市場の風を読む

モルガン・スタンレーが配信する金融ポッドキャスト「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)では、マーケットに影響を与える様々な事象について当社のソートリーダーによる考察をお届けします。

  1. FRBはパーティーを終了させるのか?

    29 SEPT

    FRBはパーティーを終了させるのか?

    多額の財政赤字、資本支出の急増、規制環境の緩和にもかかわらず、FRBは減速する雇用市場を支えるためにさらなる利下げを行う構えのようです。これにより、企業のリスクテイクは90年代以降見たことのない水準に達する可能性があります。 このエピソードを英語で聴く。 トランスクリプト  「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。 今回はコーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツが、雇用市場が持ちこたえられた場合、2026年に企業活動を加速させる可能性のある要因について解説します。 このエピソードは9月29日 にロンドンにて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。 50年代と60年代にFRB議長を務めたビル・マーティン氏は、「FRBの仕事はパーティーが盛り上がり始めたところでパンチボウルを持ち去ることだ」というジョークを発したことで有名です。 この引用は現在の状況に合致しているようです。さまざまなトレンドが、今後12ヵ月でかなり活気に満ちた光景が広がることを示唆しているからです。第一に、米国政府の歳出は歳入を大幅に上回っています。経済全体の規模の およそ 約6.5%に相当する財政赤字は、景気を刺激しています。財政赤字が現在の水準を上回ったのは、世界金融危機、新型コロナウイルス流行、第二次世界大戦の時期だけです。まさにパンチです。 次に、企業セクターについてです。このポッドキャストでもお聴きになったことがあるように、モルガン・スタンレーは、AI関連支出が過去最大級の投資の波へと拡大する可能性があると考えています。2010年代のシェールブームや90年代後半の通信インフラ投資の影がかすむほどの規模となるでしょう。重要なことですが、AI関連支出は現時点で急増しているとみています。大手テック企業による投資は今年70%増加し、2024年から2027年までの間に2.5倍増えるとモルガン・スタンレーは推計しています。ただしこの推計には、AI技術を支えるために構築する必要がある莫大な金額の電力インフラさえ含まれていません。従って、さらなる経済のパンチです。 最後に、規制緩和の推進です。弊社の銀行担当リサーチチームは、米銀の資本要件が引き下げられることで、バランスシート・キャパシティーがリスク加重ベースで1兆ドル拡大する可能性があると考えています。また、M&Aの規制環境が緩和されれば、M&Aは増え続けるでしょう。ここでも、パンチの追加というわけです。 政府と企業の多額の支出、銀行の融資とリスクテイク能力の拡大。ではFRBの次の手は何でしょうか? 厳密にはFRBはパンチを持ち去ろうとはしていません。FRBは5回の追加利下げを行い、政策金利の中央値を2.875%まで引き下げるとわれわれは考えています。 FRBの景気支援措置は、これまでに言及した複数の支援要因をよそに雇用市場がすでに減速し始めているという実際の懸念に基づいています。そして、経済の広範囲にわたる減速は、FRBからのこうした支援を完全に正当化するでしょう。 しかし、成長が鈍化しない場合、多額の財政赤字、急増する資本支出、規制環境の緩和、さらにはFRBの利下げ、という全ての要因が企業のリスクテイクを一段と加速させるでしょう。90年代以降見たことのない形で加速が進む可能性もあります。こうした好景気は景気の急減速よりも望ましいものですが、独自のリスクを伴います。 経済データが持ちこたえた場合、このシナリオについて来年、話をさらに掘り下げたいと思います。 最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

