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病院薬剤師の深刻な人手不足と診療報酬上の課題【2025年度入院・外来医療等分科会】

令和7年度第13回入院・外来医療等の調査・評価分科会において、病院薬剤師の配置状況と診療報酬上の課題が明らかになりました。病院に勤務する薬剤師は5.66万人ですが、薬剤師偏在指標が全都道府県で1.0を下回り、全国的な不足状態にあります。この不足の背景には、病床機能による配置の偏在と、医師の処方に基づく調剤業務に対する院内処方と院外処方の診療報酬評価の格差という2つの構造的問題が存在します。

分科会の分析により、3つの重要な課題が浮き彫りになりました。第1に、病院薬剤師の77.1%が特定機能病院や高度急性期・急性期病棟に集中し、回復期・慢性期病棟には22.9%しか配置されていません。第2に、回復期・慢性期病棟の薬剤師は調剤室等における対物業務の割合が高く、病棟での対人業務が十分に実施できていません。第3に、調剤業務に対する診療報酬について、院内処方と院外処方を比較すると評価に差があり、この点数差が薬局薬剤師数の大幅な増加と病院薬剤師数の人手不足の一因となっている可能性があります。

全国的な病院薬剤師不足の実態

病院薬剤師の不足は、薬剤師偏在指標という客観的指標で明確に示されています。薬剤師偏在指標は、地域で必要な薬剤師サービスを提供するための業務量に対する、現在提供されている薬剤師の労働量の割合を示す指標です。この指標が1.0を超える都道府県が病院薬剤師ではゼロであるという事実は、全国どの地域でも病院薬剤師が不足していることを意味します。

病院薬剤師の偏在指標の全国値は0.80にとどまっています。一方、薬局薬剤師の偏在指標は全国値が1.08であり、18都道府県で1.0を超えています。この対照的な数値は、薬剤師という職種全体では一定数確保されているにもかかわらず、病院と薬局の間で人材の偏在が生じていることを示しています。

病院薬剤師の不足は、単なる人数の問題だけでなく、医療提供体制全体に影響を及ぼします。病院薬剤師は入院患者への薬学的管理、医師への処方提案、他職種との連携など、病院医療の質を支える重要な役割を担っています。この人材不足により、こうした機能が十分に発揮できない状況が全国的に広がっています。

病床機能による薬剤師配置の著しい偏在

病院薬剤師の配置状況を病床機能別に分析すると、著しい偏在が明らかになります。特定機能病院や高度急性期・急性期病棟には77.1%の薬剤師が配置されている一方、回復期・慢性期病棟には22.9%しか配置されていません。この配置の偏りは、病床機能ごとに求められる薬剤師業務の違いと、診療報酬上の評価の差によって生じています。

回復期・慢性期病棟に従事する薬剤師の業務内容には、特徴的な傾向があります。この病床機能の薬剤師は、中央業務と呼ばれる調剤室等における対物業務に従事する割合が、特定機能病院や高度急性期・急性期病棟に比較して高い状況です。対物業務とは、医師の処方に基づく医薬品の調剤業務を指します。

高度急性期・急性期病棟の薬剤師は、病棟での対人業務により多くの時間を割いています。対人業務には、患者への服薬指導、医師への処方提案、薬物療法のモニタリング、多職種カンファレンスへの参加などが含まれます。回復期・慢性期病棟でもこうした対人業務の重要性は高いにもかかわらず、人員配置の制約から対物業務中心にならざるを得ない実態があります。

病床機能による配置の偏在は、診療報酬上の評価の違いも影響しています。病棟業務実施加算は病棟での対人業務を評価する仕組みですが、対物業務である調剤業務については、後述するように院内処方と院外処方で評価に差があり、この構造が薬剤師の就業先選択に影響を与えている可能性があります。

病棟業務実施加算の届出増加と対人業務の推進

病院薬剤師が行う病棟業務、いわゆる対人業務に対する診療報酬上の評価として、病棟業務実施加算が設けられています。この加算の算定届出医療機関数は年々増加しており、病院薬剤師の対人業務を推進する効果を上げています。病棟業務実施加算の届出医療機関の増加は、薬剤師が病棟で患者に直接関わる業務の重要性が広く認識されてきたことを示しています。

