIP発射台」であることを、ロケットのメタファーで言語化しました。 ▼話したこと ・連載開始からアニメ放送までの中央値は約3年半、最速はとんかつDJの約1年7ヶ月、最長は忘却バッテリーの約6年 ・アニメ化は完結後ではなく、鬼滅11巻・呪術7巻・ヒロアカ5巻という序盤〜中盤の発表——現場では半年〜1年前から水面下で動いている ・本誌新連載のアニメ化率は約26%、2016年組は36%、2019年は9%——多くの年で7〜8割はアニメにならず終わる ・アニメ化率26%は選別がゆるいのではなく厳しいから——週刊連載・読者アンケート・打ち切りは超高速オーディション ・『5巻前後まで上昇できるか』が閾値——ロケットの第1段切り離しに成功した機体は8割超が軌道に乗る ・ジャンプ+主要作のアニメ化率は約83%——デジタルの強みは率ではなく、当たりを見抜く早さと正確さ ・タコピーの原罪に象徴される発見力と、連載→打ち切り→アニメ→Netflix/Crunchyrollへ続く一体型IP発射台としてのジャンプ ▼note記事 ジャンプ作品10年分214作を数えてわかった、アニメ化のタイミングと閾値 https://note.com/keke_ent/n/nd0932652b585 ▼朝日けけ。SNS note:https://note.com/keke_ent X:https://x.com/keke_ent substack:https://substack.com/@asahikeke Get full access to エンタメビジネス実況中継 at asahikeke.substack.com/subscribe

