今回は、1961年に発表され、今なお多くの医療者に影響を与え続けている古典的論文「The Ecology of Medical Care」をご紹介します。ある地域に住む1000人のうち、1ヶ月の間に体調不良を感じる人は何人いて、そのうち何人が実際に医師の診察を受け、入院し、最終的に大学病院に紹介されるのでしょうか? この論文は、アメリカとイギリスのデータをもとに、患者が医療機関を受診するまでのプロセスを「生態学」というユニークな視点で分析しています。
番組では、論文の結果を紐解きながら、「大学病院で研修する医学生や医師が見ている患者像は、地域全体の健康問題から見るとかなり偏っているのではないか?」「そもそも人々が医療を求めるプロセスとはどのようなものなのか?」といった、日々の診療で私たちが抱く疑問について語り合います。プライマリ・ケアの重要性や、これからの医療研究のあり方について考えるきっかけとなるエピソードです。
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本研究は、米国と英国の医療に関する複数の調査データを分析し、ある特定の期間における一般住民の受療行動の規模を推定したものです。
成人1000人のうち、1ヶ月間に何らかの体調不良を自覚するのは約750人でした。このうち医師の診察を受けるのは250人で、入院に至るのは9人、他の医師へ紹介されるのは5人、そして大学病院に紹介されるのはわずか1人という結果が示されました。
このことから、大学病院などの高度医療機関で診療にあたる医療者は、地域社会における健康問題全体のごく一部にしか触れていない可能性が指摘されています。本研究は、疾患のメカニズム解明だけでなく、人々がどのように医療にアクセスし、それを利用するのかという「医療の生態学」に関する研究の重要性を提唱しています。
White KL, Williams TF, Greenberg BG. The Ecology of Medical Care. N Engl J Med. 1961;265:885-92.
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- FrequencyUpdated Daily
- PublishedOctober 2, 2025 at 8:00 AM UTC
- Length18 min
- Season1
- Episode21
- RatingClean