市場の風を読む

モルガン・スタンレーが配信する金融ポッドキャスト「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)では、マーケットに影響を与える様々な事象について当社のソートリーダーによる考察をお届けします。

  1. 5d ago

    株式投資家が見逃すべきでないサイクル半ばへの移行

    弊社最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンが、市場がどのようにサイクル半ばの環境へ移行しつつあるのか、また、リーダーシップが持続的な利益を備えた、より質の高いアセットライトな企業へと移っている背景について解説します。 このエピソードを英語で聴く。 トランスクリプト  「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。 本日のエピソードでは、弊社最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンが、株式投資家にとってインフレが懸念材料とはならない理由について解説します。 このエピソードは9月15日にニューヨークにて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。 市場はこの数カ月、表面的に見ているだけでは気づかないほど、多くの調整を進めてきました。6月初め以降、S&P 500は方向感に乏しい動きとなっていますが、その水面下では主導役が大きく変わっています。景気サイクル初期に強かった、資本集約型の勝ち組企業から、フリーキャッシュフローがより潤沢で、利益率が高く、よりアセットライトな事業を持つ、質の高い企業へと主導権が移りつつあります。ソフトウェア、金融サービス、保険、ヘルスケアサービスでは、今年前半に半導体やその他の景気敏感株が享受していたような、利益予想の上方修正の強さが見え始めています。弊社は、これは経済が景気サイクルの初期から半ばへ移行しつつあることを、市場が確認している動きだと考えています。 多くの投資家が昨日のニュースを議論している一方で、市場はすでに新しい主導役へと動き始めています。そのよい例が、先週発表されたインフレ指標です。結果は予想をやや上回り、メディアやFRBウォッチャーはかなり大きく反応しました。しかし、9月の利上げ確率は数カ月前から上昇しており、指標発表前の時点ですでに70%近くに達していました。現在は95%です。株式市場では、債券市場でのこうした織り込みの見直しと並行して、バリュエーションが切り下がってきました。要するに、インフレ指標は一部の人にとってはニュースだったかもしれませんが、市場にとってはそうではなかったということです。 これを、FRBが対応で後手に回っていると見る向きもあるかもしれません。しかし債券市場は数カ月前からその展開を見込んでおり、実質的にはFRBに代わって引き締めを進めてきました。株式市場もこの力学をよく認識しているため、バリュエーションは低下し、指数はここ数カ月ほとんど足踏み状態が続いています。これは、典型的なサイクル半ばへの移行局面の動きでもあります。FRBがインフレ抑制という使命に軸足を移し始めるなか、力強い利益成長がバリュエーション低下によって相殺されるのです。言い換えれば、最初の利上げは「リスクオフ」を意味するわけではありません。 ただし、それは6月以降に弊社が強調してきた、質の高い企業へのローテーションと全体的な見方を裏づけるものでもあります。その理由は利益にあります。以前からお聞きいただいている皆さまには繰り返しになりますが、ラッセル3000指数構成銘柄の利益成長率の中央値は10%台半ばでに達しており、これは2021年以来の速いペースです。また、利益予想の修正も引き続き堅調です。これは、まさにサイクル半ばの定石どおりです。利益が市場を支える主役となり、市場は弱気に転じているのではなく、より選別的になっているのです。より具体的には、市場はより高いキャッシュ・コンバージョン能力、より強い利益率、そしてより持続的な成長を求めています。 だからこそ、今年夏の初めに起きたモメンタムの巻き戻しは誤解されてきました。一部の投資家はこれを、混み合ったポジションからレバレッジが抜けただけだと見ていますが、それではより大きなメッセージを見落としてしまいます。半導体は典型的な景気サイクル初期のセクターであり、6月には利益予想修正の広がりが極端な水準に達していました。それが巻き戻しのファンダメンタルズ面でのきっかけであり、レバレッジはそれを増幅したにすぎません。価格モメンタムというファクター自体は回復し得ますが、主導する銘柄やセクターは大きく異なる可能性があります。健全な市場の調整とは、通常このようなものです。レースの性質が変わったことに誰もが気づく前に、バトンは次の走者へ渡されるのです。 金利についても、一般的な説明は不十分だと弊社は考えています。多くの投資家は、利回り上昇は単に債務や財政赤字に対する市場の評価だと考えています。しかし弊社は、より力強い名目成長のほうが重要な要因だと見ています。名目GDPは5年平均ベースで7%近くで推移しており、設備投資インセンティブ、コンピューティング需要、そして実体経済の資金循環の高まりを背景に、再加速しています。インフレがより強い売上高と利益成長を反映している場合、株式はインフレヘッジとなります。株式にとって真の弱点は、インフレではなくデフレです。 とはいえ、6月に始まったサイクル半ばへの移行について、完全に安心できる状況になったという意味ではありません。ここから原油価格が急上昇し続ければ、金利を押し上げ、成長に圧力をかける可能性が高く、株式にとっては健全とは言えない組み合わせになります。その場合、本格的に強気相場が再開する前に、S&P 500は5~10%程度下落する可能性があります。もう一つのリスクは中間選挙です。歴史的に見て、9月から10月にかけての時期に株式の逆風となってきました。 結論として、インフレ指標はすでに過去のニュースです。一方で、ローテーションはそうではありません。利益の持続性、フリーキャッシュフロー、業務効率、そしてクオリティがより重要になるサイクル半ばの市場へ移行しつつあります。FRBからの方針が完全に明確になるのを待っている投資家は、すでに市場から発せられているメッセージを見逃すかもしれません。主導役は、より質が高く、アセットライトな企業へ移っています。その流れに逆らうのではなく、受け入れるべきです。 最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