    ジャンプ作品10年分214作を数えてわかった、アニメ化のタイミングと閾値。
  4. 8月10日

    TikTokでバズって売れた音楽アーティストは、全員当たるまでやめなかった人。

    TikTokの話になると、だいたいこの筋書きで語られます。無名の子がスマホ1台で弾き語りを上げたら火がついて、事務所から連絡が来て、気づいたら紅白に出ていた、みたいなサクセスストーリー。 わたしもそう思っていました。でも前回の記事を書いていて気づいたんですが、どうもそう簡単じゃないらしいと。 だから、この3年で名前が広まった8組のアーティストは、火がつく前に何をしていたのか。それを1組ずつ調べたんです。デビュー日、最初の投稿日、それ以前の所属、過去に出した曲。 結果、素人は一人もいませんでした。 いちばん短い人でも、火がつくまでに1年半の助走がありました。長い人は10年です。しかも何人かは、バズる前にすでにメジャーデビューまで済ませてる。 先に書いておくと、仕込みだったという話ではありません。8組とも、火がついた瞬間は本人にも事務所にもタイミングは読めていません。ただ、火がついたときに立っていた場所が、全員素人ではなかったという話です。 このsubstackでは「エンタメビジネス実況中継」と題して、エンタメやポップカルチャーについてビジネスとプロデューサー視点で発信しております。すこしでもこういった話題に興味があれば、ぜひ無料購読をよろしくお願いします。 imaseはバズる8ヶ月前にデビュー 「NIGHT DANCER」がTikTokで広がったのは2022年の夏です。そして翌2023年2月には、韓国のMelonでJ-POPとして初めて総合チャートのTOP100に入りました。のちに最高17位まで上がっています。日本の曲が海外で聴かれる流れを、いちばん象徴的に作った1曲だと思っています。 このとき、imaseさんはすでにメジャーデビューしていました。 デビュー曲「Have a nice day」の配信リリースは2021年12月19日です。「NIGHT DANCER」がリリースされたのは2022年8月19日なので、ちょうど8ヶ月前になります。つまり「バズって事務所に入った」ではなく、「メジャーデビューして8ヶ月後に当たった」なんですよね。順番が、違います。 ここでいうメジャーデビューは、配信シングル1曲です。 さらにさかのぼると、ギターを手にしたのが2020年11月ごろ、DTMを始めたのが2021年1月ごろ。TikTokに初めてオリジナル曲を投稿したのは2021年5月です。そのときのキャプションが、「音楽経験0の素人がオリジナル曲作ってみた(dtm歴4ヶ月)」でした。 このキャプションが、たぶん誤解の始まりです。本人は事実を書いているだけなんですけど、これを見た人は「素人が一発で当てた」と受け取ります。 実際には、初投稿から「NIGHT DANCER」のリリースまで1年3ヶ月あります。ギターを手にした2020年11月から数えると、TikTokで「NIGHT DANCER」が広まるまで1年6ヶ月です。この記事では、後者を助走と呼びます。 AKASAKIは、4本目で当たっている AKASAKIさんも同じ構造でした。 ギターを始めたのが2022年、16歳のとき。TikTokに初投稿したのが2023年9月で、「曲名ください」というキャプションをつけたオリジナルの弾き語りでした。 そこからシングルを出していきます。2024年4月に1stの「弾きこもり」、7月に2ndの「波まかせ」、同じ7月に3rdの「夏実」。この「夏実」が先に少し伸びました。そして同じ7月に、4曲目となる「Bunny Girl」のサビをTikTokに投稿しています。曲としてのリリースは、3ヶ月後の10月2日でした。 当たったのは、4曲目でした。 「Bunny Girl」のリリースは2024年10月2日、ストリーミング累計1億回突破の発表が2025年2月5日です。Billboard JAPANの総合ソング・チャート「Hot 100」には10月9日付で40位で初登場しています。初投稿から数えると、当たるまでに10ヶ月。 ギターを始めた日から数えると、2年かかっています。 3本目で少し伸びて、4曲目で当たった。そういう順番です。でもわたしが見ているのは弾数のほうで、3曲出せる体制を先につくったから4曲目が撃てた、と読むほうが実務に近い気がするんですよね。曲を出すには録って、ミックスして、配信登録して、ジャケットを作らないといけません。それを4回まわせる状態にあったこと自体が、助走です。 