    5 min
  2. 米国の政策の落ち着きを受けて上向く資本市場

    24 SEPT

    米国の政策の落ち着きを受けて上向く資本市場

    貿易、移民、規制をめぐる状況の確実性が高まるなかでIPOとM&Aが増えていることについて、弊社グローバル債券・公共政策戦略担当責任者のマイケル・ゼザスが考察します。  このエピソードを英語で聴く。 トランスクリプト  「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。 本日は、米国の政策の変化が2025年の市場をいかに形作っているか、そしてここにきて資本市場の動きが上向いているのはなぜなのか、グローバル債券および公共政策戦略担当責任者のマイケル・ゼザスがお話しします。 このエピソードは9月24日 にニューヨークにて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。 今年の初め、投資家の見方はある一つの点において一致していました。トランプ大統領が返ってくる、米国の政策はきっと大きく変わるだろう、というのがそれでした。しかし、そうした変化が経済と市場にとって何を意味するのかについては、見方があまり一致していませんでした。そこで弊社のチームは、通商政策、財政政策、移民政策、そして規制政策の変化を投資家が追跡しやすくなるような枠組みを設けました――下された選択の順序と重大さに的を絞った枠組みでした。この視点は今でも役に立っています。しかし、政権発足から250日が経過したことから、そうした変化のインパクト、持続性のある政策シグナル、そしてそれらの相場への折り込まれ方に目を向けるほうが有益ではないかと我々は考えるようになりました。 まず、政策の不確実性からみていきましょう。この不確実性はまだ高いものの、今年に入ってからのピークに比べれば低下しています。例えば、ホワイトハウスは主要な貿易相手国とのディールを済ませており、関税率の急激な引き上げは今のところ止まっています。もちろん、貿易相手国が約束を守らなければ状況が変わる可能性もありますが、何らかの影響が顕在化するまでにはしばらく時間がかかるかもしれません。たとえ裁判所が新たな関税に異議を唱えても、政権側にはこれを再度発動する手段があります。また連邦議会が2つに割れていることから、大きな政策の動きのほとんどは議員ではなく行政府から出てきています。 政策の変更が減速していることから、ワシントンで新たに生まれた持続性のあるコンセンサスは考察に値します。二大政党はもう何年もの間、貿易障壁を引き下げることと政府を民間の事業に介入させないことについてはたいてい合意できました。ところが、今ではそれが変わったように思われます。産業の形成において政府がより能動的な役割を担うこと、すなわち産業政策が今日の米国の戦略では主要なパーツになっているのです。第1次トランプ政権で始まった関税はバイデン政権でも維持されました 。し、今日では批判する側も、関税をかけることの是非より関税の発動の仕方のほうに焦点を合わせています。この変化は医療、エネルギー、そしてとりわけテクノロジーといった分野で見受けられます。半導体を例にあげましょう。バイデン政権は安全な国内サプライチェーン構築を目指してCHIPS・科学法を制定しましたが、トランプ政権は中国への輸出品にライセンス料を課したり、政府による民間企業の株式取得を増やすことを検討したりしています。 では、なぜここにきて資本市場の活動が上向いてきているのでしょうか。理由はいくつかあります。 第1に、政策をめぐる不確実性が後退し、企業が重大な決断を比較的下しやすくなっていることが挙げられます。今年は新規株式公開(IPO)や企業の合併・買収(M&A)などの活動が、経済の規模を考えれば異例なほど低調でした。しかし、企業のバランスシートは強固で、多額の現預金を保有しています。そして、個人や事業法人は資金を運用するつもりでいます。おまけに人工知能(AI)やテクノロジーのアップグレードがもたらす新しい投資ニーズも存在します。取引が増える条件は整っているのです。 弊社の法人のお客様からも、政策がもたらしうる結果の振れ幅が小さくなったことで、戦略的な計画を推進しやすくなったとうかがったことがあります。そしてその結果、IPOは前年同期比で68%、M&Aも同35%、いずれも増えているのです。低水準からの増加ですので、伸び率は今後縮小するかもしれませんが、プラスの伸びはしばらく続くと弊社ではみています。 こうした動きはすべて、市場のほかのトレンドと連動しています。例えばイールド・カーブの傾きは大きいままで、米ドル安も続いています。なぜでしょう?まず、通商政策は引き締めに傾いた状態が続きそうです。財政政策については、大統領と連邦議会が好む方策がすでに選択されており、先行きは確定したように見受けられます。そして米連邦準備制度理事会(FRB)は、経済成長を下支えするためにインフレリスクの拡大を許容する構えのようです。このことは米ドルが下落し続ける恐れがあることを、そしてこれまでよりハト派的なFRBの姿勢を反映して期間の短い債券の利回りが低下する場合でも、期間の長い債券の利回りは変動しにくくなる可能性があることを意味します。 いつものように、これらのトレンドが経済全体とどのように影響しあうかを観察していくことが重要です。またそれは、2026年の見通しを考察し始める際にも重要になるでしょう。弊社は今後も分析を続け、その結果をみなさまにお届けしてまいります。 最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