    株式投資家が見逃すべきでないサイクル半ばへの移行
  2. Sep 10

    FRB、フットボール、そして不確実性の対価

    弊社の債券リサーチ・グローバル責任者であるアンドリュー・シーツが、FRBの政策、AI関連の資金調達、エネルギー供給を巡る不確実性に対して、市場が投資家に十分な対価を支払っていない可能性があるのはどのようなときか解説します。 このエピソードを英語で聴く。 トランスクリプト  市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。 本日のエピソードでは、弊社の債券リサーチ・グローバル責任者であるアンドリュー・シーツが、アメリカンフットボールを題材に、不確実性の価値について何を学べるのかについて考察します。 このエピソードは9月10日にロンドンにて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。 私はこの季節が本当に好きです。外は少し涼しくなりました。街には新学期の始まりを告げる高揚感が漂っています。そして何より、ようやくアメリカンフットボールのシーズンがやって来ました。2025年に米国で放送されたテレビ番組の視聴者数上位100本のうち、90本はフットボールの試合でした。社会の分断が進み、コンテンツの視聴環境もますます細分化するなかで、これほど多くの人々の関心を集めていることは驚異的です。フットボールの人気を説明する要因は数多くありますが、時間とともに私がより実感するようになったものの一つが、その戦略的な複雑さ、とりわけ不確実性の価値です。 次のプレーがランなのかパスなのかを悟られないようにすること、ブリッツを仕掛けるのか、仕掛けるならどこからなのかを隠すこと。コーチたちは最後の瞬間まで選択肢を残しておこうと懸命に努めます。そして9月を迎えるなかで、この戦略はフットボールだけに限られるものではありません。 FRBを例にとってみましょう。市場は来週の利上げを約3分の2の確率で織り込んでいます。これは、NFLのチームがセカンド・アンド・セブンでパスを選択する確率とほぼ同じです。この不確実性の一因は、ジャクソンホールでのウォーシュFRB議長の発言をどのように読み解くかにあります。ウォーシュ議長は、基調的インフレ率が「明確に、かつ十分な速さで」目標に向かっているとFRBが確信する必要がある、と述べました。向かっていなければ、FRBには「なすべきことがある」と指摘しています。これは一般的に、利上げに一歩近づいたものと解釈されました。しかし、本当にそうなのでしょうか。十分な速さとは何を意味するのでしょうか。基調的インフレ率とは何を指すのでしょうか。そして「なすべきことがある」とは実際にはどういう意味なのでしょうか。結局のところ、弊社のエコノミストが予想するように年後半にインフレが改善するのであれば、この枠組みは同じくらい簡単に、何もしないという判断を正当化し得ます。弊社は、FRBが来週、金利を据え置くと予想しています。もっとも、これは確かにきわどい判断です。 次に、AI関連の資金調達における不確実性があります。ここでの金額は非常に大きなものです。弊社のアナリストは、2027年に大手ハイパースケーラー6社の支出が1兆3,000億ドルを超えると予想しており、これは今年の記録的な水準から60%の増加になります。ただし、これだけの資金がどのように調達されるのかは、あまり明確ではありません。投資適格債から資産担保証券、直接金融から保証まで、パブリック市場とプライベート市場をまたいだ資金調達の選択肢はますます豊富になっています。支出自体は実現する可能性が高いように見えますが、その形態や他の市場にどの程度影響を及ぼすかは、より不確実です。私の同僚であるマシュー・ホーンバックとヴィチー・ティルパットゥールは今週初め、こうした不確実性の一部と、それが米国債利回りに及ぼし得る影響について説明しました。 最後に、エネルギー市場にも不確実性が影を落としています。一部のアナリストは、ホルムズ海峡の原油の流れがようやく正常化しつつあると楽観しています。弊社はそう見ていません。ロシアの精製能力に大きな混乱が生じていることも重なり、弊社は第4四半期の予想を、ブレント原油について1バレル当たり100ドル、欧州天然ガスについて1メガワット時当たり88ユーロへ引き上げました。 これら3つのテーマに共通する不確実性の一部は意図的なものです。また、起こり得る結果の幅が広いことを単に反映している部分もあります。フットボールでも市場でも、プレーを指示する側にいるときには、選択肢を残しておくことは価値があります。しかし、そのプレーに価格を付けることを求められる側にとっては、それほど魅力的ではありません。そして、それこそが問題なのです。多くの不確定要素があります。弊社は、投資家がそれに見合うだけの対価を十分に受け取っているか確信を持てません。9月のFRB会合がきわどい判断になること、季節的要因が逆風であること、そして予想ボラティリティが非常に低い水準にあることから、弊社はマクロ市場全体でボラティリティの上昇に備えたポジションを取り、モーゲージ担保証券には慎重な見方をしています。 クレジット市場では、足元の社債発行はすべて、キャパシティではなく価格の問題だと弊社は考えています。弊社は、今年の投資適格債の供給が過去最高になるとの見方を維持しており、スプレッドの拡大が調整弁になると見ています。また、無担保社債よりも担保付き資産を選好しています。そして原油が株式と債券の双方にとってリスクとなるなか、弊社の米国株式ストラテジストは、エネルギー株が魅力的なヘッジ手段になると考えています。 不確実性そのものには価値があります。想定される結果の振れ幅が大きい一方で、不確実性に対する市場の評価が低い局面では、投資家はより高い対価を求めるべきだと弊社は考えています。 最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