同じ形は、友成空さんにもあります。2021年3月31日、高校生活最後の日に5曲入りの音源『18』でデビューしていて、2022年11月にはBiSHの「I」を作詞作曲で提供しています。「鬼ノ宴」のデモをTikTokに投稿したのが2023年11月で、その翌月にはエイベックスのcutting edgeから「改札」を配信。 デビューから数えて、2年8ヶ月目の火でした。 楽音は6年 いま日本と韓国でいちばん再生されている「mosi mosi?」の楽音(ささね)さんも、初めて表に出た人ではありません。 2020年からモデルとして活動していて、TikTokでカバー投稿を始めたのが2025年3月。約1年でフォロワーが50万人を超えました。そのうえで、2026年4月22日に初のオリジナル曲を出しています。 モデル活動の開始から数えると、6年が経っていました。 素人の1曲目ではありません。しかもこの曲は本人の宅録ではなく、向田民子さんという作家がプロデュースしています。向田さんの言葉では「単なる楽曲提供ではなく、楽音というアーティストの楽曲プロデュースをさせていただいた形」だそうです。 50万フォロワーという土台と、プロの作家。この2つが揃った状態で撃った1曲目が、初週でTikTok総再生4億回でした。4億!!!!!! tuki.は13歳から たぶん、この8組でいちばん「シンデレラ」に近いのがtuki.さんです。中学3年生の弾き語りが、Billboard JAPANのHot 100で1位まで行ったので。 でも、TikTokに弾き語り動画を投稿し始めたのは13歳からでした。約1年半でフォロワーが50万人を超えていて、いちばん伸びた動画は1,860万回再生です。 「晩餐歌」を投稿したのは2023年7月で、13歳から数えて2年目です。50万人にいつ届いたかまでは公表されていませんが、少なくとも「晩餐歌」が最初の1本ではありませんでした。オリジナルを出すより先に、聴く人のほうが積み上がっていた人です。 1年半以上、弾き語りを上げ続けた人が、その先で自分のオリジナルを出した。そう書くと、ぜんぜんシンデレラの話じゃないんですよね。 起点の取り方は人によって違うので、棒の長さそのものを比べる図ではありません。見てほしいのは、どこを起点にしてもゼロから始まっている人が一人もいないことのほうです。 ここまで並べてくると、8組に共通しているものが1つあります。全員、火がつく前に何かを1周終えている、ということです。才能はもともと8組とも一流です。そこに新しく加わったのが、その1周ぶんの時間でした。 モナキのセカンドチャンス いちばんはっきり出ているのがモナキです。 純烈のリーダー・酒井一圭さんがプロデュースした「セカンドチャンスオーディション」から生まれた4人組で、開催は2023年10月。名前のとおり、一度どこかで順番が来なかった人が、もう一度立つ場所をつくるための企画です。メンバーの平均年齢は33歳でした。 デビュー曲のサビをTikTokに先行配信したのが2026年2月。メジャーデビューが4月8日。そして6月30日、TikTok上半期トレンド大賞2026で大賞を受賞しています。受賞理由に「デビュー前にして7億回再生を突破」と書かれていました。 ここで面白いのが、このバズがメンバーもスタッフも全員想定外だったと本人たちが言っていることなんですよね。 狙って当てたわけではない。偶然です。 でも、当たったあとが速かった。デビュー当日のイベントに約2,500人を集めて、8月にはZeppを3本押さえています。デビューから4ヶ月です。 平均33歳の4人が、なぜ4ヶ月でZeppを3本回せるのか。そこに至るまで、それぞれの場所で長く場数を踏んできた人たちだからだと思います。ステージの立ち方も、カメラの前での間の取り方も、イベントの動かし方も、もう体に入っている。 火がついた瞬間に、組み立てるほうが誰も慌てなかった。 M!LKの10年3ヶ月 同じことが、グループの側にもあります。 https://sd-milk.com/ M!LKは2014年11月24日に結成されて、「イイじゃん」の先行配信が2025年2月17日。10年3ヶ月です。この間に2023年10月22日には横浜アリーナで1万2,000人の単独公演をやっています。バズる前から、アリーナに立てるグループでした。 ME:Iは『PRODUCE 101 JAPAN THE GIRLS』から生まれた11人組ですが、番組シリーズ最多の1万4千人を勝ち抜いています。応募して選ばれなかった人が1万3千人以上います。この記事の後半で出てくる「

