水に学ぶ呼吸学校

黒坂洋介

水に学ぶ呼吸学校では、脱力法、立ち方、基本呼吸についての情報をお届けします。声楽、管楽器、弦楽器、邦楽などに役立てていただけます。人前で話すとき緊張しがちな方にもお薦めです。テキストとして「水の呼吸」シリーズを刊行。「リアルタイム」「双方向」のオーディオセミナーも準備中です。https://bit.ly/3aY9fvQ

  1. FEB 2

    身体性開発と反知性主義

    「身体性」を通じた自己調整によって知性を高める教育とは、従来の「静かに座って頭だけで考える」教育モデルを脱却し、身体の状態が認知や思考の質に直接影響を与えるという「具体化された認知(Embodied Cognition)」の知見に基づいたアプローチです。以下にその概念のまとめと、小・中・高校のカリキュラムへの導入方法を提案します。 1. 「身体性」を通じた知性向上のメカニズム知性を高めるための自己調整には、主に以下の3つのメカニズムが働きます。 • 自律神経の安定と前頭前野の活性化: 呼吸や姿勢を整えることで自律神経のバランスを最適化し、感情的な衝動を抑え、論理的判断を司る前頭前野を活性化させます。これにより、反知性主義的な単純な答えへの逃避を防ぎ、熟考する余裕が生まれます。 • 内受容感覚(メタ認知の身体的基盤): 自分の呼吸や心拍などの身体内部の状態に気づく力を養うことで、「今、自分は不安だから判断が歪んでいる」といったメタ認知能力の身体的基礎を築きます。 • 曖昧さへの耐性の育成: ヨガのバランスポーズのように「不安定だが保ち続ける」身体的体験は、現実世界の「正解のない複雑な問題」を考え続けるための精神的な粘り強さ(曖昧さへの耐性)へと転換されます。 ----------------------------------------------- 2. カリキュラムへの導入提案小・中・高校の各段階に応じて、以下のような方法が考えられます。 小学校:身体を通じた概念の理解と基礎的な自己調整 • 身体化された学習(Embodied Learning): 算数の分数を「部屋のスペースを身体で移動して体感する」ことや、理科の分子運動を「児童たちが分子になって動き回る」ことで、抽象的な概念を身体的直感として定着させます。 • 「脳休憩(Brain Break)」の導入: 授業の合間に3分程度の深呼吸やボディスキャンを行い、感情と事実を区別して落ち着く習慣をつけます。 • 農業と調理(必修化の核): 種まきから調理までのサイクルを体験し、自然という制御不能な複雑系に対する敬意と、長期的視野を養います。 中学校:思考と感情の分離と、協働的な身体技法 • ボックス呼吸法(Box Breathing): 難問に取り組む前やテスト前に、一定のリズムで呼吸を整える技法を導入し、ストレス下でも高い認知能力を維持する訓練を行います。 • ウォーキング・ダイアログ(歩く対話): 2人1組で歩きながら対話することで、対面時の威圧感を減らし、相手の意見を公平に理解する「深い傾聴」の訓練を行います。 • 「メイカー教育」と技術の統合: デジタルとアナログの工具を使い、身体を使って問題を解決する「デザイン思考」を実践します。 高校:高度な自己調整と知性の社会的な統合 • 哲学対話と身体技法の融合: 複雑で対立しやすいトピック(環境問題や人権など)を議論する前に、コヒーレント呼吸法などを行い、感情的な反応を抑制して建設的な議論を行うための「身体的準備」を整えます。 • 「手・頭・心」を統合するプロジェクト: 英シューマッハ・カレッジのように、午前中に農作業や共同調理を行い、その身体感覚を保持したまま午後に哲学や経済学の講義を受けることで、理論を「生きた知恵」として再構築します。 • 身体表現(舞踊・演劇)による他者理解: 言葉にならない感情を身体で表現したり、他者の役割を演じることで、人間性の複雑さへの洞察を深めます。結論知性への敬意は頭の中だけで育つものではなく、「整った身体」と「安定した呼吸」があって初めて、複雑な現実に向き合う勇気が生まれます。 教育に身体性を取り入れることは、反知性主義という「考えることへの苦痛」を「考えることの美しさ」へと転換する、最も根本的な対抗策となります。

