SCB PODCAST(サテライトシティブックスポッドキャスト)

SATELLITECITYBOOKS PODCAST

栃木県宇都宮市の古本屋『サテライトシティブックス』のポッドキャストです。本・本屋さんの事を中心に音楽・映画・アートなどの様々な文化の話や作品の楽しさを伝える番組です。よろしくお願いします。 (毎週土曜日 新エピソード配信) ◽️SNS 《SATELLITECITYBOOKS》 https://x.com/@SATELLITECITYBS https://www.instagram.com/satellitecitybooks 《NAYABOOKS》 https://x.com/@NAYA_BOOKS https://www.instagram.com/nayabooks1022 ◽️お問い合わせ satellitecitybooks.utsunomiya@gmail.com

  1. 5d ago

    SCB PODCAST#204『村上春樹 『夏帆─The Tale of KAHO─』を読む』

    SCB PODCAST#204は『村上春樹 夏帆を読む』です。今年、一番の話題書でもある村上春樹、3年ぶりの長編小説『夏帆─The Tale of KAHO─』を今回の「課題図書」にしてみました。皆様はどのように読みましたか? 『夏帆─The Tale of KAHO─』/村上春樹/新潮社 〈作品紹介〉 「正直いって、君みたいな醜い相手は初めてだよ」 26歳の絵本作家、夏帆は初対面の男にいきなりこう告げられた。とびきり美しくも賢くもなく、ただ少しばかり好奇心の強い彼女は、怒りよりもショックよりも、ただ純粋に驚いた。しかしそれから彼女の周りでは、実にさまざまな奇妙な出来事が起こりはじめる。」 『高田が腑に落ちなかったモーターサイクルの男の心情』(2次創作) 僕は夏帆に会うまで、守護天使というものは、もっと簡単な仕事だと思っていた。  たとえば誰かが道を間違えそうになったら、少しだけ風向きを変える。誰かが階段から落ちそうになったら、落ちる直前に靴紐をほどいてしまう。そういう小さな仕事だ。  ところが実際には、そんなに簡単ではなかった。  人間というのは、自分がどこへ向かっているのかを、本人がいちばんよく知らないからだ。  だから僕は、夏帆にあの言葉を言った。 「君みたいに醜い女に会ったのは初めてだよ」  言葉にしてしまうと、それはひどく単純な文章だった。  僕はモーターサイクルの上にいた。エンジンはまだ熱を持っていて、金属の匂いがした。少し離れたところで自動販売機が低い音を立てていた。午後だったのか夕方だったのか、そのあたりはもうよく覚えていない。  でも夏帆の顔だけは覚えている。  彼女は怒らなかった。  泣きもしなかった。  ただ僕の顔を見て、それからほんの少し首を傾けた。  まるで僕が外国語で何か言ったみたいに。  そのとき僕は、しまった、と思った。  僕は彼女を傷つけるつもりで言ったのではない。  正確に言えば、彼女が傷つくことで、自分自身について何かを発見することを期待していた。  人間は、自分について本当に大切なことを、誰かから親切に教えてもらうことはできない。  自分で見つけなくてはいけない。  だから時々、少し乱暴な言葉が必要になる。  もちろん、それは守護天使として立派な仕事とは言えない。  僕だってそれくらいはわかっている。  でも僕は昔から、立派なことにはあまり向いていなかった。  僕はジャック・ケルアックだった。  ずいぶん昔、僕は道路の上にいた。  夜のアメリカには、道路の数だけ物語があった。ガソリンスタンドの明かり、紙コップのコーヒー、安いホテルの薄いカーテン。ジャズを聴きながら、僕は何度も考えた。  人はどうして走るのだろう、と。  答えは最後までわからなかった。  死んでからもわからなかった。  だから僕は今でも走っている。  ただし今度は、誰かを置き去りにするためではない。  誰かを、自分の物語の始まる場所まで連れていくためだ。  夏帆にも、その場所が必要だった。  彼女はまだ、自分の人生を自分の物語として見ていなかった。  だから僕は「醜い」と言った。  それは彼女の顔についての言葉ではなかった。  僕が言いたかったのは、もっと別のことだった。  君は、自分が何者なのかをまだ知らない。  君は、自分について他人が作った言葉を、自分自身の言葉だと思っている。  そして、それではいけない。  そういう意味だった。  でも、人間にそんなことを説明するわけにはいかない。  説明してしまえば、魔法は消えてしまう。  だから僕は黙っていた。  夏帆も黙っていた。  しばらくして彼女は言った。 「どうして?」  僕は答えなかった。  答えは簡単だった。  僕は彼女の守護天使だったからだ。  そして、守護天使というのは、ときどき自分がいちばん嫌われる役を引き受けなくてはいけない。  僕はモーターサイクルのエンジンをかけた。  エンジンが一度だけ低く咳をした。  僕はその音が好きだった。  生き物が、まだ生きていることを確かめるときの音に似ていた。  僕は夏帆を見た。  彼女はもう僕を見ていなかった。  どこか遠くを見ていた。  そのことに、僕は少し安心した。  人はいつか、自分を見ていた人から目をそらさなくてはならない。  そして自分の道を見る。  僕はアクセルを回した。  道路はどこまでも続いていた。  僕には行くべき場所があり、夏帆にはまだ行くべき場所がなかった。  でも、それでよかった。  行くべき場所がない人間ほど、遠くまで行くことがある。  僕はそういう人間を、昔から嫌いではなかった。 ◽️SNS 《SATELLITECITYBOOKS》 https://x.com/@SATELLITECITYBS https://www.instagram.com/satellitecitybooks 《NAYABOOKS》 https://x.com/@NAYA_BOOKS https://www.instagram.com/nayabooks1022 ◽️お問い合わせ satellitecitybooks.utsunomiya@gmail.com