  5. 8月9日

    2026年版 アニメ原作マップ | 146本調べてわかった、アニメ原作はどこから来るのか。

    アニメの原作といえば、漫画か、ライトノベル。だいたいそのどちらかだと思っていませんか。わたしも、ずっとそう思っていました。 ところが、この6月に流れてきたアニメ化の発表を並べていて、新しい発見がありました。イラストレーターのnecoさんが描き続けてきた、武装する女子高生のイラストシリーズ『重兵装型女子高生』が、2027年にTVアニメ化。原作は、漫画でも小説でもありません。1枚のイラストから始まったシリーズです。監督は『プリンセス・プリンシパル』の橘正紀さん。 連載終了から13年がたった完結済みの少女漫画『電撃デイジー』が、世界累計発行部数500万部を引っさげて2027年にTVアニメ化。 そして海の向こうでは、ストーリーモードを持たない人狼ゲーム『Among Us』のアニメシリーズが、Paramount+で6月5日に突然配信開始。 1枚のイラスト。13年前に完結した漫画。物語のないゲーム。 ぜんぶ同じ「アニメ化」という4文字で報じられます。でも、種である原作が採れた畑は、ぜんぶ違うんですよね。 わたしはこれまで、エンタメ企業の事業統括・プロデューサーをしていました。マンガ・ゲーム・アニメの事業を通じて「どの原作に賭けるか」は、ずっと見てきた問いです。その目で見ても、「アニメの原作は、いまどこから来ているのか」に数字で答えた資料を、見たことがありません。みんな体感では知っています。なろう系が増えたよね、Web漫画が強いよね。でも、しっかりした資料は見たことがない。 なら、自分で調べればいい。 というわけで、2026年に放送が始まるTVアニメのうち、その作品として初めてアニメ化された146本を全部リストにして、原作の出自で分類しました。比較対象として、ちょうど10年あまり前、2015年の132本も同じ基準で数えました。 出来上がった地図は、わたしの予想を、けっこうな部分で裏切っていました。 このsubstackでは「エンタメビジネス実況中継」と題して、エンタメやポップカルチャーについてビジネスとプロデューサー視点で発信しております。すこしでもこういった話題に興味があれば、ぜひ無料購読をよろしくお願いします。 2026年 アニメ原作の地図 結論から書きます。2026年に初アニメ化される146本の原作は、こういう畑から採れていました。 いちばん大きいのは紙の漫画誌で44本、30%。次が小説投稿サイト(小説家になろうやカクヨムのように、誰でも作品を投稿できるWebサイトのこと)の42本、29%。少年ジャンプ+やマガジンポケットのようなWeb漫画・漫画アプリが37本、25%。この三つで全体の8割を超えます。文庫の棚に並ぶ商業ライトノベルと文芸は、12本の8%まで縮んでいます。 で、この地図だけ見ると、こう思いませんか。 なんだ、紙の漫画誌が30%で、まだ一番大きいじゃないか。 そうなんです。単年の地図では、変化は見えないんです。10年前の地図と重ねたとき、はじめて景色が変わります。 ※本記事は個人による収集・計測になるので、参考程度にご理解ください。 2015年との比較 2015年に初アニメ化されたTVアニメは132本。同じ基準で分類しました(出自を特定できなかったショート作品7本は、数えたことにせず除外しています)。同じ色で、10年前と並べます。 見てほしいのは、それぞれの数字より、緑の帯の厚みです。Web漫画と小説投稿サイトを合わせた「インターネット発」は、2015年には9本、全体の7%しかありませんでした。2026年は79本、54%です。 かわりに薄くなったのは、2015年に大きな顔をしていた二つです。商業ライトノベルの18%と、アニメオリジナルの23%でした。紙の漫画誌は31%で、ここは2026年の30%とほとんど同じ。紙だけが、10年間ずっと動いていないんですよね。 つまり2015年、アニメの原作はおもに三つの畑から来ていました。 紙の漫画誌の畑。ラノベ文庫の畑。そしてアニメスタジオのオリジナルの畑です。 一方で2026年、半分以上はこれらの畑を経由していません。 同じ「アニメ化」というニュースに見えて、種の採れる畑が、この10年でほぼ入れ替わっている。これが地図の一番大きな境目です。 商業ライトノベル原作アニメの減少 いちばん劇的なのは、小説です。 2015年、小説からアニメになった作品は26本。そのうち投稿サイト発は3本だけで、残りの23本はスニーカー文庫、ファンタジア文庫、GA文庫といった商業ライトノベルでした。編集部が新人賞で発掘して、イラストレーターをつけて、文庫の棚で育てる。あの王道のルートです。 2026年、小説からアニメになった54本のうち、投稿サイト発は42本。比率は78%です。10年で、商業レーベルと投稿サイトの立場が、そっくり入れ替わりました。 顔ぶれも少しだけ並べておきます。 なろう発の『穏やか貴族の休暇のすすめ。』『魔術師クノンは見えている』『領民0人スタートの辺境領主様』。 カクヨム発の『勇者刑に処す』『勇者のクズ』。 アルファポリス発の『最強の職業は勇者でも賢者でもなく鑑定士(仮)らしいですよ?』。 なろうの女性向け姉妹サイト、ムーンライトノベルズ発のBL小説『異世界の沙汰は社畜次第』まで放送されます。 投稿サイトの中の、さらに細かい棚の作品まで、アニメ化が届いています。 数えていて、いちばん驚いたのがこれです。 「小説家になろう」を初出とする作品だけで、31本。 紙の雑誌でいちばん多かったのは週刊少年ジャンプと週刊少年マガジンで、それぞれ3本です。 10倍です。 もちろん、1誌と1サイトを並べるのはフェアではありません。なろうに投稿されている作品の数と、ジャンプの連載枠の数では、桁がいくつも違います。土俵がまるで別です。でも、「2026年にアニメの原作が採れた場所」として可視化すると、これが現実でした。 数字が等しく見える影響 なぜここまで一気に置き換わったのか。プロデューサー目線で見ると、答えは単純です。 投稿サイトの作品には、企画書に貼れる数字が、最初からついてくるからです。 たとえば『猫と竜』は、なろうに連作短編として投稿されて、短編としては異例の日刊ランキング1位(2013年9月時点)を取った作品です。『勇者のクズ』は第1回カクヨムWeb小説コンテストの受賞作。アニメ化の検討席に乗るころには、こうした作品は「読者がいることの証明」を4段も5段も積み上げています。 図(小説はこの10年で一番激しく入れ替わった)の下段は、その階段を1本だけ最後まで追いかけたものです。2026年4月に放送された『神の庭付き楠木邸』。なろうの連載開始から書籍化まで7か月、アニメまで5年。各段の数字を確認しながら上がっていったことになります。編集部がゼロから新人を当てにいく賭けと比べて、どの段でも降りられる。投資する側から見ると、これは設計として強いんです。 アニメ化の企画が動く場では、候補作の資料に必ず実績の欄がついてきます。発行部数、アンケート順位、SNSのフォロワー数。そして、その欄が空白に近い企画から順に、議題から落ちていきます。誰かが悪意で落とすわけではありません。アニメは製作委員会(1本の作品に何社もが一緒にお金を出す座組のこと)を組んでつくる巨大なプロジェクトで、数億円が動きます。「数字がまだない作品」に張る稟議は、どの会社でも、書いた本人がいちばん苦しいものです。 紙の時代、その数字は出版社・編集部の中にありました。重版の回数、誌面アンケートの順位。外からは見えない数字です。いまは、ランキングもPVもブックマークも、発掘されるより前から全員に見えています。誰でも、いつでも、無料で。 リスクの査定が、編集部の目利きから、先に見える数字に変わっていった。この視点で見ると、投稿サイトの29%はぜんぶ説明がつくんですよね。作品が良くなったから選ばれるようになったのではありません。選ぶ側が、良さを証明する数字を先に見られるようになった。それだけです。 漫画も半分はWebから 漫画も同じ方向に動いています。 紙の漫画誌は44本で、本数だけなら10年前とほぼ同じです。ジャンプの『あかね噺』『キルアオ』、週刊少年マガジンの『真夜中ハートチューン』、月刊少年ガンガンの『黄泉のツガイ』、花とゆめの『多聞くん今どっち!?』。紙の看板は、いまも最大の畑です(ジャンプの新連載がどれくらいの確率でアニメになるかは、214作品を数えた別の記事に書きました)。