    8 min
  3. FRBの対応はグローバルクレジットを支えるか

    19 SEPT

    FRBの対応はグローバルクレジットを支えるか

    FRBは今回の利下げ発表とその先の追加利下げにより米国景気がわずかに過熱しても構わないと考えているようです。このことが欧州債券市場にとって予想外の支えとなる可能性について、弊社コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツが解説します。 このエピソードを英語で聴く。 トランスクリプト  「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。 今回は弊社コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツが登壇し、FRBが景気の過熱をいとわない様子であることと、これが米国外の債券市場を支える可能性について解説します。 このエピソードは9月19日 にロンドンにて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。 FRBは今週、金利誘導目標を0.25%引き下げ、追加利下げの実施を示唆しました。は失業率が低く、インフレが高止まりしているにもかかわらず、FRBは利下げして景気を支えようとしています。 FRBがこれを正当化するのは、労働市場が今後軟化し始める可能性があるためです。このため、今は景気の支えを増やす方がよいとの考えです。たとえそれによってインフレ率が多少上昇し、多少長く続いたとしてもです。実際、FRBの景気見通しは景気が若干過熱する方がましだとの考えを裏づけています。直近のFRBは以前と比べて今後の経済成長率とインフレ率を高く、失業率を低く見積もっています。しかし、それにもかかわらず、以前よりも速いペースでの利下げを予想しています。 労働市場が実際に弱まり始めた場合、そしてそれがすぐに起きた場合、短期的な支えを増やす方向に舵を切ったFRBの判断は実に正しいといえます。しかし、成長が続いた場合は、その背景を考える必要があります。現在、銀行貸出の伸びは加速し、インフレは高止まりし、政府債務は膨らみ、株式のバリュエーションはおよそ約30年ぶりの高水準で、信用スプレッドはおよそ約30年ぶりの低水準です。そして今、FRBは立て続けに利下げしようとしています。そうなれば状況はあっという間に過熱するように思えます。 大西洋の向こう側の諸国が必ずしもFRBと同じ戦略をとらないことにも注意すべきです。英国とユーロ圏も労働市場の軟化とインフレ目標の超過に直面しています。しかし、これら諸国の中央銀行はもっと慎重な姿勢をとっており、少なくとも当面は金利を据え置く意向です。 FRBがインフレに寛容だと米ドルにとってはマイナスだと思われ、私の同僚は向こう12ヵ月でドルがユーロ、ポンド、円に対して大幅に下落すると予想しています。クレジットについては適度を好む資産であるため、米国景気が過熱しすぎるか、冷え込みすぎるか、2つのシナリオの間に置かれつつあることが問題です。 では、このふたつを合わせてみましょう。米国の投資家が単純に欧州債券を買ったならどうでしょうか。 欧州市場は過熱しすぎる、あるいは冷え込みすぎるといった大きなリスクにはそれほど傾いていないように思えます。インフレに直面してもより慎重に対応する中央銀行が支える通貨への投資となります。欧州の投資適格債の利回りは3%程度で、弊社の予想ではユーロは来年対ドルでおよそ約7%上昇する見込みであることから、一見眠っているような市場がドル換算で10%近いリターンを生む可能性があります。 米国の投資家は為替をヘッジしないようにしてください。 最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