    FRB、フットボール、そして不確実性の対価
  3. Sep 9

    AI投資ブームは報われるのか

    大手テクノロジー企業はAIに1兆4,000億ドル超を投じており、投資家は「それに見合う価値はあるのか」と問いかけています。弊社の米国インターネットアナリスト、ブライアン・ノーワックが、生成AIを活用するテクノロジーで25%~50%のリターンを生み出し得る3つのビジネスモデルについて考察します。 このエピソードを英語で聴く。 トランスクリプト  市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。 今回のエピソードでは、弊社の米国インターネットアナリスト、ブライアン・ノーワックが、生成AIを支える巨額の投資が実際に報われるのかについて考察します。 このエピソードは9月9日にニューヨークにて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。 AIは急速に日常生活に入り込んでいます。ソフトウェアの作成、購入前の調査、業務の自動化、情報検索など、数え切れないほど多くの用途で人々を支援しています。 しかし、こうした活動のすべて、そして今後さらに増えていく活動を支えるには、非常に大規模なインフラの整備が必要です。 弊社の推計では、大手クラウドプロバイダーは来年だけで、このAI基盤整備に1兆4,000億ドル超を投じる見通しです。そして、演算能力は2025年から2028年にかけて4倍になる可能性があり、およそ120ギガワットに達するとみています。 しかし、こうした支出の拡大は、投資家の間に多くの疑問を生んでいます。最もよく聞かれる問いの1つは、これらの企業がこうした何兆ドルものデータセンター・インフラ投資から、どの程度の投下資本利益率を得られるのか、というものです。 この問いに対して、弊社のボトムアップ分析は心強い答えを示しています。 弊社は、新たに登場しつつある3つのAIビジネスモデルにおいて、およそ25%~50%の投下資本利益率、つまりROICを実現する道筋があるとみています。ROICは、投資が採算に合うかどうかを測るうえで有用な指標です。最初に必要となる資本に対して、税引き後営業利益をどれだけ生み出せるかを示す指標と考えるとわかりやすいでしょう。 弊社が分析した最初のビジネスモデルは、演算能力の貸し出しです。これはAI経済のインフラ層にあたります。クラウドプロバイダーは、高性能の画像処理半導体、つまりGPUを備えたデータセンターを構築し、その演算能力を顧客に貸し出します。弊社の基本ケースでは、大規模な次世代データセンターは、AI向け演算能力を貸し出すだけで、およそ30%の投下資本利益率を生み出すことができます。 また、貸出価格が変動したとしても、弊社のシナリオでは、リターンは20%台前半から40%近くまでの範囲となります。したがって、こうした施設の建設に多額の費用がかかり、大きな資本が投じられるにもかかわらず、この分野の経済性はかなり魅力的だと考えています。 弊社が分析した2つ目のビジネスモデルは、AIラボが自社のモデルを持ち、さらに自社のインフラも保有するケースです。こうした企業は、APIを通じて消費者や企業にモデルへのアクセスを提供し、利用者はそのモデルを活用します。場合によっては、そのモデルを使ってアプリケーションを開発し、それが将来的に経済全体の生産性や効率性を高める源泉となる可能性があります。 このシナリオでは、経済性はさらに高くなる可能性があると弊社は考えています。モデル開発企業が基盤となるインフラを自社で保有している場合、弊社の基本ケースでは、およそ75%の増分営業利益率と、40%超の投下資本利益率が生み出されます。 こうした投下資本利益率は目覚ましいものですが、では、これらのリターンが実際に実現するかどうかを左右する要因は何でしょうか。 2つのことが非常に重要です。1つ目は、開発企業がトークンに対してどの程度の価格を設定することができるかです。トークンとは、AIモデルが処理する情報の単位です。2つ目に非常に重要なのは、このインフラがどれだけ効率よくトークンを処理できるかという点です。 だからこそ、GPU1基が1秒当たりに処理できるトークン数を高めるために、半導体とソフトウェアの改善が続くことが、このAIエコシステム全体の長期的なユニットエコノミクスにとって極めて重要なのです。 弊社が分析した3つ目のモデルは、AI開発企業が演算インフラを自社で保有するのではなく、外部から借りるケースです。つまり、必要なデータセンターやGPUについて、実質的に他社に対価を支払う形になります。他のプロバイダーがユニットエコノミクスの一部を取り分けるため、投下資本利益率は低下しますが、それでも弊社の基本ケースでは、およそ30%の増分営業利益率と、税引き後で25%のリターンを得られる可能性があります。 このように、AI基盤整備には巨額の投資が必要ですが、支出の規模だけでは、今後経済的リターンが得られるかどうかの全体像は見えてきません。 最終的に重要なのは、そのインフラがどれだけの収益と利益を生み出せるかです。そして、インフラの用途がAIモデルの学習から、新たな製品や推論を通じた顧客向けサービスへと移っていくにつれて、投資家が今問いかけているこの疑問に対し、はるかに明確な答えが見えてくると弊社は考えています。 こうした支出には、それだけの価値があったのでしょうか。弊社のリサーチが示す答えは、「イエス」です。 最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