    2026年版 アニメ原作マップ | 146本調べてわかった、アニメ原作はどこから来るのか。
  6. 7月29日

    なぜスパイダーマンは死ななかったのか。失速するヒーロー映画と「感情の貯金」

    今回は、ワーナーの5年間の実験、劇場版の「格」、そして入場者特典・応援上映・長い劇場期間で日本の劇場が積み上げた「待てないもの」の設計を整理しました。TOHOシネマズの料金改定が示す「場所の値段」への転換までを、数字とともに読み解いていきます。 ▼話したこと ・2021年ワーナー「Project Popcorn」の代償——ノーランは『オッペンハイマー』をUniversalへ持ち込み去った ・本丸は赤字ではなく観客の学習——「6週間待てば家で観られる」は5年経っても消えない ・StatSignificantの分析:配信専用作品は公開週1位でも翌週には会話から消える ・劇場版が付くと格が上がる理由——予算・宣伝・社内の扱いと最初の口コミの語り部 ・日本の劇場が売るのは「待っても手に入らないもの」——コナンの日付入りイラストや応援上映 ・『鬼滅の刃』無限列車編は配信まで約1,720日、アメリカの45日の約38倍という防波堤 ・TOHOシネマズ7月改定で全国一律が終焉——「待てない」は設計でつくり輸出もできる ▼note記事 アメリカ映画4割減なのに、日本映画は史上最高の理由 https://note.com/keke_ent/n/n5f2a2b4c6dd6 ▼朝日けけ。SNS note:https://note.com/keke_ent X:https://x.com/keke_ent substack:https://substack.com/@asahikeke Get full access to エンタメビジネス実況中継 at asahikeke.substack.com/subscribe

