令和7年10月27日に開催された第120回社会保障審議会医療部会で、令和8年度診療報酬改定の基本方針に関する議論が行われました。この基本方針は、医療機関等が直面する厳しい経営環境に対応しながら、2040年頃を見据えた持続可能な医療提供体制を構築するための方向性を示すものです。本稿では、基本認識、基本的視点、具体的方向性について解説します。
基本方針は4つの基本認識と4つの基本的視点で構成され、特に物価高騰・賃金上昇への対応を重点課題としています。基本認識では、日本経済がコストカット型から脱却し新たなステージに移行する中で、医療機関の経営安定と医療従事者の賃上げが急務であることを明確にしました。基本的視点では、視点1として「物価や賃金、人手不足などの医療機関等を取りまく環境の変化への対応」を重点課題に位置づけ、医療従事者の処遇改善と人材確保を最優先としています。視点2では2040年頃を見据えた医療機関の機能分化と地域包括ケアシステムの推進、視点3では医療DXやイノベーションによる質の高い医療の実現、視点4では後発医薬品の使用促進など効率化・適正化による制度の持続可能性向上を掲げています。
基本認識:医療を取り巻く4つの環境変化
基本認識は、令和8年度診療報酬改定を検討する上で前提となる医療を取り巻く環境変化を整理したものです。この基本認識に基づいて、基本的視点と具体的方向性が展開されます。
第一の基本認識は、日本経済が新たなステージに移行する中での物価・賃金の上昇と人材確保の課題です。現下の日本経済は持続的な物価高騰・賃金上昇の中にあり、30年続いたコストカット型経済から脱却しつつあります。医療分野は公定価格であるために経済社会情勢の変化に機動的な対応が難しく、サービス提供や人材確保に大きな影響を受けています。経済財政運営と改革の基本方針2025では、高齢化による増加分に経済・物価動向等を踏まえた対応に相当する増加分を加算することが示されており、医療機関等の経営安定と現場で働く幅広い職種の賃上げに確実につながる対応が必要です。
第二の基本認識は、2040年頃を見据えた医療提供体制の構築です。2040年頃に向けては、全国的に生産年齢人口は減少する一方で、医療・介護の複合ニーズを有する85歳以上人口が増加します。65歳以上の高齢者人口については、増加する地域と減少する地域で地域差が生じることが見込まれます。こうした人口構造や地域ごとの状況変化に対応するため、限りある医療資源を最適化・効率化しながら、「治す医療」と「治し、支える医療」を担う医療機関の役割分担を明確化し、地域完結型の医療提供体制を構築する必要があります。
第三の基本認識は、医療の高度化や医療DX、イノベーションの推進です。安心・安全で質の高い医療を実現するため、医療技術の進歩や高度化を国民に還元するとともに、ドラッグ/デバイス・ラグ/ロスへの対応が求められています。デジタル化された医療情報の積極的な利活用を促進し、医療現場においてAI・ICT等を活用して医療DXを進めることが、個人の健康増進に寄与するとともに、より効果的・効率的かつ安心・安全で質の高い医療を実現するために重要です。
第四の基本認識は、社会保障制度の安定性・持続可能性の確保です。制度の安定性・持続可能性を確保しつつ国民皆保険を堅持し次世代に継承するためには、経済・財政との調和を図りつつ、限られた人材の中でより効率的・効果的な医療政策を実現するとともに、国民の制度に対する納得感を高めることが不可欠です。経済財政運営と改革の基本方針2025や新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2025年改訂版等を踏まえ、適正化、医療資源の効率的・重点的な配分、医療分野におけるイノベーションの評価等を通じた経済成長への貢献を図る必要があります。
基本的視点:改定を方向づける4つの柱
基本的視点は、基本認識を踏まえて令和8年度診療報酬改定の方向性を示す4つの柱です。この4つの視点に基づいて、具体的方向性が検討されます。
