令和7年6月13日に閣議決定された経済財政運営と改革の基本方針2025において、医療現場で働く幅広い職種の賃上げに確実につながる対応が求められています。この方針を受けて、医療機関では診療報酬のベースアップ評価料による賃上げが進められていますが、届出手続きの煩雑さが課題となっています。本稿では、入院・外来医療等の調査・評価分科会が取りまとめた賃上げ・処遇改善の実態を明らかにします。
ベースアップ評価料の届出状況は病院で約9割、診療所で約4割となっています。届出していない医療機関の最も多い理由は「届出内容が煩雑なため」でした。令和7年度の賃上げ計画は平均3.40%の引上げとなっていますが、政府目標の4.5%には届いていません。分科会では、届出書類の簡素化や看護職員処遇改善評価料との統合を求める意見が出されています。
ベースアップ評価料の届出状況:病院と診療所で大きな差
ベースアップ評価料の届出率は、医療機関の種別によって大きく異なります。病院では約9割が届出を行っている一方、診療所では約4割にとどまっています。
届出をしていない病院の特徴を見ると、公立病院、医療法人(社会医療法人を除く)、許可病床数100床未満の病院が多くなっています。特に小規模病院では、事務職員の不足により届出書類の作成に係る事務負担が大きいことが指摘されています。外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)を届け出ている医療機関は、評価料(Ⅰ)届出医療機関のうち約4%でした。
診療科別に見ると、小児科、皮膚科、耳鼻咽喉科において外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)の算定割合が低い傾向にあります。評価料(Ⅱ)について特徴的に併算定されている診療行為は、血液透析に関連したものが多くなっていました。
届出手続きの複雑さ:書類作成が医療機関の負担に
届出をしていない理由として最も多かったのは「届出内容が煩雑なため」でした。この煩雑さは、届出に必要な書類の多さと計算の複雑さに起因しています。
各医療機関は、ベースアップ評価料の算定にあたって複数の書類を作成する必要があります。具体的には、職員給与や診療報酬の算定回数等に基づく届出区分の計算、賃金改善計画書の作成、賃金改善実績報告書の作成などです。賃金改善計画書は新規届出時及び毎年6月に提出が必要であり、賃金改善実績報告書は毎年8月に提出することになっています。
看護職員処遇改善評価料と入院ベースアップ評価料は、それぞれ異なる要件と書類様式を持っています。看護職員処遇改善評価料は令和4年10月に新設され、看護職員の賃金を3%程度(月額平均12,000円相当)引き上げることを目的としています。入院ベースアップ評価料は令和6年6月に新設され、対象職員の令和5年度賃金を2.3%引き上げることを目的としています。この2つの評価料について、分科会では書類作成が非常に煩雑であり、統合することについて検討の余地があるとの意見が出されました。
賃上げの実施状況:目標との乖離と業態による差
ベースアップ評価料による賃上げは一定程度進んでいますが、政府目標との間には乖離があります。
賃金改善計画書において、令和5年度と比較した対象職員の賃上げ計画の平均値は、令和6年度で2.69%、令和7年度で3.40%の引上げとなっています。これは、2年間の累積で見ると一定の賃上げが計画されていることを示していますが、政府が掲げる4.5%という目標には届いていません。ただし、分科会では、この目標は賃上げ促進税制も含めた数値であるため、税制の活用状況も含めて分析する必要があるとの意見が出されました。
40歳未満医師及び事務職員の賃上げについては、初再診料、入院基本料等の引き上げ等により対応することとされています。令和5年度と比較した令和7年度の賃上げ計画の平均値は、40歳未満医師で2.89%、事務職員で3.18%の引上げとなっていました。
歯科技工所における従業員の基本給等総額は、令和6年4月と令和7年4月を比較すると6.1%上昇しており、比較的高い賃上げ率を実現しています。薬局においては、令和6年度に約5割が賃上げを実施しており、薬剤師では20~49店舗の薬局、事務職員では300店舗以上の薬局において賃上げ率が大きい傾向が見られました。
今後の制度改善の方向性:簡素化と統合の議論
分科会では、今後の制度改善に向けた様々な意見が出されました。
第一に、医療人材確保に繋がる賃上げが可能な報酬制度とすべきとの意見がありました。医療従事者の賃上げ率は他産業と比較して少ないため、職責に見合った賃上げが必須であるとの指摘です。
第二に、届出書類の簡素化を求める意見が複数出されました。病床規模の小さい医療機関におけるベースアップ評価料の届出が進んでいない背景として、事務職員が不足している中、届出書類の作成に係る事務負担が大きいことが挙げられています。
第三に、看護職員処遇改善評価料とベースアップ評価料の統合に関する意見がありました。両者の書類作成が非常に煩雑であることから、統合することについて検討の余地があるとの意見です。ただし、様々な影響を勘案して慎重に対応していくことが重要であるとの意見も出されました。さらに、賃上げの原資は入院基本料等の増分から賄われるべきであり、ベースアップ評価料を入院基本料等に統合すべきであるが、難しければ、届出書類の簡素化や対象職種の見直し等を講じるべきとの意見もありました。
まとめ
ベースアップ評価料により医療従事者の賃上げは一定程度進んでいますが、届出手続きの煩雑さが課題となっています。病院では約9割が届出している一方、診療所では約4割にとどまり、小規模医療機関では事務負担が特に大きくなっています。賃上げ計画は令和7年度で平均3.40%ですが、政府目標の4.5%には届いていません。今後は、届出書類の簡素化や看護職員処遇改善評価料との統合など、医療機関の負担を軽減しながら確実な賃上げを実現する制度設計が求められます。
Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
資訊
- 節目
- 頻率每週更新兩次
- 發佈時間2025年10月12日 下午8:12 [UTC]
- 長度7 分鐘
- 年齡分級兒少適宜