    AI投資ブームは報われるのか
  4. Sep 1

    330億ドル規模のAIセキュリティ市場機会

    AIエージェントが企業の機密システムにアクセスするようになる中、企業には、その行動を制御する新たな方法が必要です。ミータ・マーシャルが、エージェント型AIのアイデンティティ・セキュリティという新興市場について解説します。 このエピソードを英語で聴く。 トランスクリプト  「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。 今回のエピソードでは、弊社の米国サイバーセキュリティおよび通信・ネットワーク関連機器アナリスト、ミータ・マーシャルが、職場で私たちに代わって行動し始めているAIアシスタントを取り上げ、重要な問いを投げかけます。こうしたエージェントには、どのような行動を認めるべきなのでしょうか。そして、その権限はどのように付与すべきなのでしょうか。 このエピソードは9月1日にニューヨークにて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。 私たちが日々の仕事をこなすうえで、AIの助けを借りる場面はますます増えています。文書の要約やデータ分析、会議中のメモ作成などをAIに頼んでいます。ただし、こうしたツールは単に質問に答えるだけの存在から、私たちに代わって行動する存在へと次第に軸足を移しつつあります。 そうなると、セキュリティ上の課題は、単にツールを管理することから、まったく新しいデジタル労働力全体を統制することへと大きく変わります。弊社の推計では、今後数年のうちに、人間の従業員1人当たりAIエージェントが79個、マシン・アイデンティティが109件に達する可能性があり、この問題はさらに大きくなるとみられます。 従来の職場におけるアイデンティティ・セキュリティは、「あなたは誰か」「何にアクセスできるか」という2つの基本的な問いに答えるために構築されてきました。オフィスの入館証を思い浮かべてください。入館証は本人を識別し、どのドアを開けられるかを決めます。 しかし、AIエージェントの場合、この問いに答えるのははるかに難しくなります。AIエージェントは自律的に動作し、複数のアプリケーションやデータベースを横断し、ほかのエージェントと協働できます。また、人が直接関与しなくても行動を起こします。 そのため企業は、エージェントが何にアクセスできるかだけでなく、なぜアクセスが必要なのか、どのくらいの期間必要なのか、そして実際に何をしたのかまで把握する必要があります。これが、エージェント型AIのアイデンティティ・ソリューションを支える中核的な基盤です。 この問題がもたらすリスクは、すでに相当な規模に達しています。現在、職場環境で起きる侵害のおよそ80%には、盗まれた、または不正利用された認証情報が関係しています。過去1年間に、10社中9社がアイデンティティ関連の侵害に遭い、83%が2回以上経験しています。ここに、人間1人当たり数百に上る可能性のあるマシン・アイデンティティやAIアイデンティティが加わり、それぞれが常時、機械の速度で稼働すると考えると、問題ははるかに大きくなります。 AIエージェントを管理する方法の1つが、常設権限ゼロです。 エージェントに恒久的なアクセス権を与えるのではなく、特定のタスクを実行するための権限だけを付与し、作業が完了したらその権限を取り消します。ただし、ここには課題があります。現在、特権アクセスのうち、このジャスト・イン・タイム型、または常設権限ゼロの仕組みで管理されているのは39%にすぎません。しかも現実には、すべての申請を人が承認することはできません。今後は、ランタイム・ガバナンスと呼ばれる仕組みを通じて、より多くの判断をリアルタイムで自動的に行う必要があります。 その結果、弊社の基本シナリオでは、エージェント型AIのアイデンティティ市場だけで、世界全体で約330億ドルの市場機会になり得ると推計しています。これにより、アイデンティティ市場全体では、今後数年で600億ドルを超える規模になります。 I普及によってエージェント型AIのアイデンティティへの需要が高まれば、これまで細分化されてきた業界が、より統合されたプラットフォームへと向かう可能性もあります。ある業界調査では、組織の85%が、分断されたアイデンティティ・システムによってアイデンティティ脅威への人的対応が遅れていると回答し、回答者によると、1件のインシデントへの対応には平均12時間を要しています。弊社は、人間とマシンのアイデンティティを一体的に管理し、セキュリティ上の判断を状況に応じて柔軟に下せるプラットフォームが有利になると考えています。それが、全体として、より安全な環境につながると考えています。 この移行は一夜にして進むものではありません。エージェント型AIのアイデンティティ製品はまだ初期段階にあり、直ちに業績へ影響が表れるとはみていません。しかし、企業がAIエージェントの実験段階から、より広範な導入へと移行するにつれ、こうしたエージェントを保護するための支出は、2027年に一段と意味のある成長の追い風となる可能性があります。 より長期的な成長機会は、単純な構図に集約されます。エージェントの数が増え、自律性が高まるほど、より強い統制が必要になります。そして、企業全体でAIの活用を拡大するうえで、アイデンティティ・セキュリティが不可欠になる可能性があります。 最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

