
“Heretic” by Hakushu KITAHARA ( Unabridged ) 北原白秋『邪宗門』(全) (25)
Part 25
青き花
南紀旅行の紀念として且はわが羅曼底時代のあえかなる思出のために、この幼き一章を過ぎし日の友にささぐ。
「四十年二、三両月中作」
青き花
そは暗きみどりの空に
むかし見し幻なりき。
青き花
かくてたづねて、
日も知らず、また、夜も知らず、
国あまた巡りありきし
そのかみの
われや、わかうど。
そののちも人とうまれて、
微妙くも奇しき幻
ゆめ、うつつ、
香こそ忘れね、
かの青き花をたづねて、
ああ、またもわれはあえかに
人の世の
旅路に迷ふ。
君
かかる野に
何時かありけむ。
仏手柑の青む南国
薫る日の光なよらに
身をめぐりほめく物の香、
鳥うたひ、
天もゆめみぬ。
何時の世か
君と識りけむ。
黄金なす髪もたわたわ、
みかへるか、あはれ、つかのま
ちらと見ぬ、わかき瞳に
にほひぬる
かの青き花。
桑名
夜となりぬ、神世に通ふやすらひに
早や門鎖す古伊勢の桑名の街は
路も狭に高き屋づくり音もなく、
陰森として物の隈ひろごるにほひ。
おほらかに零落の戸を瞰下して
愁ふるがごと月光は青に照せり。
参宮の衆にかあらむ、旅びとの
二人三人はさきのほどひそかに過ぎぬ。
貸旅籠札のみ白き壁つづき
ほとほと遠く、物ごゑの夜風に消えて、
今ははた数添はりゆく星くづの
天なる調やはらかに、地は闌けまさる。
時になほ街はづれなる老舗の戸
少し明りて火は路へひとすぢ射しぬ。
行燈のかげには清き女の童物縫ふけはひ、
そがなかにたわやの一人髪あげて
戸外すかしぬ。――事もなき夜のしづけさに。
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- تاريخ النشر١٠ أكتوبر ٢٠٢٥ في ٣:٠٠ م UTC
- الموسم٦