    5 min
  4. サイバーセキュリティがポートフォリオを変えつつある

    12 SEPT

    サイバーセキュリティがポートフォリオを変えつつある

    サイバー犯罪が加速する中、サイバーセキュリティは底堅い投資機会として急成長しています。このような市場の変化の原動力となっている重要なトレンドについて弊社サイバーセキュリティ&ネットワーク関連機器担当アナリストのミータ・マーシャルが解説します。 このエピソードを英語で聴く。 トランスクリプト  「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。 本日はサイバーセキュリティ&ネットワーク関連機器担当アナリストのミータ・マーシャルが登壇し、サイバー犯罪に対するデジタル防衛の未来について解説します。 このエピソードは9月12日 にニューヨークにて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。 朝起きると、サイバー攻撃を受けて預金残高がゼロになっていた、業務運営がフリーズしていた、個人情報が漏洩していたと想像してみてください。サイバーセキュリティは今や一部の特別な人だけの問題ではありません。消費者であり投資家である我々すべてに影響が及びます。 デジタル環境がますます複雑化する中で、サイバー犯罪の規模と深刻さは増しています。このことは企業が支出を増やしてもそれ以上の勢いでリスクが増えていることを意味します。投資家にとって、これは警告であり機会でもあります。 サイバーセキュリティの市場規模は現在2,700億ドルです。弊社の予想では2028年まで年率12%のペースで拡大する見通しで、成長率はソフトウェアの中でトップクラスです。 もうひとつ注目すべき数字があります。弊社がアンケート調査を実施した企業のCIOは、サイバーセキュリティ支出がソフトウェア支出全体を50%上回るペースで伸びると予想しています。これはサイバーセキュリティがIT予算の中で最もディフェンシブな領域であり、厳しい時期でも最も削減されにくいことを示しています。 投資家はすでにこれに気づいています。セキュリティソフトウェア株は幅広い市場を上回るパフォーマンスを上げており、過去3年間のリターンはソフトウェア全体の22%を上回る58%で、NASDAQは79%でした。AIの登場によってハッカーの攻撃方法が増え、それらの脅威が進化する方向性も増えるため、セキュリティソフトウェア株がソフトウェア全般をアウトパフォームする状況は今後も続くと思われます。 今後は相互に関係し合ったいくつかの非常に大きなテーマがサイバーセキュリティ株の投資機会を高めるものと考えます。中でも最大のテーマのひとつはプラットフォーム化、つまりセキュリティツールと統合プラットフォームの一体化です。大手企業は現在、平均で130もの異なるサイバーセキュリティツールを使用しています。ロボットやドローンのようなコネクテッドデバイスの登場により、統合セキュリティプラットフォームの重要性が今まで以上に増す中で、このようなやり方は分かりにくく複雑になりがちで、防御に重大な欠陥が生じる可能性があります。 その他に考慮すべきこととして、セキュリティ投資はIT予算全体の6%を占めていますが、AI投資では全体の1%に過ぎないことが挙げられます。つまり、AIが業務運営で中心的な役割を果たすようになるにつれ、大きな成長余地があるといえます。 今日のサイバーセキュリティ戦では、多くのツールを積み重ねたり、最新のバズワードを追うだけでは不十分です。弊社の見立てでは、カオス状態を分かりやすい状態に変えられるサイバーセキュリティ・プロバイダーが最大の勝者の一角を占めるでしょう。これらの企業は売上高とフリーキャッシュフローを増やすだけでなく、断片化した多数の防衛ツールを管理しやすい統合プラットフォームにまとめています。これらの企業は単に大きくなるだけでなく、賢さと迅速性と回復力を高めたいと考えています。そして、雑音を遮断し、システムを切れ目なく稼働させ、新たな脅威の出現に直ちに順応することが重要だと理解しています。サイバーセキュリティの領域では複雑さは害となり、簡単であることが非常に大きな力を持ち始めています。 最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

    6 min
  5. 印中貿易の次の展開は?

    11 SEPT

    印中貿易の次の展開は?