    330億ドル規模のAIセキュリティ市場機会
  5. Aug 31

    コーヒーから缶飲料へ:米国で進むカフェイン摂取の変化

    若い世代が、カフェインの摂取スタイルを変えつつあります。弊社の米国家庭用品・飲料アナリスト、ダラ・モーセニアンが、エナジードリンクへの需要の高まりが、今後長年にわたって飲料の消費習慣にどのような影響を及ぼす可能性があるのかを解説します。 このエピソードを英語で聴く。 トランスクリプト  「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。 今回は、米国家庭用品・飲料アナリストのダラ・モーセニアンが、米国の次世代の消費者が、毎日のカフェイン摂取のあり方をどのように大きく変えつつあるのかを解説します。 このエピソードは8月31日にニューヨークにて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。 何世代にもわたって、米国人にとってカフェインといえばコーヒーでした。朝起きてポット一杯のコーヒーをいれるか、コーヒーショップに立ち寄って一日を始める、というのが定番でした。 しかし、今では状況が違います。若い消費者は、一日のスタートを切るための選択肢がはるかに多い環境で育ってきました。最近、コンビニエンスストアやジム、大学の図書館に足を運ぶと、カフェインを摂取する手段として、エナジードリンクがますます有力な選択肢になっていることが分かります。 こうしたカフェイン入り飲料を飲む量が増えている理由は、とても単純です。より多くのエネルギーを得たいからです。過去3カ月間にエナジードリンクの摂取量を増やした消費者のうち、61%が、もっとエネルギーが必要だったと回答しています。 新しいものを試してみたいという気持ちも重要です。44%が新しいフレーバーを試すことを理由に挙げ、37%が新しいブランドを試していると回答しました。 およそ3,000人の米国消費者を対象に弊社が実施した調査では、今後もエナジードリンクには大きな成長余地があることが示されています。現在エナジードリンクを飲んでいる消費者に尋ねたところ、今後3カ月間に摂取量を増やすと答えた人の割合は、減らすと答えた人の割合を19ポイント上回りました。これは弊社の過去の調査結果を大きく上回っており、男女いずれにも当てはまります。 おそらくさらに興味深いのは、摂取量を増やすと見込んでいるのが誰なのかという点です。人口動態は、従来よりエナジードリンクの消費を左右する重要な要因となってきました。若い世代は、従来のコーヒーや炭酸飲料に代えて、エナジードリンクを選ぶ傾向を強めています。弊社の調査で特に重要なのは、25~34歳と35~44歳の年齢層が、今後摂取量を増やす意向を最も強く示したことです。これは、非常に若い時期からエナジードリンクを取り入れた消費者が、年齢を重ねてもこのカテゴリーから離れていないようであることを意味します。つまり、その習慣をそのまま持ち続けているのです。 また、カフェイン入り飲料の市場はゼロサムではないことも重要です。確かに世代ごとの好みは変化していますが、市場全体のパイは実際に拡大しています。カフェイン入り飲料の中で最もシェアを伸ばしているのはエナジードリンクですが、弊社の調査では、エナジードリンクの摂取量の増加分のうち、コーヒーから直接切り替えた分はわずか20%、炭酸飲料から直接切り替えた分は22%でした。つまり、需要の大半は実際、カフェイン入り飲料全体にとって純増分なのです。 今後については、エナジードリンクがカフェイン入り飲料の中で最も成長率の高い分野となり、年率で一桁台後半の成長が続くと弊社は予想しています。手の届く価格で楽しめるちょっとしたぜいたく品として定着するにつれ、アルコール飲料やスナックなどに取って代わる動きさえ見られます。特にこの動きはGLP-1によって後押しされており、減量によってエネルギーが低下した消費者のカフェイン需要も一段と高まっています。 したがって、エナジードリンク・カテゴリーでは、力強い一桁台後半の成長が続く可能性が高いとみています。過去15年間の年平均成長率は9%でした。今後も、先ほどお話しした需要の押し上げ要因に加え、価格設定が合理的な環境にあることから、この成長率は持続する可能性が高いとみています。 そして、エナジードリンクの売上高の勢いは、その多くが新製品やイノベーションに支えられています。その中には、無糖飲料も含まれます。無糖飲料は、より健康に良いと受け止められています。特に女性を中心に新たな消費者を引きつけているほか、比較的年齢の高い消費者も、年齢を重ねても引き続きこうした商品を飲み続けています。 エナジードリンクは、値上げ幅がより大きかった他の飲料カテゴリーと比べて、価格面での手頃さも増しています。利便性も魅力の一つです。最近コーヒーからエナジードリンクに切り替えた消費者のうち、57%が1本当たりのカフェイン量が多いことを理由に挙げ、45%が利便性を挙げました。半数近くがエナジードリンクの味を好み、45%がフレーバーの種類が豊富であることを理由に挙げています。 エナジードリンクが、さらに多くの場所で販売される余地もありそうです。弊社の調査では、消費者の47%が、自動販売機で購入できればエナジードリンクをもっと買うと回答しました。また、46%がファストフード店やファストカジュアル店、37%がコーヒーショップで購入できればもっと買うと答えています。実際、私の同僚のブライアン・ハーバーが担当する多くのコーヒーショップでは、顧客の好みに合わせて作るエナジードリンクが登場しています。ここでも、市場全体のパイが拡大しているのです。単に炭酸飲料やコーヒーからシェアを奪うという話ではありません。 このように、米国のカフェインを摂取する習慣は根強く、しかも広がり続けています。若い消費者には、より多くのフレーバー、より多くの商品形態、そして一日のさまざまな場面にカフェインを取り入れるための、より多くの方法があります。そして、こうしたカフェイン入り飲料への嗜好は、消費者が年齢を重ねても弱まっていないようです。 最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