    15 min
  2. 11/14/2025

    呼吸劇場〜無条件にゆるす〜

    本書『呼吸劇場〜無条件にゆるす〜』は『風と凪』の続編である。呼吸による意識デザインがテーマとなる。 水の呼吸シリーズ各巻はそれぞれが独立していて、どこから読んでも理解できる構成となっている。しかし本書については、『風と凪』を先にお読みいただきたい。「場意識と像意識」「外垂芯吊」「ステイト変換」などの基本知識があることを前提に、より進んだ内容を解説しているからだ。 『風と凪』では、まず場意識を整えるために、呼吸法を使って「平凪」を体験した。そして像意識デザインの基本として、外垂芯吊を練習した。 さらに、モーツァルトを聴いているときの感動を、モーツァルトを聴かないで作り出す意識デザインについて触れた。また、身体を貫く芯を、伸ばしたり、光度を変えたり、色をつけたり、香りや味や音を加えたりするトレーニングを試みた。 本書では、より緻密な意識デザインの方法を紹介する。そして、前著で予告した「芯の形、太さ、動き、温度、質感などを変化させる」練習にも取り組む。 ⚫︎YouTubeで概要を見る https://youtu.be/xZk_1LrZf10 ※横隔膜(おうかくまく)をヨコカクマクと誤読しているところがありますのでご注意ください。 ⚫︎電子書籍で読む『呼吸劇場〜無条件にゆるす〜』 https://amzn.to/3SyDZdl

    16 min
  3. 10/24/2025

    ウォームアップ〜呼吸法にできる5つのこと〜

    ウォームアップは、準備運動を意味する。たとえばスポーツの練習や試合に向けて、最適な状態を作り出す目的で行なわれる。楽器演奏や歌唱においても、パフォーマンスレベルを上げるためにウォームアップは重視される。 一般にウォームアップは、全身の血行を改善することで、「冷えて固い」身体を「温かく柔らかい」状態に変化させる。呼吸法と組み合わせて行なうことで、血中へ酸素を積極的に取り入れることもできる。 身体状態が変わることは、心理にも影響を及ぼす。活力、やる気、闘気を高める効果が期待できる。身体的ウォームアップは、心理的ウォームアップにもなるのだ。 心身を温める「ウォームアップ」に加えて、明晰な判断力を導く「クリアアップ」、ゆるぎない自信をもたらす「スティルアップ」を合わせて行なうことで、さらにレベルの高い準備が整う。呼吸法はそれらをつなぐ強力な手段となる。 本書『ウォームアップ〜呼吸法にできる5つのこと〜』では、呼吸学校で紹介している5つの基本ワークを、上記の「3アップ」と関連付けながら解説してゆく。 1.チャイルドタイム(心身を落ち着ける)2.ショルダリング(肩まわりをほぐす)3.フィッシュスイム(背骨まわりをほぐす)4.ボトミング(骨盤底筋群をめざめさせる)5.ヒフミフヒ(呼吸筋群をめざめさせる) また、アップ効果を高める以下2つの上級ワークについても説明する。 6.SOシフト(主客転倒による運動の高度化)7.MOT(呼吸筋群を強化する) ⚫︎電子書籍で読む『ウォームアップ〜呼吸法にできる5つのこと〜』 https://amzn.to/429TaNf

