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「何で電話かけてくるって?そりゃあお前、おたくの理事官さんが帳場のことはお前に聞けっておっしゃっていらっしゃったからやわ。あ? ほんなもん知らんわいや。こっちが聞きてぇわ。お前こそあいつにいらんことちゃべちゃべ喋ったんじゃねぇやろな。あ?…喋っとらん?…そうなんか…。」
会話の内容から電話の相手は岡田であることがわかる。片倉は県警で松永と出くわした。出くわしたというよりも、松永が片倉をつけていたと言った方が表現が適切かもしれない。松永の口から岡田の名前が出たため、彼がこちらの事をリークした恐れがあった。今朝、岡田とはお互いの行動の極秘を誓った筈なのに、何故お前は裏切るような行動を取るんだと詰問しようとした片倉だったが、岡田の弁明によってそれは誤解だとすぐにわかった。片倉は信頼できるはずの部下を、このように疑いの目を持って詰問した自分の節操のなさに嫌気が差した。
結局のところ松永が何故自分の行動を捕捉していたか、その原因は分からずじまいだ。
文子からの事情聴取を終えた片倉はアサフスの裏手にそびえる北上山の中腹にある運動公園の駐車場に車を止めた。
「おい、片倉。」
彼の隣で煙草をふかしながら、窓の外にチラホラと舞ってきている雪の様子を見ていた古田は声をかけた。片倉は古田の呼びかけに、何故自分が今、岡田に連絡を取っているかを思い出した。
「ああ…岡田、お前を疑ってしまってすまんかった。ところで帳場のほうで何か変わった動き、無かったか?」
換気のため指二本分開いた窓から古田は吸い込んだ煙を勢い良く吐き出した。
「何?似顔絵?何の…。…おう。…ふん…。…タクシーで熨子山か?小松空港から…。おう。」
片倉はドアを開けて車外に出た。そして彼は古田同様煙草に火をつけ、岡田からもたらされる捜査本部の情報に耳を傾けた。5分ほど話し込んでいただろうか。彼は再び車内に乗り込んでスマートフォンの画面を見つめた。しばらくしてそれは受信音を発した。片倉は3度ほど画面をタッチし、届いたメールを見る。彼の身体は固まった。
「どうした。」
「トシさん…。これ…。」
そう言うと片倉は画面を古田に見せた。それを見た古田も動きを止めた。
「どういうことや…これ、鍋島じゃいや。」
片倉はスーツのポケットから、先程文子から拝借した鍋島の写真を取り出して、画面に表示される似顔絵と見比べた。
「間違いねぇ。」
「片倉、こいつがどうしたって?」
「ああ、この似顔絵の男を小松空港から熨子町まで運んだっていうタクシー運転手が、今朝北署に来たそうなんや。このタクシーの運転手が言うには、こいつは熨子町までの道中、ほとんど何も話さんかったらしい。運転手の問いかけには、はいとかいいえだけ。ほんで唯ひたすら前の方だけを見とったそうなんや。ところが、この男が唯一動いた瞬間があった。」
「おう。何やそれは。」
「穴山と井上を目撃した瞬間や。」
「何ぃ?」
「山側環状をちんたら走っとるこいつらをタクシーが追い抜かそうとした時、この鍋島と思われる男は奴らを追うように見つめ続けとったそうなんや。何に関しても反応が薄かった男がや。」
古田は自分の顎に手をやってしばらく考えた。
「…鍋島は、穴山と井上の存在をその時点で既に認識しとったってことになるな。」
「ああ。それは昨日の18時のこと。そのタクシーはそのまま熨子町まで鍋島を運んだ。降りる時、あいつは運転手に5万渡して闇に消えて行ったそうや。」
「5万〓︎どえらい金やな。」
「まぁ、そのチップについては置いておくとして穴山と井上が殺されたのは深夜。18時から深夜までタイムラグがある。となると鍋島はその後、事件現場である山小屋で待ち伏せしとったと考えられる。」
「ふうむ。ほんなら穴山と井上がなんで山小屋に行ったんかが問題になるな。」
「鍋島があいつらを山小屋まで呼び出したか、それとも始めからあの2人が山小屋に行くことを知っとったかや。」
