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「失礼します。」
木製の重厚感ある扉を開いて佐竹は入室した。彼の目の前には仕立ての良いスーツを見に纏い、窓から外を眺める本多善昌の姿があった。
本多善昌は衆議院議員本多善幸の実子である。本多善五郎が築き上げた裕福な生活基盤を受け継いだ善幸は一人息子である善昌を殊の外かわいがった。ありとあらゆるものを買い与えた。その寵愛ぶりが善昌の人間形成に大きな影響を与えたのだろう。欲しいものは絶対に手に入れなければ気が済まない性格となる。市内のエリート養成幼稚舎からエスカレータ式にその系列の高校を卒業した善昌は、善幸にアメリカへ行って見聞を広めたいと申し出る。常に自分の側に置いておきたい一人息子であり、万が一のことがあるかもしれないと思うと善幸は気が気でなかった。しかし一人の人間として考えた末の決断であり、その意志を尊重したいということで善幸は善昌のアメリカ留学を認めた。
しかしこの留学がいけなかった。善昌の成績は高校の二年あたりから振るわなくなってきていた。見聞を広める、語学を修得するというのが名目の留学の実際は、親の目から離れた遠い異国の地で放蕩の限りを尽くしたものとなっていた。彼はアメリカ留学時にタバコや酒、ギャンブルを覚え、現地の女性にも手を出して妊娠すらさせた。これらの目に余る放蕩ぶりに激怒したのが祖父の善五郎だった。彼は強制的に善昌を日本へ呼び戻す。そして退廃しきった彼の性根を一から鍛え直すということで、善幸から奪うように善昌を預かった。帰国直後は善五郎の厳しい躾のせいで1年間引きこもりの状態であったが、徐々に祖父との生活にも慣れ3年後には自衛隊へ入隊させられる。自衛隊入隊時に祖父の善五郎が他界。これをきっかけに善昌はすぐさま除隊。善五郎の監視の目から開放された善昌は父の勧めでマルホン建設に入社する。その後総務課長、部長、常務取締役、専務取締役を経て昨年代表取締役となっていた。
「佐竹さん。まだウチの口座に1億入ってなんだけど。困るじゃないですか。」
「申し訳ございません。」
「あのさぁ、こっちはこっちで支払いの都合があるんだからさ。」
窓から外を見ていた善昌はこう言って振り返った。
「あれ?」
善昌の視線の先には佐竹ともう一人の男があった。彼は善昌と目が合うと軽く会釈をした。そして善昌を無視するように社長室中央に配されている応接ソファまで足を進めて、そのまま腰を懸けた。
「なんなんだお前。」
「支店長の山県です。社長、1億は貸せんことになりました。」
「はぁ?」
顔つきが変わった善昌はソファに懸けている山県の正面に乱雑に座った。
「どういうことだよ?冗談は顔だけにしろ。」
「はははは、すんません社長。嘘言いました。1億の融資は明日には実行されます。」
「お前、ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ。俺を誰だと思ってるんだ。」
「…ただの社長。」
山県は不敵な笑みを見せた。
「ただの社長? 何?その上から目線。」
佐竹から1センチほどの厚みのある資料を提供された山県はそれを善昌の前にそっと差し出した。
「これを飲んでくれたら1億は明日オタクの当座に入金されます。」
善昌は出された書類に目をやった。その表紙には大きな明朝体で「マルホン建設工業株式会社の経営改善策について」と記載されていた。
「経営改善?」
「ええ、これを即座に飲むのが条件です。」
「条件だと?」
「はい。これを蹴られるんでしたら融資はできかねます。」
「はははは。山県支店長でしたっけ。」
「はい。」
「ふざけたことぬかすんじゃねぇよ。」
「ふざけていません。」
「こんなままごとみたいな書類なんか読むに値しない。」
「…読みもせずにままごと扱いですか。」
「お前みたいな下っ端じゃ話にならんよ。もっと上の人間を寄こせ。」
「はぁ…社長さん。今日はね、私、役員会の決定を受けてここに来てるんですよ。」