視点1は「物価や賃金、人手不足などの医療機関等を取りまく環境の変化への対応」で、今回の改定の重点課題です。医療機関等は現下の持続的な物価高騰により、事業収益の増加以上に人件費、委託費や医療材料費等の物件費が増加し、事業利益が悪化しています。2年連続5%を上回る賃上げ率であった春闘などにより全産業において賃上げ率が高水準となる中、医療分野はこれに届いておらず人材確保も難しい状況です。医療機関等が資金繰り悪化等により必要な医療サービスが継続できない事態は避けなければならないことから、物価高騰による諸経費の増加を踏まえた対応や、必要な処遇改善等を通じた医療従事者の賃上げ・人材確保のための取組を進めることが急務です。
視点2は「2040年頃を見据えた医療機関の機能の分化・連携と地域における医療の確保、地域包括ケアシステムの推進」です。中長期的な人口構造や地域の医療ニーズの質・量の変化を見据えた上で医療提供体制を構築していく必要があります。医療機関の機能に着目した分化・連携、病床の機能分化・連携等の入院医療を始めとして、外来医療・在宅医療、介護との連携を図ることが重要です。更なる生産年齢人口の減少に伴って医療従事者確保の制約が増す中で、ICT・AI・IoT等の利活用の推進等により業務効率化・負担軽減を行うこと、タスク・シェアリング/タスク・シフティング、チーム医療の推進等により多職種が連携して医療現場を支えることが必要です。
視点3は「安心・安全で質の高い医療の推進」です。患者の安心・安全を確保しつつ、医療技術の進展や疾病構造の変化等を踏まえ、第三者による評価やアウトカム評価など客観的な評価を進めながら、イノベーションを推進し、新たなニーズにも対応できる医療の実現に資する取組の評価を進めます。患者にとって安心・安全に医療を受けられるための体制評価、医療DXやICT連携を活用する医療機関・薬局の体制評価、救急医療・小児・周産期医療・がん医療・精神医療の充実など、重点的な対応が求められる分野への適切な評価が必要です。
視点4は「効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上」です。高齢化や技術進歩、高額な医薬品の開発等により医療費が増大していくことが見込まれる中、国民皆保険を維持するため、医療資源を効率的・重点的に配分するという観点も含め、制度の安定性・持続可能性を高める不断の取組が必要です。医療関係者が協働して医療サービスの維持・向上を図るとともに、効率化・適正化を図ることが求められます。
具体的方向性:視点を実現する取組の例示
具体的方向性は、4つの基本的視点をそれぞれ実現するための取組を例示したものです。この具体的方向性に基づいて、中央社会保険医療協議会で個別の診療報酬点数や算定要件が検討されます。
視点1「物価や賃金、人手不足などの医療機関等を取りまく環境の変化への対応」の具体的方向性には、3つの柱があります。第一は、医療機関等が直面する人件費、委託費や医療材料費等の物件費の高騰を踏まえた対応です。第二は、医療従事者の処遇改善で、賃上げや業務効率化・負担軽減等の業務改善による人材確保に向けた取組を進めます。第三は、業務の効率化に資するICT・AI・IoT等の利活用の推進、タスク・シェアリング/タスク・シフティング、チーム医療の推進、医師の働き方改革の推進、診療科偏在対策、診療報酬上求める基準の柔軟化などです。
視点2「2040年頃を見据えた医療機関の機能の分化・連携と地域における医療の確保、地域包括ケアシステムの推進」の具体的方向性には、患者の状態及び必要と考えられる医療機能に応じた入院医療の評価、「治し、支える医療」の実現、かかりつけ医・かかりつけ歯科医・かかりつけ薬剤師の機能の評価、外来医療の機能分化と連携、質の高い在宅医療・訪問看護の確保、人口・医療資源の少ない地域への支援、医師偏在対策の推進などが含まれます。「治し、支える医療」の実現では、在宅療養患者や介護
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- تاريخ النشر٤ نوفمبر ٢٠٢٥ في ٨:١١ م UTC
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