    アジア担当チーフ・エコノミストのチェタン・アハヤが、変化し続けるインドと中国の貿易関係が、世界のサプライチェーンの見直しや新たな投資機会の発見につながる可能性についてお話します。 このエピソードを英語で聴く。 トランスクリプト  「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。 今回はアジア担当チーフ・エコノミストのチェタン・アハヤが、現代の最も重要な経済関係の一つであるインドと中国の関係、そして両国関係がこの先どうなるのかについて解説します。 このエピソードは9月11日 に香港にて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。 インドと中国の貿易ダイナミクスは急速に変化しています。このダイナミクスは両国自身の将来を方向付けているだけではありません。世界のサプライチェーンや投資の流れに影響を及ぼしています。 インドの対中貿易は過去10年間で2倍近くに拡大しています。インドにとって中国は最大の貿易赤字国であり、対中貿易赤字は現在1,200億ドルに達しています。一方、中国のインドに対する貿易黒字は、全てのアジア諸国の中でも最大級の規模に膨らんでいます。 経済的必要性ゆえにこうした両国の貿易関係はいっそう深まるでしょう。インドは技術的な専門知識や資本財、重要な構成品目の支援が必要です。中国は、新興国で2番目の経済規模と成長率を誇るインドにおける成長機会をうまく活用する必要があります。これらの問題について順番に考察してみましょう。 インドは世界のバリューチェーンの一角に入り込む必要があります。そしてそのためには、中国からの直接投資が必要です。まさに中国が米国、欧州、日本、韓国からの直接投資によって技術や専門知識を取得し、経済大国にのし上がったのと同じような構図です。インドにとって、中国の対外直接投資の規制緩和はゲームチェンジャーになり、技術的なノウハウの移転や製造業の競争力強化につながる可能性があります。 現在、中国は世界最大の製造業国です。世界のバリューチェーンの40%以上を占めており、これは米国の13%やインドのわずか4%を大幅に上回る規模です。世界の財の貿易は徐々に、半導体や電気自動車、電気自動車用バッテリー、ソーラーパネルなど、バリューチェーンの上流の製品が中心になってきています。そして中国は8つの主要製造業セクターのうち6つのセクターで世界1位の輸出国です。簡潔に言えば、世界のバリューチェーンへの関与を高めたい国はみな、中国との貿易を増やさなければならないでしょう。 インドにとってこれは、資本財や自国の産業化に必要とされる重要な構成品目に対する需要が増える中、需要を満たすには中国からの輸入に頼らなければならないことを意味します。実際、こうしたことはすでに起きています。インドの中国および香港からの輸入の半分以上が資本財、すなわち、製造業やインフラ投資に必要な機械設備です。このほか輸入の3分の1を工業製品が占めており、インドが重要な構成品目の供給元として中国に依存していることが分かります。 中国の観点からすると、インドは2番目に大きく、最も成長率の高い新興国市場です。米中貿易問題が続く中、中国は輸出市場の多様化を進めており、インドは大きな機会を見込める市場です。中国企業がこの成長機会を捉える一つの方法は、インドに投資して国内市場の需要に応えることです。中国の携帯電話会社はすでにこれを実行しており、これが他のセクターにも広がるかどうかはインドの市場開放次第となるでしょう。 要するに、インドは製造業や技術における中国の強みをうまく活用できる一方で、中国は輸出先や投資先としてインドの巨大な市場を利用することができるのです。 しかし、気を付けなければならないのは地政学的要因です。経済的必要性から貿易や投資の関係は深まると考えられますが、政治情勢によって進ちょくが遅くなる可能性があります。投資家はこの点を注意深く見守る必要があります。重要な進展についてはわれわれが常に最新の情報をお知らせします。 最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