  7. 7月27日

    才能を殺す人と生かす人の差。

    「それって数字で説明できる?」 これはエンタメ企業で事業統括やプロデューサーをやっていた頃、何度も言われた言葉なのですが、会社にいると、これをほんとうによく言われますよね。だけど今日は、その逆の思考について書きます。 クリエイティブを殺さないほうが、結果的に儲かるし、成功するよね。という話です。 もちろん、「数字で説明しろ」が悪いわけじゃないんです。上司に、株主に、役員会に。説明でいちばん通りがいいのは、いつだって数字です。誰が見ても、同じ意味に受け取れる。感想やこだわりは人によってブレるけど、数字はブレない。大勢が同じ絵を見て動く会社では、数字がいちばん、全員が納得できるんですよね。だから、数字そのものは、悪者じゃないんです。 ではなぜ、才能を殺さないほうが儲かるのか。 どうやって才能は殺されていくのか 漫画を例に見ていきます。一巻の漫画を出したとします。 初版で刷るのは、いまの時代は新人作家ならだいたい5,000部から7,000部くらいと言われています。それが売れて、半分を過ぎたあたりで重版がかかる。悪くない滑り出しです。でも、会社として編集部として正直に言えば「ものすごく、すごいこと」ではありません。「良かった」くらいの話です。 この例から分かる通り、「良かった」「すごい」と評価するとき、いちばん手っ取り早いのは数字です。何部刷って、何部売れて、いくら回収できたか。全部、数字で出ます。出せてしまいます。外から見ていると、それで十分に思えます。売れたなら成功、売れなかったなら失敗。分かりやすい。 でも、わたしはその分かりやすさが、いちばん怖いと思うんですよね。数字はきれいに見える分、それだけ正解か不正解か、成功か失敗か、すぐに烙印を押されるからです。失敗したら終了、成功しても次の3巻でまた数字を見る。次は5巻。正しいんですが、その判断だけだと、結果的にほとんどの漫画がすぐに連載終了になってしまいます。 なぜか。「すごい」「過去最高」のような数字をつくる作品は、めったに出ないからです。だとすると、本当に見るべきなのは「その一巻でいくら売れたか」ではなくなってきます。 その一巻が、どれくらい話題になったのか。読者の中に何が残ったのか。作家性のなにを出せているか。など、つまりプロセスです。そしてもうひとつ、そもそも自分たちは、この一冊を「何をもって成功とするか」を決めていたのか。未来の成功の定義です。 プロセスと、未来の成功定義。このふたつは、初版の部数には映りません。 そして、ここを見極めるのに、数字的な視点だけではなく、クリエイティブの視点がいります。「この作家は、次にこう化ける」「この読者の熱は、こういう順番で育つ」。まだ数字になっていないものを読む力です。センスとも言いますよね。 ここが金融的なルール、つまり目先の数字を健全に伸ばせるかどうかだけで判断することに縛られすぎると、どうなるか。みんなが目の前の数字だけを追いかけるようになります。現場が、少しずつ息苦しくなっていきます。 そして、いちばん割を食うのが、クリエイター(作家含む)です。数字にならない工夫や粘りが評価されないので、クリエイティブな部分から順番に削られていく。最後には、クリエイター自身が生きづらくなって、離れていきます。 これが、じわじわ効いてくる殺し方です。でも誰も、殺したつもりがないのが一番怖いんですよね。 では、才能を殺さないためには、なにをどうやって見ていくべきか。先に結論を言うと、一発では見抜けません。二度目以降の打席で、差が出るからです。 ここから先は有料部分です。 ほぼ全員が二度目以降で当てている 残酷なようですが、まずデータの話をします。 ハーバードの研究者たちが、1万社を超えるベンチャー投資先を調べた研究があります(過去に成功した起業家は次も30%成功する。初回は18%)。一度成功した起業家が、次も成功する確率はおよそ30パーセント。初めて挑む人は18パーセント。ここでよくある物語は「一度失敗した人は、そのぶん次に当たる」ですが、データはそう言っていません。過去に失敗した起業家の次の成功率は20パーセントで、初回の18パーセントと、ほとんど変わらないんです。 つまり、失敗そのものは、次の成功を保証してくれません。 この研究がほんとうに示しているのは、別のことです。当たる人は、二度目、三度目の打席で当てている。実績は、打席の数だけ積み上がっていく。一度の数字で打席を取り上げてしまうと、その人がいつか当たる人だったのかどうかを、永遠に分からなくしてしまうのです。 漫画の世界だと、これがもう、笑ってしまうくらい、はっきり見えます。 久保帯人さんの最初の連載『ZOMBIEPOWDER.(ゾンビパウダー)』は、全4巻で終わりました。 事実上の打ち切りです。その次に描いた『BLEACH(ブリーチ)』は、全74巻、15年続く大ヒットになりました(『ZOMBIEPOWDER.』は未完で終わり、次の『BLEACH』が15年続いた)。 堀越耕平さんも、デビュー連載を打ち切られたあとに『僕のヒーローアカデミア』を描き、世界累計1億部を超えています。 田中靖規さんの初連載は15話で打ち切り。鍵人など複数本連載〜打ち切りを経験したのちに『サマータイムレンダ』を当てました。 これは、漫画にかぎった話ではありません。 イーロン・マスクのSpaceXは、ロケットの打ち上げに3回連続で失敗し、会社は倒産寸前まで追い込まれました。4回目で、ようやく軌道に届いた。もし3回目で打席を取り上げられていたら、いまの火星の話は、まるごと存在していません(SpaceXは3回失敗し倒産寸前で、4回目にやっと軌道に届いた話は有名ですね)。 ウォルト・ディズニーが最初につくった会社も、あっけなく倒産しています。彼はそのあと、汽車でハリウッドへ渡り、ミッキーマウスを生みました。 任天堂にいたっては、ゲーム会社になる前、タクシー事業もインスタントライスも、手を出しては外し続けていました。いま世界を動かしている名前も、たいていは二度目以降の打席で当てているんです。 ここまで来ると、「殺す」の正体も、はっきり見えてきます。 才能を殺す正体 つまり才能を殺すのに、一番シンプルなのは打席に立たせないことです。面と向かって、連載作品や事業計画への否定も、予算のカットも要りません。一度やって数字が伸びなかったから、その人にはもう任せない。二度目は金を出さない。投資しない。打席に立たせない。それだけでいいんです。それだけで、誰も手を汚さずに、才能を一人、静かに見送れます。 とはいえ、勘違いしてほしくないのは、才能を殺さないために、「何度でもお金を出し続けろ」という話ではないことです。上で書いたように、失敗そのものは、20パーセントしか保証しません。当てずっぽうに打席を配り続けるのは、ただの浪費です。 シリコンバレーで「何度でも挑み続けられる起業家に賭けろ」と言われるのは、理由が超単純で、一度失敗しても次の打席に立てる人が、そもそもめったにいないからです。投資を受けられるかどうか関係なく、そもそも失敗しても次の挑戦をする人が少ないんですよね。 失敗したから当たるのではありません。失敗しても続けられること自体が、まれな才能なんですよね。 だからこの事実の下には、二度目にたどり着けなかった、数えきれない一度目の打席があります。打ち切られた読み切り、日の目を見なかった企画。立ち上がらなかった事業。解散した会社や組織。そのひとつひとつは、才能がなかったから消えたのではありません。二度目の打席が、回ってこなかっただけです。 なぜ一打席目で終わってしまうのか では、なぜ一度の数字で切ってしまうのが、これほどもったいないのか。ここも大事ですよね。いま、値段がぐんぐん上がっているものがあります。「センス」と「はじめる力」です。 反対に、値段が下がっているのは「調べればわかること」のほうです。論理的に正しい答え、データ上の正解。正しい判断。その手のものは、AIがどんどん安くしています。わたし自身、AIに調べさせ書かせる仕組みを日々まわしていて、昨日まで人が半日かけた正解が、今日は数十円で出る光景を、自分の手で起こしていま