    SCB PODCAST#204『村上春樹 『夏帆─The Tale of KAHO─』を読む』
  2. Aug 1

    SCB PODCAST#203『POOLSeasonBooklist2026TakadaSelect』

    SCB PODCAST#203は『POOLSeasonBooklist2026TakadaSelect』です。 今回はどこか既視感のあるありがちな エッセー紹介文風にしてみました。 ↓ 夏の読書。 夏は、水に近づきたくなる。 朝いちばんのプール。誰もいない水面は空を映していて、飛び込めば世界の音が少しだけ遠くなる。水から上がると、風は同じはずなのに、さっきまでとは違う季節のように感じられる。 本にも、似たところがある。 ページを開く前と閉じたあとでは、世界は何も変わっていない。それでも、目に映るものは少しだけ違っている。 夏の読書は、その小さな変化を楽しむためにあるのかもしれない。 冷えた麦茶を飲みながら。木陰のベンチで。旅先の宿の窓辺で。あるいは、泳いだあとの少し湿った髪のままで。 読む場所は、特別でなくていい。 静かな時間さえあれば、それで十分だ。 SCBPODCASTのブックリストシリーズでは、この季節に手に取りたくなる本を選びました。 物語の中を歩く一冊。 誰かの日常に寄り添うエッセイ。 見慣れた景色を少し違って見せてくれる言葉。 本は答えを教えてくれるものではなく、ときどき、立ち止まる理由をくれる。 忙しい日々のなかでは、何かを終わらせることばかりが増えていく。でも、本を読む時間だけは、何かを進めるためではなく、ただ、その場にいるための時間であってもいい。 だから読書は、少し贅沢だ。 SCBPODCASTでは、一冊の内容を急いで伝えることよりも、その本がまとっている空気や、読み終えたあとに残る静かな余韻を大切にしています。 本を紹介するというより、本のある時間を紹介したい。 そんな気持ちで、このシリーズを続けています。 夏は長いようで、あっという間に過ぎていく。 読みかけの本をバッグに入れて出かける日もあれば、一行しか読めない日もある。それでもいい。本は急がない。いつでも続きを待っていてくれる。 プールへ向かう足取りのように、少しだけ軽く。 この夏は、耳から本に出会ってみませんか。 ページの向こうには、涼しさではなく、静けさがあります。 ◾️OnoSelect ❶『このゲームにはゴールがない ――ひとの心の哲学』/古田徹也/筑摩書房 ❷『バラバラな世界で共に生きる リチャード・ローティの哲学』/朱喜哲』/NHK出版新書 ❸『これで駄目なら』/カート・ヴォネガット/飛鳥新社 ◾️TakadaSelect ❶『二月のつぎに七月が』/堀江敏幸/講談社 ❷『『語るに足る、ささやかな人生』/駒沢敏器/風鯨社 ❸『外国語を届ける書店』/白水社編集部/白水社 ◽️SNS 《SATELLITECITYBOOKS》 https://x.com/@SATELLITECITYBS https://www.instagram.com/satellitecitybooks 《NAYABOOKS》 https://x.com/@NAYA_BOOKS https://www.instagram.com/nayabooks1022 ◽️お問い合わせ satellitecitybooks.utsunomiya@gmail.com

