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医師の働き方改革を加速するICT活用|8割の病院が未導入の現状と改善策

令和7年度入院・外来医療等における実態調査により、全国の約80%の病院で医師事務作業のICT活用が進んでいない実態が明らかになりました。医師の働き方改革が喫緊の課題となる中、生成AIやRPAなどの先進技術の活用が労働時間短縮の鍵となっています。本稿では、入院・外来医療等の調査・評価分科会で示されたICT活用による業務効率化の具体的効果と導入推進に向けた方策を解説します。

調査結果によると、生成AI文書作成補助システムを導入した医療機関では退院サマリー作成時間を最大66%削減する効果が確認されました。WEB問診・AI問診では1問診あたり40~50%の時間短縮を実現しています。説明動画の活用やRPAによる臨床データ集計においても、作業効率の大幅な向上と労働時間の短縮効果が報告されています。これらのICT技術は、医師事務作業補助者の業務負担軽減と医師の本来業務への集中を可能にする重要な手段となっています。

ICT活用の現状と導入の遅れ

令和7年度入院・外来医療等における実態調査によると、医師事務業務の省力化に向けたICT活用について、約80%以上の病院でいずれの取組も実施されていないことが判明しました。この現状は、医師の働き方改革を推進する上で大きな障壁となっています。調査によれば、ICTを活用している医療機関の取組内容は「説明動画の活用」、「WEB問診・AI問診」、「外来診療WEB予約システム」が上位を占めています。

導入済みの医療機関では、すべてのICT活用において「作業効率の上昇」と「労働時間の短縮」という明確な効果が確認されています。特に効果が高い取組として、「臨床データ集計等でのRPA活用」、「退院サマリー等の作成補助を行う生成AI文書作成補助システム」、「説明動画の活用」が挙げられます。これらの技術は、医師事務作業補助者が実施している紹介状の返書作成、診療情報提供書の作成、退院サマリーの作成などの主要業務において、大幅な時間短縮を実現しています。

医師事務作業補助者を必要数確保できない医療機関が40.1%存在する中、ICT活用は人材不足を補完する重要な解決策となります。入院・外来医療等の調査・評価分科会の中間とりまとめでも、給与や賞与の見直しだけでは限界があり、診療報酬の枠組みでの議論の必要性が指摘されています。

生成AI等による具体的な削減効果

生成AIによる文書作成補助システムの導入効果は、複数の医療機関で実証されています。1000床規模の国立大学病院では、退院サマリー作成時間を1時間から20分に短縮し、66%の削減率を達成しました。別の国立大学病院では、診療情報提供書と退院サマリー作成で平均47%の時間削減を実現し、年間1人当たり63時間の削減効果を生み出しています。

750床規模の民間病院では、医師事務作業補助者による退院サマリーの下書き作成時間を30分から0分に完全に自動化しました。医師による作成時間も10分から5分に短縮し、全体として大幅な効率化を達成しています。200床規模の民間病院でも、診療情報提供書・紹介返書・退院サマリー・主治医意見書等の作成において、医師事務作業補助者による下書き時間を30分から15分に短縮し、50%の削減効果を実現しています。

WEB問診・AI問診システムも顕著な効果を示しています。300床規模の民間病院では1問診あたり約10分から6分への短縮(削減率40%)、診療所では1問診あたり約12分から約6分への短縮(削減率50%)を達成しました。がん登録作業においても、生成AIの活用により患者スクリーニング作業時間で27.1%、がん登録作業時間で16%の削減効果が報告されています。

これらのシステムは、診療録からの情報収集、部門システムからのデータ抽出、情報の統合と構造化、要約作成といった一連のプロセスを自動化します。従来は医師事務作業補助者が手作業で行っていた業務が、AIにより効率的に処理されるようになっています。

今後の推進に向けた課題と方向性

入院・外来医療等の調査・評価分科会では、医師事務作業補助者の定着に向けた取組やICTの活用による省力化等について、令和7年度入院・外来医療等における実態調査の結果を踏まえさらなる検討を進めることが示されています。医師の働き方改革は急性期機能の集約化や病院間の役割分担とも密接に関連しており、急性期の医療機関機能を検討する際に併せて考えていくべきとの意見も出されています。

地域医療確保体制加算の評価向上も含め、診療報酬制度における適切な評価が重要な検討課題となっています。多くの当直医が大学病院からの派遣で満たされている現状を踏まえ、夜間の宿日直体制を維持していくことの重要性も指摘されています。

ICT導入の障壁として、初期投資コストや運用体制の構築、スタッフの教育などが挙げられます。しかし、労働時間短縮による人件費削減効果や医療の質向上を考慮すれば、中長期的には十分な投資対効果が期待できます。特に医師事務作業補助者の確保が困難な地域や施設においては、ICT活用が不可欠な選択肢となっています。

今後は、成功事例の共有と横展開、導入支援体制の整備、診療報酬上のインセンティブ設計などを通じて、全国的なICT活用の推進を図ることが重要です。医師の働き方改革の実現と医療の質向上の両立に向けて、デジタル技術の積極的な活用が求められています。

まとめ

令和7年度入院・外来医療等における実態調査により、医師事務作業のICT活用は約80%の病院で未導入という現状が明らかになりましたが、導入済み施設では明確な労働時間短縮効果が実証されています。生成AI文書作成補助システムによる最大66%の時間削減、WEB問診・AI問診による40~50%の効率化など、具体的な成果が報告されています。医師の働き方改革を実現し、持続可能な医療提供体制を構築するために、ICT活用の推進は避けて通れない課題となっています。各医療機関においては、自施設の業務特性に応じた最適なICT導入戦略を検討し、段階的な実装を進めることが求められます。



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