    才能を殺す人と生かす人の差。
  8. 7月25日

    音楽が「TikTokでバズったら売れる」は、半分だけ本当。

    今回は、TikTokでバズったアーティストが世界に出ていく現象を、3つのステップで分析しました。「使いたくなる曲」で点火する第1ステップ、火をストリーミングに定着させ本人のファンに変える第2ステップ、そしてコピーできない「体験」につなぐ第3ステップ。この階段をのぼれるかどうかが、すべてを分けています。 ▼話したこと ・Creepy Nuts、Tani Yuuki、tuki.らの通説「TikTokでバズったから」を一度疑ってみる ・第1ステップ「10万再生の壁」——聴かせる力より、二次創作を『させる』使いたくなる力で点火する ・AKASAKIの『曲名ください』、tuki.の弾き語りなど、運まかせにしない点火の設計術 ・第2ステップ——火が消える前にプラットフォームを横断させ、ストリーミングに『定着』させる ・『マッシュル』やM!LK『イイじゃん』の流行語化など、大きなうねりの『隣』に並ぶ文脈の乗り方 ・M!LKの『爆裂愛してる』総合1位——曲のバズを『本人のファンダム』に変換する仕組み ・第3ステップ——武道館・東京ドーム・16万人ツアーへ、コピーできない『体験』につなぐ二極化の時代 ▼note記事 音楽が「TikTokでバズったら売れる」は、半分だけ本当。 https://note.com/keke_ent/n/n169024346dd1 ▼朝日けけ。SNS note:https://note.com/keke_ent X:https://x.com/keke_ent substack:https://substack.com/@asahikeke Get full access to エンタメビジネス実況中継 at asahikeke.substack.com/subscribe

    音楽が「TikTokでバズったら売れる」は、半分だけ本当。

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エンタメ業界で15年、漫画・アニメ・ゲーム・キャラクターIPの新規事業を立ち上げてきた朝日けけが、いまそこで起きているビジネスの動きを毎回1つピックアップ。ひとりで、ときにはゲストとともに30分語り続けます。分析でも解説でもない、「実況中継」です。 asahikeke.substack.com

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