市場の風を読む

ステーブルコインが変える日本の金融の未来

日本の金融担当アナリストが、新たなステーブルコイン規制とデジタル決済の革新が、銀行業務、資産運用、そしてグローバルな資金の流れをどのように変革していくのかを解説します。

トランスクリプト 

「Thoughts on the Market」へようこそ。モルガン・スタンレーMUFG証券で日本の金融セクターの調査を統括している長坂美亜です。

本日のテーマは「日本のステーブルコイン革命と、それがグローバル投資家にとってなぜ重要であるか?」についてお話させて頂きます。

東京時間で10月31日 午後4時、

日本の暗号資産市場の発展はまだ黎明期ですが、初の円建てステーブルコインの登場が目前に迫っており、国内外でのデジタルマネーの流通方法を静かに変革させる可能性を秘めています。

ビットコインのようなデジタルマネーをご存じの方も多いでしょう。株式や債券などの伝統的な金融資産と比べて、価格変動が非常に大きいのが特徴です。一方で、ステーブルコインは異なります。円や米ドルなどの資産に連動することで、価値を安定させるよう設計されたデジタル通貨です。

2023年6月、日本は資金決済法が改正され、ステーブルコインの法的枠組みが整備されました。日本国内外の市場関係者は、円建てのステーブルコインが、テザーのようなグローバルなデジタル通貨として定着できるかどうかに注目しています。

ステーブルコインは、決済をより迅速に、低コストで、24時間365日可能にすることを可能とします。日本のキャッシュレス決済比率は2020年の約30%から2024年には43%に上昇しましたが、他国と比べてまだ成長の余地があります。政府によるフィンテックやデジタル決済の推進も加速しており、ステーブルコインは真のデジタル経済への架け橋となる可能性があります。

ビットコインなどの暗号資産とは異なり、ステーブルコインは価格変動を抑えるよう設計されています。民間企業によって管理され、現金、国債、金などの資産によって裏付けられています。業界関係者は、ステーブルコインが現金の信頼性と、インターネットのスピードと柔軟性を兼ね備えたデジタル決済手段になると期待しています。

日本の規制は厳格です。ステーブルコインは高品質かつ流動性の高い資産によって100%裏付けされる必要があり、アルゴリズム型ステーブルコインは禁止されています。発行者には透明性と準備金に関する要件が課され、月次監査が標準となっています。これは米国、EU、香港の新しい規制と類似している点です。

では、実務レベルではどうなるのでしょうか。金融機関は、即時決済、資産運用、融資などにステーブルコインの活用を模索しています。例えば、通常数日かかる株式や債券の取引決済が、ステーブルコインを使えば数秒で完了する可能性があります。また、Banking-as-a-ServiceやWeb3との統合など、新たなビジネスモデルも可能になりますが、一方で規制コストや低金利が収益性の課題となっています。

国際送金の基盤であるSWIFT取引を考えてみましょう。ステーブルコインがSWIFTを置き換えることはありませんが、補完することは可能だと考えられます。従来数日かかっていた送金が、数秒で完了し、手数料も最大80%削減される可能性があります。ただし、発行者への信頼やマネーロンダリング対策の遵守が重要です。

投資家の関心が高いもう一つのテーマが、CBDC、つまり中央銀行デジタル通貨です。ステーブルコインとCBDCはいずれもデジタル通貨ですが、CBDCは中央銀行が発行する法定通貨であり、ステーブルコインは民間のイノベーションです。日本は世界第4位の経済規模を持ち、技術革新の分野ではリーダーと見なされていますが、金融変革には慎重な姿勢を取っています。CBDCの準備は進めているものの、発行を決定したわけではありません。仮に発行される場合、CBDCは公共インフラとして、ステーブルコインはイノベーションの担い手として共存することが可能であると考えられます。

結論として、日本のステーブルコインの旅は始まったばかりですが、その影響は決済、資産運用、さらにはグローバル金融にまで波及する可能性があります。

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