病棟業務実施加算を算定している病棟では、薬剤師による医師の負担軽減効果が確認されています。医師の負担軽減策として最も効果が高いのは「薬剤師による投薬に係る患者への説明」であり、病棟薬剤業務実施加算1算定病棟で51.7%、同加算2算定病棟で48.1%、加算届出なし病棟でも43.3%の医師が負担軽減に寄与していると回答しています。

医師から薬剤師へのタスクシフト・シェアの実施状況としては、「医師への処方提案等の処方支援」が81.8%、「病棟等における薬学的管理等」が74.9%、「薬物療法に関する説明等」が70.9%と高い実施率を示しています。これらの取組は、医師の働き方改革と医療の質向上の両面で重要な役割を果たしています。

病棟薬剤業務実施加算による対人業務の評価は、病院薬剤師の役割を変化させつつあります。調剤室での対物業務中心から、病棟での患者への直接的な薬学的管理へと業務の比重が移行しています。この変化は医療の質の向上に寄与する一方で、対物業務である調剤業務の評価のあり方も改めて問われることになっています。

院内処方と院外処方の調剤業務に対する診療報酬評価の格差

病院薬剤師不足の構造的要因として、医師の処方に基づく医薬品の調剤業務、いわゆる対物業務について、院内処方と院外処方を比較すると診療報酬上の評価に差があることが指摘されています。調剤業務は院内処方でも院外処方でも同じ内容であるにもかかわらず、診療報酬上の評価には大きな差があります。この評価差が、薬剤師の就業先選択に影響を与え、病院薬剤師不足の一因となっている可能性があります。

具体的な点数差を外来処方の例で見ると、その格差は顕著です。服用時点が異なる内服薬が2種類、28日分処方されている患者の場合、外来院内処方では技術料の合計が32点(320円)です。一方、院外処方では一般的な薬局で調剤した場合、技術料の合計が238点(2,380円)となります。同じ調剤業務に対して、約7.4倍の評価差が存在することになります。

院外処方では、調剤基本料45点、調剤管理料100点、薬剤調製料48点、服薬管理指導料45点など、複数の項目で評価が設定されています。さらに、夜間・休日等加算として40点が追加される仕組みもあります。院内処方では、調剤料と調剤技術基本料のみで、剤数によらず1処方当たりの点数がほぼ固定されています。

分科会では、この評価差について2つの異なる意見が出されました。1つは、院内処方と院外処方との同一業務に対する報酬上の点数差が大きすぎるため、薬局薬剤師数が大幅に増加し、病院薬剤師数が人手不足に陥っていると考えられるので、再度検討すべきではないかという意見です。もう1つは、院内処方の評価を上げることで院内処方の増加につながる恐れがあるので、入院患者の調剤に対する評価を検討してはどうかという意見です。

今後の検討課題と方向性

分科会では、病院薬剤師不足への対応策として、入院患者の調剤に対する評価の検討が提案されました。現在の診療報酬体系では、外来における院内処方と院外処方の評価差が顕著ですが、入院患者に対する調剤業務についても適切な評価を行うことで、病院薬剤師の確保につながる可能性があります。

病院薬剤師の人件費確保の観点からも、診療報酬上の評価は重要です。分科会では、薬剤師の人件費を賄う場合、病棟薬剤業務実施加算により150床程度の算定で得られる診療報酬でようやく1人分となり、小規模病院では当該診療報酬によって薬剤師の人件費が確保できない現状があるとの意見が出されました。

病院薬剤師の配置偏在を解消するためには、回復期・慢性期病棟での薬剤師業務の評価も重要です。現在、これらの病棟では対物業務中心の配置となっていますが、高齢化の進展に伴い、ポリファーマシー対策や退院時の薬剤情報連携など、回復期・慢性期での薬剤師の役割はますます重要になっています。分科