2025年8月31日 三位一体後第11主日
説教題:初めに、神が虹をかけたから
聖書: 創世記 9:1–17、マタイによる福音書 26:47–56、詩編 46、コロサイの信徒への手紙 3:1–4
説教者:稲葉基嗣
-----
ノアの箱舟の物語は、どのように虹ができるのかではなく、なぜ虹が空にあるのかを伝えています。人間の罪ゆえに、心を痛めながら、命が広がるこの世界に死をもたらした神が、もう二度とこのような洪水を引き起こすことはないと約束しました。ノアの箱舟の物語によれば、空に虹は、その約束のしるしでした。虹を意味する英語でrainbowは、雨(rain)とbow(弓)が組み合わされています。虹は、雨上がりに空にかかる、弓状のものなので、rainbowという単語は虹がどのようなものであるのかをよく表しています。日本語で「虹」と訳されているヘブライ語の単語も、似たような響きを持ちます。虹と訳されているヘブライ語ケシェトは、戦士たちが用いる弓を意味するからです。むしろ、その単語が意味するのは弓の方で、虹を意味する場合の方が例外的です。ですから、神が「私は雲の中に私の虹を置いた」(13節)と語った時、文字通りには、神が空に虹をかけたことよりも、弓を神が空に置いたという意味になります。それは一体、どのようなことを意味したのでしょうか。この世界に対する威嚇のしるしなのでしょうか。神が、虹について言及するとき、常に「雲の中に」と付け加えられています。神の領域である天と、人間をはじめ様々な生き物たちが暮らす領域である、地の間に浮かんでいる雲の中に神は自らの武器である弓を置き、手放しました。決して暴力によって滅ぼすことはないと、神自ら武器を手放して、約束されました。神はこの世界を威嚇し、人間の罪や悪を恐怖によって取り締まり、抑え込むことをしているわけではありません。恐怖による見せかけの平和を形作ることは決してしないと、永遠に約束します。愛と忍耐と憐れみをもって、人々に関わることを通して、神自身の弱さを用いて、神はこの世界に平和を形作ろうと願っています。この虹は、そのような神の意志を全人類・全宇宙に宣言する約束のしるしでした。この虹は、私たちが生きる現代世界にとっても、大きな意味を持つものです。振りかざした拳をおろすことができない。過剰に報復や復讐をしてしまう。そういった世界のあり方に対し、神が示したのは、神が武器を放棄することでした。それは、神からの問いかけであり、私たちへの招きでもあると思います。君も、手元にある武器や力を捨てることができるんじゃないの?ですから、私たちがたどるべき道は、明らかです。武器や自分の力を握りしめることではなく、手放していくことを選び続ける道です。手を空っぽにするならば、私たちはお互いに手を取り合えるはずです。神が雲の中に置いたあの虹は、私たちにそのような道を今も示し続けています。
Information
- Show
- FrequencyUpdated Weekly
- PublishedAugust 31, 2025 at 5:42 AM UTC
- Length22 min
- RatingClean