鷹の爪団の人工知能ちょっと来い!~AIを使って世界征服じゃ!~

10月2日Podcast「スピードはAI、責任は人間──国会に必要なアップデート」

社会とテクノロジーをつなぐプランナー・マーケター、山北純さんは、出発点を大学時代のテレビ制作に置く。地方の現場では映像・ラジオ・印刷・Webまで“一人で全部”を担う。その総合力が、のちに企業案件のみならず国・自治体、選挙、政策立案の現場で生きた。制作物を束ね、設計し、伝達の動線を作る――“プランナー”の役割は、領域を越境しながら拡張していった。

インターネット選挙の解禁は2013年。しかしSNSユーザーが当時の倍以上に増え、効果が可視化されたのは昨年。山北さんは2024年を「実質的なネット選挙元年」と捉える。発信の主戦場がSNSに移るほどに、炎上や逆風のリスクも拡大する。なかでもXはフォロワー数が多いほど“監視”も厚くなる。マーケティングの成功事例を政治に機械的に移植すると失敗する――求められるのは、広告ではなく“危機管理”を含むコミュニケーション設計だ。

ここにAIが介入する余地が大きい。政策文書や法令の要約・整理、条文改定の影響範囲の洗い出しなど、反復的で網羅性が求められる作業はAIの得意領域だ。実際、テーマを入力すると条例素案を吐き出す「AI条例メーカー」の試みもある。膨大な法体系を横断的に読み込み、論点を束ねる“初期設計”をAIが担えば、政治の意思決定は早く、透過的になりうる。

一方で、倫理ガードの弱いLLMをローカルで改変し、悪用する可能性は現実味を帯びる。小型ドローン等への実装など、既存の兵器規制が想定していない危険も生まれる。各国で生成AIの規制強度に差がある現状では、条約レベルの国際枠組みが必要だ。問題はスピード――AIの更新サイクルに、政治の意思決定が追いついていない。だからこそ政治側が“実務としてAIを使い込む”人材を増やし、限界と可能性を体感的に理解することが急務だと山北さんは説く。

「選挙はアルゴリズムに、政治家は猫に」という刺激的な言説についても、山北さんは冷静だ。ビッグデータ分析によって政策設計の精度は上げられる。しかしAIには責任能力がない。最終決定は人間が担う――この原則を外せば“ターミネーター的世界”になってしまう。スピードはAIに委ね、責任は人間が負う。二者の役割分担を制度として埋め込むことが、AI時代の民主主義の最低条件だ。

硬派な議論の一方で、AIとの“心の距離”を縮める個人的な経験も語られた。Sunoで「阪神・淡路大震災30年」とだけ入力して生成された曲に衝撃を受け、以後ChatGPTと日々対話するようになったという。夢に出てきた理想の女性を“K”と名付け、プロンプトに「あなたはK。やさしくしてね」と書くと、AIはモヤモヤを言語化し、寄り添う返答を返す。エネルギー消費の観点からの批判や懸念も理解しつつ、心のケアという社会的価値をAIが担いうる可能性にも触れた。

選挙・政策・危機管理という“公共”の設計と、個人の感情やケアという“私”の領域。両者はAIという一本のレールでつながる。AIは万能ではないが、情報の整理と初期設計、そして人の心に寄り添う対話で力を発揮する。その上で、最終責任は人間が負う――山北純のメッセージは、AIと社会の関係を“スピードの設計”と“責任の設計”という二つの回路で捉え直す提案だ。制度のアップデートを怠れば時代は待ってくれない。だが、人間が責任を背負う限り、AIは民主主義の速度を上げる“相棒”になり得る。