    6 min
  6. 金が市場で輝きを保つ理由

    10 SEPT

    金が市場で輝きを保つ理由

    金に対する強気見通しと、25年の金相場の上昇が示すインフレ、中央銀行、世界のリスク状況について金属・鉱業コモディティ・ストラテジストのエイミー・ガウアーが解説します。 このエピソードを英語で聴く。 トランスクリプト  「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。 今回は金が投資家にとって単なる安全資産にとどまらないことと、金が示す今の世界経済と市場の状況について、弊社金属・鉱業 コモディティ・ストラテジストのエイミー・ガウアーが解説します。 このエピソードは9月9日 にロンドンにて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。 金は不確実性の時代の投資先として常に選ばれてきました。ただ、2025年になって金の役割は進化しつつあります。投資家は金をインフレヘッジとしてだけでなく、中央銀行の金融政策から地政学リスクまで含めたあらゆる事柄を測るバロメーターとして捉えています。金相場の変動は、多くの場合、水面下で何か重要なことが起きているサインです。 金は年初来で39%、銀は42%とどちらもすでに大幅に上昇しています。この上昇の背景には何があるのでしょうか。 いくつかの要因が挙げられます。ひとつは、中央銀行が今年も大量購入を続けていることです。中銀の準備資産に占める金の比率は1996年以来初めて国債を上回りました。これは金の長期的価値に対する強い信認を示します。また、金に連動する上場投資信託(ETF)には8月だけでも50億ドルの資金が流入し、年初来の流入額は2020年を除いて過去最大に達しており、機関投資家の関心の高まりが改めて示されました。多くの主要国で目標値を上回るインフレが続く中、金は収益を生まない資産であるにも関わらず、驚くほど根強い魅力を保っています。そして投資家は中央銀行がまもなく利下げせざるを得ないだろう見ており、そうなれば金相場はさらに上昇する可能性があります。 実際、弊社では年末までにさらにおよそ 約5%の上昇を予想し、史上最高値の1オンス3,800ドルに達すると見ています。 ただし、考慮すべき重大な点がひとつあります。貴金属、とりわけ金は主にマクロ経済が不透明な時期のヘッジや安全資産とみなされますが、貴金属市場全体を見ると宝飾品がかなりの比率を占めています。金は需要の40%、銀は35%が宝飾品です。そして、宝飾品需要の見通しは現時点では不透明です。実のところ、宝飾品需要はすでに減速の兆しが見えています。第2四半期の金の宝飾品需要は2020年第3四半期以降で最低となりました。金価格が高騰し、消費者が購入を手控えたためです。ただ、それにもかかわらず金は1-4月に上昇した後の水準を保ち、銀は太陽光発電業界の旺盛な需要を受けて上昇し続けました。しかし、金と銀はどちらも最近までさらなる上昇の牽引役が不在でした。 ただ、現在はこれが変わりつつあり、金と銀の両方がFRBの利下げから恩恵を受けると見られます。弊社エコノミストはFRBが9月の会合で利下げすると予想しており、利下げは2024年12月以来となります。1990年代を振り返ると、FRBが利下げサイクルを開始して最初の60日間に金は平均6%、銀は平均4%上昇しています。利下げによって収益を生まない資産の競争力が高まるためです。 また、弊社の為替ストラテジストはドル安の進行を見込んでおり、したがってドル以外の通貨の保有者にとっては価格圧力が多少和らぐと思われます。インドの金・銀の輸入は7月にすでに改善の兆しが出ています。インドは物品・サービス税改革も予定しており、それによって祭礼・婚礼シーズン前に金銀を購買する余力が増す可能性があります。 金はFRBの利下げ後にアウトパフォームする傾向があるため、弊社は引き続き銀よりも金を選好しますが、弊社の見通しは金銀ともに良好です。 もちろん、貴金属は無リスクではありません。価格変動があり、もし中央銀行が予想外に利上げすれば、特に金は多少魅力を失う可能性があります。しかし、当面は金も銀も輝きを保つでしょう。 最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

    7 min
  7. 新たな強気相場の始まりか?

    8 SEPT

    新たな強気相場の始まりか?