    コーヒーから缶飲料へ:米国で進むカフェイン摂取の変化
  6. Aug 28

    米国債務拡大に対するワシントンの動き

    米国の債務が予想を上回るペースで増える中、11月の中間選挙から読み取れるワシントンの動きについて、弊社米国公共政策リサーチ責任者、アリアナ・サルバトーレが考察します。 このエピソードを英語で聴く。 トランスクリプト  「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。 本日は、米国の財政政策が再び注目されている理由と、来る中間選挙から読み取れる債務の全般的な先行きについて、弊社の米国公共政策リサーチ責任者、アリアナ・サルバトーレが解説します。 このエピソードは8月28日にニューヨークにて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。 財務省が最近発表した国債買い戻しを受け、米国の財政政策が再び投資家の注目を集めています。買戻しが発表された週、債務総額は大方の予想より数ヵ月も早く大台を超え、初めて40兆ドルに達しました。 弊社のアンドリュー・シーツが指摘するように、債務総額はとても膨大です。ただ、より注目すべきは、金額そのものではなく、増大する債務が経済の足かせになり始めているかどうかという点です。 現時点において、米国債市場で信用問題が生じているとは言い切れません。しかし、そうだからこそ、財政が再び議論の俎上に載っています。その背景には、様々な理由があると私たちは考えます。 景気後退に陥っていないにもかかわらず、米国は大規模な財政赤字に陥っています。弊社エコノミストによれば、赤字は2027年までGDP比6%前後で推移する見込みで、有権者は高水準で推移する債務を明らかに懸念しています。 それでは、ワシントンではなぜ緊縮財政がもっと議論されないのでしょう。その答を簡単に言えば、政治的インセンティブが緊縮財政と相反するためだと私たちは考えます。 単純化し過ぎることを承知で言えば、財政健全化、つまり赤字削減には、歳出削減か増税のいずれかを実行する必要があります。しかし、そうした選択に伴う政治的代償は即座に表面化します。したがって、特に選挙を控えた時期には、タイムリミットを伴う重大な決定や既存制度に対するリスクが争点として浮上しない限り、与野党どちらにもそうした政策変更に前向きになるインセンティブがないと考えます。 では、選挙後はどうでしょう。中間選挙そのものが財政政策の軌道を修正するきっかけになると私たちは考えていません。ただし、その後の方向性を知る有効な手掛かりにはなると思います。私たちは特に2つの点に注目しています。 1つ目は社会保障です。11月の中間選挙で最大の争点になる可能性は低いものの、老齢・遺族保険信託基金問題のタイムリミットが徐々に迫っているため、債務を巡るより広範な議論の行方を占う試金石として役立つかもしれません。 最新の評議員報告書では、老齢・遺族保険信託基金が2032年第4四半期に支払能力を失うと予測されており、このまま法改正がなければ、予定給付額の約78%しか賄えなくなる可能性があるとのことです。ただし、この問題の争点としての重要性は、今年11月の中間選挙よりも2028年の大統領選挙でより高まりそうです。この年の選挙で勝利した人物が、基金が枯渇する時期に大統領の座に就いているからです。 それでも、11月の中間選挙からは、政治的な争点がどこに収斂しつつあるかを読み取ることはできると思います。最近の世論調査からすると、有権者にはかなり一貫した傾向が見られ、すなわち、有権者は政治家に行動を取るよう求めており、幅広い給付削減よりも、高所得者への増税を支持する様子が読み取れます。また、所得分布の最上位層を対象にするものに限れば、給付削減にも比較的前向きであるようです。 2026年中間選挙の候補者の多くが社会保障税の課税対象となる所得上限の引き上げに足並みを揃えたり、一部の共和党候補が受給開始年齢の引き上げといった主張を選挙運動で前面に出さなくなったりした動きには、こうした背景があると考えます。 候補者が打ち出すこうした政策のうち、実際にどれが勝利に繋がるかを見定めれば、財政政策の先行きを予想するのに役立つと私たちは考えます。特に有権者のかなりの割合がこうした給付に依存するニューハンプシャー州やメーン州の上院選では、どの政策変更が有権者の共感を呼び、最終的な制度修正に反映されるかを探る有効な手掛かりが得られる可能性があります。 2つ目は、選挙後のより幅広い財政環境です。例えば11月の選挙でねじれ議会となれば、政府予算や債務上限の成立期限が近づく度に、財政を巡る不透明感が強まり易くなります。ただし、この2つが市場におよぼす影響は大きく異なります。政府予算の場合、不成立に伴う政府機関閉鎖の主な影響は、間接的なものにとどまる傾向があると考えます。予算不成立によって政府機関による調査が滞ったり規模が小さくなり、その結果として統計の公表が遅れたり、サンプル数の制約で調査結果の質が低下したりする可能性を想像してみてください。 その場合、投資家や米連邦準備制度理事会は、時には数週間にわたって不完全な情報に基づく意思決定を迫られてしまいます。一方、債務上限の影響はより直接的なものです。そしてその影響は、米国短期国債市場で最も顕著に表れます。期限となり得る時期の前後に満期を迎える短期国債は、投資家がその限られた期間のデフォルト・リスクを織り込まなければならないため、ほかの短期指標と比べて価格が下がる傾向があるからです。この問題が最終的には解決するとの見方を基本シナリオが織り込んでいたとしても、このことに変わりはありません。 つまり、私たちの全体的な考え方はこうです。債務が40兆ドルを超えたからといって、財政がただちにワシントンの最優先課題になる可能性は低い。それでも中間選挙は、政治的なインセンティブが変わり始めているかどうかを見極める機会となる。具体的には、政治家の社会保障を巡る姿勢と、より広くは、予算期限を巡る政治的対立を受け入れる度合がどの程度かという点がより明らかになると考えています。 いずれにせよ、財政政策は今後数年にわたってニュースの見出しを飾る話題になると私たちは考えています。とりわけ2028年の大統領選挙シーズンが近づくに連れ、こうした傾向は強まりそうです。 最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