    18 min
  4. 10/22/2025

    ロハスの核心を探る

    米国の3つの価値観層:伝統派、モダン派、カルチュラル・クリエイティブスの特徴に関する報告書 本報告書は、LOHAS(Lifestyles Of Health And Sustainability)という概念の源流である、米国の価値観に関する調査研究を解説するものである。 この概念は、米国の社会学者ポール・レイと心理学者シェリー・アンダーソンが著書『The Cultural Creatives』(カルチュラル・クリエイティブス)の中で提唱した。 彼らは10年以上にわたり15万人を対象とした調査を実施し、その結果から米国社会には主に3つの価値観に基づく層が存在することを発見した。 それは「伝統派(Traditionalists)」「モダン派(Modernists)」、そして「カルチュラル・クリエイティブス(Cultural Creatives)=生活創造者」である。LOHASとは、調査当時、米国成人の26%を占めたカルチュラル・クリエイティブスのライフスタイルを指す言葉である。 本報告書では、これら3つの層が持つ、それぞれに異なる価値観と特徴について詳述する。 ただし、これらはあくまで抽出された「モデル」であり、実際の個人はこれらの価値観を様々な割合で組み合わせた、より複雑な世界観を持つと理解する必要がある。 1. 伝統派 (Traditionalists) の特徴 1.1. 社会的・道徳的価値観 (Social and Moral Values) この層の価値観は、厳格な家父長制と伝統的な道徳規範に深く根差している。• 家父長が家族を支配するべきだと考える。 • フェミニズムを嫌う。 • 男女はそれぞれ伝統的な役割を全うすべきだと信じている。• ポルノグラフィ、10代のセックス、婚外交渉、人工中絶の禁止を求める。 1.2. コミュニティと国家観 (Community and National Views) 所属意識と愛国心が、彼らのアイデンティティの中核を形成している。 • 家族、教会、地域社会への所属を重視する。 • 男性は軍隊に入隊し、自国に誇りを持つべきだと考える。 • 外国人に対しては排他的な姿勢をとる。 1.3. ライフスタイルと信条 (Lifestyle and Beliefs) 彼らの信条は、宗教的教義と伝統的な生活様式への強いこだわりを特徴とする。 • 人生におけるすべての導きは聖書にあると信じている。 • 大都市や郊外よりも、田舎や小さな町での暮らしの方が道徳的であると考える。 • 不道徳な行為を制約することは、市民の自由よりも重要であると見なす。 • 武装する自由を重要視する。 2. モダン派 (Modernists) の特徴 2.1. 中核的価値観と世界観 (Core Values and Worldview) モダン派の世界観は、物質主義、実利主義、そして科学技術への絶対的な信頼によって定義される。 • 物質主義を信奉する。 • 自己実現や内面的・精神的な生活には無関心である。 • 利他的な考え方や理想主義を持たない。 • 理想主義ではない。 • 人間関係を重視しない。 • 政治に対しては冷笑的(シニカル)な態度をとる。 • 科学と技術が真実であると信じている。 • 人間の肉体やほとんどの組織は、機械のようなものだと捉える。 2.2. 経済・キャリア観 (Economic and Career Views) モダン派の成功観は、金銭的な富とキャリア上の地位を絶対的な指標とする、明確な階層志向に基づいている。 • 人生において成功を最も優先する。 • 目標に向かって成功の階段を上ることに集中する。 • 多くの金銭を所有し、「時は金なり」を信条とする。 • 経済的および技術的な進歩を重視する。 • 大企業や政府が最善の判断を知っていると信頼する。 • 富裕であることを尊敬し、重視するのは正しいことだと考える。 • 大きいことはいいことだと考える。 • 目標を設定することは重要で効果的だと信じている。 2.3. ライフスタイルと問題解決 (Lifestyle and Problem-Solving) 彼らのライフスタイルは効率性、外見、そして合理的な分析を最優先する。 • 身なりを重視し、スタイリッシュで最新のトレンドを追い求める。 • 効率とスピードを最優先する。 • 問題解決の最善の方法は分析であると信じている。 • 地域住民、田舎の人々、伝統、ニューエイジ、宗教といった価値観を否定する。• メディアが提供する娯楽を好む。 3. ロハス派=カルチュラル・クリエイティブス (LOHAS / Cultural Creatives) の特徴 3.1. 中核的価値観と世界観 (Core Values and Worldview) この層の価値観は、非物質主義、自己実現、そして本物志向に根差しており、内面的な豊かさを追求する。 • 非物質主義的な世界観を持つ。 • 自己実現と理想主義を志向する。 • 人間関係を大切にし、成功は高い優先事項ではない。 • 出世には関心がない。 • 宗教的神秘を信じる。 • 自然は神聖なものであると考える。 • 結果よりもプロセスを重視する。 • 本物志向であり、プラスチック製品、偽物、模造品、ハイファッションを嫌う。 • 未来に対して楽観的である。 3.2. 社会・政治への関与 (Social and Political Engagement) 彼らは社会課題に対して強い当事者意識を持ち、積極的な関与を通じて持続可能な未来を目指す。 • 環境保護と持続可能な社会の実現を支持する。 • 利他的で、ボランティア活動に積極的である。 • 社会的な活動家でありたいという願望を持つ。 • 政治に対して冷笑的ではない。 • 技術の進歩にはあまり関心がない。 3.3. ライフスタイルと消費行動 (Lifestyle and Consumer Behavior) 消費行動は慎重かつ意識的であり、生活においてはシンプルさと質の高さを両立させることを重視する。 • シンプルな生活様式(シンプルライフ)を支持する。 • 購入前には情報を吟味する慎重な消費者である。 • 家族や友人と質の高い時間を過ごすことを重視する。 • 食への関心が非常に高く、新しいレストランでの外食、自炊、エスニック料理などを楽しむ。 • 日本車など、燃費の良い自動車を好んで使用する。 • 子供の教育、保育、家庭の福祉に高い関心を持つ。 3.4. 住居と旅行 (Housing and Travel) 住居や旅行においては、ステータスよりも本質的な価値や体験を求める傾向が顕著である。 • 新築住宅よりも、緑が多くプライバシーが保たれる古い住宅地を好む。 • ステータスを誇示するような外観(例:円柱のある家)を嫌い、正統的で本質的なデザインを求める。 • 旅行を非常に好み、特に異国情緒があり、冒険的(ただし危険ではない)、教育的で、本物の体験ができる精神的な旅を求める(例:エコツーリズム、パッケージ旅行では行かない場所への旅、マヤ文明の再建を手伝うツアーなど)。 3.5. 健康と文化への関心 (Interest in Health and Culture) 心身の統合的な健康と、知的好奇心を満たす文化活動への強い関心を特徴とする。 • 心、身体、精神が一体となったホリスティックな健康観を持つ。 • 健康的な食生活や代替医療による予防医学に関心を持ち、なるべく薬に頼らない。 • 読書を好み、大衆を誤解させるようなテレビ番組は嫌う一方で、良質な情報を得るためにラジオをよく聴く。 • 芸術や文化活動に非常に積極的である。• 物事の背景にあるストーリーや詳細な情報(うんちく)を好む。 4. 結論 本報告書では、ポール・レイとシェリー・アンダーソンの研究によって特定された、米国の3つの主要な価値観層(伝統派、モダン派、カルチュラル・クリエイティブス)の際立った特徴を概説した。 重要な点として、これらは概念的なモデルであり、現実の個人はこれらの価値観を様々な割合で内包している。そのため、実際には無数とも言える多様な個人の世界観が存在すると考えられる。