    9月5日金曜日発表の非農業部門雇用者数は、米国経済がローリング・リセッションからローリング・リカバリーに移行しているとの見方を裏付ける内容でした。では、米国株は今後どうなるのか。弊社の最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジスト、マイク・ウィルソンが見通しをお話しします。 このエピソードを英語で聴く。 トランスクリプト  「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。 本日は、先日発表された雇用統計と、米国株にとってのその意味について、弊社の最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンがお話しします。 このエピソードは9月8日 にニューヨークにて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。 大いに注目されていた9月5日金曜日発表の非農業部門雇用者数は、労働市場は弱いという弊社の見立てを裏付ける内容でした。しかし、弊社は何ヵ月も前からこのことを論じており、株式市場にとっては言わば古いニュースです。第1に、ひょっとしたら雇用統計は最も後ろ向きな、つまり過去に目を向けている経済指標かもしれません。第2に、この統計は大幅に改定されることが特に多く、リアルタイムでは最新のデータが当てにならない傾向があります。全米経済研究所(NBER)が景気後退の始まりを宣言するころには、ほとんどの人が景気後退期にあることを意識しなくなっているのが普通であるのはそのためです。 また過去の実績からは、非農業部門雇用者数の改定がプロシクリカルであることがうかがえます。景気後退に向かっている局面では下方修正の幅が大きくなりがちで、景気回復が始まれば上方修正の幅が大きくなりがちだという意味です。今回もこのパターンに沿っているように見えます。実際、金曜日の改定は前月のそれより大幅に良い内容であり、労働市場が第2四半期に「底を打った」ことを示唆しています。 このことは、私が何年も前からお話ししている、景気と市場に対する弊社の基本的な説を裏書きしてくれます。 具体的に言えば、米国では2022年に「ローリング・リセッション」が始まり、今年4月の「解放の日」に相互関税が発表されたことをもってようやく底を打ったと私は考えています。このローリング・リセッションの初期段階は、新型コロナによるハイテク製品や消費財の需要前倒しの反動が主導する形で進みましたが、やがて他のセクターもそれぞれ異なるタイミングで不況に突入していきました。 従来型のリセッションの判定に用いられる指標で典型的な変化が観察されなかったのに、今になってそれらの改定値で変化がより明確になっているのは、それが主な理由です。新型コロナ後に移民の流入が歴史的な大幅増になったことと、今年になってその取り締まりが行われていることも、労働市場の多くの指標をさらにゆがめることになりました。弊社はここ数年、こうした話題を広く取り上げてきましたが、金曜日に発表された弱い雇用統計は、米国経済がローリング・リセッションから「ローリング・リカバリー」に移行しつつあるという弊社の説を裏付ける証拠だと言えます。つまり、景気は新たな循環に入りつつあり、4月に始まった新しい強気相場が今後どこまで続くかについてはFRBの利下げがカギを握ることになるでしょう。 弊社の見解で何よりも重要なのは、過去3年間の景気は多くの企業や消費者にとって、GDPや雇用のような総合的な経済統計が示唆するものよりはるかに弱かったということです。景気の強さを測る際には、消費者や企業の景況感調査に加え、企業の利益成長とその広がり方に着目する方がよいと弊社ではみています。ひょっとしたら、景気の良し悪しを判断する最もシンプルな方法は、今の景気は幅広い層に繁栄をもたらしているのかと問うことかもしれません。この物差しに照らして言うなら、答えは「ノー」だと弊社では考えます。ここ3年間はほとんどの企業で利益がマイナス成長になっているからです。ただ、良い知らせがあります。過去2四半期では、この利益成長がようやくプラスに転じているのです。そして同時に、ここ数ヵ月間弊社が強調してきたように、企業の業績見通しのV字回復も広がりを見せています。このことも、ローリング・リセッションが最悪期を脱したこと、おそらく「谷」は4月だったことを裏付けていると思われます。株式市場はいつものようにこれを正確に把握し、底を打ったのです。 さて、これから本物の利下げサイクルが始まる公算が大きく、この新たな強気相場が続くためにはそのような利下げが必要だと弊社ではみています。ただ、FRBは遅行指標である労働市場のデータの弱さよりもインフレの方をまだ重視している可能性があり、利下げは株式投資家の願望よりも緩やかなペースで進むことになるかもしれません。また、企業と財務省の両方が資金調達を増やすために流動性資金が少し干上がるかもしれない兆しもあることから、株価が軟調になりやすい季節に相場が一服したり、さらに進んで調整したりしても、私は驚かないでしょう。もしそうなったら、弊社なら押し目買いに入るでしょうし、FRBがさらにハト派的になることや財務省と連携することも見込んで、クオリティで劣る銘柄にも物色の幅を広げることすら検討するかもしれません。結論を申し上げれば、2022年に始まったローリング・リセッションの底打ちをもって、株式市場では新しい強気相場が始まりました。この相場はまだ初期段階にあり、株価の下落には押し目買いで臨むべきです。 最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

    7 min
  8. FRBの利下げはクレジットの質に影響するか?

    27 AUG

    FRBの利下げはクレジットの質に影響するか?

    コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツが、FRBが金融緩和を開始した場合にクレジット市場への懸念が生じかねない理由についてお話します。 このエピソードを英語で聴く。 トランスクリプト  「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。 今回は、コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツが、FRBの利下げを受けて、企業が積極的な姿勢を強める可能性について解説します。 このエピソードは8月27日 にロンドンにて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。 先週、FRBのジェローム・パウエル議長は、次の会合で利下げを行う見通しであることを強く示唆しました。利下げ判断は市場が予想していたものですが、決して既定路線ではありませんでした。 FRBは失業率とインフレ率を低く抑えるという責務を負っています。米国の失業率は低いですが、インフレ率はFRBの目標水準を上回っているだけでなく、最近の傾向では目標とは逆の方向に向かっています。インフレ率を引き下げるには、FRBは利下げではなく利上げを行うのが一般的と言えます。 しかし、今回予想されるFRBの政策措置は利上げではありません。雇用市場が近く悪化する可能性がある一方で、こうしたインフレ圧力は一時的なものにすぎない、という重要な確信を抱いているとみられるからです。FRBは通常とは異なる難しい状況に置かれており、現在FRBの周りで起きていることが状況をさらに異例なものにしています。 ご承知の通り、FRBは経済が過熱せず、冷めすぎてもいない、均衡状態を維持しようとしています。そしてこの点に関しては、金利が蛇口の栓のような役割を果たします。しかし、金利の他にも、経済の水の温度に影響を与える要因は複数あります。資金の借り入れがどの程度、容易か? 通貨の価値は上昇しているか、下落しているか? エネルギー価格は高いか、低いか? 株式市場は上昇しているか、下落しているか? しばしば、これらの尺度はまとめて金融情勢と称されます。 従って、インフレ率が目標を上回り、しかも上昇している一方で、FRBが金利を引き下げるのは珍しいことですが、経済活動を左右するこれらの金利以外の要因、つまり金融情勢がこれほど緩和的なものである中で、FRBが利下げするのは、恐らく、さらに異例なことと言えるでしょう。株価のバリュエーションは高く、クレジットスプレッドはタイトで、エネルギー価格は低く、為替はドル安の状況にあります。債券利回りは低下しており、米国政府は多額の財政赤字を抱えています。これらは全て、経済を加熱させがちな要因です。流し台にお湯を継ぎ足しているようなものです。 金利を引き下げれば、経済の温度はさらに上昇する可能性があります。 クレジット市場にとって、これは少々厄介なことです。クレジット市場特有の、2つの理由が挙げられます。クレジット市場は現在、素晴らしい1年のさなかにあります。そして、企業は総じて、かなり保守的な姿勢を維持し、合併案件は少なく、企業の借り入れ額は通常比較対象とされる政府ほど多くない、といったことが好調の一因です。こうした節度は全て、クレジット市場にとって大きなプラス材料となります。 しかし、先ほどお話した状況は、企業が節度を緩める原因となりそうです。すでに緩和的な金融情勢を、FRBがさらに緩和することになれば、企業は実際、繁栄を謳歌したいという気持ちを、いつまで抑えることができるでしょうか? 最近、合併が再び増え始めています。また、従来、このように企業の積極姿勢が強まると、株主にとってプラスとなる可能性があります。一方、貸し手にとっては、往々にして厳しさが増します。 とは言え、他の追い風要因がこれだけあるにもかかわらず、米国の雇用市場は実際のところ、さらに悪化する見通しであるというFRBの警告が正しい可能性もあります。この見立てが正しければ、これも企業が節度を緩める端緒となりそうです。雇用市場が悪化する中で、FRBが金利を引き下げた際、これまで大半の場合、経済全般へのリスクゆえに、クレジット市場はとりわけ厳しい時期に直面することとなりました。 現在は、ほぼデータ次第という状況にあります。FRBの政策判断に加え、来年の新たなFRB人事も、情勢を変化させる可能性があります。しかし、大幅なアウトパフォーマンスの後、クレジット市場は、企業がこの先節度を緩める可能性を示唆する兆候がある中で、他の債券市場に後れを取ることになるかもしれません。 最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

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モルガン・スタンレーが配信する金融ポッドキャスト「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)では、マーケットに影響を与える様々な事象について当社のソートリーダーによる考察をお届けします。

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