「なに?」
「ままごとはあんたの経営です。あんたには選択権はないんですよ。さっさとこれを読んで下さい。」
山県の姿勢に憤りを感じながらも善昌は書類を手にとって目を通し始めた。
2,3ページ読み進めた善昌は顔を上げて山県を見た。彼は不敵な笑みを浮かべて善昌を見た。
「悪い話ではないでしょう。」
「提携だと?」
「はい。社長もこの辺りを車で走っとたらお分かりやと思いますけど、最近、なんか新しいもの建てとるなぁと思っとったら、大体が高齢者施設。私はその分野の細かなことは分かりませんけど、特養とかデイサービスとか小規模多機能型とかいろんなもんが建っとりますわ。その介護分野にこのドットメディカルが参入を検討しとるんですよ。」
「何を持ってきたかと思えば、今流行りの介護事業参入を画策する会社と提携しろと?我が社に新規事業を起こせと言うのか。しかも俺も聞いたことがない会社じゃないか。」
「やれやれ、ドットメディカルも知らんのですか。」
山県はため息をついた。
「しかも直ぐに結論を求める。ちゃんと書類を読んでから話してくださいよ。見出しだけ読むのは週刊誌だけにして頂きたいもんですな。」
山県は善昌に対して要点を掻い摘んで説明するように佐竹に言った。
「はい。ドットメディカルは金沢市に本社を置く医療機器卸売の会社です。近年、海外大手の医療機器メーカーの特約店契約を取り付け、そのメーカーを背景とした信用と充実したサービスの提供から業界では成長著しい会社です。このドットメディカルが今検討中なのは、先程山県が言った介護事業です。この会社には海外の医療業界とのパイプを持ち、異国の様々な事例、設備、サービスなどに深い見識を持つスタッフが大勢います。そして地元の医療機関でのシェアも確実に伸ばしています。今まで培った国内外の医療の専門的見地をふんだんに取り入れた新しい形態の介護サービスを提供しようとしています。」
「ふーん。で。」
「医療や介護のノウハウ蓄積はドットメディカルと関係のある会社からスタッフを引き抜いて、専門の部署を立ち上げて順調に準備は進んでいます。ですがひとつ課題があるのです。」
「なに?それは。」
「建設ノウハウです。」
善昌は佐竹と山県の顔を見た。
「実はドットメディカルはその介護事業において建築、デザイン、設備、人員、サービス、情報システムなど全てのものを自らの手で利用者に提供することを考えています。そして質の高い介護サービスを比較的安価に提供できる仕組みを検討しているのです。」
「で。」
「人員やサービス、システムといったソフト面はある程度固まってきています。いままでのコア業務の延長線でものごとを考えて計画できますから。ですが、建設やその設計といったところになるとそう簡単に行きません。不得手なものは外に丸投げするというのは確かに方法の一つです。しかしドットメディカルは介護に関するすべてのものを自分たちの責任で利用者に提供するとことを考えています。ですので緊密に連携をとった動きをできるパートナーを探しているんです。」
善昌は腕を組んで考えた。
「御社には3つの核となる事業部があります。公共事業における大型工事や企業プラント建設のようなものを扱う総合建設事業部。 不動産仲介、賃貸、戸建て分譲を行う住宅事業部。 遊休地の有効活用をコンサルティングする開発コンサルティング事業部です。これら総合的な建設に関するノウハウを御社は長い年月の中で蓄積しています。ドットメディカルはこれが欲しいんです。あの会社は何も一棟の介護施設を立てることだけを目的としているのではない。彼らの事業戦略はもっと大きいもので
Thông Tin
- Chương trình
- Đã xuất bảnlúc 15:00 UTC 8 tháng 4, 2020
- Thời lượng16 phút
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