    米国債務拡大に対するワシントンの動き
  7. Aug 26

    米国の債務増加が問題になり始めるのはいつか

    弊社債券リサーチ・グローバル責任者のアンドリュー・シーツが、金利上昇と米国債務の増加が、いつ、どのように単なる抽象的な懸念では済まなくなるのかを解説します。 このエピソードを英語で聴く。 トランスクリプト  「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。 本日のエピソードでは、弊社債券リサーチ・グローバル責任者、アンドリュー・シーツが、金利の上昇と債務の増加が、実際にどの時点から問題になるのかを解説します。 このエピソードは8月26日にロンドンにて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。 米国は、建国後約240年間で、およそ20兆ドルの連邦債務を積み上げました。そして、直近のわずか10年間で、さらに20兆ドルの債務を積み増しました。 投資家にとっての問題は、第一に、この債務負担がいつ経済活動にブレーキをかけ始めるのか、さらに悪いケースとしては、現在の比較的落ち着いた状況を揺るがすようなストレスをいつ生み出し始めるのか、ということです。 では、1つ目の問いから見ていきましょう。 債務が経済活動に影響が及ぶまでのハードルは、かなり高いようです。AIをめぐる活発な動きがあるにもかかわらず、米国企業の債務は、経済全体に占める比率で見ると、この10年間ほぼ変わっておらず、実際、パンデミック前の水準を下回っています。 米国の家計部門のバランスシートは、さらに健全です。家計債務の対GDP比は、コロナ禍前を下回り、2000年の水準も下回っています。しかも、これだけでは家計の強さを十分に表していない可能性があります。債務の多くは、過去の低金利局面の低い住宅ローン金利で固定されている一方、バランスシートの反対側にある家計資産は大幅に増え、過去最高水準に達しているためです。 金利とエネルギー価格が上昇しているにもかかわらず、今年、消費者と企業がともに予想以上の底堅さを保ってきた理由の一端は、ここにあるのかもしれません。 公的部門と民間部門のバランスシートに見られるこうした傾向の違いは、米国に限ったものではありません。欧州でも政府債務が増える一方、それ以上に民間部門の債務削減が進んでいます。日本では公的部門の借り入れが増える一方、民間部門のレバレッジはかなり安定しています。 経済の公的部門と民間部門のこうした違いには、政策上の選択がある程度反映されています。政府は、課税と歳出のバランスをどう取るかを決めます。そして米国に限らず、多くの国がこの10年間に減税を進める一方、公的部門の借り入れ増加を増やしてきました。 そうした選択を踏まえれば、民間部門の財政状態に比べて公的部門の財政状態が悪化することは、特に驚くようなことではありません。 健全なバランスシートのおかげで、米国の家計と企業が金利上昇の影響を受けにくくなっているとすれば、ストレスの兆候はどこに表れるのでしょうか。 これほど多額の債務があるにもかかわらず、米国債市場は今のところ、実際にはかなり落ち着いています。米国のインフレ期待は年初来でほぼ変わっておらず、債券市場の予想変動率も歴史的な低水準にあります。 実際、米財務省が最近、債券市場に介入したことが投資家にとって大きな驚きとなった理由の一つは、こうした通常のストレス指標が見られなかったことです。むしろ、利回り上昇が市場により大きな影響を及ぼし始める時点は、別の要因、つまり資産配分に左右される可能性があります。 現在、30年物米国債の利回りは、その期間の予想インフレ率をおよそ3%上回っています。米国の長期投資適格社債の利回りも、再び6%を超えています。そのため、利回り上昇がいつ問題になり始めるのかという問いは、企業がいつ借り入れをやめるのか、あるいは消費者がいつ支出を控えるのかということよりも、投資家がいつ、株式より債券のほうが割安だと判断するのか、ということに関係しているのかもしれません。 今のところ、弊社のリサーチでは、そうした変化を示す明確な証拠は確認されていません。ファンドフローのデータや市場間の相関関係を見ても、株式から大規模な資金再配分が起きているとは考えにくく、力強い利益成長が株式のバリュエーションを支える材料になっています。 ただし、弊社はこれらの指標を今後も注視していきます。当面は、米国債務の増加と米国債市場への介入によって、米ドルが下落する可能性があると考えています。特に、高金利通貨でありながら債務水準がはるかに低い通貨、つまり豪ドルに対して、米ドルが弱含む可能性があります。 最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

