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医療機関の業務効率化・職場環境改善の推進策と具体的論点【2025年最新】

令和7年10月27日に開催された第120回社会保障審議会医療部会では、医療機関の業務効率化・職場環境改善の推進に関する重要な論点が示されました。2040年に向けて医療従事者不足が深刻化する中、医療機関が持続可能な体制を構築するための具体的な方策が議論されています。本稿では、社会保障審議会が提示した現状認識と課題、業務DX化の推進策、タスク・シフト/シェアの促進策について、医療機関の経営者や医療政策に関心をお持ちの方に向けて詳しく解説します。

社会保障審議会医療部会は、医療機関における2つの重要な論点を提示しました。第1の論点は、業務のDX化推進に関するもので、先進的医療機関の成功事例を医療界全体に広げるための支援策や制度的枠組みの必要性が指摘されています。第2の論点は、タスク・シフト/シェアの推進等に関するもので、看護師の特定行為研修制度の見直しやオンライン診療の適切な普及が検討されています。これらの施策により、超過勤務時間の減少や職場満足度の向上といった効果が期待されており、医療機関勤務環境改善支援センターなどの支援体制も活用可能です。

2040年問題と医療従事者不足の深刻化

2040年に向けて高齢者人口がピークを迎える一方、15歳から64歳の生産年齢人口は減少していきます。この人口構造の変化により、医療従事者の確保は現在よりもさらに困難となることが見込まれています。特に、人口減少のスピードは地域によって大きく異なるため、早晩、これまでと同じ医療提供が難しくなる地域も出てきます。

この人口減少の影響は地域差が顕著です。現在の人口規模が15万から20万人の二次医療圏であっても、2040年に向けた人口減少率は地域によって大きく異なります。約30%減少する地域から、数%の減少にとどまる地域まで様々であり、地域の実情に応じた対応が必要です。

我が国では、十分な省力化投資やデジタル化が進んでおらず、他の先進国と比べて医療福祉業の実質労働生産性の上昇率が低水準であるとの分析があります。現在の医療機関には、物価や建築単価の上昇等により、医療従事者の賃上げや省力化投資を行うだけの余力がないとの指摘も多くあります。

ただし、先行投資を行い業務のDX化やタスク・シフト/シェア等を積極的に実施している医療機関では、超過勤務時間の減少や職場満足度の向上といった結果につながっている事例があります。厚生労働省では、2040年時点で単位時間当たりのサービス提供を5%以上改善することを目標としており、医師については7%以上の改善を目指しています。

業務のDX化推進に関する具体的論点と支援策

業務のDX化については、物価や賃金の上昇等の影響でDX化投資を行う余力がない医療機関もあると考えられ、医療界全体での取組とはなっていません。一方で、積極的な投資を行い、ICT機器の導入や生成AIサービスの活用等によって、文書や記録作成等の業務のDX化を進めている医療機関が出てきています。

これらの先進的な医療機関では、超過勤務時間の減少や経費の節減等につなげている実績があります。業務効率化を実現した場合の人員配置基準の緩和の検討が必要ではないかとの指摘や、医療機関が適正な価格でICT機器等を導入できるような環境整備が必要との指摘もあります。

既に業務効率化を実施してきた医療機関がその取組をさらに加速化させるとともに、業務効率化に取り組む医療機関の裾野を広げ、医療界全体での実効ある取組とするためには、どのような支援や制度的枠組みが必要かが論点となっています。国や自治体による更なる支援体制の構築も必要との指摘があります。

医療DXの推進は医療の質の向上や効率化、働き方改革に大いに貢献するものと考えられます。医療部会では、ICTやAIを活用した医療DXの推進が重要であるとの意見が多く出されました。ただし、これらを導入するには多大なコストがかかり、現状の病院の経営状況では多くの病院が導入できないという課題があります。十分な財政支援、あるいは診療報酬での評価が必須との指摘がありました。

タスク・シフト/シェア推進と特定行為研修制度の見直し

看護師の特定行為研修制度については、令和7年9月に「看護師の特定行為研修制度見直しに係るワーキンググループ」が設置され、見直しに向けた議論が開始されました。特定行為研修を修了した看護師の活躍促進に向けて、どのような取組が必要かが検討されています。

医師の働き方改革の推進に伴い、タスク・シフト/シェアの取組を進めてきています。これまでの取組の定着化が必要ではないかとの指摘があります。医療部会では、業務負担の軽減に向けて、医療職一人一人が専門性を十分に発揮できるよう、タスク・シフト/シェアや、チーム医療に加えて、多職種連携も促進することが必要との意見が出されました。

医療の質や安全の確保を前提に、医療従事者の業務効率化という観点から、いわゆる「D to P with N」等によるオンライン診療などを適切に普及・推進するためにどのような対応が考えられるかも論点となっています。限られた人材で安全かつ効率的な医療を提供するにあたっては、タスク・シフト/シェア、ICTの活用、多職種連携等が必要です。

医療機関における配置基準について、引き続き合理的に見直しを図っていくことも検討されています。人員配置基準が足かせになっているならば、人員配置基準の見直し、緩和ということを検討すべきとの意見もありました。省力化・DXへの投資は、持続性を高める上では必要であり、エビデンスを重ねて、さらにルールの見直しなども今後視野に入れていくべきではないかとの指摘があります。

医療勤務環境改善支援センターの活用と省力化投資促進プラン

医療勤務環境改善支援センターは、医療従事者の勤務環境改善を促進するための拠点として、各都道府県が設置しています。平成29年3月までに全都道府県に設置され、都道府県の直接運営や県医師会、病院協会等の団体への委託により運営されています。

同センターには、医療労務管理アドバイザーや医業経営アドバイザーが配置され、医療機関からの相談に応じて、医療機関の勤務環境改善や医師の働き方改革の取組を支援しています。相談に基づく助言や支援に加えて、医療機関の状況に応じたプッシュ型の助言や支援も実施しています。

省力化投資促進プラン(医療分野)では、多面的な促進策が示されています。看護業務の効率化の推進に資する機器等の導入支援、医師の労働時間短縮に資する機器等の導入支援、医療DXの推進のための情報基盤の整備などが含まれています。医療分野における適切で有効な機器等の開発・実装、オンライン診療に関する総体的な規定の創設、タスク・シフト/シェアの推進も盛り込まれています。

同プランでは、具体的な目標とKPIも設定されています。地域医療確保暫定特例水準適用医師の時間外労働について、現状の上限1,860時間から2029年度までに上限1,410時間への削減を目指しています。看護職員の月平均超過勤務時間についても、現状の5.1時間から2029年度までに2027年度比での減少を目指すこととされています。

まとめ

社会保障審議会医療部会が示した医療機関の業務効率化・職場環境改善の推進に関する論点は、2040年問題への対応として極めて重要な意味を持ちます。業務のDX化推進については、先進的医療機関の成功事例を医療界全体に広げるための支援策や制度的枠組みの整備が必要です。タスク・シフト/シェアの推進については、看護師の特定行為研修制度の見直しやオンライン診療の適切な普及が検討されています。医療勤務環境改善支援センターや省力化投資促進プランなどの支援体制を活用しながら、医療機関全体で業務効率化と職場環境改善を進めていくことが求められています。



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