「そら山小屋に行くのを知っとったんやろいや。急に夜にあんな辺鄙なところに呼び出されて、ホイホイ行くだらおらんわい。もともとそこに行く何かの用事があってんろ。」
「トシさんほんなこと言うけど、そもそも真夜中にあんなところに行く用事なんかあっかいや。」
古田は考えた。深夜の山奥にいったい何の用事があったというのだ。
「…おい。…まさか。」
「なんや。」
「あいつら、ほら、レイプしとるやろ。一色の…。」
「あ…。」
「一色の交際相手がレイプされた場所が実はそこで、ほんでその因縁の場所に犯人を何かのうまい口実をつけて呼び出しておいて、鍋島を使って一網打尽に殺した。」
二人の中で鍋島、一色、穴山、井上が繋がった。しかし彼らは間も無く肩を落とすことになる。
ついさっきまで二人は文子から6年前の事故に関わる重要参考人は鍋島であることを聞かされていた。その事実を知った一色は鍋島を引き摺り出して相応の罰を与えると彼女に誓っていたようだ。そんな彼が鍋島と結託して自身の交際相手をレイプした男らを殺すなんて考えにくい。
「いや、ちょっと待て。一色が鍋島を利用して2人を殺して、その後に鍋島を捕まえようとした。そう考えられんけ。しかしそれが失敗し一色は逃げた。鍋島もその存在が世間的に明るみになるのが不都合な立場やから姿を消した。」
片倉は古田にこう言った。
「うーそれはどうやろう。そうなると一色が何で桐本と間宮を殺さんといかんがや。レイプとか6年前の事故に何の関係もない奴やぞ。その線はちょっと薄いんじゃねぇかいや。」
2人は黙ってしまった。
そうこうしているうちに、再び片倉の携帯が鳴った。どうやらメールのようだ。
「岡田や。」
片倉は画面をタッチしてその内容を確認した。そして彼はまたも固まった。
「何や。岡田は何やって言っとるんや。」
「穴山と井上はシャブの売人やったらしい。」
「はぁ?」
「シャブって…言うとトシさん。」
「仁熊会…。」
ふたりはここでしばし無言となってしまった。
「…なぁ片倉。ここは自分が一色やったらって立場で考えてみんか。」
古田はそう言うと車外に出た。片倉も続いた。
「始まりから考えよう。今までの情報から考えると、一色が穴山と井上との接点を持ったのは3年前の7月のレイプ事件からや。あいつは何かの方法をもって2人に復讐する意思を持っとった。それを実行するためにその機会を虎視眈々とうかがっとった。あいつは確かにワシに言った。素早くそして確実に被疑者に罰を与えねばならんと。警察という組織の人間であれば何かの口実をつけて、穴山と井上を逮捕し、取り調べの中でその二人から吐かせればそれで犯罪成立。起訴、裁判、判決。で、あの二人の罪は現在の法制下でシステマチックに処理される。」
「しかしその法の裁きに一色は不満を抱えていた。」
「そうや。自分の交際相手は女性として殺されたようなもんや。目には目の精神で考えれば、奴らにも同等いやそれ以上の制裁を与えんといかん。」
「考えたくねぇけど、俺も自分の娘がもしそんな目にあったとしたら、悔しくて、憎くて、許せんくて、…殺してしまうかもしれん。」
「急迫不正の侵略を受けて反撃に出ん奴はおらん。ワシもそうや。」
「しかし仇討ちは法で禁じられとる。」
「そう。そこであいつはワシに方法はあるって言った。あいつは何か別の手段を持ち合わせとった。」
「まさか、一色はその時点ですでに穴山と井上がシャブの売人やってこと知っとったとか。」
「そうかもしれん。シャブの背景には仁熊会がおる。仁熊会とそのフロント企業のベアーズデベロップメントは6年前の忠志の事故に関係しとる。一色は穴山と井上に制裁を与える他、その周辺にも制裁を課そうとしたんじゃねぇか。」
「レイプ事件の一年前には仁熊会
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- Podcast
- Publicado15 de abril de 2020 às 15:00 UTC
- Duração9min
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