    米国の債務増加が問題になり始めるのはいつか
  8. Aug 24

    市場はより熱く、より短いサイクルに直面

    債券は、投資家がこれまで期待してきた避難先としての役割を、もはや果たせない可能性があります。弊社最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンが、インフレ、利回り、リスクの関係が変化していることについて解説します。 このエピソードを英語で聴く。 トランスクリプト  市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。 本日のエピソードでは、弊社最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンが、マクロ市場の情勢が変化していることについてお話しします。 このエピソードは8月24日にニューヨークにて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。 ここ数週間で、金利、原油、金、暗号資産が大きく動きました。これは株式にとって何を意味するのでしょうか。 まず、投資家は依然として、これらの市場をそれぞれ別々の市場の物語として捉えています。しかし実際には、いずれもコロナ禍をきっかけに始まった同じレジーム転換の一部です。6年以上前、景気後退が最も深刻だった時期に、私は投資家はインフレの再来に備えるべきだと主張しました。当時、それは市場のコンセンサスから大きく外れた見方でした。 当時、世界はデフレのことで頭がいっぱいで、10年米国債利回りは1%を下回り、株式は大きく売られ、金は1オンス当たり1,500ドル前後で推移していました。しかし、コロナ禍への政策対応、私が「ヘリコプターマネー」と呼んだものが、状況を一変させました。それは40年にわたるディスインフレのレジームの終わりを示し、投資家が対応すべき投資環境が大きく変わったことを意味していました。 これはまた、弊社の「ラン・イット・ホット」という投資テーマの土台でもあります。インフレが戻ってきた世界では、サイクルはより短くなり、政策はより事後対応型になり、主導役の交代もより頻繁になる可能性があります。これは1982年から2020年までの時期とは大きく異なります。 当時は、インフレ率と金利が低下するなかで、景気サイクルは8年から10年にわたって続くことができました。現在は、むしろ第二次世界大戦後の時代に近い世界にあります。名目GDP成長率はより力強く、インフレはより根強く、景気のボラティリティは高まり、債券市場はもはや、かつてのようにリスク資産にとって追い風ではなくなっています。要するに、債券の長期的な強気相場はコロナ禍とともに終わったのです。これは、あらゆるタイプの投資家にとって極めて大きな意味を持ちます。 金利に関する私の短期的な見方も、主流とは異なります。多くの投資家は、債務と財政赤字が原因で金利が上昇していると言っています。私はそうした要因を否定しているわけではありません。ただ、より大きな要因は力強い名目GDP成長率であり、それは実際にはパンデミック以降の積極的な財政政策の結果だと考えています。現在は財政優位の時代にあり、この環境では、財務省とFRBは市場を混乱させることなく財政赤字を賄う方法を見つけざるを得ません。 私は、財務省による最近の国債の買戻しをそのように解釈しています。これは量的緩和でも、イールドカーブ・コントロールでもないと思います。プログラムの規模がそこまで大きくないからです。むしろ、市場機能と安定した金融環境を維持するための、もう一つの政策手段にすぎません。したがって、先週の貴金属と暗号資産の大きな動きを見ると、私には、金融環境が一段と引き締まれば、より大規模な介入に向けた第一歩にすぎないと市場が考えていることを示しているように見えます。 株式については、これらすべてが、弊社が推奨してきたクオリティへのローテーションを一段と裏付けています。半導体が主導し、利益予想修正の広がりの変化率が6月にピークを付けて以降、市場では主導役が大きく変わりました。1年にわたって出遅れていたクオリティ・ファクターは、アウトパフォームし始めています。これは、景気後退後の回復が成熟するにつれて弊社が想定していた動きそのものです。 高いフリーキャッシュフロー、高い粗利益率、安定した売上高成長、そして設備投資対売上高比率の低さといったファクターはいずれも機能してきました。歴史的なモメンタムの巻き戻しが起きたにもかかわらず、S&P500がほとんど調整しなかったことに不満を感じている投資家もいます。しかし、クオリティが再び選好されているのであれば、それは極めて自然なことです。S&P500は、世界で最もクオリティの高いベンチマークの一つです。個別銘柄レベルでの主導役は今後も変化し続けるかもしれませんが、S&Pの指数としての主導性が薄れる可能性は低く、むしろ強まる可能性さえあります。 短期的なリスクは引き続き原油です。ブレント原油価格はここ数週間で上昇しています。そして、原油価格の上昇は、歴史的に見て、原油価格の下落が株式の追い風になることよりも、はるかに信頼性の高い株式の逆風となってきました。弊社の株式に対するなお建設的な見方は、原油価格が急落することを前提としているわけではありません。必要なのは、単に原油価格の上昇が止まることです。ホルムズ海峡が閉鎖されたままであることを理由に原油価格が再び急騰すれば、投入コストに圧力がかかり、利回りと債券ボラティリティが押し上げられ、市場の不安定化が再び生じる可能性があります。 結論として、「ラン・イット・ホット」のレジームは健在です。それは株式を支えます。しかし同時に、サイクルを短くし、ローテーションを増やし、投資家に時にはより戦術的な対応を迫ります。私は現在、大型のクオリティ株、AIを導入する企業、そして海外の指数よりもS&P500を選好しています。 原油リスクについてはエネルギー株でヘッジし、この回復局面と強気相場の次の段階を進むなかで、常に周囲に注意を払っておいてください。 最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

    市場はより熱く、より短いサイクルに直面

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モルガン・スタンレーが配信する金融ポッドキャスト「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)では、マーケットに影響を与える様々な事象について当社のソートリーダーによる考察をお届けします。

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