南風舎  - Japanese Classical Literature Podcast

The Diary of Lady Murasaki - Unabridged #25 紫式部日記(全)

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Part 25 二十二日の暁、御堂へ渡らせたまふ。御車には殿の上、人びとは舟に乗りてさし渡りけり。それには遅れて夜さり参る。教化行ふところ、山、寺の作法うつして大懺悔す。白印塔など多う絵に描いて、興じあそびたまふ。上達部多くはまかでたまひて、すこしぞとまりたまへる。後夜の御導師、教化ども、説相みな心々、二十人ながら宮のかくておはしますよしを、こちかひきしな、言葉絶えて、笑はるることもあまたあり。  事果てて、殿上人舟に乗りて、みな漕ぎ続きてあそぶ。御堂の東のつま、北向きに押し開けたる戸の前、池につくり下ろしたる階の高欄を押さへて、宮の大夫はゐたまへり。殿あからさまに参らせたまへるほど、宰相の君など物語して、御前なれば、うちとけぬ用意、内も外もをかしきほどなり。  月おぼろにさし出でて、若やかなる君達、今様歌うたふも、舟に乗りおほせたるを、若うをかしく聞こゆるに、大蔵卿の、おほなおほなまじりて、さすがに声うち添へむもつつましきにや、しのびやかにてゐたる後ろでの、をかしう見ゆれば、御簾のうちの人もみそかに笑ふ。  「舟のうちにや老いをばかこつらむ。」 と、言ひたるを聞きつけたまへるにや、大夫、  「徐福文成誑誕多し」 と、うち誦じたまふ声もさまもこよなう今めかしく見ゆ。  「池の浮き草」 とうたひて、笛など吹き合せたる暁方の風のけはひさへぞ心ことなる。はかないことも所から折からなりけり。  『源氏の物語』、御前にあるを、殿の御覧じて、例のすずろ言ども出で来たるついでに梅の下に敷かれたる紙に書かせたまへる。  「すきものと名にしたてれば見る人の   折らで過ぐるはあらじとぞ思ふ」  たまはせたれば、  「人にまだ折られぬものをたれかこの   すきものぞとは口ならしけむ めざましう。」 と聞こゆ。  渡殿に寝たる夜、戸をたたく人ありと聞けど、恐ろしさに、音もせで明かしたるつとめて、   よもすがら水鶏よりけになくなくぞ   槙の戸口にたたき侘びつる  返し、   ただならじとばかりたたく水鶏ゆゑ   あけてはいかに悔しからまし  今年正月三日まで、宮たちの御戴餅に日々に参う上らせたまふ、御供に、みな上臈も参る。左衛門の督抱いたてまつりたまうて、殿、餅は取り次ぎて、主上にたてまつらせたまふ。二間の東の戸に向かひて、主上の戴かせたてまつらせたまふなり。下り上らせたまふ儀式、見物なり。大宮は上らせたまはず。  今年の朔日、御まかなひ宰相の君。例のものの色合などことに、いとをかし。蔵人は、内匠、兵庫仕うまつる。髪上げたる容貌などこそ、御まかなひはいとことに見えたまへ、わりなしや。薬の女官にて、文室の博士さかしだちさひらきゐたり。膏薬配れる例のことどもなり。