「管理職だから」「年俸制だから」「代休を取らせたから」──残業代はいらない、と思っていませんか?実は、どれもそのままでは未払いにつながるおそれがあります。賃金を請求できる権利の時効は、現在、本来の給料日から3年。間違いが積み重なると、あとからまとめて請求される可能性があります。 社労士クラウドラジオ第9回は、残業代の計算で間違えやすい7つのケースを、具体的な数字で、耳だけでスッと頭に入るように解説します。第8回「残業代の計算」の応用編です。 ────────── ■ まずは基本の確認。サブロク協定がなくても割増は必要 残業代は「1時間あたりの賃金 × 1.25などの倍率 × 働いた時間」で出します。1.25は、ふだんの1時間分の賃金に25%を上乗せするという意味で、この上乗せ分が「割増」です。1日8時間・週40時間を超えたり、法定休日に働いたりするにはサブロク協定の締結と届出が必要ですが、協定がないまま働かせてしまった場合でも、割増は払わなければなりません。 ▶ 36(サブロク)協定とは?時間外労働の上限規制を基本からわかりやすく社労士が解説 https://sharoushi-cloud.com/blog/column/kitei/play39-36kyotei/ ────────── ■ 残業代はいらないと誤解されやすい3ケース(管理職・年俸制・パート/アルバイト/派遣) 【ケース1 管理職】法律上の「管理監督者」でも、深夜(夜10時〜朝5時)の25%の割増は必要です。1時間あたり2,000円の人が深夜に2時間働けば、追加で1,000円。管理監督者かどうかは役職名ではなく、仕事の内容・責任と権限・勤務時間の自由度・待遇などを総合的に見て決まります。 【ケース2 年俸制】年俸に残業代を含めない場合、年俸の一部として金額があらかじめ決まっている賞与も計算のもとに含めます。年俸600万円(毎月40万円+夏冬60万円ずつ)で月平均所定労働時間163.3時間なら、時間外の1時間あたりは、間違い(40万円だけで計算)が3,061円、正しい(50万円で計算)が3,828円で、767円の差。月20時間で1万5,340円、3年で約55万円になります。1円未満は四捨五入・切り上げは可、切り捨てだけは不可です。 【ケース3 パート・アルバイト・派遣】1日8時間・週40時間を超えたとき、法定休日、深夜の割増は働き方に関係なく必要です。1日6時間契約で8時間働いても、7〜8時間目は(週40時間以内で会社独自の割増がなければ)通常の時給のまま。これが「法定内残業」です。派遣社員の割増を払うのは派遣元です。 ▶ 【社労士監修】時間外労働60時間超の割増率変更への対応について https://sharoushi-cloud.com/blog/column/setsuritu/zangyo/ ────────── ■ 1時間あたりの賃金の出し方を間違えやすい2ケース(歩合給・時給+月額の手当) 【ケース4 歩合給】歩合給の1時間あたりの賃金は、その月の歩合給を、残業を含めた実際に働いた時間の合計でわります。歩合給の部分には1.25ではなく0.25をかけます。歩合給18万円・180時間(所定170+時間外10)なら、1,000円 × 0.25 × 10時間 = 2,500円。固定給と歩合給の両方がある人は、別々に計算して足します。 【ケース5 時給+月額の手当】時給1,200円・リーダー手当月1万2,000円・1日6時間×年240日(月平均所定労働時間120時間)なら、手当は1時間あたり100円で、1時間あたりの賃金は1,300円、時間外は1,625円。時給だけで計算すると1,500円で、125円の未払いになります。月10時間で1,250円、3年で4万5,000円。家族手当・通勤手当は、名前でなく中身(家族の人数や通勤費用に応じているか)で判断します。 ▶ 残業代計算ツール(無料・登録不要・計算過程つき) https://sharoushi-cloud.com/zangyoudai-keisan/ ────────── ■ 休日出勤で間違えやすい2ケース(振替休日と代休・ひをまたぐ休日出勤) 【ケース6 振替休日と代休】1時間あたり2,000円の人が法定休日に8時間働いた場合。振替休日を同じ週に取れば追加は0円、翌週に取って週48時間になれば25%の上乗せで4,000円。代休は休日に働いた事実が残るため、2,000円 × 1.35 × 8時間 = 2万1,600円。代休の日を無給とする決まりがあり、同じ締め日までに代休を取れば通常の賃金分1万6,000円を差し引いて5,600円が残ります(完全月給制などでは差し引けません)。代休が締め日をまたぐ場合は、休日出勤した月に2万1,600円を払い、翌月に差し引きます(会社の賃金の決まりによります)。 【ケース7 日をまたぐ休日出勤】日曜22時〜月曜2時の場合、日曜22〜24時は法定休日35%+深夜25%の60%で2,000円 × 1.6 × 2時間 = 6,400円、月曜0〜2時は深夜の25%で2,000円 × 1.25 × 2時間 = 5,000円。この2時間は、勤務を始めた日(日曜日)が属する週の労働時間に数え、週40時間を超える場合などは時間外の25%も加わります。 ▶ 【社労士監修】人を雇った!どうする?!初めての給与計算 https://sharoushi-cloud.com/blog/column/setsuritu/kyuuyo/ ────────── ■ よくある質問 Q. 管理職手当を払っていれば、割増は払わなくていいですか? A. 法律上の管理監督者なら、時間外と休日の割増は必要ありませんが、深夜の割増は必要です。あてはまらなければ、手当の有無ではなく、実際に働いた時間外・休日・深夜の時間に応じて割増が必要です。管理監督者にあたるかどうかは、実態で決まります。 Q. 年俸に残業代を含めることはできますか? A. できます。ただし、残業代を含めることが労働契約の内容としてはっきりしていること、通常の賃金の部分と残業代の部分がそれぞれいくらか分かること、実際の残業代が含めた額より多ければ足りない分を別に払うことが必要です。 Q. 1円未満の端数は切り捨ててもいいですか? A. 切り捨てだけはできません。四捨五入か切り上げならかまいません。 Q. 代休が締め日をまたいだらどうなりますか? A. 休日出勤をした月に割増も含めて払い、代休の日を無給とする決まりがあるなら、代休を取った月の給与計算で差し引きます。実際の扱いは会社の賃金の決まりによります。 ────────── 今回の合言葉は「肩書きや働き方で決めず、中身と計算を確かめる!」 残業代の計算方法そのものは第8回「残業代の計算」で、割増賃金のあらましは第6回「初めての給与計算」、サブロク協定は第4回・第5回でお話ししています。あわせて聴いてみてください。 社労士クラウドでは、毎月の顧問契約を結ばなくても、社会保険・労働保険の手続きや労務相談を、単発・スポットでご依頼いただけます。残業代の計算に不安があるときは、選択肢の一つとして検討してみてください。 ▼社労士クラウド(スポット申請代行) https://sharoushi-cloud.com/ ※本エピソードの内容は2026年10月時点の制度に基づいています。個別の判断は、管轄の労働基準監督署、または社会保険労務士にご確認ください。 出典:厚生労働省「法定労働時間と割増賃金について教えてください」、労働基準法第37条、労働基準法施行規則第19条・第21条、平成6年5月31日基発第331号