Chapter 13
昨夜の御贈物、今朝ぞこまかに御覧ずる。御櫛の筥の内の具ども、言ひ尽くし見やらむかたもなし。手筥一よろひ、かたつかたには白き色紙作りたる御冊子ども、『古今』、『後撰集』、『拾遺抄』、その部どものは五帖に作りつつ、侍従の中納言、延幹と、おのおの冊子一つに四巻をあてつつ書かせたまへり。表紙は羅、紐同じ唐の組、懸子の上に入れたり。下には能宣、元輔やうの、いにしへいまの歌よみどもの家々の集書きたり。延幹と近澄の君と書きたるは、さるものにて、これはただけ近うもてつかはせたまふべき、見知らぬものどもにしなさせたまへる、今めかしうさまことなり。
五節は二十日に参る。侍従の宰相に舞姫の装束などつかはす。右の宰相中将の五節にかづら申されたる、つかはすついでに、筥一よろひに薫物入れて、心葉、梅の枝をして、いどみきこえたり。
にはかにいとなむ常の年よりもいどみましたる聞こえあれば、東の御前の向かひなる立蔀に、ひまもなくうちわたしつつ灯したる火の光、昼よりもはしたなげなるに、歩み入るさまども、あさましうつれなのわざやとのみ思へど、人の上とのみおぼえず。ただかう殿上人のひたおもてにさし向かひ、紙燭ささぬばかりぞかし。屏幔ひき、おひやるとすれど、おほかたのけしきは、同じごとぞ見るらむと思ひ出づるも、まづ胸ふたがる。
業遠の朝臣のかしづき、錦の唐衣、闇の夜にもものにまぎれず、めづらしう見ゆ。衣がちに、身じろきもたをやかならずぞ見ゆる。殿上人、心ことにもてかしづく。こなたに主上も渡らせたまひて御覧ず。殿もしのびて遣戸より北におはしませば、心にまかせたらずうるさし。
中清のは、「丈どもひとしくととのひ、いとみやびかに心にくきけはひ、人に劣らず」と定めらる。右の宰相の中将の、あるべきかぎりはみなしたり。樋洗の二人ととのひたるさまぞさとびたりと、人ほほ笑むなりし。はてに、藤宰相の、思ひなしに今めかしく心ことなり。かしづき十人あり。又廂の御簾下ろして、こぼれ出でたる衣の褄ども、したり顔に思へるさまどもよりは、見どころまさりて、火影に見えわたさる。
寅の日の朝、殿上人参る。つねのことなれど、月ごろにさとびにけるにや、若人たちのめづらしと思へるけしきなり。さるは、摺れる衣も見えずかし。
その夜さり、春宮の亮召して、薫物たまふ。大きやかなる筥一つに、高う入れさせたまへり。尾張へは殿の上ぞつかはしける。その夜は御前の試みとか、上に渡らせたまひて御覧ず。若宮おはしませば、うちまきしののしる。つねに異なる心地す。
もの憂ければしばしやすらひて、ありさまにしたがひて参らむと思ひてゐたるに、小兵衛、小兵部なども、炭櫃にゐて、
「いとせばければ、はかばかしうものも見えはべらず。」
など言ふほどに、殿おはしまして、
「などて、かうて過ぐしてはゐたる。いざもろともに。」
と、せめたてさせたまひて、心にもあらず参う上りたり。舞姫どもの、いかに苦しからむと見ゆるに、尾張守のぞ、心地悪しがりて往ぬる、夢のやうに見ゆるものかな。こと果てて下りさせたまひぬ。
このごろの君達は、ただ五節所のをかしきことを語る。
「簾の端、帽額さへ心々にかはりて、出でゐたる頭つき、もてなすけはひなどさへ、さらにかよはず、さまざまになむある。」
と、聞きにくく語る。
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- تاريخ النشر١٤ يونيو ٢٠٢٤ في ٣:٠٠ م UTC
- الموسم٥