    SCB PODCAST#203『POOLSeasonBooklist2026TakadaSelect』
  3. Jul 26

    SCB PODCAST#202『POOLSeasonBooklist2026 Ono Select』

    SCB PODCAST#202は『POOLSeasonBooklist2026 Ono Select』です。 今回はどこか既視感のあるありがちな エッセー紹介文風にしてみました。 ↓ 夏の読書。 夏は、水に近づきたくなる。 朝いちばんのプール。誰もいない水面は空を映していて、飛び込めば世界の音が少しだけ遠くなる。水から上がると、風は同じはずなのに、さっきまでとは違う季節のように感じられる。 本にも、似たところがある。 ページを開く前と閉じたあとでは、世界は何も変わっていない。それでも、目に映るものは少しだけ違っている。 夏の読書は、その小さな変化を楽しむためにあるのかもしれない。 冷えた麦茶を飲みながら。木陰のベンチで。旅先の宿の窓辺で。あるいは、泳いだあとの少し湿った髪のままで。 読む場所は、特別でなくていい。 静かな時間さえあれば、それで十分だ。 SCBPODCASTのブックリストシリーズでは、この季節に手に取りたくなる本を選びました。 物語の中を歩く一冊。 誰かの日常に寄り添うエッセイ。 見慣れた景色を少し違って見せてくれる言葉。 本は答えを教えてくれるものではなく、ときどき、立ち止まる理由をくれる。 忙しい日々のなかでは、何かを終わらせることばかりが増えていく。でも、本を読む時間だけは、何かを進めるためではなく、ただ、その場にいるための時間であってもいい。 だから読書は、少し贅沢だ。 SCBPODCASTでは、一冊の内容を急いで伝えることよりも、その本がまとっている空気や、読み終えたあとに残る静かな余韻を大切にしています。 本を紹介するというより、本のある時間を紹介したい。 そんな気持ちで、このシリーズを続けています。 夏は長いようで、あっという間に過ぎていく。 読みかけの本をバッグに入れて出かける日もあれば、一行しか読めない日もある。それでもいい。本は急がない。いつでも続きを待っていてくれる。 プールへ向かう足取りのように、少しだけ軽く。 この夏は、耳から本に出会ってみませんか。 ページの向こうには、涼しさではなく、静けさがあります。 ◾️OnoSelect ❶『このゲームにはゴールがない ――ひとの心の哲学』/古田徹也/筑摩書房 ❷『バラバラな世界で共に生きる リチャード・ローティの哲学』/朱喜哲』/NHK出版新書 ❸『これで駄目なら』/カート・ヴォネガット/飛鳥新社 ◾️TakadaSelect ❶『二月のつぎに七月が』/堀江敏幸/講談社 ❷『『語るに足る、ささやかな人生』/駒沢敏器/風鯨社 ❸『外国語を届ける書店』/白水社編集部/白水社 ◽️SNS 《SATELLITECITYBOOKS》 https://x.com/@SATELLITECITYBS https://www.instagram.com/satellitecitybooks 《NAYABOOKS》 https://x.com/@NAYA_BOOKS https://www.instagram.com/nayabooks1022 ◽️お問い合わせ satellitecitybooks.utsunomiya@gmail.com

    SCB PODCAST#202『POOLSeasonBooklist2026 Ono Select』
  4. Jun 20

    SCB PODCAST#199『RainySeasonBooklist2026〜ウツノミヤブックライツ振り返り回』

    SCB PODCAST#199『RainySeasonBooklist2026〜ウツノミヤブックライツ振り返り回』です。2026年5月16日(土)に開催されたウツノミヤブックライツの振り返り回です。たくさんの方にご来場いただきました。本当にありがとうごさいました。買った本なんかを話しながら、振り返りました。来場していだいた方は、コメントいただけると嬉しいです。よろしくお願いします。 【TAKADAがブックライツで買った本】 ❶『感傷は僕の背骨』/世田谷ピンポンズ/本の雑誌社 ❷『日々ナイス』/杉田龍彦/ビーナイス ❸『陰の書店員になりたくて!』/有原拾太郎 ❹『私が刈り取った男たち』/ジェスミン・ウォード/作品社 ❺『文学は割に合う』/アントワーヌ・コンパニョン/作品社 【ONOがブックライツで買った本】 ❶『雨雲の集まるとき』/ベッシー・ヘッド/雨雲出版 ❷『私が刈り取った男たち』/ジェスミン・ウォード/作品社 ❸『都会なんて夢ばかり』/世田谷ピンポンズ/本の雑誌社 ❹『ヘビトラ大図鑑 HEAVY DUTY TRADITIONAL』/小林泰彦/トゥー・ヴァージンズ ❺『絶不調にほどがある』/BREWBOOKS ❻『食べること考えること (散文の時間)』/藤原辰史 ❼『今を生きるための赤瀬川原平=尾辻克彦』/代わりに読む人/友田とん ◽️SNS 《SATELLITECITYBOOKS》 https://x.com/@SATELLITECITYBS https://www.instagram.com/satellitecitybooks 《NAYABOOKS》 https://x.com/@NAYA_BOOKS https://www.instagram.com/nayabooks1022 ◽️お問い合わせ satellitecitybooks.utsunomiya@gmail.com

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