    7 min
  5. 10/20/2025

    底式呼吸 〜骨盤底に眠る獅子〜

    荘子に、以下の言葉がある。 真人の息は踵(くびす)を以てし衆人の息は喉(のど)を以てす 踵はカカトのこと。普通の人は喉のあたりで浅い呼吸をするが、すぐれた人はカカトまで吸うように深い呼吸をするという意味だ。気功には「足裏から息を吸い上げる」呼吸法もある。 トランペット奏者のメイナード・ファーガソンは、講習会で「太ももまで息を吸いなさい」と言った。背骨から両脚を吊るような構造の大腰筋は、大腿骨上部に付着している。そのため息を深く吸ったときに、太ももの付け根あたりに刺激を感じる場合があるのだ。 腹式呼吸が推奨される大きな理由のひとつは、深く息を吸うことである。ファーガソンは腹を越えて太ももまで息を吸い、荘子にいたっては踵まで動員する。身体性を極めてたどり着いた境地、それが脚式(きゃくしき)呼吸であり踵式(しょうしき)呼吸だろう。 本書で取り組むのは、胴体「底」の筋肉群を操作する、いわば底式(ていしき)呼吸だ。これもまた、腹式を越えた深い呼吸を得るための技術である。脚式や踵式とは別系統のトレーニングだが、ヨーガ、座禅、気功にも見られる伝統的な身体操作だ。 底式呼吸の奥深さ、可能性の広がりなど、その魅力を存分に味わっていただきたい。 ※今回はAIによる読み間違いがたいへん多いです。声楽をコエガク、荘子をショウフあるいはソウカ、身体の要(かなめ)をカラダノヨウ、脚式呼吸(きゃくしきこきゅう)をキッキャクシキコキュウ、踵式呼吸(しょうしきこきゅう)をケドシキコキュウ、底式呼吸(ていしきこきゅう)をドクシキコキュウやソコシキコキュウ、底腹連動(ていふくれんどう)をテイハラレンドウやソコハラレンドウ、2番をフタバン、底腹独立(ていふくどくりつ)をソコハラドクリツと誤読しているところがありますのでご注意ください。 ⚫︎電子書籍で読む『底式呼吸 〜骨盤底に眠る獅子〜』 https://amzn.to/42bL1rm

    8 min

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水に学ぶ呼吸学校では、脱力法、立ち方、基本呼吸についての情報をお届けします。声楽、管楽器、弦楽器、邦楽などに役立てていただけます。人前で話すとき緊張しがちな方にもお薦めです。テキストとして「水の呼吸」シリーズを刊行。「リアルタイム」「双方向」のオーディオセミナーも準備中です。https://bit.ly/3aY9fvQ